第一部 告白 13/15
私はもう隠すのをやめた。いくらだって攻撃してこればい
い、もういま以上に傷つくことなんてないのだから、そう思っ
た。
ところが、爽香の反応は意外なものだった。
「でも、兄さんはもうここにはこないのよ? ここでなにし
てるの?」
私を嘲るのかと思いきや、爽香はまるでこどもを諭すかのよ
うな口調で私に接してきたのだ。私はこれを誤って解釈した。
「そんなの私にだってわかるもんか!でも、仕方ないだろ!?
私はフラれてしまったのだ……もう、ここで会えることを待
つぐらいしか……」
私はそれを声にして、自分の女々しさに初めて気がついた。
「……見損なったわ。国嶋さんて、そんなに軟弱なんだ?
なによ、たったの一度フラれたぐらいで」
「たったの一度だと!? おまえにフラれたやつの気持ち
なんてわかるのか!?」
私は不本意にも怒鳴ってしまった。爽香の言っていることは
正しい。私はいまこんなにも情けない姿ではないか。
でも、これほどまでにつらいとは思わなかったのだ。好きな
ひとにフラれてしまうということが。
「えぇ、わかるわよ。……痛いほどにね」
私の非難を返す爽香の眼は、とても真っすぐだった。
でも、こんなのは嘘だ。こいつがフラれたなんて、今の一度
だって聞いたことがない。
「ねぇ、兄さんがどうしてここにこないのか考えたことある?」
「そんなの、私を避けているからに決まってるだろ!」
なにを言わせるんだ、こいつは。昼間はずっと抑えているは
ずだったのに、これでまた私は保健室に行かなければならなく
なったではないか。
最悪だ。こいつの前で泣くなんて、そんなの屈辱がすぎる。
「えぇ、そうね。確かに避けてる。でも、理由が違うわ。
国嶋さんがここに来ている理由、兄さんちゃんとわかって
ると思う?」
そんなのわかっているわけないだろ……。だって、あいつ
は屋上で呑気にくっちゃべてるんだ。私の気なんか知らない
で。
私は爽香の手を振り払って、靴を投げてやらなかったこと
を後悔した。
「そうね、兄さんは全然気がついていないわ。単純に国嶋
さんのこと、部活バカだって思ってるから。……でも、だか
らこそ、邪魔したくなかったのよ? 国嶋さんの練習」
だから、なんだって言うのだ。だいたい、あいつは単純す
ぎる。私がそんな部活女なわけがないだろう。まったく……。
私が唇を噛んで下を向いていると、爽香はかまわず言葉を
浴びせてきた。
「兄さんに告白してきた子は全員、フラれた後に兄さんの
ことを避けてった。当然、兄さんは国嶋さんもそうするだろ
うって考えたんでしょうね。でも、そしたら、国嶋さんが体
育館で練習できなくなっちゃうでしょ? だから、そうなる
前に兄さんがやめたのよ。こんなのすぐにわかるじゃない」
ここへきて私はようやく変だと思った。それが本当だった
としても、どうして、爽香が私にそんなこと言うのだ。これ
じゃまるで……。
「おまえ、どうしてそんなこと私に言うのだ?」
爽香は少し黙った。そして、その後、ため息をつくように
答えた。
「兄さんのためよ? 兄さんと付き合ってもらわなきゃ困
るの。それだけよ」
そう言って爽香は私を睨んだ。それもそうだろう。私のこ
とが嫌いなのだから。でも、それなら……。
「わからない……、どうしてだ? おまえ、私のこと嫌っ
ているのだろ?」
「えぇ、大っ嫌いよ。兄さんのこと全然わかりもしないで
こんなとこに勝手にふさぎ込んで。……なんでよ。なんで、
貴女みたいなひとが兄さんの好きなひとになるのよ!?」
私は一瞬、呼吸を忘れた。
「バ、バカなこと言うな!私はあいつにフラれたのだぞ!?
あいつが私のことを好きだなんて……、そんな言葉、花の願
掛けぐらい虚しいではないか」
「ほんっと、ドバカね。兄さんに嫌いとでも言われたわけ?
ただ周りの目が気になるって言われただけなんじゃないの?
なに勝手に納得してるのよ」
私は爽香に言い返せなかった。確かにその通りだった。私
は自分で勝手に納得して、逃げたのだ。
あいつに好きじゃないとか、嫌いだなんて言われたわけでは
ない。私があいつの仕草で勝手に納得しただけなのだ。
「本当に好きなら、嫌いだってちゃんと言わせるまであき
らめるんじゃないわよ」
どの口が言わせるのだと思った。本当に可愛いい顔をして
言うことは私以上だ。
まったく、こいつは愁のこととなると性格がまるで変わる。
「おまえは本当に……、兄弟思いなのだな?」




