第六十六話 クリスマス・クルシミマス?
レジオに常駐している近衛騎士団は、訓練と言う言い訳でまだ残っている。
どうも、王都では手狭で訓練の場所が取りづらいそうだ。
同様に、陸軍もローテーションで常時五〇〇人くらい残っている。
これも、森に入って魔物と戦う訓練をしている。
まあ、森はむちゃくちゃ深いから、獣や魔物はいくらでもいるけどな。
全部、兵士の胃袋に入っている。
たまに、とり過ぎて市場に肉を流しているようだが。
オーケー狭間の砦では、やはり常時五〇人くらいがローテーションで入っている。
さかんに炭焼きをしているらしいが、木を切りすぎるなと厳命してある。
けっこう遠くから生木をしょって来るため、兵士の訓練にはもってこいなんだそうだ。
ポンヌ山系では、十二月にもなると雪が積もり始め、三月まで通行がしにくくなる。
それでも、峠を越えてこちらに来る旅人もいるため、オーケー砦は喜ばれているそうだ。
盗賊たちには悪いが、好い所に目を付けてくれたもんだ。
砦の周りは、ちょっとした村のようになっていて、商人の中継基地化している。
だれもが、寒い夜中に移動するより、あたたかい昼間に移動したい。
ここで一泊して、あくる日の昼中に歩いた方が安全だしな。
そんなわけで、大きな厩や、寒さのしのげる住居なども増設したんだ。
ちなみに、ドレンは農奴のカシラになった。
小屋で偉そうにしている。
冒険者の魔術師たちは、半分が王都に帰り、半分はこちらに残った。
なんだか、暮らしやすいと言っている。
まあ、魔法使いは需要が多いので、ありがたいことだ。
一〇キロ四方の農地には、いまムギが鈴なりだ。
これで、住民が飢えることもないだろう。
男爵亭に帰って、植木鉢を作ることにした。
「ラル、小さい植木鉢を作ってみろ。」
「木製?」
「ああ、こんな感じで、上に向かって開く奴。」
地面に絵を描いてみせる。
「うわ~、むずかしい注文。」
「馬鹿言え、手で作るんなら簡単だろ。」
「うう~。」
そう言いながらも、かんかんトンカチをふるっている。
「建築関係カンカンカンや~。」
「さて、こっちは直径一メートルの植木鉢か…」
裏庭で、土を集めて素焼きっぽい植木鉢をイメージする。
高さ六〇センチで、直径一メートルの植木鉢を作って、そこにモミの木を植えた。
上の口は、花のように飾り切りにして、華やかさを出す。
たっぷりした感じに、丸いお尻がかわいいやつ。
色は、くすんだ赤っぽく。
予想通りうまく納まったようだ。
「お屋形さま~、あ!すごーい、完璧やん。」
恵理子はにんまりとツリーを見ている。
「ほなら、ホールの真ん中に置いてください。」
俺は、レビテーションで浮かべると、玄関からツリーを入れた。
「まあ!大きいですね。」
アリスも走り寄ってきた。
子供たちは、手に手に星だの綿だの持って近寄ってきた。
倒れると危ないので、天井から紐で引っ張っておいた。
芸がこまかいだろう?
「おくがたさまー、ほしー。」
孤児院の小さな子どもたちは、アリスにも飾りを渡して、いっしょにツリーを飾っている。
「あら?なんか足りないなあ。」
カズマは、飾られていくツリーを見て、物足りなさを感じていた。
「ああ、モールでしょう?あれはすぐにはできへんからねえ。」
恵理子も、ちょっとシブい顔。
「そうだな、柊の実もいるな。」
「ああ、お屋形さま作ってくれはります?」
「わかった、作って来る。」
ガラスの玉がほしいな、赤いのや緑のや。
土魔法で精製して、地面からガラス玉がせり出してくる。
「うわー、あいかわらずお屋形さまの魔法は、わけわかんねえ。」
ラルが、出来上がった植木鉢を持ってきた。
「え~?そうか?」
熱をかけず、ケイ素の中からガラス素材だけを選び出して、分子結合でガラス玉に仕上げているんだ。
「うへえ、よけいにわけわかんねえよ。」
「まあ、そのうちわかるようになるさ。植木鉢くれ。」
「はい。」
ラルの作った、少し乱雑な植木鉢に小さいモミの木を移す。
玄関先に飾ると、なんだか好い感じだ。
革袋を探ると、少し金塊が混じっていた。
「じゃあこれでいいか。」
その金を集めて、二センチくらいのかわいい木の葉をたくさん作った。
これをつないでもよし、そのまま飾ってもよし。
革袋の中にある銀の塊も、葉っぱにしたり十字架にしたりしてみた。
金の鈴と銀の鈴もしゃんしゃんと好い音がする。
「あ、オシリスさまとか、ジェシカとか作ってやろう。」
五センチくらいのオシリス像や、ジェシカ像をいくつか作ってみた。
金色銀色でぴかぴか光っている。
「おーい、恵理子、こいつも飾ってくれ。」
「な、なんちゅう贅沢なもんを…純金やん!」
「まあ、そのへんにあるものだからな、たいしたもんじゃないよ。」
「まあ!お屋形さま!オシリスさまのモニュメントですか、すばらしい出来です。」
アリスが金のオシリスを持ち上げて目を丸くした。
「ああ、銀のオシリスを五個集めると、金のオシリスが一個もらえるんだ…」
スパーンと、ハリセンが飛んできた。
「アホなこと言うてんと!」
「いたいなあ、こんなギャグわかるのは、お前だけやん。」
「そらそうですけど。」
「どうだアリス、いい出来だろう?」
「はい、オシリスさまそっくりです!ああ、これはすばらしいものですわ。あ、ティリスさま、これ見てください。」
ティリスは、大きいおなかをかかえて、部屋から出て来た。
「あらまあ、これカズマが作ったの?」
「ああ、そうだよ。」
「へえ~、ここにひも付けたら、胸につるせそうね。」
「それには大きいだろう。重いし。」
「そうね、全部金なの?」
「ああ、まんなかは空洞にしてあるけどさ。」
「あら、本当。上げ底ね。」
「材料が少しでも、たくさん作れるようにな。」
「うふふ、これなら教会で一個・銀貨二〇枚くらいで売れそうね。」
「ええ?売るんですか?」
「お祈祷つきならいいんじゃないかしら?部屋に飾って祈ってもらえるし。」
「そうですね、これほどの出来なら。」
「おいおい、教会まで商売かよ。」
「「お布施です!」」
「ねえカズマ、このモニュメント、もっと大きいの作ってよ、そしてあそこに飾ろう。」
ティリスは、Y字になった階段の合流地点の上を指差す。
前に、国王一家の肖像画を飾っていたところだ。
今は、王宮に贈ったので、空白になっている。
「ああ、あそこにか、いいよ。あとでつくってやる。」
「オシリスさまも御喜びですよ。」
「そうだといいが。」
オタクのフィギアみたいに胸とか尻とかでっかくしたら罰が当りそうだな。
でも、オシリスだしな、お尻はでっかい方が…
スパーンと、どこからともなくハリセンが飛んできた。
クワバラ・クワバラ
無理矢理、オシリスの降臨した記念日なんぞと、理由をつけてごちそうを食べようと言う、いいかげんなイベントである。
今日、突然でっちあげたみたいな、妙なクリスマスだ。
クリスマスツリーも、むりやりジェシカツリーとか言ってるし。
「なーなー、お屋形さま、これにピカピカ光るやつつけれん?」
「ライトの魔法か…えっと、こうかな?」
直径五ミリくらいの小さい明りを、一〇〇〇個くらい作って、ツリーにちりばめてみた。
「アカン、点滅せんわ。」
「まあええやん、これでじゅうぶんきれいや。」
「そうか?」
カズマは、果物と砂糖を精製して、飴を作り出した。
丸くて、紐のついているやつだ。
大きさは、チュッパチャップスくらい。
「これをたくさん吊るすといい。」
「あ!あめちゃんや。」
「きれいですね!」
「気が向いたら食べてもいいしな。」
「そうですね。」
赤やら青やら黄色やら、色とりどりの飴は、たくさん飾られた。
そのうち、子供たちが食べてしまうだろう。
「お屋形さま、すてきよ。」
ティリスが、うっとりとツリーを眺めた。
「で?これはなんのお祭りなんですか?」
ティリスが、ツリーを見上げて聞いた。
「ティリス、今更それを聞くか?まあいい、これはオシリスさまが降臨なさった記念のツリーだ。名前はジェシカツリーと言う。」
「オシリスさまの記念日なのに、ジェシカツリー?」
「いいの、こんなもん雰囲気なんだから。ごちそう食べて、呑んで騒ぐのだ。」
「へえ~。」
「期日は、一二月二五日。その日はみんなでプレゼントの交換とか、いろいろやろう。」
「うわ~、楽しみね。」
「ま、一番のプレゼントは、そこにいるけどな。」
俺は、ティリスのおなかを指して言った。
「ばかねぇ。」
…と、まんざらでもないようす。
調子に乗った恵理子は、屋敷の周りにも飾り付けを始め、ティリスに叱られた。
「男爵亭を何だと思っているんですか!飾りたいなら、東寺西寺の教会になさい!」
「は~い。」
そう言うわけで、教会の前にもツリーを飾ることになり、冒険者ギルドに依頼をかけてモミの木を運んでもらった。
自宅じゃあるまいし、ケチるのもほどほどにしないとな。
ギルドにも、利益還元しないと悪いだろう?
その飾りには、ドワーフの飾り職人に見本を見せて、たくさん作ってもらった。
さすがに、ガラスのモールは作ったけど。
製法がわからんだろうからね。
歌劇団の子供たちには、その日は聖歌を歌ってもらうんだ。
ああ、オシリス教にも、聖歌って言うのはあるんだよ。
サイテ島(中州の島)にあるノートルダム寺院は、新年ミサのため、オシリスマスの飾りは控えめで。
うれしいね、平和な時には街角のカフェに、恋人たちが寄り添っている。
街路にテーブルやいすが出ていても、文句を言うやつはいない。
むしろ、この寒いのにみんな、外の席でお茶をしている。
丸いストーブに火をたいて。
東寺、西寺で炊き出しをする必要もなくなってきた。
みんな仕事があって、ごはんが食べられるんだ。
あ、でも、まだだめっぽい人も若干残っているから、東寺だけで炊き出しはしている。
裏の食堂限定で。
東寺・西寺でもきらきらと、ツリーが飾られると、町の人々が集まってきた。
「男爵さま~、それはなんですか?」
「おや、ヘルム爺さん。」
西地区の区長である。
「めずらしいものを飾っておいでだが。」
「ああ、これはジェシカツリーと言うんだ。オシリスさまの降臨を祝って、二十五日にお祝いのミサをすることにした。」
「そりゃまた。」
「その日は、夜に歌劇団の聖歌を披露して、御馳走でイッパイやるんだ。」
「そりゃいい、みんなで料理を持ち寄りましょう。」
「そうか、じゃあこの広場で盛大に祝うとしよう。」
それから、中心部の広場では、オシリスマスのセールが始まり、ジェシカツリーの飾りが売られるようになった。
これをオシリスマスマーケットと言う。
夜遅くまで、魔法やガスの明りがともり、それはもう幻想的なマーケットが展開された。
また、乙女たちと作った、無花果のワインやカルヴァドス、葡萄のワインをホットで出す屋台も出没し、恋人たちの憩いの場となった。
来年は、ベビーラッシュが期待できるな。
年末を迎えて、もうひとつ。
チグリスが、チコを訪ねてやってきた。
「チグリス!よく来たな。」
「おう、ユフラテ。男爵さまになって、忙しそうだな。」
「なあに、たいしたもんじゃない。」
「今日はな、好いモノができたので持って来たんだ。」
「いいもの?」
チグリスが取りだしたのは、ミスリルのメイスだった。
柄には紫檀がおごられている。
「こりゃあ…」
「いいできだろう、俺の兄弟弟子がミスリスを仕入れたと言って、持ってきてくれたんだ。」
「うわ~、すげえ!」
「やる。」
ぐいと着き出されたメイスを、手に持つべきかどうか逡巡したおれに、さらにぐいっと押し出された。
「ん!」
「あ、ああ、ありがとう。」
「馬鹿言え、娘の面倒を見てもらってるんだ、これくらいどってことねえ。」
「まあ、中に入れよ。今年蔵出しのカルヴァドスがある。」
「そりゃいい、ご相伴するかね。」
友遠方より来る、また楽しからずや。
涙が出るほど、ありがたい。
なにより、チグリスが俺のためにここに来てくれたことが、友としてありがたすぎる。
その夜、日付が変わっても男爵亭の明かりが消えることはなかった。




