第六拾弐話 帝国の災難その②
うひひ
なぜ帝国が、拡大政策をとらなければならないかと言うおはなしですが、まったく趣味に走っておりますな。
こう言う、おはなしのほうが楽しめますやん。
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さて、長々とゲルマニア帝国の災難について語ってきたのはなぜかと言うと、まあ大変なのだ。
南部貴族の奔走もあって、難民は次第に北上を続け、飢餓状態から抜け出そうとしていた。
抜けだすと言っても、何万人もの難民の群れである。
一朝一夕に解決するものでもない。
皇帝は、ニュルンベルクへの小麦、雑穀の救援を決めた。
自治大臣(っぽい役職のヒト)カッセル伯爵に救援物資運搬の命を告げた。
「カッセルよ、国庫から救援物資を運ぶのだ。」
「はは、かしこまって候。」
カッセルは、実直を絵にかいたような人物だが、確実に仕事をこなす重要な人物である。
ニュルンベルクの人民は、一粒の小麦もなくまさに、絶体絶命である。
一日も早い救援が望まれる。
バイロイトの代官は素早かった。
「なんでもいいから逃げろ!食い物だけは持て!」
兵士にその旨を徹底させて、住民を北に逃がした。
「着るものなんか何とかなるが、命だけはそうはいかん!」
なかなか進歩的な考え方の御仁だったようで、バイロイトの住民に死者は出なかった。
その分、北の街にはかなりの負担が増えたわけだが、人民の命には代えられない。
北のクルムバッハは規模が小さいので、難民に分ける作物があるかは微妙だ。
ここは、もう少し先の、エアフルト子爵領の領都を目指すべきだろう。
代官は、必死になって部下を指示し、民衆を鼓舞して北を目指す。
「持てる限りの食べ物をもて!ほかのものはいらん!」
どうせ、残していってもイナゴに食われてしまう。
それくらいなら、逃げる時に食べてしまっても構わない。
代官の判断はこの非常時に、まさにうまくはまった。
民衆は、持てる限り背負い、手に下げ子供も年寄りもなく、食料だけをもって逃げたのだ。
避難先にされたエアフルトには迷惑な話だが、それでも命には代えられない。
バイロイトの民は、辛うじて命からがら逃げおおせた。
ハイデルベルクの奥方のように、みごとに難民を受け入れ、賦役に投入できたのは僥倖であった。
たいがいは、その地元とトラブルを起こし、一揆へと発展したのだ。
「このまんまじゃまいね!」
「麦よこせやオラ!」
レーゲンスブルクやフランクフルトの難民は、なくすものはすべてなくしてしまったため、気が短くなっている。
制止する騎士に向かって、その場に会った石を投げつけた。
こうなると、だれが最初に投げたかなど、どうでもよくなる。
どこに、誰にぶつけて良いのかわからない、怒り・悲しみなどを握った小石に込めて投げるだけである。
「こんちくしょう!」
「死にさらせ!」
「どちくしょうが!」
彼らを突き動かしているのは『絶望』と言うものかもしれない。
レーゲンスブルクでは、かつてないほどの規模で、一揆が起こり南部に向けて伝播して行った。
しかしながら、飢えた農民と鍛えた騎士では、その差は如何ともしがたい。
一揆の農民は少しずつ押され、やがて哀しく根切りの憂き目にあった。
世に言う、『レーゲンスブルクの斬殺』である。
これに従い、帝国南部では血で血を洗う抗争が勃発し、帝国の国力はますます脆弱になって行く。
皇帝フィリップのもとに、第一報が届いた。
「ご注進!」
「なにごとか!」
「レーゲンスブルクで一揆が発生、レーゲンスブルク子爵はこれを殲滅、根切りといたしました!」
「な、なんと!帝国民同士で命のやりとりか!」
「はは!」
「…是非もなし。子爵は無事か。」
「は、特に別状はなし!」
「そうか…ヴィッターフェルト侯爵、いかが見る?」
「は、南部の混乱は、予想より大きいものと推察されます。」
「うむ、国軍五千を向かわせ、暴徒の鎮圧につかせよ。」
「はは。」
遠く離れた地であるが、帝国の領土内での内乱など、他国に付け入れられる元である。
隣国イシュタールは、拡大の野心は見せていないが、ベルジアムや、ポルトランドなど、弱小国は領土拡大の一歩と考えよう。
南西ロマーニャのくそ坊主どもは、この機会に攻め込もうと手ぐすね引いているやもしれぬ。
まこと、この世に平和とは見えてこぬものよ。
「戦のない国は、遠いのう。」
「御意。」
ヴィッターフェルト侯爵は、皇帝の深い憂いを受け、皇帝の執務室を後にした。
「だれかある、将軍!ミッテル将軍を呼べ!。」
廊下に響く、ヴィッターフェルト侯爵の声。
「はは、ここに。」
「うむ、すぐに私の部屋に、ミッテル将軍を呼んで参れ。」
「かしこまりました。」
皇宮執事は、風のようにその場を後にした。




