カニチャーハン
キッチンからは肉の焼ける臭いと『ジューッ』と何かを炒める音が聞こえてくる。
誠二は特に気にすることなくテレビを見ているのだが、俺はそうはいかない。
スマホを弄るふりをするのだが、どうにも集中できず、キッチンをチラチラ見ていた。
キッチンでは白石さんが髪をリボンで結び、フリルが付いた可愛らしいエプロンを身に着けて料理を作っている。
その動きは機敏で、どこにどんな調味料があるのか知っているようで、次々に取り出しては料理に使っていた。
俺はついついそんな彼女を目で追ってしまうのだが、すぐに我を取り戻すと難しい顔をする。
白石さんに会うのは実にゴールデンウイーク以来にになる。
あのお泊りのあとで、誠二からも3人で遊ぶ提案をされていたのだが俺は一身上の都合で断っていた。
友人の彼女と親交を深めるのは良くなかったし、これ以上は…………。
「裕二安心しろ。愛華の料理はそこまで不味くないから」
気が付けばまた白石さんを目で追っていた。誠二はそれをみると悪戯な顔をすると俺に冗談を言ってきた。
「もう、私の料理が酷かったのは随分昔だよ。私だって日々料理の勉強をしてるんだからねっ!」
2人の間には入り込めない親しさが見える。お互いのことを知り尽くしているというか、長い年月を共に過ごしてきたような。会話を聞く限りこの2人は幼馴染みなのではなかろうか?
「それに日野君は私の作った朝食を美味しそうに食べてくれたよね?」
会話は俺を巻き込んでくる。
「裕二。本当のことを言った方が良いぞ。こいつに甘い顔するとすぐつけあがるからな」
頬を膨らませる白石さんを誠二はからかった。
「あ、ああ。普通に美味しかったよ」
俺はそんな2人のやり取りに心に棘が刺さったような痛みを感じるのだが、そう答えた。
「普通……ふーん、普通かぁ……」
「まだまだ足りてないようだな」
誠二が勝ち誇る。白石さんは料理の途中だが俺を見ると……。
「いつか美味しいって言わせて見せるもん」
何故か燃えており、そう宣言をして見せるのだった。
「午前中はなにしてたの?」
3人分の食事がテーブルに並ぶ。
白石さんが作ったのはカニチャーハンだ。
カニの身がほぐしてあり、玉ねぎと人参とグリンピース。それに卵が入っている。
「ま、まあゲームとかだよ」
何故か嘘をつく誠二。
「それより胡椒とってくれ」
「また? いつも言ってるでしょ。あまりしょっぱくすると美味しくないって」
「お前の味付けは薄いんだよ。これだと食った気がしないっての」
隙あらば自然に言い争いを始める2人。
「そんなことないよ! 私にはこれが丁度いいぐらいだもん」
「だったら裕二に決めてもらおうじゃねえか。裕二はどうだ? この味付け薄いだろ?」
「日野君どう? 好みに合ってるかな?」
何故かまたしても俺を巻き込みにくる。
2人がじっと見つめてくるので答えを出さないわけにはいかない。
俺はレンゲを使いチャーハンを口に含むと咀嚼する。
カニの旨味がじんわりと広がる。玉ねぎやニンジンを細かくみじん切りにしてサラダオイルで炒めたおかげで野菜の甘みも十分だ。
確かに本人が言うようにこの繊細な味を楽しむのならこの胡椒の量が最適なのだろう。
「確かに白石さんの言う通りかな。この味付けがもっとも料理を生かせるようになってると思うよ」
「ほらやっぱりー。日野君はそこまでわかってくれるんだ」
白石さんが嬉しそうに笑いかけてくる。俺はその笑顔をから視線を外すと……。
「でも、確かに男としてはもう少し濃い物を食べたいってのは理解できるな。正直素材を生かした味付けというよりもインパクトを重視したいからな」
口に入れたときに強烈な何かを食べているという感覚が欲しいのだ。そういう意味では誠二の言葉も間違ってはいない。
「じゃ、じゃあ日野君はもっと濃い味付けが良いってこと?」
白石さんの瞳が真っすぐに俺を見てくる。俺はその問いに頷くと。
「まあそうだね……もう少しぐらいなら濃いほうがいいかな」
そう答えた。それに対し白石さんは考え込む。そして頷くと……。
「わかった、じゃあ次からは濃い味付けで頑張ってみる」
「おい、愛華。お前俺がどれだけ言っても折れなかったのにずるくないか?」
誠二の突っ込みが聞こえてきた。




