第十八話 昇進する?
今回は、地味回ですよ。
アダムの紙は荒い出来ながら、そこそこ売れるようになってきた。
商業ギルドなどの、経理関係にうまく使えるようになってきたようだ。
逃げた女房にゃ未練はないが、マレーネの成長は気にかかる。
もう二年もすれば、相手も探さなければならない。
それなのに、本人は『お師匠さま・お師匠さま』だ。
ぜんたい、あいつはマレーネをどうするつもりなんだろう?
一度、じっくり聞いてみたいものだ。
アダムは、最近妙にヨメに似てきた娘に、戸惑いを感じていた。
年頃の娘なんて持つもんじゃねえな、やけにオッサンくさい感想をもらす。
「とうちゃん、お仕事に行ってくるよ。」
「おう、気をつけて行け。」
「あい!」
貧乏長屋でも、娘はまっすぐ育ってくれた。
どぶ板を飛び越えて駆けていく娘のうしろ姿を見送ったアダムは、手仕事に戻った。
たたたと駆けて、長屋からメインストリートに出る。
道沿いに城門側に進むと、職人街である。
「おはようございます。」
元気に声をかけると、かわいいチコが出てきた。
「おはようございます、ユフラテはいまご飯食べてる。」
「あらそう?」
「中で待ってて。」
「ありがとう、チコちゃん。」
職人街のドワーフの鍛冶屋は、若干背の低いドワーフ用にできている。
だから、少し天井が低い。
まあ、イシュタールの人たちも、びっくりするほど背の高い人はいないけど、やはり手狭な気はする。
「おはようございまーす。」
鉄の金具を持って、ゆっくり開けるとユフラテは、スープをすすっていた。
「おう、来たか。ちょっとそこに座っていてくれ。」
すぐに、チコがお茶を持って出てきた。
「はいお茶。」
「ありがとう。」
「ユフラテが来てから、もうじき半年になるねえ。」
チコは、唐突にそんなことを言う。
「そうか?もうそんなになるのか。」
季節は移り、朝晩少し肌寒いようになった。
まあ、亜熱帯のイシュタール王国では、ほんとうに朝晩に少し気温が下がる程度で、知れている。
「もうじき新年だしね。」
「ああ、そうだね、なにかごちそう考えなきゃ。」
「新年は、どんなものを食べるの?」
「ドワーフは、やっぱり新年プディングだね。」
イギリスのクリスマスプディングか、ドイツのシュトーレンみたいなやつだ。
「うえ、あのかったいやつ?」
「そうそう、あれがないと新年が来ないんだって。とうちゃんが言ってた。」
ま、伝統の味ですよ。
「あれは噛み切るのに力がいるよ。」
「あはは!でもね、『そう言う伝統料理は、絶対にうちで終わらせることはできん』ですって。」
チコは、チグリスの口真似をして見せた。」
「そう言えば、とうちゃんは?」
「ああ、もう鍛冶場に入ったよ、マソプのおじさんもいっしょだ。」
「へえ、マソプって早起きだね。」
「ま、ドワーフは日の出とともに働いて、日の入りとともに寝るのが習いだ。」
チコは、腰に手を当てて言う。
「なるほどね、職人はやっぱそうでなくちゃ。」
「だね!」
二人は声を上げて笑った。
「歳を越えたらあたしは十三だ、とうちゃんが婿探しするって言ってる。」
「ムコぉ?まだ早くない?」
「まあねえ、あたしはまだ早いって言ってるんだけどねえ。」
「だよな~、あ~アセった。あたしなんかもうじき十七だよ、チコに置いてかれちゃうよ。」
「「あはははははは」」
女の子の明るい笑い声ってのは、なんでこう気分までウキウキさせてくれるかね?
「チコ、お茶くれ。」
「あいよっ」
チコは台所に引っ込んだ。
「なんだよ、アダムもそんなこと言ってるのか?」
「うちのとうちゃんは、まだなにも言ってないですよ。」
「そうか、まあ、おいおいそう言うことも出てくるわな。」
「そですけど、あたしは冒険者でもっとやりたいから。」
「そうか、ま、父ちゃんを食わせるのも大事だ。」
「はいっ」
「しかしまあ、あの紙もけっこう売れてるみたいだし、よかったな。」
「本当にお師匠さまにはお世話になりっぱなしで。」
「バカ言え、とうちゃんがやる気になってくれたから良かったんじゃないか。」
「やる気にさせたのは、お師匠さまじゃないですか。」
「おれは大したことしてないよ。」
「おはようございまーす」
ミシェルがやってきた。
以下続々と、メンバーが集まってくる。
いつのまにか、ここがたまり場みたいになってる。
「よし、みんな担いだか?いくぞ!」
俺は、先頭を切って走り出す。
みんな無言で着いてくる。
ほとんど恒例となってしまった感があるが、街の人たちも慣れてしまったらしく、もう驚いたりしない。
少しずつペースを上げて、みんなを引っ張る。
さて、どうすべーか、追いつきそうで追いつけないように、後ろを気にしながら走る。
もう、みんな外周一蹴だけでは足りなくなったのではないかなあ?
「もう一周するか、重しを増やすか…」
「し・師匠がなんか不穏なこと考えてる!」
ミシェルは悲鳴を上げた。
「あ?まだ元気だもんなあ、やっぱもう一周だな。うれしいか?」
「うわあん!うれしいです~」
ミシェル、涙目。
マレーネは、魔術師なのでリュックはないが、外周を走るのはいっしょだ。
だいたい着いてくる。
俺の重りは、マレーネの体重をはるかに越えている。
鉄のブロックはバカにできんよ。
マルソーでも、三〇キロは入れてる。
ミシェルとレミーは一〇キロ。
ジャックとヨールは一五キロ。
ギルドのみんなはヨールが走ってることに、まずはびっくりする。
あいつもやるときはやる男だ。
その証拠に、先日ついに単独でウサギを獲った。
これに驚いたのは、ギルマスのマルコだ。
ギルドでだらだらエールを呑んでいる姿しか見たことがない。
まさか、俺たちと出かけているうちに、こんなに腕を上げているなんて。
まあ、本当に基本に忠実に動いただけなんだけどね。
冷静に相手を見て、一気に踏み込んで、的確に急所を突く。
こんだけ。
そりゃまあ、この半年、何十回と同じ作業を繰り返してきた。
そして、体力も徐々に上がってきた。
もちろん、同時に筋力も上がっている。
その突きを、モロにくらったら、ウサギなどどうと言うことはない。
いちばんびっくりしていたのは、ヨール本人だが。
「YO~、なんで死んでるんだYO~。」
「お前の槍がクリーンヒットしたんだわ!」
「YO~」
てなわけで、ヨールもEクラスに昇進した。
またまたアホな話で、ミシェルを連れてウサギ獲り。
マルソー、ジャックはもう一撃でウサギを獲るが、レミーとミシェルはまだまだだ。
そんな中、駆け寄ってくるウサギをシメるべく待機していたミシェル。
「来たぞ!」
俺の声にレミーが立ちあがった。
束ねたレミーの髪が、ミシェルの顔を直撃したため、鼻がむずむずする。
「ぶへっくしょい!」
くしゃみしたときに、不意に動いた短剣の前に飛び込むウサギ。
すぽーんと、いい感じに首が飛んで、一撃で獲れたと言うオチ。
「い、一撃だ…」
レミーが、あんぐりと口をあいて凝固していた。
「YO~」
ミシェルも訳が分からず、ヨールのように立ち尽くしていた。
これでタイミングをつかんだミシェルは、ウサギ獲りに一歩前進し、単独で獲れるようになったのである。
「うそダ!」
くやしがるレミー。
「なにやってるんだか…」
俺とマレーネは、あきれて見ていたんだが…
「マレーネ、穴掘ってやれ。」
「はい…」
木の下に穴を掘って、つりさげたウサギの血抜きをする。
なにやら釈然としない二人であった。
そんなこんなで、俺たちはみんなDクラスに昇進した。
「すげえ、冒険者登録して三年でDクラスになるなんて、いままでに居なかったぞ。」
マルソーが、いつもの冷静さをかなぐり捨てたようにわめく。
「へ~、じゃあミシェルとマレーネは、特別だなあ。登録して一年にならないのに昇進した。」
「あ~」
マルソーは、がっくりと顎を落として固まった。
ちなみに、よく考えたら俺は登録して半年でDクラスに上がってるな。
「オマエらはキライだ!」
マルソーとジャックに責められた。
「YO~」
相変わらず、ヨールも呑気にDクラスを受けた。
俺たちのまねをして、マゼランの外周を走ってるやつらもちょくちょく増えてるらしい。
いままで、マゼランの冒険者ギルドが、いかに怠慢経営だったかがわかるわ。
それと同時に、初歩の初歩を教える、初心者研修会が、来年早々に開かれることになった。
「声が出てから半年、やっとやる気になったか。」
マリエが受付で答える。
「だって、やるぞ・ほいって訳にもいかないでしょう?どんなことを教えるのか、なにをさせるのか。」
「正味、一人ひとり体力も基礎もちがうんだから、どうしようもないよ。」
「あんたがそれを言う?」
「少人数だから、なんとかなったんだわ。」
「う~ん。」
「まずは、基礎体力を同レベルまで引き上げるのが肝要かと。」
「わかりました。あとは、教官に任せてます。」
「へ~、よく見つかったなあ。」
「王都の冒険者ギルドから派遣してもらったわ。」
「なるほどね。」
俺たちは、そんなものは必要としないので、辞退したけど。
「あ、ユフラテ、できるなら森の中で、希少な薬草を取ってきてほしいんですけど。」
「どれを?」
「えっと、魔力草とかギリスとかモニモニとか。」
「わかった、それって通常依頼の奴だな。」
「毎日貼ってあるけど、なかなか出てこないの。」
「了解。」
高く買ってくれるといいんだけどな。
魔力草は、かなり奥に行かないと生えていない。
ギリスは、森の入り口からいたるところに生えている。
モニモニは、じめじめした日陰に多い。
「…というわけで、今日は薬草集めが主体だからな。」
「じゃあ、サーチアイですか?」
「そうだ、俺とマレーネしか使えないから、慎重に探せ。」
「あい。」
新しく覚えたサーチアイ。
もちろん、たいしたものではない。
魔力もほとんどいらない。
あらかじめ覚えさせたモノをたくさんの雑草の中から探し出す魔法だ。
ただし、薄ぼんやりとしかわからないので、近くに寄って自分の目で見つけないといけない。
あくまで、この辺にあると言うことが分かるだけの魔法だ。
しかし、あるとないとでは大違い、特に魔力草なんかは見つけにくいので、大助かりだ。
「ミシェル、そっちの木の下。」
「わかった。」
マレーネは、かなりの精度で薬草をキャッチする。
カゴを担いだミシェルが探す。
「レミー、左に二メートル。」
「はいよー。」
マルソーとジャックは、周囲を警戒中。
俺もモニモニを見つけた。
「モニモニだ。」
「おお、すっげえ。」
ちょっと固まって生えているので、一気に背負いカゴに一杯になる。
「モニモニはこんだけでいいな。」
俺は、背中のカゴを荷車に置いた。
「森の中だとブラックウルフが来そうだな。」
「そのくらいならありがたいね、わりと小型だし。」
マルソーが、にやりと笑う。
木と木のあいだに、木漏れ日が落ちて、そこだけコロニーのようになっている。
「おい、ゴブゴブ言ってるぞ。」
ジャックが目ざとくゴブリンを見つけた。
八匹くらいが固まって歩いている。
「エアハンマー」
どん!
「ぐぎゃー!」
マレーネに吹っ飛ばされたゴブリンが悲鳴を上げる。
「アイスアロー」
俺の氷の矢が、ゴブリンの心臓を射ぬく。
「!」
悲鳴も上げずに三匹が沈んだ。
マレーネの吹っ飛ばしたゴブリンは、木に当たって崩れているので、ミシェルが喉を裂く。
「おりゃ!」
ジャックは槍で突く。
「はっ!」
マルソーが、槍で切り裂く。
「ほい!」
レミーも槍で突く。
「ランドアロー」
最後は俺の魔法で、綺麗に片がついた。
「お師匠さま、インターバルなしで魔法が出るんですね。」
「どれも初歩の魔法じゃん。魔力なんか減りはしないよ。」
「それでも、少しはタイムラグが出ます。」
「まあ、それはしょうがない。切り替えができない時もある。だから、冷静に・冷静に…だ。」
「はい。」
本当は師匠なんてものではないんだけどな。
マレーネは、基本的なことが覚わっていたから、スムースに出せるよう指導しただけなんだ。
おこがましいことこの上ない。
お互いに、切磋琢磨なだけだよ。
まあ、とりあえず全員が護衛任務に出られるようになった。
これで安定した収入が手に入るようになるだろう。
ギルドの初任者研修回では、めぼしいものは居なかった。
なんちゅうか、そんなに一朝一夕では、モノになるような逸材はいないってことさ。
これも地道な努力がなければ、一人前にはならない。
だいたい剣術だって、安定して素振りができるまでに早いやつで三カ月はかかるってものだ。
それが我慢できずに、やれ必殺技だのクリティカルだの、ムチャ言うなっての。
そう言う安直なヤカラは、後を絶たない。
丁寧にお帰り願うけど。
村で一番ケンカがつええとか言うから試してみたら、ワンパンで気絶したりね。
マルソーをトップに、ジャック・レミー・ヨールが組んで、護衛任務に着いた。
ミシェルもいきたそうにしていたが、今回は留守番させた。
経験が圧倒的に足りない。
同じ理由でマレーネも留守番だ。
その間は、俺が鍛えることに回った。
はっきり言って、一徹とうちゃんの状態だ。
特に、ミシェルは足腰立たねえくらいシゴいてやった。
これが、あとからジワジワ効いてくるんだよ。
ギルドの訓練場に来ていたメンバーが、ドン引きする。
「なにやってる!立て!」
俺の声に、ミシェルは木剣を杖にのろのろと立ち上がる。
俺は、ただの六尺棒を持って、ミシェルが立ちあがるのを待つ。
「お、おい、ユフラテもうそのへんで…」
教官の一人が横合いから声をかける。
「あ?なに甘いこと言ってんだよ、おめえ、こいつを一人前ェにする気があんのか!」
「ひい!」
俺には実績がある。
半年でDクラスを何人も作った実績だ。
この教官もなかなかやるが、俺には勝てない。
つか、このギルドで俺に勝てるようなやつはいない。
Dクラスのドイルもだ。
あのオッサンくせえドイルが、二十二だなんてだれが信じるもんか!
マゼランの冒険者は、全体的に若いんだよ。
始まりの村で、布の服にヒノキの棒で戦ってるようなやつらばっかだ。
はっきり言って、危なっかしいやつが多い。
かと言って、全員面倒みられる訳じゃないのが歯がゆいところだ。
俺の好き嫌いもはっきりしているしな。
「くっそおおお」
生まれたての子鹿ちゃんみたいにプルプルしている。
「まだ起きないの?そんなんじゃ、今夜マレーネいただいちゃうよ。」
「ぐおおおおお!」
しっかり立ちあがるミシェル。
「はい、今日はこれまで。少し体休めてから、ストレッチしとけ、明日シムほど痛いぞ。」
「あ、ありがとうございました~。」
ミシェルはスライムみたいに、ふにゃふにゃと崩れた。
マレーネは、訓練場の隅で土ボコの練習をしている。
「土ボコマイナス」
ぼこり
穴が開く。
「土ボコプラス」
ぼこり
穴がふさがる。
延々とこれを繰り返す。
生活魔法の延長のようなものなので、一回の使用魔力が極端に少ない。
ロープレで言えば、魔力①くらいしか消費しないのだ。
だから、何回でもできる。
マレーネの周りでは、青少年が集まって土ボコの練習に参加している。
「マレーネちゃん、うまくできない。」
十二~三歳くらいの少女が、声をかけた。
マレーネは土ボコを起こしながら振り向く。
「できなくて当たり前よ。だから練習するの。最初からできる人は、ここで訓練なんかしません。」
かなりきっつい。
この子は、いつもマレーネに泣きついているのだ。
「エディット、練習が面倒なら魔術師なんかやめなさい。」
「ひう」
「練習でやったことしか、実践ではできないのよ。ううん、実践ではその半分もできないわよ。」
涼しい顔してそんなことを言うものだから、まわりの少年少女はドン引きだ。
「マレーネ先生のおっしゃるとおりだな。」
「お師匠さま!」
「どれ、みんな横に並べ。」
「「「はい!」」」
「だいたい両手間隔に開け。」
みんな両手を広げて、訓練場に並んだ。
マレーネも並んでいる。
「並んだな、じゃあ、前から向こうに向けて土を移動する感じで、できるだけ大きい穴を掘れ、はい、開始!」
全員がうんうん唸りながら、目前の地面に集中する。
マレーネは、涼しい顔をして一メートル四方の穴を掘った。
深さは一メートル半くらいはある。
「マレーネ、それで最大か?もっと掘れるだろう。」
マレーネは焦って再開する。
「ははい!」
俺は最大で三メートルスクエアの穴を一気に掘れる。
「はいやめ!」
みんな自分の前にできた穴を見ている。
「マレーネ、手抜きするな。お前の最大は一メートル半スクエアだろう。」
「はい!すみません。」
「よし、今度から、深さが二メートルになるようがんばれ。」
「はい!」
「ははあ、エディットは三〇センチだな。よしよし、どんどん大きくしていくんだぞ。」
「はい!」
「いいか、ウサギ獲りは一メートルの穴が掘れなければ連れて行かん。」
そう言って、一メートル四方の穴を掘って見せる。
「イノシシ獲りは、一メートル半!」
もう一個穴を掘る。
「オークは三メートル!」
その横に三メートル四方の穴を掘って見せる。
「これが、一分以内に掘れないと死ぬ。」
「「「「はい」」」」
生徒たちは、三メートルの穴をのぞいたりして、『ふわ~』とか言ってる。
魔法も、生き死ににかかわる重要な問題なんだ。
新人研修が終わって、ここに訓練に来るならまだ見込みはある。
どこかのパーティで下働きするのもいいだろう。
ただ、単独で出かけるやつも、少なからずいるのだ。
だいたい、悲惨な結果しか残らない。
運が良くてケガ。
悪ければ、四肢欠損。
最悪死亡。
魔物をナメてかかった結果だ。
「一人でも多く生き残れ!」
「「「はい」」」
「マレーネ、この穴を埋めてみろ。」
「はい!」
ひところのように、質問がえしや『できませ~ん(泣)』などと言うことはなくなった。
ミシェルもそうだが、できないとは口が曲がっても言えない。
言えないように教育してきた。
とにかくやってみる。
できる限りやってみる。
それでできなくて、はじめて泣きごとが言える。
努力は裏切らないよ。
マレーネの作業を横目で見ながら、ほかの新人に声をかける。
「いいか、よく考えろ。三〇センチの穴が掘れたら、その横にもう一個掘る。そしたらどうなる?」
「六〇センチになります!」
「そうだ、それを四個掘ったら、六十センチスクエアの穴。」
「八個掘ったら、深さも六〇センチ!」
「どうだ、ウサギ穴に近づいたぞ。」
「「「はい!」」」
「頭を使え、イメージするんだ。」
どこかのオニ教官みたいだね。
みんなを生き残らせるために必死なんだよ。
「どうやったら穴が大きくなるか、よく考えろ、いいな。」
「「「はい!」」」
そう言って、俺は三メートルの穴を埋め戻した。




