第十一話 冒険者の商売
マリエさん、おちついちゃったね~(笑)
扱いに困って、退場してもらいました。
ギルドの受付嬢に戻ります。
「おはようございます。」
ギルドでは、マリエの元気な声が聞こえた。
「あ…ああ、おはようございます。マリエ、結婚したんじゃないのか?」
「ええ、結婚したけど?」
「なんでここにいるの?」
「だって、働かなきゃ食べていけないでしょう?」
「しばらくは共働きで行くのか?」
「ええ、ギルドもいまが大変なときだし。」
「そうか、これお祝いだ、弟たちになにか甘いもんでも食わしてやって。」
オレは、銀貨の入った袋を出した。
「いただけないわよ、こんなに。」
「まあ、気は心だ、気にするな。オレが結婚したら倍にしてくれ。」
「ばかねえ。」
「大工の女房が外で働いてて、仕事回るのか?」
「まあ、まだ親方の下で働いているうちは大丈夫よ。」
「そんなもんかねえ?おっと、じゃあ狩りに行ってくるよ。」
「はい、大物獲れるといいわね、行ってらっしゃい。」
俺は、ギルドの中でうろうろしているメンツを見回した。
「ユフラテさん!今日はオレを連れて行ってくれ!」
元気な声が聞こえた。
「ああ?だれよ。」
「メルシー横丁のミシェルです。」
「へ~、若いな~、いくつなんだ?」
「十五」
「成人したてか~、武器はなに持ってる?」
ミシェルはショートソードを見せた。
「ふ~ん。」
俺はそいつを抜いてみたが、鋳型に流した安物だ。
「こりゃあ、研ぎが必要だな、どこで買った?」
「ランドさんの店ですが…」
「野郎、子供だと思って安物出しやがって、おもちゃじゃねえぞ。」
「ひう。」
オレが静かに怒っていると、ミシェルの後ろで声がした。
「なんだ?」
「ままマレーネですぅ~」
「マママレーネ?」
ミシェルより背の低い女の子だ。
「いえ、この子はマレーネ。近所の子ですが、冒険者になりたくて着いてきたんです。」
「そうか、十二歳から登録はできるからな、やってみてだめなら考えりゃいいさ。」
「ははい。」
俺は、二人を連れて裏に回った。
そこにはジャックとマルソーが、武器の手入れをしている。
井戸があるから、ここで武器を研ぐ。
汗をかいたら水をかぶったりもする。
研ぎ台にはジャックが陣取ってショートソードを研いでいる。
「おはようジャック、隣空いてるか?」
「ああおはよう、俺たちだけだ。」
「おはようマルソー、せいが出るな。」
「おはよう、まあこいつに命預けているからな。」
「ちげえねえ。」
二人は後ろの子供たちに気がついた。
「なんだ、今日はちっこいの連れてるな。」
「ミシェルとマレーネだ、冒険者なりたてのホヤホヤだ。」
「そうか、俺はジャック、ユフラテに指導を頼むなんざ目利きだな。」
ミシェルは目を輝かせた。
「ミシェルです、よろしくお願いします。」
「マレーネです。」
俺は、砥石を手に取ると、ミシェルの剣を研ぎはじめた。
横からジャックが覗く。
「なんだ雑な作りだな、銅貨五枚くらいか?」
「え?銀貨一枚ですけど。」
「なんだと!ランドめ子供だと思ってぼったくりやがって!後で〆てやる。」
ジャックは、目を吊り上げた。
「あ・あの」
「まあいい、そいつはジャックに任せとけ。」
俺は、荒砥ぎをして、剣筋を見た。
「まあ、歪んではいないが、くれぐれも横に叩くなよ。折れるから。」
「ええ?じゃあどうすれば?」
「突く専門で使えば、まあしばらくは使える。」
「はい。」
俺は、マルソーに顔を向けた。
「今日は一緒に行けるか?」
「ああ、いいよ。」
「オレもいいぜ。」
二人も研げた剣を見ながら言う。
オレも腰を上げた。
「よし、まあナマクラぐらいは切れるようになった、しまっとけ。」
「はいっ」
「いい返事だ。」
オレはニカッと笑って見せた。
「マレーネは魔法使いか?」
「水と土を…」
「ほう、なかなかやるな。」
オレが言うと、はにかんでみせた。
「ジャック、荷車借りてあるか?」
「ああ、一番に取った。」
「じゃあ、これ。」
オレはポケットから銅貨三枚を渡した。
「あいよ、受けた。」
冒険者はなんでも山分けが基本だ。
出すときも人数割り。
今日は、二人の分も出してやる。
背中のブロードソードは使ったことがないが、お守り代わりだ。
基本、メイスでぶったたく。
短刀で止めを刺す。
そんなスタイルでやっている。
荷車を引きながら、そんな話をする。
しかしマレーネは十三にしてはちっこいな、食べてるのか?
腕も細っこいし、あまり食料事情がよくないようだな、しっかり食わせよう。
だいたい喰えないから冒険者になるのかもしれんわな。
「ちなみにマレーネはいくつなんだ?」
何気なく聞いてみたんだが。
「え?十五です。」
「はあ?ミシェルと同じ年?」
「はい。」
「冗談だろ!なにこのほそっこい腕。おまえ、メシ喰ってるのか?」
「あ、たまにないときも…」
「ない時の方が多いだろう!ええっと…これ!これかじりながら歩け!」
俺は干し肉と、固パン(ビスケットみたいなやつ)を出して、マレーネに持たせた。
「あ、あの…」
「だまって喰え!」
「はい~。」
「ミシェル、お前知ってたな。」
「あ、うん…」
「どう言うことか説明しろ。」
「あいつんち、親父がケガして働けなくなって、母ちゃんが逃げて…」
「わかった、全部言わなくていい。くそ親父には後で話つける。」
「はい…」
「ジャック、マルソー、予定が変わった。ウサギ十匹だ。」
「あいよ。」
「ヨールがいなくてよかった。」
「そうだな、こんな話聞いたら、涙でウサギが見えない。」
「ちげえねえ。」
ジャックとマルソーは、腹を抱えて笑った。
「サーチ」
俺は、風魔法にサーチと名付けた。
ま~パッシブソナーだと思えば、あながち間違いでもないしな。
ぴこ~ん
「いた、ウサギ三匹、あっち方向だ。」
「了解!」
ジャックが体を低くした。
「穴掘るぞ、マルソー見張ってくれ、ミシェル・マレーネ、頭を低くしろ。」
マレーネは、干し肉を噛みながらうずくまった。
がぼん
目の前に一メートル四方の穴が開く。
深さは一メートル半。
「すごい、どうやったんですか?」
「あとで教えてやる。あっち方向をよく見てろ。」
「「はい。」」
若い二人は、伏せながら目を向けた。
「ふっ!」
俺は、足元にあった石を、ウサギに向かって投げる。
かきん!
好い音がして、ウサギは振り返った。
「あはは、ピキマーク貼り付けて怒ってるぜ。」
「そりゃまあ、俺でも怒ると思うぞ。」
油断なく構えて、マルソーも笑う。
不敵な面構えになってきたもんだ。
ジャックとマルソーは、槍を低く構えている。
ざざざざざざざざっざざっ
草をかき分けて、ウサギが飛んできた。
「ば~かば~か~!」
俺は手を振って、ウサギを呼ぶ。
二匹目はまだ向こうだ、三匹目も遠い。
「きたぞ、一撃で喉を突け!」
「おうさ!」
ジャックが吼える。
ざざ!
ウサギが草むらから飛び出してきた。
「ほい!」
俺は穴の前から横に飛ぶ。
がす!
土に当たったとは思えないような音がした。
「へへへ、大きめの石があったから、固めておいたんだよ。」
ウサギは鼻血を吹きながら穴に落ちた。
「それ!」
ジャックが、上から槍で喉を裂く。
「ぎゅう」
短い声とともに、ウサギは絶命した。
「次・来るぞ!」
すでにサーチにかかっているウサギ二匹目は、長い前歯をかざして走り寄る。
「こい!」
俺は、メイスを上段に構えた。
ざざ!
「チェストオ!」
ごきい!
ウサギの額は陥没して、目が飛び出した。
「三匹目、くるぞ!」
「うひょおおおお!」
マルソーも、おどけて手を振りながら踊る。
なんの踊りだ?
飛びついて来たのは、角付きだった。
「ひょえ!」
これも、横に跳んだマルソーの声だ。
角ウサギは、やはり壁の石に頭をぶつけて、朦朧としている。
「マルソー。」
「ほいな。」
ぶっすし!
「すごい、ウサギ三匹があっという間に。」
「ほえ~。もぐもぐ。」
俺は、ウサギを穴から引きずり出して、木の枝につるす。
「なに?」
マレーネが首をかしげる。
「血抜きだ。これをしないと、肉が生臭くて喰えなくなる。」
言いながら、ロープを引っ張る。
「お、おれも手伝う。」
「おうさ、頼むぜ。」
マルソーに呼ばれて、ミシェルはロープに手を出した。
「重い~。」
「当たり前だよ、人間くれえあるんだから。」
「あ、あたしも手伝う。」
二人は、ウサギと言う現実に向き合った。
見ると聞くとでは大違い、ウサギは確かに重かった。
「これが、生活の重さだよ。」
マルソーが言う。
「お?先生、言うじゃないか。」
「マルソーは詩人だからなあ。」
「おまえら…」
また、サーチに引っかかった。
「おう、まだいるぞ。」
「なに?」
今度は反対側だ。
ウサギってやつは、交尾時期が年三回あって、交尾したのち排卵がある。
だから、一〇〇%大当たりなんだ。
しかも、だいたい二~五匹生まれる。
そりゃあ減るわけがないんだ。
「大物だな!五〇キロはあるぜ。」
「ユフラテ、どうする?」
「ガベが反対向きだ、俺に任せろ。」
「まかせた!」
俺は、メイスを青眼に構えた。
かきん!
ウサギは、顎を叩かれて意識が飛んだ。
「ミシェル、その剣で喉を突け!」
「は、はい!」
ぐさぐさ
「腰が引けてる、もっと右足を踏みこんで、ぐっさり刺すんだ!」
「ううう!」
それでも、喉を切り裂いて、ウサギにとどめをさした。
「うん、もういないな。」
俺は、穴を埋めて立ち上がる。
「いいか、マレーネ、これは土ボコの大きいのだ。」
「土ボコって、これ?」
マレーネは、目の前の地面を盛り上げて見せた。
「おお、できるのか。よしよし、これを練習で徐々に大きくするんだ。」
「はあ…」
「土ボコの土は、どこから来る?」
「え?どこから…」
「もう一遍やってみろ。」
「はい…あ、周りから土が集まってる。」
「そうだ、それを下から集めることができる。」
「へ?」
「こうだ。」
俺は、ゆっくり上下の土ボコを移動させて見せた。
「ああ、穴があいてる!」
「そうだ、土ボコには方向ってものがあるんだ、それを頭でよく考える。魔法はイメージを具現化するんだ。」
「ぐ、ぐげ?」
「あ~、頭で考えたことを形にする。」
「わかりました。」
「お前が落とし穴を掘る、ウサギが落ちる、ミシェルが止め刺す。オーケー?」
こくこく
「ミシェル、どうだ相手がウサギでも、度胸がいるだろう。」
「はい。」
「そこで腰が引けるから、手が前に出なくて傷が浅くなる。やるときは、利き足を前に出して、一気にブッ刺すんだぞ。」
「はい!」
ジャックが横から声をかけた。
「ユフラテ師匠の説明は、わかりやすいだろ。」
「はい、よくわかりました。」
「俺も叱られた。」
「え~?」
「俺もマルソーも、やっぱ腰が引けてたから、何度も剣で刺してたんだ。」
「へ~。」
「一日中、突きの練習させられたよなあ。」
「練習は裏切らない、やったこともない技なんか、でるわっきゃないだろう。」
俺は、ミシェルに聞こえるように言った。
「そのとおり。おかげで、一日一〇〇〇本突けるようになった。」
「せ、せんぼんですか?」
「お前も、できるようになるんだ。」
「俺が?」
「お前ができないと、マレーネは死ぬぞ。」
「ごくり」
「だって、マレーネを守れるのはお前しかいないじゃないか。」
こくり
ミシェルは頷いて見せた。
「薬草取りだって、ウサギと出会うこともあるからな。」
「はい。」
「さて、マレーネは穴掘りの練習、ミシェルはウサギの解体を覚えろ。」
「解体ってギルドで頼めるんじゃ?」
「ばか、家で食う分は、自分でやるもんだ。解体だってタダじゃねえぞ。」
「マルソー、教えてやってくれ。」
「おう。」
草の上で、ウサギの解体を始める。
少し離れて、マレーネは土ボコを練習し始めた。
「ったく、ユフラテは面倒見がいいなあ。」
ジャックが俺を横目で見る。
「ああ?」
「この解体したやつ、マレーネに食わせるんだろう?」
「…まあな。」
俺は、マレーネを見張っている。
サーチに引っかからないものもいるからだ。
マレーネのそばには、薬草があったのでこれも回収する。
「あ、薬草…」
「そうだ、ウサギばっかりじゃねえ、草原にはお宝が隠れているんだ。」
そう言いながら、薬草をリュックに入れる。
あらかた取れたので、枯れ枝を集めることにした。
どうやら、ジャックも集めてきたようだ。
「ユフラテ、切ってくれ。」
長い枝も混じっている。
「ほい。」
ちゅいん。
ちゅっちゅっちゅいん。
「な!なんですかそれ!」
「着火の魔法だ。」
「え~?」
「着火の魔法で遊んでいたら、こうなった。面白いから使っている。」
すぱすぱと切れる枝に、マレーネちゃんは目を丸くしている。
「で、着火。」
ぼふん。
今ではマキに火をつけるのも簡単になった。
荷車からフライパンを出して、ウサギの脂身を放り込み、カンカンになるまで温める。
「切り身くれ。」
「おう、できたぞ。」
ウサギの切り身は、ピンクがかってトリ肉みたいなんだ。
これに塩を振りながら焼く。
カンカンのフライパンは、ウサギに軽い焦げ目をつけて、うまそうになってきた。
「ここに、この魔法の粉をパラリ。」
「うお!贅沢なモンもってるな!」
マルソーが鼻をひくひくさせる。
「もらいもんだ。」
乾燥したコショウの実を、すり鉢ですり下ろしたものだ。
売りにいけないから、自家消費してる。
たしかに贅沢なものだ。
「売れば好いのに。」
「だって、金に困ってないもん。うまいほうがいいっしょ。」
「そりゃあ、おこぼれにあずかる俺たちはいいけどよ。」
「けど?」
「他で飯が食えなくなる。」
「そりゃあ、我慢しろ。」
「だはは~(泣)」
一口大に切られたウサギ肉は、ころころステーキになってみんなに供された。
「やっぱうめえ~!」
「これこれ!」
二人は歓声を上げている。
まあ、コショウなんて高級食材ですからね~。
「うま!」
「!」
若い二人も、目を丸くしている。
「マレーネは、しばらく俺とウサギ取りに来い。ミシェルは、ジャックとマルソーに突きを習え。」
「いいんですか?」
「危なっかしくって見てられない。」
「師匠は、二人の面倒をみるですかね?」
ジャックは、ウサギの肉を食い終わって聞いた。
「しょうがないじゃないか、マレーネが太るまで続ける。」
「うひ~。」
ジャックはおどけて見せる。
「マレーネ、顎の下まで詰め込め。」
俺の言葉に、みんなが笑った。
「そんなに入りませんよ。」
「まあ、とにかくよく噛んで、しっかり詰め込めばいい。」
「はい。」
俺たちは、ウサギの肉の残りを大きな葉っぱで包んで荷台に乗せた。
とにかくまだ売れるやつは二匹だ。
「さあ、まだまだ獲っちゃうYO~。」
「ヨールじゃねえんだからさ。」
「ははは、おお、またくるぞ。」
「どっちだ?」
「あっちだ。」
ジャックが油断なく構える。
「来るぞ。」
がさがさ
「おりゃあ!」
ジャックの槍は、ウサギの口の中に突き入れられた。
「おお!うまい!」
一瞬にして絶命したウサギは、ごろりところがった。
「見たかミシェル、あれが踏み込みと度胸だ。」
「うわ~!」
「すごい。」
マレーネも息を呑んでいる。
マルソーが槍を回す。
「ユフラテ、次はまだか。」
「待ってろ。」
オレは、ぽいっと石を投げた。
「ぎゃう!」
当たったらしい。
「来るぞ。」
「はあ!」
ひゅんひゅんひゅん!
マルソーの槍が銀色の軌跡を描く。
がきん!
石突きが、ウサギのあごを捉え、跳ね上がった。
「おお!」
完全に浮き上がったあごの下を、一気に踏み込んで貫いた。
「すごい。」
「マルソーさんって地味な印象だったのに。」
なにげにマレーネひどくね?




