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第十四話 レミーだって考える

レミーちゃん視点に、いつの間にかなってます。

どこから変わったか、自分でもよくわかりませんです。

 のほほんと暮らしてきた時間が二年と少々。

 レミーは十六で冒険者を始めて三年目に突入している。

 このイシュタール王国においては、結婚適齢期は十六から二十歳と言われているので、そろそろヤバい。

 マゼランの風土がそうさせるのか、わりと晩婚傾向にある街である。

 駄菓子菓子、予定の相手ぐらいはいたほうがいい。

 マゼランの女子たちも、優良物件には目ざといものだ。

 全体的に石づくりの街は、メインストリート以外は土の道が多い。

 メインストリートは城門からまっすぐ領主のお城に向かっている。

 お城は、少し小高い丘になっていて、領地を見下ろしている。


 そのメインストリートのカフェは、意外と恋人同士が集っているのである。


 それを横目で見ながら職人街のユフラテの元に通う。

 別に色っぽい話でもなんでもない、そこから砂袋を背負わされて街の外周に沿って走るのだ。

 なんちゅうか、体育会系とでも言うのか、ユフラテはこう言う訓練をよく知っている。

 自分も一緒になって走ってくれるので、なんとかなっているが、一人でなんてとても走れない。

 はずかしいし。

 そう言ったら、恥ずかしいのと死ぬのと、どっちがいいんだ?と言う究極の二択を並べてくれた。

 死にたいやつなんか、いるもんか。

 レミーは、渋々リュックを背負って走るのだ。

 たまに、甘くて塩辛い変な水を飲まされる。

「体にいいから飲んどけ。」

 言われて、素直に飲んだら、確かに体が楽になった。


(経口補水液ですね。)


 一か月もそうして走っていると、確かに体のキレはよくなる。

 ジャックやマルソーなんかは、ひとまわり体が大きくなった感じだ。

 走るのをやめると、すぐに体がもとにもどってしまうから、荷物なしでも走れと言う。

 よくわからない。


 ユフラテの好きなカフェは、メインストリートの中にある、オープンカフェ。

 道にテーブルとイスを置いて、客層もいい。

 そんなイスに座って、なにやら小難しい本を読んでいる。

 あたしにはよくわからない。

「ユフラテ。」

「ああ、レミー、おはよう。」

「ここ座っていい?」

「いいよ~、歓迎するよ。」

「あら、何読んでるの?」

「魔薬草大全。」

「ほえ~。」

「まあ、ポーションの原料だな。」


「そんなものもできるんだ。」

「いや、興味あったから見てるだけ、作れないよ。」

「なんか、ユフラテだったら作っちゃいそうだけどね。」

「そうだな、惚れ薬なんかできるといいな。」

「なによ~、飲ませたい相手でもいるの?」

「ああ、いるよ。」

「あら!」

「ほら、目の前にいるじゃないか。」

 あたしはいきなりのことに、真っ赤になった。

「あ、あうあう…」

「レミー、君は美しい…」

 ユフラテの顔がドアップになってきた…


「ん~」

「レミー!起きろ!」

「ふあ?」

 ジャックのニヤケた顔が見える。

「なんだよ、夢かよ。」

「ああ?夢見るほど熟睡できたのかよ、そりゃすげえな。」

 ちっ、いい夢見てたのに。


 あっちの台の上には、ユフラテが桶に水を出している。

「おう、おはようレミー、これで顔洗って。」

「うん、おはよう。」

 やっぱ、ジャックやマルソーとは器が違うよね。

 あたしは、顔を洗いながら、ユフラテの横顔を盗み見た。

 栗色の髪は、朝日にきらきら輝いていた。


 ユフラテは、夜の見張りの時間にかんたんなムシロを編んで、オークの上にかけている。

「なんかいいものあるわね。」

「夜のうちに編んだんだ、直接太陽が当たらないほうがいいだろう。」

「へ~、草で編んだの?」

「ああ、材料なら腐るほどあるしな。」

「あはは、そりゃあすごい。」

 自分たちが敷いていた草も、オークの下に敷いたり、上にかけたりして氷が早く溶けないよう気を遣ってる。

「半日持てばいいんだから、これで十分だろう。」

「そうね。」


 朝ご飯は干し肉と、固パンで済ませて、荷馬車を後ろから押しながら進む。

 午前中には、レジオに入れそうなんだ。

 途中、大きな川のところで曲がって、東に進むとレジオの城壁が見えてくるはず。

 がらがら

 ロバは、重いオークを乗せながら、文句も言わずに馬車を引く。

 余り布で覆面してないと、土ぼこりを吸って、口の中がじゃりじゃりになってしまいそうだ。

「ウサギ!右斜め前!」

 ユフラテの声にハッとする。

「おいさあ!」

 ユフラテは、一撃でウサギの頭を粉砕した。

 なんであんなに簡単にウサギが獲れるかな?


 あれでけっこう危ない魔物だよ?


 あたしたちは、二~三人で囲んで獲るのが主流だ。

 毛皮が傷ついて、あんま儲けにならない。

 ユフラテの一撃は、毛皮も良質で血抜きも早い。

 いまも、木の枝に吊るしている。

「ユフラテ・早すぎ~。」

 あたしが言うと、ニカっと白い歯を見せる。

 なんかおなかの下の方がきゅうんとなる。


「師匠~、俺の分も残してくださいよ~。」

 ミシェルがなんだか、泣きごとを言っている。

「わかった、次は頼むよ。」

「はい!」

 幼い顔をほころばせ、ミシェルは期待に満ちた顔をする。

 ユフラテが言えば、それは本当になるのだ。

 ミシェルは良く知っている。

 その証拠に、次のウサギが出た。

「ほいほい」


 がんがんと、ウサギの横面をメイスでハリまわすユフラテ。

「それ、喉を突け!」

「はい!」

 ざっくり

 これで終わり。

 ミシェルは、最近踏み込みが鋭くなって、短剣を一気に喉に突きたてる。

 傷が少なく、毛皮が高くなる。

 血抜きも一か所の方が汚れなくていい。

「そーれ、引っ張れー。」

 二人は、ロープをウサギの足に縛って、木の枝に吊るしている。


「よし、休憩ダー。」


 なんだかね、いままで苦労して獲っていたウサギが、まるでその辺の蚊を叩くように獲れる。


 ユフラテは不思議な男だ。

 都の騎士さまだったって言われても、素直にうなづけるほど剣がするどい。

 自分の剣は、背中に背負ってるブロードソードなんだけど、抜いたところを見たことがない。

 たいていメイスでぶったたくか、六尺棒でブッ叩く。

 たまにやりすぎて、ウサギの頭がはぜちゃうけど、普段はウサギの頭骸骨だけ割るんだって。

「お師匠さまー」

 とてとてと近寄るのは、マレーネちゃん。

 小さくてかわいい十五歳。

 魔法の修行中、師匠にユフラテを選んだ。

 まあ、どっちが選んだかはしらないが、ユフラテを師匠と慕う。

 三属性身につけようとしている逸材だ。


「お師匠さま、血が付いてる。」

 マレーネちゃんは、手ぬぐいでユフラテの顔を拭く。

 一生懸命つま先で立って、顔を拭く。


 でえい、かわいいなちくしょい!


 拾ったころは、骨皮筋衛門だった子も、ユフラテが喰え食えとなんでも食べさしたので、最近はふっくらして娘らしくなってきた。

 そりゃアカンやろう、

 ライバルが増える。

 メルシー横丁のお隣のミシェルを炊きつけないとアカン。

 そのミシェルも、子犬みたいにユフラテについて回ってる。


 子犬二匹の飼い主みたいだ。


 小半時血抜きをして、腰を上げる。


 四半時歩けば、もうレジオの城門だ。

 川からどうだろう?二百メートルくらい離れているのか。

 街の中を小さな川も流れていて、蛇行しながらこの大きな川に流れ込んでいる。

 この辺は、川幅も大きくて百メートル近い幅がある。

 川の中には、恐ろしいサイレーンと言う、大きな魚がいるらしい。

 見たこたあないけど。

 ユフラテが、門番と話している。

 どうやら、オークの出たところを説明しているようだ。


 やがて、城門を抜けるとレジオ男爵領、レジオの街だ。


「あんま変わらないね。」

 レジオの街も、メインストリートは、石畳で広い。

 突きあたりは盛り上がった丘で、男爵の屋敷が建っている。

 冒険者ギルドは、メインストリートの一本裏だ。


 きいと、きしんだ音がして、スイングドアが開く。

 埃っぽい一団が入ってきて、みんな興味シンシンだ。

「オーク獲ってきた、どこで下ろせばいいかな?」

 ユフラテは、受付に声をかけた。

 細面の男が出てくる。

「オークって…この人数でよく獲れたね。」

「まあね、見てくれよ。」

「拝見しましょう。」


 受け付けの男は、ロバの馬車に近寄る。

「おお、これは本当にオークだ。へえ、氷で冷やしてきたのか、いい考えだね。」

「それはどうも。」

「足を砕いてとったのか、すごいな。よし、引き取ろう、こっちに付けてくれ。」

 裏手の解体場に運ぶ。

 ふむ、けっこう広い。

「どれどれ、足喰ったのか?まあいい、二百三十キロだね。」

 けっこうあったな~。

「銀貨二十五枚と…お、睾丸ありか、銀貨十二枚追加だ。」

 おっさんたちの精力剤になるんだとさ、ほんとうに効くのかねえ?

「ウサギは二羽か、三十五キロと…三十八キロ、銀貨四枚半だな。いいか?」

 ユフラテはうなずいた。


 表に回って、報酬をもらい外に出る。


 市場が立っているので、そっちに行って串焼きなどを買い込んだ。

 教会前のベンチは、空いていたのでみんなで座る。

「銀貨が四十一枚半だから、一人あて六枚半だ、余りは馬車代に充てるよ。」

「ユフラテが言うならそれでいい。」

 マルソーが一番に口を切る。

「あたしは馬車に乗っていただけだし…お師匠さま?」

「いい、パーティはそれぞれ役割がある、自信を持って受け取るが好い。」

「はい…」

 ユフラテの言うことなら、素直に聞くのか…


 今夜は、レジオで宿を取る。

 ギルドのお勧めで、『かもめ亭』と言う小ぢんまりした宿屋にした。

「かもめってなんだ?」

 ジャックがユフラテに聞いた。

「かもめは、海にいる白い鳥だ。」

「へえ、そんなものがいるんだな。」

「海もないのに、かもめ亭とはね。」

 マルソーが聞いた。

「海ってあれだろ、南の樹海を越えた向こうにある水溜りだろ?」

「水溜りねえ、確かにそうだが、水はむちゃくちゃ多いぞ。」

「へえ、レーヌ川よりか?」

「その水が流れ込んでもあふれないくらいだ。」

「すげえな。」


「いらっしゃいませー。」

 勢いのある声が聞こえる。

 三〇そこそこの姐さんがやってるようだ。

「えっと、六人泊まれる?ロバの馬車もある。」

「はい、素泊まり銅貨八枚、朝食付き銀貨一枚。夕飯は別です。」

「じゃあ、朝食付きで。馬車は?」

「銅貨八枚です。」

「じゃあこれ。」

 ユフラテは、ちゃっちゃと聞いて、すぐに銀貨二枚を出した。」

「つりはいい。」

「ありがとうございます!」


 みんなてんでに銀貨を出す。

 今日は儲かったから、銀貨一枚も平気だ。

「今夜は、豪勢に行きたいね。」

 あたしが言うと、女将さんが笑った。

「じゃあ、三軒向こうのマリアの店にいきなよ、おいしくてたっぷり食べられるよ。」

「わかった、ありがとう。今から行くよ。」

 女将さんは、ベスと言うそうだ。

 ダンナは厨房で、小さな男の子も覗いている。

 またこの女将さん、血色もよく白い顔はなにやら色っぽい。

 りっぱなお胸のくせに、前掛けで締めた腰は妙に細い。

 旅館の女将やってるより、呑み屋の女将やってるほうが、ずっと儲かりそうだわ。


 女将さんは、あたしたちを二階の部屋に案内すると、忙しそうに降りていった。


「さて、昨日今日といろいろやって、おつかれさんでしたー。」

 ユフラテが、大ジョッキをもちあげて、エールをぐっと空ける。

「ぷは~!うめえ~!」

「「「かんぱーい」」」

 小僧と小娘は、まだエールは早いと言って、ぶどうジュースになってる。

 こういうところ、ユフラテは固いなあ。

「あんまし早くから呑むと、背が伸びなくなる。」

 って、ウソかホントかわからないこと言うし。

 ミシェルだって、けっこう背は高いと思うよ。

「うるせえ。」

 あ、強引だな。

 こういうところも嫌いじゃないのが、イシュタールの女だ。


 帝國じゃ、ぶっ飛ばすオンナもいるそうだけど。


「おお!たしかにうめえな、この煮込み。」

「はーい、串焼きでーす。今日は、いいお肉がはいったからねー。」

「そりゃあ俺たちの獲物だな。」

「おや、そうなんですか?じゃあ、おまけしなきゃね。」

 マリアと言う女将さんは、華奢な柳腰で眉はきつめだが、細面のいい女だ。

 ちくしょう。

 なんで、レジオにはいい女が多いかな!

 あたしは、ぐいっとエールを空けた。

「おや、お姐さん、いい呑みっぷりだね、もう一杯いくかい?」

「うい~、おかわり~。」

「あいよっ」


「マゼランにはいい男がそろってるねえ。」

 ジャックがそのタレ目を細めて笑う。

 ちっ

 ニヤけやがってさ。

「いやいや、レジオにはいい女があふれてるね。」

 ジャックがお追従を言う。

「なにいってんだよこの人は。」

 けらけら笑って、マリアさんおかあさんは引っ込んだ。

「オ-クはいい儲けになるんだな。」

 ユフラテは、そんな色っぽい話とは無縁なようすだ。


「まあな、森の中に行かないと獲れないやつだからさ、今日みたいに街道沿いに出るなんて珍しいんだぜ。」

「へえ、マルソーは、出会ったことないのか?」

「前に、Dクラスのドイルと、森に薬草探しに行った時に会ったよ。」

「へえ。」

「さすがにDクラスだね、なんとか撃退して追い返した。」

「なんだ、倒したんじゃないのか?」

「まあな、そこまで腕はよくねえよ、ユフラテが強いのさ。」

「よせよ。」

「あの、膝を割るワザはすげえな。」

「あ~、あれは振り回したメイスに勢いと重石をかけるんだよ。」

「へえ。」


「剣はすべてタイミングだ。そのためには何千回も振るしかない。」

「なるほどね、師匠のいうとおりなんだな。」

「師匠はやめろよ。」

「なんだよ、子供たちには許しているくせに。」

「あれはしょうがねえ。」

 ミシェルは、分厚いステーキにかぶりついている。

「師匠!うまいっス!」

「よかったな、いっぱい食え。」

「はい!」

「マレーネも食ってるか?」

「はい。」

「よしよし、いっぱい食えよ。」

「はい。」


「まったく、親鳥みたいな目で見やがる。」

 マルソーは、ため息混じりに見ている。

「かわいいよ。ミシェルもマレーネも。」


 まったくこの親鳥は、なんて目で子供たちを見るのか。

 愛情深い、慈しみをもった顔だ。

 かつて、あたしは親たちにあんな目で見られたことがあっただろうか?

 この男は…

 いや、男じゃない。

 この人は、どれほどの不幸を見てきたのか。

 この王国でも、さまざまに人は暮らしている。

 それでも、懸命に自分のスタイルで生きている。


 そんなユフラテの姿に、なにかを感じた。

 なんて言ったらいいのか…

「心がふるえる?」

 そう、それだわ。


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