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第二〇話 Cクラス冒険者が来た

やっともとの流れに帰ったら、なんか、雰囲気が違ってきたな。

 第二〇話 Cクラス冒険者が来た 


 昼になって、チコが昼飯に呼びに来た。

 ギルドの訓練場は、死屍累々。

 マルソーですら、片膝ついてぜえぜえ言ってる。

 めずらしく、Dクラスのドイル(二十二歳)が髭面さげて参戦したが、その辺でひっくり返っている。

「ザマアねえな。」

 みんなバテてしまったようだ。

 俺はまだまだ余裕だよん。


 しかし、この様子では、今日はもうやめだな。


「ユフラテー、お昼だよー。」

 チコが呼びに来てくれた。

「おう!」


 チコと連れ立って家に戻ると、チグリスはあたらしい剣を持って出てきた。

 剣と言うか…まだ棒みたいだが。

「それは?」

「なんだかなあ、いい形が思い浮ばないんだ。」

 マソプが後ろに立っている。

 彼もシブい顔つきだ、なかなか鋼が言うことを聞かないらしい。

「そうか、俺としては片刃の真っすぐな感じの剣がいいな。」

「片刃?」

「うん、突きに使えるように、先が尖った感じの。」

「ふうん。」

 俺は、地面に剣の形を描いて見せた。

「見たことない形だな。」

「ああ、俺が知ってる剣と言えば、これなんだよ。」


「ほう、ふつうは両刃のツルギだがな。」

「片刃だと、切れなくなったら峯で殴り倒すんだ。もちろん、先が尖っていたら突きも使える。」

「なるほど、やってみる。マソプ!炉の火を増やせ!」

「おう」

 チグリスは、なにやらひらめきがあったようだ。

 マソプを連れて戻って行った。


 おい、昼飯はどうした!


 やつらを見送ったあと、俺はチコを連れて表通りの市場に向かった。

 約束だったからな、買い食い。

 昼飯がわりだな…チコ、食いしん坊。


 冒険者ギルドの前を通ると、やけに騒がしい。

 しかも、やじ馬の数よりも冒険者の数のほうがずっと多い。

「どうしたんだ?」

 野次馬には、ヨールもいた。

 お前、Dクラスになっても呑んだくれてるのか?


「ああ、商隊の護衛でCクラスの冒険者がやってきたんだYO。」

「へえ!Cクラスなんて初めて見るぜ。」

「そうだな、ここで一番上がDクラスだからYO。」


「すげえなあ、強いんだろうなあ。」

「仲間にはCクラスの魔法使いもいるらしいYO。」

「へ~Cクラスばっかのパーティなんだな。」

 そりゃ強そうだなあ。

「五人組だそうだYO。」

 ヨールはよく見てるなあ。

「へ~、やっぱパーティ組んで護衛やるんだなあ。」

「ユフラテ、お前も護衛やるのかYO?」


 ヨールは、笑ってる。

「そうだな、一人じゃ獲物を持って帰るのも大変だ。護衛は身入りもいいんだろう?」

 荷車引くのも大変なんだよ。

「そうだな、護衛につく商人しだいだYO。」

「なるほどね。」



 俺と同じDクラスの、ヨールはいつも呑んでる酔っ払いだった。

 いつのまにかやる気を出して、FクラスからE・Dと上がってきた。

 いまじゃ、いっぱしにゴブリンなんか一撃で倒す。

 なかなか頼もしくなった。


 荷車引いて、獲物を運ぶのも一苦労だ。

 俺は、たまにチグリスの馬車を借りてるから、まだ楽している。

 ま、普段は手押しの荷車で、三~四人で運ぶんだ。

 そうでない低級冒険者は、ウサギ一匹倒すのも難儀だ。

 ウサギ一羽、三〇キロから四〇キロあるんだから、三人くらいでパーティ組むと、獲物を分離して運べる。

 そのため、低ランク冒険者には、しょいこがマストだ。

 俺たちは、ギルドの人力で引く荷車を借りたりしている。

 あんま高くはないが、獲物が少ないと負担が大きい。



「まあ、ユフラテならすぐにDからCになっちまうんだろうけどな。」

 ヨールは赤ら顔で笑う。

「ま・そのうちにな。」


 そんな中、Cクラスパーティは、ギルドで護衛の終了証明を出し、クエストの完了を告げた。


 ようやく役目をおえたパーティは、ギルド内を移動する。

 Cクラスのパーティは、ギルドの中のカフェで酒なんかを呑み始めた。

 へえ、革のプロテクターかあ、いいなあかっこいい。

 胸と腰に革の防具を付けて、腕にも巻いている。

「どうしたんだ?」

 俺がヨールに聞くと、ヨールはため息をつきながら答えた。

「旅の間にたまった獲物を買い取りに出したんだよ。それが、コステロが一人で計れるようなもんじゃないんだYO。」


「へ?」

 たぶん俺は、マヌケな声を出していたろう。

「なにしろ、ウサギだけで一〇〇匹以上いてな、オークが三〇匹、森ゴリラ三匹…」

「ど、どうやったらそんなに持って帰ることができるんだ?」

 オーク一匹だって、荷車に載せるのにヒーヒー言ってるのに。

 五人で担いでなんかこられないぞ。

「ああ、お前知らないのか?魔法の革袋だよ。レベルの高いパーティなんかはたいがい持ってるな。」

 あれか~、あれはなあ便利だけど目立つよなあ。

 モノ自体もバカ高いシロモノだし。


 持ってるだけでお金持ちだよ。


「…」

「ほら、リーダーの腰に下がってるじゃないか。」

 ヨールが、笑って指さした。



 俺が顔を向けると、ムキムキのキン肉マンが腰に一〇センチくらいの小さな袋をつけている。

 あれがそうなのか?

 小さすぎるだろう。

 うちにあるやつより大きさが、ずっと小さい。

 これは、袋の性能に関係するんだろうか?

 二回りは小さい。


「それに、安いのだって金貨三枚はするぞ。」

 金貨三枚…

 一年は遊んで暮らせるな。

 ばかやろう!買えるわけないじゃん。

 家が建つぞ!

 いままで相場も知らなかったが、知ったところで買えんわ。

 俺が盗賊から取ってきた奴は、八畳間くらいの大きさのようだ。

 それだって、金貨一枚は下らねえ。

 ただ、貧乏人が持ってるとヤバそうだから、表にゃ出さねえんだよ。

 俺って、用心深いからな。


「ウサギ四〇〇匹くらい取らなきゃ。」

 一匹銀貨二~三枚だからな。

「そうだな、お前いま計算したのか?」


「そんなもんだいたいわかるじゃん。それよりあの人はなんであんなかっこうしてるんだ?」

 テーブルの向かい側に座っている人物は、黒いフードのついたマントをすっぽりかぶっている。

 裾から素足が覗いているから、女性なのか?

 夏なのに暑そうじゃん。

「ああ、あれは魔法のローブだ。あのマントも魔法アイテムで、夏でも暑くないんだってさ。」

「へ~高そうなアイテムだなあ、なあヨール、Cクラスの魔法使いってどんなことできるんだ?」

「さあてねえ、属性もあるからよくわからんが、すごいのになると山ぶっ飛ばすそうだぞ。」

「へ~、ヨールはよく知ってるなあ。」

「この世界長いからな。」



 よっぱらいのヨールは、赤い鼻をこすって笑った。 



 俺が顔を向けると、偶然か魔法使いと目が合った。

 なんだかちっこいな。

 くいくいと手招きされる。

「俺?」

 俺は自分を指さして見せた。

 こくこく

 うなずいてるよ…俺はチコを見た。

「まあ、行ってみようよ。」

 チコは、怪訝な顔で答える。

 チコは俺の手に、そっと自分の手を重ねた。

 俺は、チコを連れて魔法使いに近寄った。



「…」



 魔法使いは、俺に手を伸ばすとぴくりと指先を震わせた。

 ためらいがちに声を出す。

「きみ、なにか魔法できる?」

 格好のわりに高い声だ、リナ=インバースの若いころみたいな声だ。

「はあ、着火の魔法くらいなら。」

 手の内全部見せるほど迂闊じゃあない。

 むこうも、よくわからないような顔をしている。

「いまできる?見せて…」

「はあ…」

 着火着火

 ぼはあ!

 指先から二メートルくらい着火が噴き出したので、周りにいたやじ馬が雪崩を打ってひっくり返った。


「室内でなにすんだYO!」


 ヨールが大きな声で抗議している。

「いや、着火の魔法を。」

「アホか!それじゃ放火の魔法だYO!」

「確かに…」

 ヨールの言うとおりだ、俺は苦笑して答えた。


「なるほど、君には火の属性があるのかな?ほかには?」

「いや、ほかには土ボコしかないな。」

 ボコ

 ウソ・まだあるよ~。

「ふうん、まだいろいろできそうなのにな。どっかで修業したの?」

「いや、この子の父親に着火だけ教えてもらった。」

 ちまちま練習して、いろいろできるけど(笑)



「そう、ねえアラン、練習場に行ってもいい?この子少し鍛えたい。」



「ああ?ほそっこいやつだな、魔法使いか?」

 アランは振り返って魔術師を見た。

 分厚い胸板。

 肩の筋肉ももりあがり、いかにもパワーファイターな感じが伝わる。

 細かい毛が生えているのは、獣人の血筋か?


「ユフラテは剣士だよ!メイスも使う。失礼なこと言うなキン肉マン!」

 チコがおこって、リーダーと呼ばれるキン肉マンにくってかかった。

 キン肉マンは、苦笑してチコの頭をなぜた。

「わるかったな嬢ちゃん。ふうん、剣士ねえ。」

 今日はブロードソードはしょってないからな。


「今は剣は持ってない。普段は六尺棒かメイスを使ってる。」

「そうか、じゃあちょっとつきあってくれ。」

「?」

 リーダーはアランと言って、四分の一獣人の血が入っているそうだ。

 なるほど、胸板も厚いなあ。

 四チコ分くらいだろうか?

(チコを四人並べたのと同じくらいだ。)


 アランに着いていくと、ギルドの裏手に出た。

 校庭の四〇〇メートルトラックが入るほどの広場になっていて、左横に小さな小屋が立っている。

 運動場のまわりには木が植わっていて、道との境になっている。もちろん塀もあるんだけど。

 なんか成り行きで、みんなぞろぞろついてくる。

 アランは、その小屋から六尺を二本持ってきた。

「ほれ。」

 と言って一本を投げてくる。

 俺が受け取ると、六尺をくるりと回して言った。

「よし、いっちょうお前の腕を見せてくれ。」


「なんだよまったく!」


 俺は、勝手な展開にかなり憤慨していた。

「勝手な事言うな!」



 俺は六尺を地面にたたきつけて、アランを睨みつけた。



「まあそう言うなよ、俺はたいていの奴は見ただけで大体の強さがわかるし、構えを見れば実力もわかる。」

「それがどうした?」

「だが、なぜかお前にはそれが見えない。」

「…」

 俺は、こぶしを握ったまま、アランを見た。

「おかしいと思ったら、確かめたくてしょうがなくなったんだ。たのむよ、一本だけでいい。」

 アランは片手を上げて、拝むような仕草を見せる。

 そう下手に出られると、怒っているのも大人げない。

「…わかったよ。」

 しぶしぶ六尺を拾う。

 やじ馬は俺たちの周りを囲んでいる。


「では、改めて。」

 すっと六尺を引いたアランは、気合もなく一気に踏みこんできた。

「ふっ!」

「おわ!」

 そういう殺気のない攻撃ってのは、よけるのが難しい。

 思わず、六尺で流して一歩左に飛んだ。

「ほお、あれを流すか。」

 ごおっとアランの背中から闘気があふれる。


「そうして殺気を出してくれるとありがたいね。どこに来るか予想がつく。」

 俺は、にやりと口の端が上がるのを感じた。


 ぼそりとつぶやく声をアランは聞こえたのか聞こえないのか、一瞬に三回の攻撃が飛んできた。

 頭、胴、胸に向けての攻撃。

 上下スッ飛ばしで来るので、かわしにくい攻撃だ、いやらしい攻撃とも言う。


 かんかんかん!っと軽い音がして、すべてを打ち落とす。

 そう、下向きに落とすのだ。

 なぜか?次の攻撃までにタイムラグが生じるから。

 アランはだんだん面白くなってきた。

 アランの技は、力は強いが師範ほどの速さはない。

 その『師範』ってだれだか知らんが。

 肩の肉がぐっと盛り上がるので、どう動くかがすぐわかる、目で見て流せる程度だ。

 ただ、多彩。

 どこからでも攻撃してくる、しかも膂力がハンパねえ。

 まともに受けると、じいんと手がしびれる。



 長期戦はまずいな。



 おもきしぶちかましがきた。

 盛り上がった肩の筋肉が、俺の胸に当たる。

「おわ~!」

 剣で言えば柄同士で鍔迫り合いである。

 俺はモロに受けて、野次馬に突っ込んだ。


「おもいYO!」

 ヨールが悲鳴を上げている。

 やっぱ、運の悪い奴だ。

「みんな広がれ、これはあぶないYO!」

 俺が手を引っ張り上げたヨールは、周りに声をかけた。

 お前だけだよ。

 よけるだけでは芸がない。

 正面からの攻撃を外に受け流して一歩前に出て、手元の短い握りをアランのあごめがけて突き出してやった。

「うお!」

 真っすぐ後ろにあごを引いて、アランが吠えた。

 ボクシングで言うスゥエーバックの感じ。

 この筋肉ダルマのくせに、小技も効いているのがいやらしい。



 そこで、もう少し追い込んでみる。



「天然理心流三段突き!」


「おう!は!くお!」

「これをかわすかよ!もういっちょう!」


 四つ目の突きは、股間を狙う。

 男ならぜったい嫌って避ける。

「うお!」

 当然アランの握りが下がる。

 下がった切先に、こちらの六尺棒をからめてやる。


 六尺の先を相手の剣先に絡めて、一気に上に引き抜いてやった。





 かいん!と音がして、アランの六尺は跳び上がると、ころりと地面に落ちた。





「はあはあ、やるなあ。」

「道場剣法だよ。」

「いやいや、三段突きの殺気たるやかなりのもんだよ。ルイラ、こいつは強ええな。」

「ふふふ、さすがにアランでも息が上がるのね。ユフラテ、土ボコはどんなことができる?」

「ふむ、穴掘りだな。」

「どう?」

「土ボコ。」

 俺の前に三メートル四方の穴があく。

 当然、アランが落ちる。

「どわああああ!」

「どうだ?」

「結構。すごいわね、こんな土魔法。」

「ああ?こんなもん、ただの土ボコだよ。」


「へえ、理解しているのね。しかも無詠唱。」

「だって、気持ち悪いじゃないか。」

「なにが?」

「呪文の言葉、気恥ずかしい。」

「わかった。これ、埋められる?」

「もちろん、俺は横に盛り上がった土を移動させる。

「おい!俺が落ちたままだぞ!」

 アランが三メートル下からわめいている。

「いいから、埋めて。」

「ほい。」

「だ~!冗談じゃないっての!」

 アランは、ひいひい言いながらも、角を使って登ってきた。

 さすがな筋力だ。


「ちっ」

 ルイラがこぼす。

「『ちっ』ってなんだよ『ちっ』って!」

 アランが喰ってかかるのを、華麗にスルーするルイラ。

 アランはルイラの後ろを着いて回って、グダグダと文句をタレている。

「ちょっとまてよルイラ、『ちっ』ってなんだよ『ちっ』って!」

「ああもう、黙って埋まってればいいのに!」

「なんだよそれ!俺たちゃ夫婦じゃないのかよ!おれはあんたの夫だよ!」

「下に『どっこい』が付くんじゃないの?」

「おっとどっこい・なんでやねん!」

『あ~、夫婦漫才はそのへんでいいわ。」

 俺は、あきれた。


「二属性使えるのか、ほかには?」

「人が大勢いるところでは、手の内バラしたくねえよ。」

 俺は、ルイラの耳元でそっと言った。

 アランが、ギャーギャーわめいているので、ほかの者には聞こえないだろう。

「わかったわ、後日別の場所で。」

「了解。」


「こんどあたしたちが行くときに、一緒にクレオパに行ってくれる?」

「クレオパ?」

「イシュタール第二の都市よ、人口は十万人。あたしたちの本拠地。」

「そこに行くとなにがあるんだ?」

「私の師匠がいる。年を取ったので歩くのが少し難しい。」

「それに会うのが、そんなに重要なのか?」


「ユフラテさんは、魔法使いとしていい素材を持っている。師匠に付くときっといい魔術師になれると私は思う。」

「本当なのか?」

「潜在的魔力がハンパない。」


 なんか暗い林原めぐみみたいな話し方で、ルイラは説明する。


「だ、だめよユフラテは、忘れ病なんだから。マゼランを出ちゃダメ!」

 チコが横から口を出すが、ルイラは気にもしていない。

「忘れ病なら余計に、いろいろ見たほうがいい。思い出す。」

 どっちもどっちだな、これは先達に相談すべきだろう。

「いま決めることでもないな。」

 俺は低く口にした。

「そう?」

「ああ、たったいま出会ったばかりの人に、決めてもらうような事でもない。」

 俺の強い意志を見て、ルイラは引くことにしたようだ。



 アランは右手を差し出した。

「俺たちはここに五日ほど居る予定だ、またやろうぜ。」

 俺は握り返しながら笑った。

「ぜひ。」



「「「「うわああああ」」」」



 いきなり周りから歓声が上がった。

「ユフラテー、おめえすげえなあ、Cクラスに勝っちまった!」

 ドイルが、髭面下げて駆け寄ってくる。

「マゼランの冒険者が腰抜けじゃねえって、やってくれたなあ!」

 ジャックが、ヨールが満面の笑顔で抱き着いてきた。

「おいおい、男に抱き着かれてもぜんぜんうれしくねえよ。」

「ばかやろう、一杯おごるぜ。」

 人の目の前に親指突き出すなよ!目に入るじゃん!

「いや、みんな応援ありがとう、一杯おごるぜ!」

 俺は、カウンターに行って、銀貨を出した。

「みんなに一杯飲ませてやってくれ。」

「いいのかい?みんなあんたにおごりたがってるよ。」

 カウンターのおばちゃんは、マリと言ってよく肥えたからだが狭いカウンターの中に詰まっている。

「いいじゃないか、エールでも出してやってよ。」

 マリは、樽ごと外に出して大声を出した。


「ユフラテのおごりだってさ!みんな呑んどくれ!」


 わっと殺到する低レベルの冒険者たち。

「あんたには、あたしからおごってあげるよ。」

 テーブルには紫色のワインが入ったグラスが置かれた。

「ありがとう。」

「乾杯しようぜ。」

 アランがエールのジョッキを上げた。

「ああ、乾杯。」

 俺も、今回はいい気分になってしまった。

 魔術師ルイラは、フードを外して、金髪を揺らしている。

 なるほど、かわいいな。

 胸はそれほどおっきくないけど、体の線は細くてよくくびれている。

 ケツはいい形をしてるぜ。

 あとは盾職のやっぱムキムキマンとか剣と弓持ったやせ形イケメンとか、ハルバート持ったドワーフとか、Cクラスってなんかすげえなあ。

 強そうだよやっぱ。



「チコも、一杯呑みなよ。」

「うん…ユフラテ、出て行ったりしないよね。」

「それは、とうちゃんと相談する。俺一人で決めていいことじゃないからな。」

「義理堅いねえ。」

 チコはエールのジョッキを持って、上目で俺に言った。



 そんなことがあって昼さがり、手が空いた俺はチコの案内で教会を目指すことにした。

 初日に尖塔を見て以来、いっぺんあそこに行ってみたかったんだ。

 治療のときは裏からしか入ってないし、じっくり見たわけでもない。

 ナイフが刺さって痛かったし。


「教会なんか、そんなにいいもんじゃないよ。」

「なんでだ?お前たちドワーフは別の神様を信じているのか?」

「いや、あたしたちも同じオシリス女神の信者だよ。この国は八割がたそうだと思う。」

「じゃあいいじゃないか、お賽銭ぐらい上げに行こうぜ。」

「お賽銭?」

「なんだ、こっちじゃそう言わないのか?神様にお金を奉納して、感謝するんだ。」

「ああ、喜捨のことか。ユフラテのとこはそうやって言うんだね。」

「そうらしい。ほら。」

 俺は、チコに銅貨を握らせた。

「これを喜捨にするの?」

「だめか?」

「いや、いいけど、安すぎない?」

「気は心だ。まあ安ければ上げてやってもいいけどな。」

「あはは、神様相手になに言ってるのよ。」


 教会に着くと、人口二万人の都市には不釣り合いな立派な建物である。

 町を縦断する川の中州を石で固めて、そこに重壮な石造りの建物がそそり立つ。

 もちろん前の広場も石畳で敷き詰めてあって、たくさんの人が歩いている。

 中州は、船のような形をしていて、この教会を先頭に波を蹴立てて進んでいるように見える。

 まるで、りっぱないくさ船のようだ。

 中州の両脇に石造りの橋が架かっていて、さらに立派な感じがする。

「ほお~、りっぱなもんだなあ!こりゃあすげえ。」

「うん、五〇〇年前からあるらしいよ。」

「へえ、町の歴史なんだ。」

「いんや、この町は三〇〇年ぐらい前からだから、その前の住民が建てたらしいよ。」

「なんとまあ、遺跡をそのまま流用してるのか。」

「まあ、立派だからいいんじゃない?昔は領主の館にしてたらしいし。」

「さもありなん。なんまんだぶなんまんだぶ。」

「なによそれ。」

「俺の国の、呪文らしい。神様ありがとうっていう内容らしいが。」

「うそくさ~。」



 実際にすげえんだよ、入り口には三つのアーチがあって、それに細かい彫刻が彫り込んである。

 それぞれに付いている扉は、重厚な木材でできていて、かなり力がないと開かない。

 ふつうは四~五人で開けるそうだ。

「なんでも字の読めない人に、オシリス女神の教えを説明してるんだって。」

「なるほど、人がこうして生まれて、死ぬとオシリス女神のもとに行くわけだ。」

「ああ、そう見えるんだー。へ~。」

 俺たちは、右側のアーチから入った。

「俺の町では、真ん中は神様の通り道だから、端を歩けって言われるんだ。」

「へえ、変わってるね。」

 教会の中に入ると、すげえ!

 中も五十メートルくらい奥の祭壇まで、ずっと木の座席が並んでいる。

 祭壇には五メートルくらいの白いオシリス像が立っている。

 天井はかなり高く、少なくとも二十メートルはある。



 フレスコ画のように、アーチ型の天井にきれいなオシリスの姿が描かれている。



「あの白いオシリスの前の赤い衣の女性はなんなの?」

 俺は指をさしてチコに聞いた。

「う~ん、あたしもよく知らない。」

「あれは、オシリス女神の使徒筆頭のジェシカですよ。」

 白いベールをかぶった黒い装束のシスターが、横から声をかけてきた。

 声が澄んでいて、若い娘だとわかる。

 つか、この人、見たことあるんですけど。

「ジェシカですか。」

「ええ、千年のあいだ人の世にあって、オシリスの使徒として人々を導いたと言われています。」

「すっげえなあ、エルフも真っ青な長生きだ。」

「生きると言うのとは違うと思いますよ。オシリスさまの命を受けて、天界から遣わされたと言われていますから。」

「人間が好きだったんでしょうかねえ?」

 チコが、妙な意見を言う。


「そうかもしれません。」

 シスターはため息をついた。

「地上につかわされて勇者ランディウスに従って旅に出たときは、ヒールしか使えず、旅の間にいろいろな魔法を覚えたと言いますから。」

「なるほど、レベルアップが激しかったんだな。」

「そうですね、成長速度は早かったようですね。」

 なんだかなー、チート魔術師かよ。

 こちとら着火だって不良品(バーナー状態。)だもんな。

「お賽銭ばこはどこですかね?」

「お賽銭?」

「えっと喜捨です。」

「ああ、献金箱ですね、こちらへどうぞ。お祈りはお済みですか?」

「いえ、まだこれからです。」

「では、先に祭壇へどうぞ。オシリス女神は何人も拒みませんよ。」

「そうですか?ありがとうございます。」



 俺はチコと手をつないで、祭壇に向かった。

 チコは祭壇に着くと、なにやら一生懸命お祈りしている。

 俺はと言うと、あんまお願いすることもないので、ただ頭を下げた。

「世界が平和でありますように。」

「そりゃあでっかい望みだね。」

「そうか?平和で、ウサギがいっぱい取れたら、おなかもいっぱいだ。」

「そりゃそうだね、そんでもってお酒も一杯ついたら最高だ。」

「そうだな。」

「まあ、うふふふ。」

 シスターは、俺たちのそばにいて二人の会話に笑い声をあげた。

「シスター、聞かないで下さいよ。」


「あら、ごめんなさい。お仲がよろしいのね。」

「そうかな?まあ、チコとは気の合う仲間だな。」

「そうだね。」

「献金箱はこちらです。」

 見ると、ホンマに木の箱が置いてあって、その中には銀貨や銀板、金貨なんかも見える。

「ありゃ?銅貨なんか入ってないぞ。」

 俺が小声でチコに言うと、チコもうなずいた。

「そうだね、どうする?」

「そりゃあおまえ、いれるしかあるまい。」

 俺は、懐から銀貨を一枚出して、チコに持たせた。

 チコは、ちゃりんと献金箱に落としたのだった。

 ついでに銅貨を入れることを忘れない。



「ありがとうございます。これで、孤児たちもお食事がいただけます。」

 え~、この箱の中身、けっこう入ってるぞ。

 銀貨、銀板、金貨。

 こんだけあれば一家が一年暮らせるぞ。



「孤児って、何人くらいいるんですか?」

「こちらの教会では、三十人ほど預かっています。司祭様はじめ神父様、シスターの数も三十人ほどです。」

 へえ~、けっこう大所帯なんだ、それじゃあ募金だけでは食うのもやっとだな。

「こんど、ウサギが取れたら持ってきますよ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

 俺たちは、祭壇前に人が寄って来たのを境に、シスターにいとまを告げた。

「今日はありがとうございました。私はシスターアリスティアと申します。」

 シスターアリスティアは、ゆっくりと腰を折った。

 あ、この人貴族なんだ、おじぎがちがう。

「若輩者ではございますが、またお越しくださったときはお供させていただきます。」


 俺は、それに答礼すると、もうひとつ聞きたかったことを口にした。

「ああ、そう言えば、教会では診療所はなさってますか?」

「しんりょうしょ?ああ、治療院ですか?ええ、ございますよ。どこかお悪いのですか?」

「いえ、このまえ治療をしていただいたんですが、失念してしまって。」

「そうでしたか、ええ、そうですね思い出しました。私の担当でしたね。」

「はい、それで治癒術というものはどんなものかと思いまして。」


「ええ、こちらでは複数のシスターがヒールを使えますので、もっぱら治癒魔法中心です。」

「治癒魔法ですか。」

「ええそうです、司祭様のほかに五名ほど、治癒魔法が使えます。」

「シスター=アリスティアも?」

「ええ、少しですが。」

「そうですか、いちど見せてください。」

 俺も興味あるんだよ。

「おはずかしいですね。」

 シスターは、ほほを染めた。

「では、失礼します。」



 俺たちは、教会を出て石畳の道を川に沿って進む。

 五十メートルほどの川にかかった石の橋を渡ると、川沿いに店が並んでいる。

 立ち飲みの酒屋の前で、チコが振り向いた。

 俺は、うなずいて言う。

「ああ、チグリスのお土産を買っていこう。」

 こう言うところ、チコと俺は以心伝心だな。

 チグリスの土産にワインを買って、そのまま家に向かう。

 意外と広い街で、歩いているだけでもおもしろい。

 帰りに市場の前にさしかかると、屋台の焼肉屋が串焼きの肉を売っている。

「こいつも土産に買っていこう。」

「うん。」

 どうやらウサギ肉らしい串焼きを買い込んで、いい匂いをさせながら家路につく。



「どうだいこれは?」

 家に着くなりチグリスが煤で汚れた顔を出した。

「おお!なんだかすげえ!」

 チグリスの差し出した刀身は、青光りしてすさまじい光を放っている。

「これはすごい出来だ!」

 マソプが叫ぶ。

 チグリスにしても、どうやら会心の出来らしい。


「おまえもそう思うか?なんかなあ、鍛えていたらどんどん良くなってな。研いでみたらこんなんなった。」

 マソプに向かって、不断にない笑顔を見せる。

「うひゃー、中子もきれいにできてる。柄を工夫しなきゃな。」

「お前の描いた絵の通りにできているか?」

「それ以上だよ!こりゃあ名刀になる!銀貨一枚じゃ安すぎるよ。」

「まあ、それはいいさ。おまえにゃ世話になってる。」

「なに言うんだよ、右も左もわからないやつを拾って助けてくれたくせに、俺のほうこそ世話になりっぱなしだ。」

 俺は、手持ちの金貨を一枚チグリスに握らせた。

 気持ちとしては、その十倍は出したいところだ。

 マソプはそれを見てぎょっとしていた。



「それはなあ、まあいい。こいつはかなり実験的なものだし、使ってみないとどれだけ使えるのかわからん。だから、お前のいいようにしろ。」

「いいのか?」

「それで結果が良ければ、もっと作ってみるさ。お前は言わば実験だ。」

「うわ~、感謝の気持ちがいっぺんに落ちるな。」

「だが、偶然にしてもこの出来は悪くないぞ。」

 マソプが横から口をはさんだ。

「それは俺も思う。こいつは切れる。」

「うむ、まあ、拵えは自分でやってみろ。お前にも考えがあるんだろう?」

「ああうん、ありがとう。やってみるよ。」

 絹糸なんかはなかなか手に入らない。クモのモンスターや蛾のモンスターなどから取れる特殊な糸なら使えそうだが、バカ高い。

 とりあえず白木の柄と、鞘を作ることにした。

 束には、皮ひもでも捲けば滑らないし。

 チグリスは、叩き直しの剣が思いのほかよくできたことに、かなり満足しているようだ。

 俺としても、このくらい希望に沿っているなら歓迎だ。もう少し剣にそりがあればもっとうれしいが、贅沢は言わない。

 重さもちょうどいいし、大事に使おう。


 いつも背負っているブロードソードの三倍はいい感じだ。

 あれはあれで、蒼い刀身が凄まじい切れ味を予感させるが、こんどのは桁違いだ。


 夕食は、土産の串焼きと、チコの作った野菜たっぷりスープでうまかった。


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