第一部 告白 12/15
私の友人たちは私が一人で体育館に行く本当の理由を知っ
ている。だから、私がみんなとご飯を食べ終わってそこへ向
かおうとすると、彼女らはずいぶんと浮かない顔をする。
始めこそ、私を茶化しはしたが、そのうちに誰も茶化さな
くなった。
ただ、彼女たちは私がそこへ向かうことを本気で止めよう
とはしなかった。勝ち気な性格だから、私が愁に告白などし
ようはずがないと思っていて、まして、あの無口な(そう思
われている)愁が私に手をかけるはずがないと彼女たちはそ
うふんでいたのだ。
今日も体育館が見えてきた。でも、私はもうちっとも嬉し
くなかった。そこに愁がいないことを私は知ってしまってい
るから。
愁は私が告白をしてからもうここへはこなくなっていた。
あれから、私がどんな思いでここにきているのか、愁がこ
なくなったことにどれほど失望しているのか、あいつは知っ
ているのだろうか。
無性に腹立たしくなった。でも、私はどうしてもあいつの
ことが嫌いにはなれなかった。それを知っているから、私は
またさらにそんな自分が腹立たしくなった。それでも、愁と
同じで私はそんな自分をどうにも嫌いにはなれなかった。
体育館まであともう少しというところで、私の視界がもと
来た道へと戻った。
こんな私に母さんが意地悪でもしたのだろうか。でも、違
う。母さんはこんなに甘ったるい匂いなどさせない。こんな
に頭のくる匂いを嗅がせるのはひとりしかいない。
私は私の両肩をつかんだ相手を見た。やっぱり、爽香だ。
彼女は私のことなどおかまいなしに、どこぞに向かってこ
どもじみたことをしてやがる。その先を辿っていくと、あい
つがいた。
久しぶりに見たあいつの姿に私はなぜだか、ものすごく腹
が立った。ふられてしまったら、話せなくなることぐらい私
だってわかっている。でも、だからなんなのだ。いままでだっ
て私たちに会話なんてなかったではないか。昼のバスケだっ
てそうだ。別に話せなくたっていい。目線を合わせなくたっ
ていい。でも、一緒にいることぐらい避けなくたっていいで
はないか。コートだって違うのだ。
なのに、あいつは……。
私は愁を思い切り睨んでやった。ところが、あいつはあろ
うことかそっぽを向いてやがる。もう私はそれが頭にきて、
靴をあいつに投げ飛ばしてやろうかと思った。でも、かがも
うとしたら爽香に手を引っ張られた。
「ちょっと、付き合って」
ふん。いつまでも気まぐれな奴だ、こいつは。どうせ、あ
いつはこないんだ。どこへだって付き合ってやる。
私は結局、体育館に連れ込まれた。爽香はバスケットボー
ルを引っ張りだしてくるかと思いきや、きゃーきゃー言いな
がら、シュートをし始めた。まったくわけのわからない奴だ。
人の気も知らないで。
「国嶋さんて、いつもここで練習してるんだ?」
「あぁ、そうだ。バスケ部だからな」
私はバスケをやめた爽香を遠回しに非難した。爽香は苦手だ
が、バスケの上手さはいまだって認めている。なのに、こいつ
はあっさりとやめやがった。
「そう。で? 国嶋さんはお昼ここでなにしてるの?」
「だから、練習だっ……」
「嘘言わないで!」ふいに爽香の語彙が強まって私の返答
をつぶした。
「本当は兄さんのこと待ってるんでしょ?」
また始まった、と、思った。また私は攻撃の的にさらされ
ている。どうして、いつもこうなるのだ。
「どうして、私があいつのことなんか……」
「好きなでしょ? 兄さんのこと」
あぁ、これはこの前の続きだ。あれはまだ終わっていなかっ
たのだ。あのとき、自分から勝手に背を向けたくせに、こい
つは性懲りもなく、またその会話を持ち出してきたのか。本
当に気まぐれな奴だ、こいつは。
「……おまえ、まだ、そんなこと言っているのか? 私は」
「好きじゃないんだ? じゃぁ、どうして兄さんに告白した
の? 冗談のつもり?」
「冗談なわけないだろ!……っ!? おまえ、どうしてそれ」
ことの衝撃よりも自分の気持ちを保護したい思いの方が強
かった。……そうか、私はこんなにもあいつに本気だったの
だ。
「たったひとりの家族なの。たとえ、兄さんが言わなくたっ
て、そんなことわかるわよ」
でも、事態は最悪だった。一番知られたくない奴にそれを
知られてしまった。どうせ、私がふられたことも知っている
のだろう。それなら、こいつは私を笑いにきたとでも言うの
だろうか。
「あぁ、そうだ。おまえの言うとおり、私は愁のことが好
きだ。ずっと、好きだった。ここに来てる理由だって、おま
えの言う通り……、ただ、あいつといたかったからだ」




