友達の彼女と星空を見上げる
「はい、これ」
冷蔵庫で冷やしていたコーラを渡される。
持つ手が冷たく、先程の白石さんの手の冷たさが上書きされていく。
プルタブを開けると「プシュッ」と音がした。
「ねっ、乾杯しようよ」
特に何かがあったわけではないのに白石さんは「かんぱーい」というと俺と缶をぶつけてきた。
彼女が缶に口をつけるのを見ながら俺もそれにならう。
白石さんはコクコクと喉をならしコーラを飲むと缶から口を放す。そして俺の方を見ると「ん?」と首を傾げた。
場所は浜野家の二階のバルコニーだ。
床はつるつるしたタイルが貼られていて、縁はレンガでできている。
かなり広く、バーベキューコンロが置いてあったり、ベンチがいくつか並んでいる。
完全に金持ちの家にしかない場所で、過去にここで家族でバーベキューなどが催されたのかもしれない。
浜野家にとってのプライベートスペースなのだが、白石さんは特に気にすることなく俺を誘うとここに出た。彼女はコーラの缶をレンガの上に置くと空を見上げる。
「みてみて。星が綺麗だよ」
空を見上げると星がうっすらと輝いている。あいにく天文学に対する知識がないのでどれが有名な星座なのかはわからない。
それよりも俺は先程から心臓が痛いほどに高鳴っていた。
何故なら、深夜に美少女と呼んでも差し支えのない女の子と二人きりで星を見ているのだ。こんなシチュエーションそうそうにあるものではないだろう。
俺は探るような視線を彼女に向ける。何かを口にしなければならないそう考えていると彼女は振り返った。そして……。
「日野君。私のこと避けてたでしょう?」
黒い瞳がこれでもかというぐらい俺を見つめてくる。
「えっ……? そ、そんなことないんじゃないかな?」
それは的を得ている指摘だった。
「嘘だよ。だって、私何度もメッセージで送ったもん」
彼女の言葉には心当たりがある。
ゴールデンウイークの時に白石さんとRIMEのフレンド登録をした。
その時以来彼女は時々メッセージを送ってくるようになったのだ。
「いつメッセージしても途中で寝ちゃって返事が途切れるし、お礼をしたいからって遊びに誘っても予定をはぐらかされたし」
それはその通り。俺は彼女からの答えづらい誘いに対しては寝たふりをするか返事をスルーすることで対応していた。だからこそこうして2人きりになるのを恐れていたのだ。
頬を膨らませた白石さんは悲しそうな顔をすると……。
「ねぇ。やっぱり迷惑だった?」
腕を伸ばし俺の手に触れようとする。だけど拒絶されることを恐れているのかその手は震えていて届くことはなかった。
「め、迷惑なんかじゃないよ」
俺はとっさに彼女にそう答えた。
そう、迷惑ではないのだ……。彼女の「お礼をしたい」という気持ちは嬉しいし、メッセージを見返してしまうときだってある。
だが、白石さんはあくまで友達の彼女なのだ。俺は誠二を裏切りたくない。
「ふーん、そっか。迷惑じゃないんだ……」
咄嗟に出てしまった言葉。彼女は艶やかな唇に指を動かすと――
「じゃあ日野君。どこか一緒に行こうよ!」
距離が近く熱が伝わってくる。俺の方が白石さんより背が高いので見上げてくる彼女から目が放せない。
これはただの友人という距離感ではない、もしここで彼女が目を閉じでもしたら…………。
自分の中に罪悪感が浮かぶ。友人の家で友人の彼女と二人きりで密会をしているような背徳感。だが、そのお蔭で冷静になれた俺は白石さんから距離をとると……。
「一緒に遊びに行くのは構わない」
「やたっ!」
喜ぶ彼女に俺は続きを言う。
「ただし、誠二の許可が下りたらだけどね」
俺の口から誠二に許可をもらうというのは不可能だ。それを口にした瞬間に友情が崩壊する可能性もある。高校に入ってからようやく巡り合えた気の合う友人なのだ。
この言葉を聞いて白石さんは小動物のように目をぱちくりさせる。
俺の提案が余程予想外だったのだろう。流石の誠二も意味もなく自分の彼女を男と2人で遊びに行かせるのは拒否するだろう。
そんなことは白石さんも想像できるだろうし、提案すらできないかもしれない。だが……。
「なんだ、そんなことでいいんだ? じゃあ明日早速誠二君に確認してみるね」
まるでポストに手紙を出すような気楽さである。俺があっけにとらわれていると……。
「そろそろ中に戻ろうよ」
白石さんは家の中へと入って行く。
「それじゃあ、日野君はここのゲストルームを使ってね。おやすみ」
白石さんは機嫌良さそうに鼻歌を歌うとドアの向こうへと吸い込まれていった。そんな彼女をみてますますドキドキが激しくなる。
このドキドキは先程まで白石さんと話すことで受けていたドキドキの他に、明日になったら誠二に爆弾を落とされるという恐怖によるものだった。




