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第四十九話 レジオの情事(トコロかタカハシかヤナギか?)

 近衛騎士隊の第二連隊長、マルクス=レクサンドに事後を任せ、俺たちは先行してレジオに向かった。

 なにしろ偽シェーンブルン宮殿を御座所として使用するには、まだまだ時間がかかる。

 言うなれば、新しく住居を作り上げるということだからな。

 細かいところまで気を行き渡らせるには、一年でも足りないだろうからな。

 それを一か月で役に立つようにできるかは、宮内庁の考え方次第だろう。

 ま、やつらが王様の御幸に、素直に『是』と言うかどうかが見物だが。

 時間をかけすぎると、後の始末に地獄を見るのは明らかだ。

 そうなってから慌てても遅いし、王さまからどのようなお叱りを受けるかも不明。

 回りの貴族たちからは『無能』『役立たず』の烙印を押され、理不尽な叱責を押し付けられる。


 次の次目からは、重要な職から解かれる。

 あ~あ、不幸な未来しか思いつかんわ。


 侍従たちアロンソやアランを買収して情報を引き出したところ、どうも『聖女を召し出せ』という大貴族の声があったようだ。

 そりゃまあ、『回復魔法』や『治癒魔法』の使い手がそばにいればこれに優る安心はないだろう。

 また、聖女を召し抱える貴族というステータスは、ほかに類を見ない。

 アリスティアにせよティリスにせよ、少しずつ磨いてきたので、見てくれは悪くない。

 当然、夜のお相手としても引っ張りたい。

 これに待ったをかけたのは、実は国王陛下ではない。

 どうも、宰相『トスメル』どのらしい。

 かなり焦ったことだろうな。

 お気楽なことを勝手に口に出す公爵や侯爵に対して、それがいかに恐ろしい結果を招くか、失礼のないように説明しなければならない。


 ま、実に簡単に、『あんた死にたいのか?』と聞けたらいいのだけれどね。

 そりゃまあ俺なら殺るな。

 城ごとぶっ壊して、生き埋めにして、帝国にバックレる。

 その前に生爪を一枚いちまいゆっくりはがして、血の涙流すまでやってからな。

 俺を甘く見るんじゃないって。

 やるときゃやるヒトだよ。

 なにせい四〇年もクサレ上司の下で働いてきたわけじゃない。

 いまや、絶対に引かない根性がひん曲がってるんだからな。

 無理強いするやつは、絶対許さない。


 『魔物一万匹』『竜砕き』『オシリス神の使徒』

 どれをとっても、帝国にとって損はない。

 実にいやらしい政治的手法で黙らせたようだ。

 その内容までは聞けなかったが。

 少なくとも、俺が野放しになった時の危険性には言及したらしい。



 あはは。



毎日晴れ続きで、ホコリが舞い上がる街道をのんびり進むと、やがて森に挟まれて平原が現れ、レンヌ川の両脇に広大な農地が現れる。

 高さ一メートルほどのシシガキに囲まれた麦畑や、ジャガイモ畑が広がっているのだ。

 いまや青々と茂って、豊作を祝っているようだ。

 空はよく晴れて、気温も上昇し始めた。

 そうなると日差しもきつくなり、俺はティリスにも幌の中に入るよう指示を出した。

 彼女は、日に焼けないが、赤くなってつらそうになる。

 俺は、道のわきのカヤに似た草を編んで、帽子を作る。

 パリカールは賢いので、手綱を繰らなくても勝手に街道を進んで行くから。

「できた。」

 多少不格好だが、パナマの原住民がかぶっているような、素朴な麦わら帽子が出来上がった。

 実際は、草帽子だが。

 青々としたその帽子を、頭に載せて陽をよけながら、御者台で汗をかく。



「あれがレジオですね。」



 遠くに城壁の先っぽが見えてきたので、恵理子が幌から顔を出して聞いた。

 だんだん、恵理子の声が、渕崎百合子さんになってきたな~。

 キャラが固まってきたかな~。


「ああ、なんかずいぶん長いこと留守にしていたように思うがなー。」

 麦わら帽子を恵理子の頭に乗せて言うと、恵理子は嬉しそうに笑った。

 それを見て、アリスティアは少し不満そうなので、隠していたもう一つの帽子を載せる。

 とたんに機嫌を直して、微笑んだ。


「往復六日ですからねえ、まあ王都でどのくらい仕事をするかですものね。」

 アリスティアも出てきて前を見る。

「まったくだ、よけいな仕事ばっか作りやがって、まあ、資金くれたからヨシっちゅうことにするか。」

 俺が王様の悪口を言うと、恵理子が驚いている。

「またお屋形さまはそんなことを…、相手は国王陛下やねんよ。そう言えば、どのくらい出さはったんですか?」

「金板三〇〇枚。」

「日本円に換算すると?」

「約一〇億円くらいかな。」

「じゅ、じゅうおくえん?」

「イシュタール王国の物価は安いから、もっと貨幣価値は高いけどな。」

「ほえ~、お屋形さまは大金持ちですやん。」


 これは公共の金であって、個人のものじゃないよ。


「まあ、これを使って災害復旧しろってことなんだがな。」

「だ~、めんどくさっ。」

 恵理子は万歳の恰好で、お手上げと言った風情だ。


「だいたい金板一枚もあれば、四人家族が一年暮らせるんだぞ。」

「ほえ~。」

「それも贅沢にだ。」

「なるほど。」

「メイドの給金は年銀貨四~五枚だそうだ。」

「そんなもんですかねえ?」

「そんなもんだよ、衣食住は保障されているし。」

(メイド服は必須なんだそうですよ。)

「ああ、なるほど、住み込みなんですか~。」

「そうだ、おまえは奴隷だから、もっとやっすい。」

「ひえ~(泣)」

「つか、持ち物に給料払うバカはいない。」



「そんなあ~、おやつも買えへんのどすか?」

 恵理子は涙目である。

「それくらいは食わしてやるさ。」

 おやつっておまえ、こどもじゃあるまいし。

「藪入りやないっちゅうねん!」

 子供用のエプロンドレスでぷんぷんしてても、かわいいだけだぞ。

 王都でも古着屋にある服は、胸がぶかぶかで着られなかったのだ。

 王都のご婦人がたは、かなりふくよかなご婦人が多い。

 ワンピースなども、ウエストががばがば。

 まあいいんだけどさ。



「お前は、劇場で儲ければいいんだよ。でも、儲けは持ち主の俺のものだがな。」

「ひっど~い!」

 恵理子はぷんすか怒っている。

 アリスティアは、思わず笑い声をあげてしまった。

「あはは。」


 緑色の帽子の下で、アリスティアの金髪のおさげが揺れている。


 ちなみに、その下の丸いのもふたつ、馬車の振動に合わせて揺れている。


 のどかな田園風景の中を、かぽかぽと軽快な音を立ててロバの馬車は進む。

 俺の指導によって、畑の周りには腰高の柵が作られている。

 兵隊たちが手伝って作られた猪垣だ。

 ゴルテスの連れてきた兵隊たちは、文句も言わずに手伝ってくれている。

 たぶん、多少は愚痴も出てるんだろうけど、がんばって復興に参加してくれている、ありがたいことだ。

 孤児や寡婦が作った堆肥を、兵士たちが運んで畑にすき込んでいる。

 そのおかげもあって、畑の土壌改善は着々と進んでいる。

 今度の麦の収穫は、従前の倍もあろうか。

 住民たちは、びっくりするだろうな。



 街道を進むと、その両脇に木や石で作った柵が延々と続くのだ。

 まだ全部完成していないけど、出来上がったらまた収穫が上がる。

「男爵さま~、おかえりなさい。」

 畑の草を取っていた農夫が、立ちあがって手を振る。

 俺もお返しに手を振った。

「おう、今帰ったよ。畑はどうだい?」

「柵のおかげで、ウサギなんかに荒らされないからいいですよう。」

「そりゃあよかった、精出してがんばってくれよ。」

「へい!」

 農夫の脇では、俺の作った水路を透き通った水が、キラキラときらめきながら流れている。

 やってよかったな。


「レジオの農民はひとなつっこいですな。」

 マリウスが、馬上から言う。

「ああ、いい笑顔が戻ってきているな。」

「しかし、やはり男の姿が少のうござる、これも暴走の影響でござるか。」

 マリウス=ロフノールはやはり、見る目をもっているな。

「ああ、まあな。近衛の騎士なんか、モテモテだぞ。」

「さようでござるな。」

「だいたい、女七男三の割合で、女が多い。暴走に巻き込まれて死んだのは男が多かったってことだよ。」

 子供たちが集まってくるので、カズマは直径一〇センチくらいのビスケットを配っている。

 用意のいいことだ。

「だから、なぜ恵理子がならんでいる?」


 向こうから土煙がやってくるのが見える。


「ぉぉぉぉぉぉゃかたさまあああああああ。」


 ドップラー効果の尾を引いて、やってくるのは轟天号。


 ゴルテス準男爵だ、馬もたまったもんじゃないなあ。

「昨日、レジオに向けて近衛騎士を、伝令を走らせておいたんですよ。」

 近衛騎士隊の第二連隊長、マルクス=レクサンドから報告があった。


 ユリウス=ゴルテス準男爵は、軽装鎧をまとって馬を走らせてきた。

「ゴルテスさん、どうしたんですか?」

 アリスが声をかける。

「近衛騎士隊が伝令に来るなど、前代未聞ですからな、あわててお迎えに参った次第。」

「そうか、ごくろうだったな。まあ、馬もくたびれただろう、少し休もう。」

「は、お屋形さまこそ、お疲れではありませんかな?急なお召しでしたからな。」

「いや、みんな好くしてくれて、疲れてもいないよ。」

「さようですか、実は三日前からロワール伯爵から使者が参っておりまして。」

「はあ?聞いてないぞ、王都でもそんな話は…」

「ええ、やはりまだ皆様手探りのようで。」

「そうかもな、よしありがとうゴルテス。一緒に帰ろう。」

「は、お供します。」


「ゴルテス、こちらはマリウス=ロフノール騎士爵だ、こんどうちに来てくれることになった。」

「む、似たやつがいると思ったが、やはりお主か。」

「おう、ユリウス=ゴルテスどの、久方ぶりでござる。」

「う、うむ、共に男爵の家来となったからには、同僚である、よしなに。」

「さよう、拙者男爵殿の武勇に惚れてござる、よしなにお付き合い願おう。」

「なにげに偉そうなやつだ、まあいい。」

「ゴルテス殿、お久しぶりです。陸軍歩兵連隊第五連隊の隊長、アルマン=ボルドー騎士爵であります。」

「おお、ボルドーどの、これは久しいのう。」

「今回は、歩兵三百名、工兵五百名その他二百名の参加でございます。」

「なんとのう、千名の隊長殿にご出世か、めでたいのう。」

「かたじけなく存じます。」

「ゴルテス殿、近衛騎士隊の第二連隊長、マルクス=レクサンドでござる。」


「おお、レクサンドどの、お主も随行でござるか。」

「さよう、第二連隊全員引き連れて、警備の訓練でござる。」

「ほほう、近衛の将軍殿は、本気でござるか?」

「もちろん、国王陛下の御幸でござる、なまなかでは進みますまい。」

「まことに、身が引き締まる思いでござる。」

「陛下も、そこまでこだわらなくてもなあ、ご自分で玉体を運ばれるなど、無理難題だよな~。」

「お、お屋形さま、そこまでおっしゃっても。」

「なに、たいしたことはない、レジオのパンで仲良くなった。」

「な?なかよく?」

「ああ、王妃様や王女様たちとも一緒に過ごしてきたわ、そこで、復興費用にと私費を出してくださったぞ。」

「なんとまあ、さすが陛下、ありがたいことでござる。」


「まあ、な、含むところもござろうよ、イシュタール王国の南西には強大な帝国が鎮座している。ロワール伯爵領、マゼラン伯爵領を支えるレジオ男爵領は守りの要だからな。」

 俺は、ため息交じりにゴルテスに答える。

「さよう、この三領は、王都の守りでござる。」

 ゴルテスも、心得たものだ。

「さもありなん。」

 ロフノールも笑っている、一見のんびりした顔をしているが、このおっさんけっこう肝が据わってる。

 なんかゴルテスとロフノールって、キャラがかぶってる気がする…

 見た目、ゴルテスはやせてしまった体をしている。

 いわゆる、武田鉄也タイプ。

 ロフノールは、若干丸顔でまるまっちい体をしている。

 こちらは、前田吟タイプ。

 ただ、書いているうちに、どっちがどっちだか…

 あわわ!


 おっさん率の高い一行は、ようやくレジオの城門をくぐった。

「兵舎はあちらの城門横にある。とりあえず兵士たちは休ませてやってくれ。隊長たちは一緒に来てくれ、今後の打ち合わせをしたい。」

「「了解しました!」」

 二人は、副隊長に兵士の指揮を任せて、カズマに従った。

 1千人からの兵隊が、一気にやってきたのである、(輜重隊は、後続だが。)レジオは一気に人口密度が上がった。

 これに伴うトラブルで、住民はけけっこう苦労するのだが、それは後の話。

 レジオの町は、五キロ四方の城壁に囲まれた、ちょっといびつな格好をしている。

 丸のような四角のような、へんな形だ。

 レビテーションで、上空に上がるとなるほど、台形をくっつけたような、へんな形だ。

 それを、東西にレンヌ川が流れて貫いていて、東西の城門はそのそばにある。

 俺が、魔物を落とした落とし穴は、その城門前に深く刻んでしまったので、これを川港に改修しているところだ。

 人足もいっぱい出て、護岸を固めるのに忙しい。


 だから西門から入るとなると、五メートルくらいしか隙間がない。

 まあ、警備的にはすっげえ便利だが、混雑がハンパねえ。

 そこに、先発隊の七〇〇人あまりが来たんだから、どっかのネズミーランドくらい行列になる。

 ニョーボ子供は行ったことがあるが、俺はテレビで見ただけだ。

 住民は、兵隊が闊歩するのも慣れたもので、入り口付近の露店からは盛んに声がかかっている。

「隊長、今日はみんな休みにして、いい食事にありつけるようにしてやってくれ。」

「そうですな、荷物の整理ができたものから、半休でよいでしょう。」

 三日もかけて進んできた兵隊たちは、かなり喜んだ。

 ゴルテスの連れてきた兵隊たちは、レジオの守備軍に編入されている。

 現在は、東門付近の瓦礫撤去に忙しい。

 いっそ、全部外に出してしまえと言っている。


 そのほうが、あとで資材を使うときにも整理が付いてありがたい。

 北門付近(門は最初なかったんだけど、魔物の襲撃で城壁がぶっ壊されたため、ついでに門を作った。)に新たな男爵亭を作っている。

 これは、行政府を兼ねたもので、若干盛り上がったところにある。

 旧男爵亭は、使い勝手が悪いので、思い切ってぶっ壊した。

 いまは、あの商人の家が仕事場だ。

 高級住宅街は、男爵邸をぐるりと囲んでいたが、それも家主がいない家はどんどん壊して、復興用の資材に充てている。

 まあ、やはり俺も日本人だ、(外見は違うけど。)紫宸殿があれば朱雀大路もある、平安京がベースの町づくりを始めた。

 男爵邸を紫宸殿として、南北を朱雀大路とした。

 火事などに対応するため、朱雀大路は道幅を五〇メートルくらい取ってみたが、なんと住民はその両脇にテントを張って、露店を始めた。

 なんだかなー、たくましいね。


 西の城門を入ってすぐの両側に、神殿を配置した。

 特に思うところはないんだけど、朱雀門をはいったら東寺と西寺だよねってだけの話。

 ぶっちゃけ、宗教を二分してなんてだいそれた考えではない。

 ただ、みんなが集まってオシリスにお祈りするだけの場所だ。

 ここに政治を持ち込んだやつは、問答無用で斬首だ。

 まだ東寺しか完成していないんだけどね。

「わあああああ」

 東寺の玄関から子供が数人駆けだしてきた。

 俺は、パリカールに止まるよう指示を出す。

「危ないな、飛び出すと馬車に轢かれるぞ。」

 実際には木立の立った、広場がある。

 木陰を走る子供たちは、俺の顔を見つけたようだ。


「あ!お屋形さまだ!」

「おくがたさま~、お屋形さまがお帰りだよ!」

 子供たちが中に向かって叫ぶ。

「はいはい、あら、お屋形さま、お帰りなさいませ。」


 しばらく見ていなかっただけなのに、なぜか光って見えるティリスがそこにいた。

 まだまだおなかが目立つわけでもないが、全体的にふっくらして、女らしさがぐっと上がったような気がする。

 これを、亭主の欲目と言うんだろうな。


「あ、ああ、ただいま。出歩いても平気なのか?」

「ええ、別に病気と言うわけでもございませんもの。あ、アリス、お疲れさま。たいへんでしたね。」

 ティリスは、アリスティアに向けて、華やかな笑顔を見せた。

「ただいま帰りました。いえ、特に難しいことはございませんでした。」

 アリスティアも、明るく笑って見せた。

 この二人、阿吽の呼吸で行動する。

「ゴルテスさまも、わざわざお出かけ、かたじけなく存じます。」

 ティリスは、ゴルテスにもねぎらって見せる。

 ここ最近、貫禄のようなものも備わってきたように思える。

 考えすぎか?


「なに、容易いことでござる。お気遣いなく。」

 ゴルテスがやけにうやうやしい、いったいここはどうなってしまったんだ?

 ゴルテスは、ティリスを完全に男爵家の奥方として、あがめているように見えるんだけど。

「だいたい、どうして子供がこんなに走っているんだ?」

「ええ、孤児院の子供たちですが、神殿のお掃除を手伝うと言うので、連れてまいりました。」

「そうか、みんなごくろうだね。」

 子供たちはみな、きらきらした目をして、カズマを見上げている。

 カズマは目線を子供の高さに合わせると、一人ひとりの頭をなぜてまわった。

 ここでもビスケットが大活躍。

 子供たちは、ビスケットを配られて大喜びで駆けて行った。


 バカ容量の収納は、どんだけ便利なんだ…

 

「さすがにお屋形さまは、子供にまでていねいですな。」

 ユリウス=ロフノールは、アゴに手を当てて笑っている。

「おう、ロフノール、ウチのヨメだ。」

 俺は、ティリスを前に出して、ロフノールに見せた。

「ティリスでございます。」

 教会式だが、丁寧に膝を折ってみせるティリス。

 ロフノールは恐縮した。

「はは、マリウス=ロフノールでござる、奥方様今後ともよしなにおつきあい願いますぞ。」

「奥方さま、近衛騎士隊の第二連隊長、マルクス=レクサンドでございます。」

「まあ、近衛の隊長様、うわさどおりよい男ぶりでございますね。」

「陸軍歩兵連隊第五連隊の隊長、アルマン=ボルドー騎士爵であります。」

「歩兵連隊!強そうなお名前ですわね。」

 二人は、妙に赤くなって、その場に立ち尽くした。


 納得がいかないのが恵理子である。

「な・なんで~!アリスティアさまが奥方って言ったやん!」

「言ったが?」

「ほなこの人はなんなん?」

「俺のヨメだよ。」

「だ~!なんやそれ!」

「だから、男女比がむちゃくちゃなので、この国は一夫多妻なの!」

「ほえ?」

「二人とも、聖女で俺のヨメ!」

「うっひゃ~!なんちゅうこっちゃ!」

(うちの純情をかえせ~!)


 崩れ落ちる恵理子だった。



「さて、ティリス、俺たちは少し相談したいんだが、どこに行けばいいかな?」

「それでしたら、ベスの宿はいかがです?お食事もできますし。男爵亭はまだ出来上がっておりませんので。」

「そうか、ベスおばさんはうまくやっているか?」

「もちろんです、マリアのパンも好調ですよ。」


「そうか、よし、じゃあベスの宿に移動しようか。」

 俺たちの居城は、あの商人の家だが、この人数で相談するにはいまいちいい部屋がない。

 旧男爵亭はすでに取り壊してしまったので、それもペケだし、教会もいまいちだからな。

 ベスの宿は、朱雀大路の西側にあって、その周りにはぼつぼつ宿屋ができつつある。

 なんとその横に、交番が建っている!

 なんでも、宿屋の周りには面倒が集まるので、兵士の派遣をするそうだ。

 ウォルフ、侮りがたし!

 そんなところに目をつけるとは。

 

「ここは宿屋街になるのですか?」

 マルクスは、周りを見回して声をあげた。

「ああ、そのうち足の踏み場もないくらい客が来る予定だからな。」

「なるほど、セリを定期的に行うわけですね。」

「そう言うことだ、その点についても国王陛下が最初のセリ客と言うのはありがたい。全国に宣伝できるからな。」

「しかし、この町の規模でこの大路は立派ですね。」

 マルクスは、道路を見ながら聞くので、もう少し説明する。

「火災予防の観点から、半分で止められるようにした。」

「なるほど!ここで止めるわけですか!」

 江戸の町の、火よけ地みたいなものだ。

 朱雀大路が広ければ、それ以上の延焼類焼はなくなる。


 宿屋街を抜けると、すぐに冒険者ギルドと商業者ギルドの建物。

 これは小ぢんまりとした建物ですませた。

 金ができたら大きいのにすればいい。

 職員は王都からやってくる。

 そこまでこっちが持ってやる義理もない。

 まあ、俺が冒険者なので、多少の義理はあるが。

 敷地だけはちゃんと確保して、建物が小さいと言う変則な場所だ。

 裏に倉庫でも作ればいいさ。

 ただし、この二軒の間にも交番が設置してある。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ウチは間島恵理子。


 なにやら訳がわからへんうちに、地球からこの異世界に飛ばされてきました。

 小説にあるみたいに、ダンプカーに轢かれたとか、突然魔法陣が現れたとかはありませんでした。

 N●Bの練習場でレッスンを受けて、次の公演の予定を調整。

 新しいステップがうまくいかなくて、一人居残りで練習していたら、自分の汗で滑って足からひっくり返る。

 ふわっと持ち上がったところで、背中から落ちるので過呼吸に備えて身構えました。

 でも、いつまでたっても地面がきません。

 やっと背中が地面に着いたと思ったのですが…

 気がつくと、おひさまの照りつける乾いた地面の上でした。

「あれ?なにここ?」


 ええもう、周りには土と草ばかり。

 赤茶けた土。

 とんがった草。

 変な石が立ってる。

 組み合わさって、建物の残骸のような…

 そのどれもが見たこともない景色を作っています。

 遠くとんがった山脈がかすんで見えます。

 とりあえず、起きて回りを見回しますが、見たこともない植物ばかり。

『ヤバイヤバイ、なんだこれ、なんだこれ!』

 頭の中がぐちゃぐちゃで、パニックにならないように落ち着くので必死。

 でも、理解できない、このままじゃ死んでしまう。


 自分が寝ているところが、道だと気がついたのは、向こうから馬の顔が見えたから。

 もちろん、その馬は馬車につながっていました。

 大柄な男たちが乗った馬車は、何台も並んで箱が付いていました。

「なんだ?行き倒れか?」

 上からのぞき込みます。

『ここどこ!』

 ウチが叫ぶと、男は首をひねりました。

『何を言ってるんだ?さっぱりわからねえ。異国人か。」

 ウチの言葉が通じない。

 こちらも、相手が何語を話しているのか、さっぱりわからない言葉。


 馬車から二人の男が降りてきて、ウチの腕をつかみました。

『いたい!』

 ウチはうでを振り回しますが、男たちは意に介した様子もなし。

 ウチが何を言っても気にせず、馬車の上に持ち上げると、後ろの箱に押し込まれました。

 周りには、粗末な着物を着た、一〇歳から二〇歳くらいの女の子たち。

『まさか…人買い…』

 ぶるりと背筋を寒いものがよぎります。

 ウチは、箱の隅に行って座りこみました。

 しまった…人買いにつかまってしもた。

 このままでは、変態オヤジに売られて、あんなことやこんなことされて…

 ぶるぶる!


 どうしよう!


 実際には、ウチを捕まえたのは冒険者の護衛で、キャラバンは奴隷商の商隊。

 護衛の冒険者は、自前の商品にしたようです。

 それから都市に着くまで、隙を見ては逃げ出そうとして、手の指を折られ、顔を殴られました。

 それでも、死ぬよりはマシだと思ったのですが、我慢できず、都市の市場に入ったときにもう一度逃げようとして、ひどい折檻を受けました。

 手足の骨が折れて、あまりの痛さに思わず失禁。

 そのうち、ひとけりが脇腹に当たって、肋骨が折れて肺に刺さったようです。

 息ができなくなり、体に力がはいらなくなって、おしりからずるずるなにか出て行く感覚。

『あ~、こりゃ死ぬな…』

 意識がもうろうとして来て、横になったまま、自分の口からは懐かしいサクラサクラのメロディが…

『帰りたい…おうちにかえりたいよう…』

 パンツさんの中は、ひどいことになっています。


 あったかい…


 ウチを包む、暖かいもの。

『いてててててえ!』

 骨が!骨が動いてる!

 それ!痛いから!

 ぐにゃんぐにゃんと、体中の骨が移動するのがわかって、ウチはまた漏らした。

 まだ出るものがあるんやなあ…なんて、場違いなことを考えてたわ。

「ああ、息ができるわ~。」

 ウチはようやっと、息を吸い込むことができました。

 柔らかなものがほほに当たります。

 なにやら、やさしい女の子の声がします。

 暖かい光に包まれて、やっと人心地…

「ああああああ~!」

 自分に起きた事、痛み、すべてがぶりかえしてきたようです。


 涙を振りまいて、激しく首を振ります。

『だいじょうぶ、大丈夫よ、もうだれもあなたを傷つけません。』

 さらに女の子がぎゅっと抱きしめると、ウチはやっと落ち着いてきました。

 何を言っているのかわからないけど、やさしい声に落ち着いてきました。

 女の子に手を引かれて、テントの中に入ると、彼女はウチの着ているものをすべて脱がせてくれました。

『あらあら、大変だったわね。』

 なんとなく、言っている内容がわかります。

 彼女は、ウチの前で手を振ると、ウチの体の汚れがすっきりと消えてゆきました。

 その後、彼女が取り出したのは、おばちゃんがはいてるようなちょうちんブルマー。

 丁寧にはかせてくれて、上から柔らかなシュミーズをかぶせて、白いワンピース(簡単なかっこうの。)を着せてくれました。

『これでいいわ。』

 後で聞いたら、奴隷が売られるときの服装らしいです。


 なんちゅうもんを着せるんや!


 これを着てないと、奴隷市を出られないとかで、とにかく契約が済んで奴隷市を出ることができました。

 ああ、恥ずかしかった!

 もう、横から肌が丸見えで、スリットちゃうやん!

 はっきり言って、麻袋をかぶせられたみたいやん!


『おまえ、日本語がわかるか?』

「!」

 ウチは、目を見張って男の顔を見ました。

 栗色の髪、細面の顔、西洋人風の顔なのに、流暢な日本語が聞こえます。

『に、日本語がわかるの?ここはどこなの?』

『まああせるな、俺はカズマ。おまえは?』

『…間島恵理子、正徳学園一年です。』

『ふうん、一五歳?』

『はい。』

『よかったな、奴隷商人がまともなやつで、そうでなきゃ今頃なにされているかわからんぞ。』

『あれでまともなんですか?あたし、死ぬかと思いました!痛いし、息できないし、何言ってるのかさっぱりわからないし。』

『まあしょうがないよ、日本人で俺も安心したわ。』

『?』


 イントネーションが関西ナマリだな。


『まあな、あんまり暴れるからだよ。それはあとでゆっくり話そう、とりあえず着るものを買いに行くぞ。そのかっこうじゃ、刺激的すぎる。』

『あっ!』


「お屋形さま?」

「ああ、おれの故郷の言葉だ、こいつはそこから来た。」

「まあ!」

 カズマさんは、上着をウチの肩にかけて、その場を後にしました。



 王都の市場の古着屋は、品数も豊富で色合いもきれいなものが多くあって、びっくりしました。

 そやけど、全体に大柄な女が多いこともあって、恵理子が着られるのは子供服ばかり。

 最終的に、子供が来ているようなエプロンドレスが残ったのでした。

「体に合えば、なんでもいい。あとで、いい服を作ってやる。」

 それで安心したけど、市場の中はホンマ混沌としてはる。


『あ~、なにこのかぼちゃぱんつ!こんなのしかあらへんの?』

『それしかないよ。ここは、日本とは違う国だ。それがいやならドロワーズしかないぞ。』

『ドロワーズ?』

 カズマはアリスのすそを軽く持ち上げて見せました。

 ひざ下まである、白いレースの付いた半ズボンみたいな下着がのぞきます。

 アリスはあわててすそを押さえてお屋形さまをにらみます。

 お屋形さまは、苦笑して見せました。


『うげ、どこのゴスロリだ!』

『これが、この国の普通なんだよ。文句言わずにはけ、そうでなきゃノーパンだぞ。』

 若干嬉しそうなお屋形さま。

『うく、それは困る。』

『だろう、だまってはけ。あとで、自分で作るなりしろ。』

『えらそうねー。』

『えらいもん、おれ男爵さまで、お金持ちで、お前の出資者。』

『う…』

『奴隷契約書があるから、お前は俺に逆らえない。』

『げ、なにされるの!』

 恵理子は、自分の体を抱くようにして下がりました。


『さしあたり、皿洗いくらいしか使い道はなさそうだな、よく働け。』

 がく~!

『うわ~!なにそれ!』

 皿洗いはつらい仕事だよ。

 温水器なんかないし。


 カズマは、ウチを連れて街中を進みます。

「なんだか、見たこともない街やね。」

「そりゃそうだ、ここはアフロディーテ大陸のイシュタール王国、この王都はどっちかって言うと、パリに似ている。」

「へえ!そう言われれば、なんかいい感じ。」

「そこの中州の教会に用があるんだ。」

「ほわ~、ノートルダム!」

 カズマは、お祈りを済ませると、教会も出てすぐに宿屋から馬車を出して城門に向かいました。

「なんとまあ、男爵さまの馬車が、ロバの馬車かいな。」

「節約してるんだよ。街の復興には金がかかるからな。」

「へえ~。」


 聞いてみたら、ロバの名前はパリカール。

 おっさんおっさん、あんたオタクやったね!


男爵亭⇒男爵邸ではないでしょうか。

とのご意見をいただきました。

ありがとうございます。

おお、男爵亭とは、貴族のおばんざ~いが出てくるお店ではないか。

われながら、おもろいこと考えたな~(笑)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 男爵亭⇒男爵邸ではないでしょうか。 [一言] いつも楽しく読ませていただいてます。
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