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友人の彼女との遊びの約束

「そうだ、誠二君。明日は日野君と遊びに行くから」


 ——ガチャン――


 食器の上にフォークとナイフが落ちる。


「なにしてるんだよ裕二。ちゃんと持てよな」


 誠二は眉をひそめると俺に注意をしてきた。

 俺はそんな注意を聞きながらも混乱している。


 昨晩、白石さんに「一緒に遊ぶ許可は誠二が了承したら」と告げた。


 今朝になり、白石さんが朝食を作るときは特にその気配がなかった。

 恐らく彼女は彼氏の名前を出したことで実行を断念したのだと思っていたのだが……。


「それで、なんだって?」


 まさか朝食を摂っている時に切り出してくるとは思わなかった。それもまるで決定事項のように口にしている。


 誠二は白石さんに再度問いかける。その表情は普段通りで特に怒りが見えないことから聞き流してしまっていたようだ。


「だからっ! 明日日野君と遊びに行くの!」


 だが、白石さんが放った爆弾が俺たちの間に現れる。

 恐らくだが、誠二も流石に怒るだろう。彼女がいきなり自分以外の男と遊びに行く宣言をしたのだから。和やかなモーニングはここで終了してここからは修羅場に突入する。そんな気配を俺が感じ取っていると……。


「ふーん、いいんじゃないか? それより胡椒取ってくれ」


「は?」


 だが、俺の想像はあっさりと外れてしまった。誠二はあっさりとそれを承認したうえ、ついでとばかりに胡椒を要求したのだ。


 彼女の爆弾発言よりも朝食の味付けを優先するとは……。


「というか、なんで俺にそれをわざわざ言ってくるんだ?」


 白石さんから胡椒を受け取ると誠二は改めて疑問を口にする。


「日野君がね、誠二君の許可があれば遊んでくれるって言ったからだよ」


 その言い方だと俺は何様になるのだろうか?

 あくまで断るための方便だったのに、2人の視線が俺へと向いてしまう。


「誠二本当にいいのか?」


 思わず俺は口にした。


「何がだよ?」


「白石さんが俺と遊びに行くことについてだよ!」


 そのぐらいわかれと意思をこめると俺は誠二を睨みつけた。


「まあ、内心は複雑だけどな。愛華が行きたいって言っていてる以上は仕方ない。それに俺だって誰にでも許可を出すわけじゃねえぞ。裕二を信頼しているから許可したわけだし」


 その言葉が胸を抉る。俺は今すぐにこの場から逃げ去りたい焦燥にかられるのだが……。


「というわけで日野君。誠二君の許可もおりたし明日はよろしくね」


 白石さんの笑顔に封殺されると身動きが取れなくなるのだった。





「絶対おかしいだろ」


 愚痴をこぼしながら俺はベッドに服を並べる。

 朝食を終えた俺は誠二の家からそうそうに帰宅した。


 それと言うのも…………。


「あの2人の俺に対する信頼はバグっているとしか思えない」


 何度か困っているところを助けた白石さん。そんな白石さんを助けたことで俺を信用してくれて仲良くなった誠二。


 まるで疑うことがないあの2人に俺は振り回されていた。


「とにかく、明日着ていく服を考えないと……」


 流石に男友達と出かけるわけではない。無様な格好で遊びに行くと一緒に行動している白石さんまで白い目で見られかねない。


 最低限のお洒落な格好をしなければならないだろう。


 俺が眉を寄せながら最適なコーディネートを考えていると…………。


「お兄い。ちょっといい?」


 いつの間にか帰宅した妹が部屋に入ってきた。


「由美、部屋に入るときはノックぐらいしろよ」


「別にいいじゃん。それともエッチなことでもしてたの?」


 可愛い顔から飛び出すとんでもない言葉。


「するわけあるかっ!」


 何故か言われた俺の方が恥ずかしく怒鳴り返す。


「明日なんだけどさ、また例の友達が来るから出掛けて欲しいんだ」


 俺にどうしても会わせたくない友達がいるらしく、妹は素直にお願いをしてきた。


「明日なら丁度出掛ける予定があるから構わないぞ」


 俺がそう答えると由美はほっと溜息を吐く。そして…………。


「えっ? もしかしてデートでもするの?」


 ベッドの上にある服を目ざとく見つけるとそんな探りを入れてきた。


「いや、デートじゃないぞ。友達と遊びに出掛けるだけだ」


「でもさ、お兄い。浜野さんの家に遊びに行くときは超適当に服を着ていったじゃん。それなのに明日に限って悩んでるのっておかしくない?」


 流石は我が妹。鋭い。伊達に長年一緒に暮らしていないな。


「いや、俺は誠二と会うときは最適な服装を心がけてるぞ。ただ、2日連続ともなると同じコーディネートで行くわけにもいかないんだよ」


 ぶっちゃけると今着ている服が俺の中で一番ましに見える格好なのだ。


「それ、私がお兄いの為にコーディネートしてあげたやつじゃん」


 そう、由美によってコーディネートされた服の方が受けが良いので俺は出かけるときは何食わぬ顔で服を合わせていた。


「はぁ……まぁいいや。じゃあ私がまた選んであげるよ」


 なんだかんだで溜息を吐きつつも俺の為に服を選んでくれる由美。


「いいのか?」


「お兄いが外で変な格好で恥をかくのは勝手だけど、日野家の沽券にかかわるし。私が遊ぶ相手だったらお兄いが変な格好で来たら水掛けて帰ると思うし。そしたらずぶ濡れのお兄いにはいく場所がないでしょ?」


 白石さんはそこまで過激派ではないのでありえないのだが、余計なことをいうと選んでもらえなくなるので俺は黙っておく。


「とりあえずこれとこれかな……。インナーには別な色のシャツを合わせてそうするとズボンも色の変化があった方が……。お兄い確かサコッシュ持ってたよね? ちょっと出してよ」


 いつの間にか妹に着せ替え人形にされている俺。訓練された兄というのは妹の言葉に逆らわないのだ。俺はクローゼットを開けるとサコッシュを取り出した。


「じゃあ、お兄い。これ着てみて!」


 妹に着替えを見られるのはやや恥ずかしいのだが、出て行ってもらおうにも居座る気満々だ。仕方なしに俺はその場で着替えをした。


「うん、これならまあ何とか」


 満足そうな顔をする由美。俺にはファッションはよくわからないが由美の笑顔を信じるべきだろう。とりあえず、労せずに明日の衣装が決まるのだった。



「そういえば由美。もう一つ聞きたいんだけどさ」


「なあに? お兄い?」


 服を片付け終えると、妹はそのまま俺のベッドにダイブするとスマホを弄りながらくつろぎ始めた。


「お前って普段友達とどんなところに遊びに行ってる?」


 明日は白石さんと遊びに行くわけだが、よく考えると女の子と一緒に遊ぶのは初めてになる。ここは妹の行動を聞いて参考にさせてもらうべきだろう。


「大体はスバタかな? 飲み物を注文してあとはずっと話してる感じだよ」


「それってどのぐらい? 30分ぐらいか?」


 白石さんも良く行くといっていたし、今どきの女子高生の行動パターンは同じようだ。


「うーん、短くて2時間。長ければ5時間ぐらいはいるかな?」


「ごっ! そんなにいたら店に迷惑だろ?」


 何が悲しくてワンドリンクでそこまで長居されなければならないのか……。


「普通に追加でドリンク注文したりケーキとかも注文してるし」


 由美は憮然として呟いた。


「それにしたって、よく会話が続くなそれ……」


 誠二と遊んでいる時でも途中で会話が途切れることはある。そういう時はお互いに無言でスマホを弄ったりするのだが…………。


「コスメだったり読モの撮影の時の話とかするし。後は……恋バナとかもね」


「なるほど。まったく参考にならん」


 化粧の話をしようにも俺自身がまったく詳しくない。そもそも男から化粧品の話を振られて会話に応じるわけがない。読者モデルの話も自分のことではないから続くわけがないし…………。


「えっ? 恋バナするの?」


 危うくスルーしそうになったが、妹の口からでた言葉に俺は興味を持った。


「そりゃするよ。私だって華の女子高生だもん」


 妹から唐突に出てくるワードに俺は驚く。

 色気づいてきたとは思っていたが、まさか異性を感じさせるような言葉を口にするようになったとは……。


「そのわりには浮いた話の1つも聞いた記憶がないんだが?」


 俺は冷静な突っ込みで由美を追い込んでみる。


「だって同級生の男子に興味ないもん」


 ところが妹はそれを平然と受け流すとそんな言葉を口にした。哀れな同級生男子たち……。


「じゃあ、どういうのが好みなんだ?」


「うーん、そうだねぇ」


 由美は頬に人差し指を当てて考えると……。


「イメージ的にはお兄いの友達の浜野さんが近いかな?」


 目の前に今朝一緒に朝食を食った友人の姿が浮かぶ。

 妹があいつと一緒に出掛けている姿を想像すると…………。


「どしたのお兄い? 変な顔をして」


「色々複雑でな……」


 生半可な男では由美との付き合いを許可するわけにはいかないと常に思っている俺だが、誠二に関しては色々と認めている部分が多い。決して妹を託したいわけでは無いが、本人が望むなら認めなければいけないという父心が生まれたのだ。


「とりあえず友達と出かけるならどこに行くかはその場で話し合って決めて、あとは空いた時間が出来たらスマホを弄るぐらいの気軽さで良いと思うよ」


 結局あまりまとまらなかったが、由美のアドバイスを受けた俺は深く考えることをやめるのだった。



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