↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/68

第十二話 冒険者も経験がモノを言う

前回のお話の中で、やけに江戸時代のようなマリエが出て来ますが、これは作者の趣味が暴走したためです。

宝塚歌劇の名作「小さな花がひらいた」を見て、上原まりさんの可憐な姿に感動しました。

おきゃんなおりつを好演したかと思えば、気高いマリー・アントワネットを演じる娘役。

マリエの扱いに困ってしまったんです、すみません。

 ミシェルとマレーネの強化は、なかなか進まなかった。

 特にミシェルが。

 なにしろ体力(HP)が上がらない。

 だからあんまり遠くに狩りに行けなくて、ウサギばっかり獲っている。

 まあ、そこそこ稼ぎにはなるんだけど、運が悪ければボウズってこともある。

 しゃあないから、マゼランの外壁に沿って、街中を走らせることにした。

 もちろん、背中に石入れたリュックをしょわせて。

 俺も面白いので、一緒に走ってる。


「ほらほら、へばるのは早いぞ、止まったらお尻突っつくぞ。」

「うへ~、ぜいぜい。」

「剣士は体力勝負だぞ。」

「は、はあはあ」

 へろへろになりながらも、なんとか走ってる。

 その後、やっとウサギ狩りなのだ。

「こ、こんなの拷問だ~!」

「まだ叫ぶ力が残ってるのか。じゃあ明日から重し追加だな。」

「ちくしょ~!」

 ちなみに、マレーネは荷物なしだが、なんとか一周できる。

「魔法使いに体力はいらん。」


「不公平だ!」

 ミシェルだって本気で思ってはいない。

 自分がいかに足りてないかは、十分にわかっているのだろう。

 それを見て、面白がってマルソーが一緒になって走り出した。

「マルソー、おっさんが無理するな。」

「だれがおっさんか!まだ二十一だ!」

「あらま~、そうなん?」

「知ってて言うかねこいつは!」

 ジャックも走ってる。


 みんな、日課にして体力をつけているのは、もうじきDクラスに上がれそうだからだ。


 護衛任務は、基本歩きだ。

 馬車について歩かなければならない。

 そのために、基礎体力をつけている。

「どうだ、ジャック・マルソー、レジオまで行ってみないか?」

 俺は、狩りのあと切りだした。

「レジオ?」

「ああ、距離的に一日半で着く。野営やなんかの訓練だと思ってさ。」

「それ、いいな。護衛任務の下準備だろ?」

「ああ、せっかく昇進するなら、始めから失敗しないほうがいいよな。」

「ヨールとレミーはどうする?」


「俺はまだ上がらないから行かないYO」

「あたしは、いっぺん行ってみたい。」

「じゃあ、四人で行くか。」

「ちょ、ちょっと待ってよ、俺たちは?」

 ミシェルが口をはさむ。

「お前の体力じゃ、塀の外を歩くのはなあ。」

「そんなこと言わずに、連れてってよ!」

「だ~、お荷物つきかよ。」

「ひでぇ!」

 ミシェルは、カメムシを噛んだみたいな顔をしている。


「わかったわかった、じゃあマレーネも連れて行く。」

「マレーネも?」

「ああ、ロバの馬車を借りて行く。どうしようもなくなったら積んで帰る。」

「師匠!」

「バカヤロウが。ほかして行くのも心配なんだよ、半人前は。」

「は、はんにんまえ…」

 ミシェルとマレーネは、ずうんと落ち込んだ。


 馬車の貸し出しの都合で、出発は明後日となった。


「レジオに?」

 チグリスに、夕飯のときに話した。

「ああ、護衛の練習だ。」

「なんとまあ、お前らしいと言うか、慎重だな。」

「初めて護衛に行って、戸惑うのも面白くない。」

「ユフラテ、レジオにははちみつがあるよ。」

「わかった、見つけたら買ってくる。」


 次の日、早くに俺はマリエとブンロクの家に向かった。


「おはようさんです~。」

「は~い、あらユフラテ、どうしたの?」

「ああ、ちょっとお祝を持ってきた。」

「だってこの前、銀貨貰ったわよ。」

「ああ、それとは別だ、ほれ。」

 俺は、壺を二つ差し出した。

「なにこれ?」

「おう!ユフラテさん!お祝もらってすまねえな。」

 ブンロクも大工道具を担いで出てきた。

「おう、ブンロクさん、お祝いだ。」


「そんなにもらっちゃ悪いよ。」

「いいって、気にするな。」

 俺は二人に壺をぐいぐい押しつけた。

「なにこれ?」

「塩と砂糖だ。」

「さ!砂糖だと!こんなにか。」

「いいからとっときな、あって困るもんでもないだろう。」

「ユフラテ…」

 ブンロクは、頭を下げた。

「かっちけねえ。」

「いいからきにすんな。」


 俺はすぐにその場を離れた。


 壺を持ったふたりは、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた。


「アダム!いるか!」

 俺はマレーネの家のドアを開けた。

「なんだ?ユフラテさんか。」

「おう、明日からマレーネをレジオに連れて行くぞ。」

「はあ?なんだってそんなところに。」

「ああ、まあ護衛の訓練につきあわせるんだ。ほっとくと、ミシェルと二人で狩りに行きかねんからな。」

「そうか…すまねえな。」

「なに、まかせてくれ。」

「そこでだ、これは固焼きパンと、干し肉だ。食いもの足りない時は、これを喰え。」

「おいおい、そこまでしてもらうわけにはいかねえ。」

「ま、親心とでも思ってくれ。マレーネはかわいい弟子だからな。」

「ユフラテさん…」


 アダムは、杖をついて立ち上がる。

 頭を下げる姿を見たくなくて、すぐに外に出た。

「師匠!」

 着替えたマレーネが出てきた。

「おう、行こうか。」

「すみません、気を遣ってもらって。」

「バカ言え、たいしたこたあねえよ。俺らァ金持ちだからな。」

「ししょう…」


 隣のミシェルの家に行く。

「コラ、ねぼすけ!起きろ!」

 窓をガンガン叩く。

「うへえ、師匠~早いよ~。」

「さっさと着替えて出てこい。」

「へ~い。」

 三人で市場に出かけて、屋台で朝飯を買う。

 ただ、この国の固焼きパンだけはどうにも味気ない。

「酵母って概念がないのかねえ?」

「コーボってなんですか?」

 マレーネが言葉を拾う。

「ああうん、パンを柔らかくする薬だ。」

「そんなものがあるんですか?」


「ある、ただみんな知らないみたいだな。」

「すごい…固焼きパンしか見たことがないもの。」

(マレーネは能登マミちゃんかなあ?あ、サトリナちゃんだ。)

 マレーネは金がないから髪の毛も、ナイフでぶった切ってる。

 なんとかおかっぱあたまになってるが、どう見てもショートボブにはほど遠い。

 こんど、誰かに見てもらおうかな。

 チコは三つ編みにしているからなあ。


 朝飯を詰め込んだら、砂袋をかついで城壁一周だ。

 これでも俺は、ミシェルの倍は担いでいる。

「し、師匠のリュックには何が入ってるんですか!」

「あ?鉄のインゴッドブロックだ。」

「げえ!砂じゃないんだ!」

「あたぼうよ、おめえと一緒にはできねえよ。」

 ミシェルは言い訳できなくなってしまった。

 だいたい一〇キロを走って、城門に戻る。

 全員、座り込んでいる。


「ほらほら起きろ。今日はこれから野営に必要な装備を見に行くんだ。」

「狩りじゃないのか。」

「必要なら行くさ。金がない時とか。」

「まあ、いまは裕福だしな~買い物に行こう。」

 ジャックは、のらくらと立ち上がった。

「あ、あしがガクガクして…」

 マレーネは、生まれたての仔馬みたいに震えている。

「が…が…」

 ミシェルは、歯を食いしばって立ち上がる、やっぱり足が震えている。

 俺は、ミシェルの分もリュックを持って、職人街に戻った。

「ば、バケモノだな。」

 だれだよ、失礼な。


 毛布代わりになるマントとか、携帯用の食器とか、物色して昼ごろに解散する。

 まあ、今回はギルドの仕事で移動する訳ではないので気楽だ。

 家に帰ると、チグリスに呼ばれた。

「おう、これもってけ。」

 チグリスが出したのは、携帯できる食器類。

 スプーンやフォークもある。

 みんな銅でできている。

 鉄のフライパンなどもある。

 御丁寧に、ズックの袋に入ってる。

「どうしたんだこれ?」

「作った。」

「はあ?」

「お前がいるだろうと思ってな。」

「あああ、なんでこう泣かすかな!」


 ホンマに、この親父はいいとこもってくわ。


「すまないチグリス、ありがとう。」

「まあ、護衛のときも使えるから、使え。」

 チグリスは、少し鼻を赤くして横を向いた。

 俺は感謝の気持ちがあふれたわ。


 翌日、みんな揃ったので、ゆっくりと出発。

 盗賊調査で、レジオの横を通っているので、街道はだいたいわかる。

 ロバは呑気に荷台を引いている。

 チグリスの作った剣を二~三本納品する『お遣い』も引き受けた。

「好い天気ですね~師匠。」

「ああ、本当だ。しかし、土ぼこりがすげーな。」

 土の道は、なかなかハードな土ぼこりを上げてくれる。

 マゼランの道路事情はかんばしくないらしい。

「ミシェル、まわりに気を配れ、ウサギやゴブリンはどこにでもいるからな。」

「はい。」


 ロバの御者は、マレーネがやっている。

 今回の仮想雇用主の商人だ。

 さすがに街道沿いは、けっこう草も刈りこんであって、見晴らしが好い。

 人口が少ないから、街と街の間に畑がない。

 ずっと草原だ。

 畑にしたらいいのに、ひとがいないから畑にできない。

 マゼランにしろ、レジオにしろ、もう少し人口が増えないといけない。

 やはり問題は環境の不衛生さにあるんだろう。

 まあ、意識的に日本で言う戦国時代程度の意識しかない。

 怪我や病気は、魔法で治せるが、それ以外は原始的な治療法が使われる。

 もう、迷信としか思えないようなやり方もある。


 傷口に馬ふん塗るなんて、死ぬわ!


 道路にはウン●が落ちてるし、くさい。

 下水道とか整備すればいいのに。

 産褥による死亡も多い。

 出産環境が不衛生なんだよな。

 生理の手当てもきれいじゃない。

 生活する上で、こりゃ危ないな。


 クリーンの魔法は便利で、大のとき紙がいらない。

 水浴びで体を洗ったりしているが、風呂に入りたい。

 う~ん、なんとかならんかなあ。

 クリーンは綺麗にはなるけど、あの爽快感は風呂でないと味わえない。

 そのうち作ろうかな。

「風呂なんて、殿さまか大商人じゃないと入らないよ。」

 ジャックがあきれている。

「そうか~、でもなあ、気になるんだよなあ。」

「そのうち儲けたら作ってくれ。俺も興味がある。」

 マルソーは、ニヒルに笑って見せた。

「へいへい。」


「マレーネ、風魔法の練習をしよう。」

「はえ?使えませんけど?」

「だから使えるように練習するんだよ。馬車に乗って、体力使わないから今がチャンスだ。」

「そ、そうですか?」

 いい感じにサボれるとでも思ったか?甘いなあ。

「いいか、魔力の流れを見ろよ、ウインドカッター。」

 ひゅんひゅん

 薄い風の刃が、街道沿いの草を刈って行く。

「う~ん、う~ん。」

 ぽふ

「は~、出ないです~。」


「おかしいなあ?じゃ、これは?エアハンマー。」

 どす!

 街道の土手にへこみ穴が開く。

「げげ、そんな~。」

「やりもしないでできないとか思うな!」

「は~い。」

 マレーネは涙目だ。

「え、エアハンマー」

 ぽん


「お、いいじゃないか。当面はこっちで行こう。ほら、忘れないうちに。」

「はい、エアハンマー」

 ぽん

「まだまだ無駄が多いぞ。集中しろ。」

「はい、エアハンマー」

 ぽん!

「おお、ちょっと音が大きくなった。」

 人間進歩が見えると、気分もよくなるもんだ、マレーネは一生懸命うなっている。


「あれで覚えさせてしまうんだから、ユフラテってすげえよな。」

 ジャックがあきれている。

「そうそう、しかし、使えるようになるマレーネがすごい。」

 マルソーも感心しているが…

「結果的に、マレーネがすげえのか?」

 おい!

 実際、マレーネが三属性手に入れたら、喰うに困らなくなる。

 魔法使いは引く手あまただ。

 できれば治癒魔法も教えたいが、どっこい俺も知らない。

 水系治癒とか、風系ちゆとかもあるらしくて、聖属性治癒がいちばん効くようだ。

 それは、教会で見てきたから、情報だけはあるのよ。



「気分を変えよう、アイスアロー」

 ががが

 アイスアローが連続で飛び出す。

 都合一〇本くらい。

「この前、水の温度管理教えただろう。」

「冷たい水にはなるんですけど。」

「そうか、このへんは暖かいから、氷ってめったに見ないもんな。」

「はい…」

「ウオーター」

 俺はコップに水を出す。

「アイス」

 かきん

 指先に小さな氷が出る。


 からん

 銅のマグカップにころりと落ちた氷が水に浮く。

「これ飲んで休め。」

「はい。」

 マレーネは嬉しそうに受け取った。

 俺は、馬車から離れる。

「おい、ユフラテ、少し休もうぜ。」

 ジャックが声をかけてきた。

「ああ、そうだな。あそこの木の下でいいか?」

「よっしゃ、そうしよう。」


 木が三本ほど街道わきに立っている。


「土ボコ」

 俺は、三〇センチ四方の土ボコを生み出してイス代わりにした。

「おお、それいいなあ。」

「ああ?わかったよ。」

 全員分の土ボコを出して、ついでにテーブル用の土ボコを出す。

「おー、こりゃいい。」

 マルソーがテーブルの上にカップを置いた。

「水くれ」

「ほい」

 マルソーのカップは鉄製だ。

「サービスだ」

 からんと氷が入る。


「うっは~、つめてえ!うめえ!」

 暑い時に、冷たい水がいかにうまいかだ。

 次々に差し出されるカップに、水と氷を入れてやる。

「師匠!うまいです。」

「そりゃまあ、うまかろう。」

 俺はミシェルにうなずいて見せた。

 レミーはモノも言わずに水を飲んでいる、よほど疲れたか?

 まだ半分も来てないぞ、帰ったら重しの量を増やそう。


 暑い日に炎天下を歩いてきて、冷たい水を飲んでひとやすみ。

 これでうまくなかったら、体調不良を疑うわ。

 ロバにも水を飲ませ、塩をなめさせる。

 いくら頑丈なロバとは言え、歩きっぱなしはよくないよ。

 そうして、小半時も休むと、少し雲もでてきてしのぎやすくなった。


「よし、もう少し進んで昼にしよう。」

 俺の声に、みんな立ち上がる。

 すっかりキャラバンっぽい感じになって、これはこれでよさげだ。

 ジャックが口を開いた。

「しかしまあ、ユフラテにはまいったわ。」

「なにが?」

「いや、護衛任務についたことがないなら、練習すればいいってのは、思ってもなかなか実行できないもんなんだよ。」

「そうかな?」

「まずは、金がないやつが多い。」

「ああ、そうかもな。」


「あと、腕っ節も不安なやつが多い。」

「そうかな?」

「俺たちは、お前がいるから安心して出発できたんだぞ。」

「よせやい。」

 マルソーも口をはさむ。

「本当だ。お前と鍛えたこのひと月で、ずいぶん金に余裕もできたしな。」

「そうか?」

「その証拠に、ヨールが少し太った。」

「あはは!」


「それはあたしも思う。少しくらい無理しても、疲れなくなってきた。」

 レミーはさっきバテてたんじゃないのか?

「あれは、喉が渇いたの。」

 俺は、レミーの水筒に水を入れたやった。

「俺たちは、ユフラテが居て幸運だったと思うよ。」

「俺も。」

「あたしもそう思う。」

 マルソーが振り返る。

「いままで、俺たちは訳もわからずウサギ取りしていたけど、やりかたがまずくて毛皮もとれなかった。」

 ジャックも同調した。

「そうそう、突つきすぎて傷だらけでさ、安く買いたたかれた。」



「それを、一撃で倒せるようになった。」

 ジャックは、おおげさに手を振り回す。

「これはでかいよ、それに、血抜きして持ち帰ることも知らなかった。この差は大きいぜ。」

 俺も、そのことについては気になってた。

「そう言うことも、ギルドでちゃんと指導すればよかったんだよ。」

「そうだな、元ギルマスの罪だよ。」

「マゼランの冒険者は、相対的にレベルが上がらないのは、そう言った基礎知識が覚わってないからだ。」

「まったくだ。」

「でも、最近評判いいわよ、ギルドの肉がおいしくなったって。」

「そりゃあ、獲ったその場で血抜きしてあれば、生臭くねえもんさ。」

「だからよ、あたしたちのウサギと、ほかの人のウサギでは値段が全然違う。」

「なるほどね。」


「ギルド全体を考えたら、そう言う基本的なことは伝えて行かなくちゃな。」

 俺が考えることでもないがな、これは、組合として考えることだ。

 マゼランではDクラスまでしか居ないのも、そこいらに原因があると俺は見ている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。