第十九話 Fクラス冒険者
なんか、お遊び的なおはなし。
ミシェルは、足ががくがくして使い物にならないしなあ、午後のウサギ獲りはどうしようか?
マルク(十四)とアレックス(十三)の兄弟がこっちを見ている。
まだまだぜんっぜん使い物にならないが、今日はそんなにめんどくさいところに行かないのでこいつらでもいいか?
「マルケス通りのマルク・アレックス。」
「「はい」」
「お前ら、荷車引いて着いてこい。」
「い、いいんですか?」
「いいから言ってる、聞き返すなら来なくていい。」
「いいい行きます行きます!」
「俺も行きます!」
兄弟は、目をキラキラさせている。
「あとは…」
「はい!」
エディットが手を上げた。
「じゃあエディット。」
「お師匠~、俺も行く~。」
「お前は休んでろ、今日は使えないから。」
「いやでも…」
ミシェルは、マレーネを見た。
「お師匠さまがいるから大丈夫よ。」
「…そうか。」
残念そうではあるが、全幅の信頼もある。
ミシェルは、今日は休むことにした。
ガラガラと、荷車は車輪の音を響かせて進む。
引いているのはマルケス通りのマルクである。
後ろから、アレックスが押している。
エディットは、マレーネにくっついて楽しそうに話している。
マレーネ、若干引き気味。
俺はサーチをかけて、周囲を探る。
草原でも、この辺は少し草が低い。
「お、魔力草めっけた。」
「どこですか?」
エディットは、一緒になって回りを見回す。
「ほら、あそこだ。」
「取ってきます。」
ぱたぱたとかけて、魔力草を摘んでいる。
その間も、サーチは続ける。
「おや?」
別の風の波紋を感じた。
マレーネが、風の波紋でサーチを開始したようだ。
では少し任せてみようか。
俺は、メイスを持ってあたりを見回す。
アレックスが声を上げた。
「あそこ、ウサギ。」
「声が大きい、ほら気がつかれたじゃないか。」
「す、すみません。」
ウサギは、アレックスの声に反応して、すぐに最高速に加速する。
ウサギって、一瞬で加速するからすごいよね。
そのぶん、コーナーリングが下手なんだけど。
たまに、空転してるし。
直線番長なウサギは、すぐに目前に迫る。
「いいか、マルク・アレックス、待ちの姿勢から力をためて、一気に振り落とす!」
かきいいん
ウサギは、ノーミソ入ってないんじゃないかってくらい好い音がした。
「ぷぎゃ!」
どてっと横倒しに倒れるウサギ。
「マルク!止め!」
「はは、はいー!」
へっぴり腰で、短剣を持って前に出る。
が、腰が引けているから、傷が浅い。
「ほら、恐くないから、もっとぶっすしやれ!」
「はい~」
マルクは涙目だ。
「アレックス、やれ!」
「はい~。」
手先がぶるぶる震えている。
「キ●タマ付いてんだろ!度胸決めろ!」
「「はい!」」
ざっくりと深く突かれた短剣は、ウサギを絶命させた。
ちまちま刺してると、痛いからウサギも困るよね。
「これがウサギ狩りだ。」
二人は、血のついた短剣を見つめて震えた。
「あ~、穴掘りたかったのに、ふたりでやっつけたんだ。」
エディットは、薬草を持って戻ってきた。
女の子の方が、キモが座ってる。
「ウサギはどうだった?」
「あっという間でよくわからん。」
「すっげえ早かった。」
「いいか、ウサギは三歩目から全速力で走れるんだ。だから、間合いを間違いやすい。」
二人は真剣な目で聞いている。
「こっちは先に見つけることが一番大事なんだ。」
「はい。」
「だから、できるだけ体を低くして探す。」
「はい。」
「さっきみたいに大きな声は出さない。」
アレックスは赤くなって下を向く。
「いつでも冷静に対処できるように、こちらが有利に動くんだ。」
「わかりました。」
こいつらけっこうかわいいんだよな~。
色が白いし、目鼻立ちがくっきりしているから。
もっといろいろ教えたくなる。
「いました、右斜め前方。」
「よし、穴掘り。」
「らじゃー。」
マレーネの声に、俺は指示を飛ばす。
「マルク・アレックス、剣を構えていろ。」
「「はい」」
三人で、土ボコ三連発。
小さい中くらい大きい。
俺は、ウサギに向かって、石を投げる。
こきん、いい音がする。
「うきー!」
ウサギがおこって走り出した。
「来るぞ、マルク・アレックス、左右に構えて立て。」
「「はい」」
女の子は、俺の後ろだ。
ざっと音がして、ウサギが走り出る。
エディットの穴を飛び越して、マレーネの穴で躓いて、俺の穴に頭から落ちた。
トム&●ェリーのようだ。
目ん玉くるくるさせてノビている。
「よし、こんどはうまくやれ。」
二人は、穴に入ってウサギの喉をかき切った。
「よし!」
俺はちいさくガッツポーズ。
土ボコでウサギを持ち上げて、木の枝につるした。
まったく、ウサギなんてどんだけ獲っても減らない。
どうしようもないな。
血抜きのできたウサギは、荷台へ移す。
こんな調子で、薬草とウサギを探して草原を回った。
普段は、薬草取りもサーチが使えない人間ばかりだから、特にギリスなどは見つかりにくい。
今日は、ギリスもモニモニも見つかって絶好調だったな。
盗賊の報奨金で懐が暖かいから、こんな遊びみたいなことしてても平気なんだ。
小僧たちには、大切な収入源だけどな。
帰ってきて、分け前を見て三人は目を輝かせた。
「ぎ、銀貨がこんなに…」
「にいちゃん、すげえなあ。」
「ああ、お師匠さまのおかげだぞ。」
「ありがとうございます。」
「お師匠さま、ありがとうございます。」
エディットも、頭を下げた。
一人頭銀貨五枚出たので、みんな上機嫌だ。
「さあ、みんなしまえ。家に着くまでが冒険だぞ。」
子供たちがゼニもってると、取りあげようとする大人が必ずいる。
それが気になるから、早く懐に入れさせるんだ。
俺は、みんなを連れて貧乏長屋に向かった。
「ち・ユフラテがいっしょじゃねえか。」
「今日はやめとこうぜ。」
「ちくしょうめ。」
路地裏では、不穏な目が光っている。
札の付いていないチンピラが、いちばんたちが悪い。
札がねえから、やりたいほうだいしやがる。
これで、変に有名になっちまったもんだから、抑止力にななってるんだけど、チンピラはバカだからな。
やらなくてもいい失敗をしやがる(笑)
今回は、マルケス通りの二人だった。
前と後ろを押さえられて、兄弟は逃げ場をなくした。
「へへへ、ふところにはたんまりお宝があるそうじゃねえか。」
「ううう、お前らは誰だ!」
「ば~か、名前言うほど野暮じゃねえよ。」
「かっこつけんじゃねえよ!やってることはカツアゲじゃねえか!」
「け!小悪党が!」
「なんだとう!」
がん!
男たちのこぶしが、マルクとアレックスを襲う。
「いてえ!ちくしょう!」
がんばってみても多勢に無勢、ふたりはせっかく稼いだ金を取られてしまった。
「じじょう~!」
「だれにやられた!」
泣きながらチグリスの家にやってきた兄弟は、ユフラテに泣きついた。
「なんてこった、せっかく近くまで送ってきたのに。」
「うえ~。」
「やられた奴の顔は覚えてるか?」
「はい。」
ぐすぐすと鼻水をたらしながら、二人は泣いている。
「許さん、酒場だな、色街か!」
俺は、二人を連れて色街に向かった。
どうせ、そのへんでドンチャン騒ぎするつもりだろう。
もう、上がっているかもしれないが、そんなこたあどうでもいい。
小金が入ったら遊びたくなるのは、チンピラの常だ。
通り沿いの酒家を、しらみつぶしに探す。
「「「わはははははは!」」」
大声で笑いながら、チンピラが顔を出した。
「師匠!あいつだ!」
「あんだあ?」
チンピラは、すでに赤い顔をして、目が据わっている。
「おまえらか、子供から金をうばったのは!返してもらおう。」
「ばーか、そんなもん酒になってるよ!」
「返すまでは、許さんぞ。」
マルケス通りの二人は、自分の師匠がどれほどの人物か、わかっていなかった。
「師匠!」
「まかせとけ。」
人間相手に得物はいけない。
街中で刃物を抜いたら、御法度と言うものだ。
俺は、こぶしをぎりぎりと握りしめた。
チンピラは八人。
それぞれにナイフなどを持ち出した。
「そう言うもん出すと、高くつくぞ。」
「どうお高いんだよ!」
ひゅっとナイフが迫るのを、かわしざまに手首をつかみ、反対の手で肘を押さえて、思い切り押す。
めきり!
「うぎゃああああああ!」
「その腕は、教会に行かないと治らないぞ。」
チンピラの右腕は、みごとに反対方向に曲がっていた。
「あ~あ、開放骨折して骨がはみ出てやがる。」
「く・くそう!やっちまえ!」
ごん!
がき!
鈍い音がするたびに、男たちの骨が折れる音がする。
同時に悲鳴が色街に響き渡る。
「ぎゃあああああ!」
「うごおおおおお!」
「まだまだあ!」
俺は、一番にしゃべってたやつに狙いをつけた。
「このやろう!」
チンピラのナイフが迫るのを、首だけで避けて、鼻の上からまっすぐこぶしを突きだす。
ぐきりと、鼻の骨が砕ける感触がくる。
「あ、前歯もねえ。」
チンピラのアタマは、あえなく沈んだ。
「あ、アニキぃ!」
「あにき!」
「くっそおおおおお!」
こいつはこぶしでかかってきたので、その手をつかんで思い切り腰に乗せる。
受け身も取れないやつは、背中から石畳に打ち付けられた。
「ごへえ!」
「ごまみそつけて焼くのかよ!」
それは五平もちです!
「ひぎゃああああ!」
もう一匹は逃げようとしたので、スライディングで足を引っ掛けてこかす。
「ぐべ!」
「逃げるな!バカ野郎!」
めきょ!
脛に足を当てて、おもきしヘチ折ってやった。
「ぐぎゃあ!」
のこり二人は、あっさりのして、全員の懐を探る。
「お、あったあった。」
チンピラの財布も、ポケットの金も全部巻きあげた。
「ほら、マルク、アレックス。」
二人の手に、今日の稼ぎを乗せてやる。
「し、ししょう~!」
「へ、拳でやったから、これはケンカだ。ナイフを出した奴が悪い。」
「わははははは、その通りだな。」
「だれだ!」
「おれはバレステロス、この色街の顔役だ。」
「そりゃあ、お騒がせしてすんません。」
「ああ、いいさ、こんなチンピラ、身内でもねえし。」
「そうなんスか?」
「ああ、それよりお前さん、最近売り出し中の冒険者だろう?」
「さあ?」
「まあいいさ、困ったことがあれば、俺のところに来な悪いようにはしないから。」
「ありがとさんでござんす。」
「うははっはははは」
バレステロスは、楽しそうに笑いながらその場を去った。
あとには、うめき声を上げるチンピラだけが残された。
だれも助けてはくれなかったのだ。
この騒ぎは、色街でのけんかとして、領主の殿さまも動かなかった。
おかげで、俺たちはお構いなしだ。
「師匠って、人間相手でも容赦ねえなあ。」
「さ、逆らわないようにしような。」
「うん…」
マルケス通りの二人は、青ざめてうなずき合った。




