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白刃の女神  作者: 大吉
11/39

第一部 告白 11/15

 「なに言ってんだよ、あいつとはずっと仲が良かっただけ

だ」

 僕の臆病は致命的だった。その声にすら、僕はそれがなん

であるのかを認めようとはしなかった。それでも、恐らく、

爽香はこの答えにならない答えを聞いて、それが答えである

ことを悟った。

 爽香は勢いよく部屋を出ていった。

 僕はステージでひとりになった。そこを狙ってなのか、あ

のずっと頭をもたげていた疑問が僕を襲った。

 ――どうして、告白を受けなかったのか。

 だが、その答えがなんであるのかはしっかりと認識してい

た。僕の舞台に観客はいない。そんなところへ、あの子を引っ

張り込んでしまっては彼女が不幸ではないか。彼女の観客は

あれほど大勢いるというのに。

 僕はこんな状態にしてしまった自らのホールを呪った。観

客がいないことを自嘲しながらも、僕はそこを利用して泣け

ることに感謝した。

 あれから、僕の昼休みの過ごし方が変わった。体育館へは

もう行かなくなっていた。その代わりに、今度は屋上から運

動場を眺めることが日課となっていた。

 今日も体育館へ向かう女の子の後ろ姿が見えた。ショート

ヘアで髪はやや明るめだが、あれは僕と違って生まれつきだ。

近くでみれば、その髪の綺麗な直毛さに思わず手で奏でてみ

たくなるだろう。ここからでも細身に見えるが、意外とあれ

で力はあるんだ。

 僕はいつものように頭のなかで彼女をひとり解説していた。

 「自分、もうスリーの練習はええのか?」

 ふいに隣にいる柊が僕に話しかけてきた。

 「いいんだよ、俺がやるにはおこがましいし」

 僕は女の子から視線を変えずにそう言った。

 「なんやそれ、よう分からへん奴やなぁ。……で、さっき

から自分、誰を見てるんや、こら!?」

 柊は僕を突き飛ばすと、金網に顔を近づけた。

 「なんやで、誰を見てるのか思たら、あれ、国嶋やんけ」

 「ってーな、おまえ、少しは加減しろよ」

 「あぁ、かんにんかんにん」

 差し出された柊の手をつかんで立ち上がると、僕はまた女

の子を探した。

 「そういえば、自分、国嶋と最近話とったみたいやけど、

なんや? やっぱあいつとはまだ仲ええのか?」

 柊とは初等部からの仲だが、それでも、恋愛ごとだけは絶

対に僕は話さなかった。こどもじみているかもしれないが、

口外するとその神聖さが失われてしまいそうで僕はそれが嫌

だったのだ。爽香となら、それも高められそうに感じてはい

たが、あれ以来、僕らはそれについて触れていなかった。

 「また噂か?雨んなか突っ立ってたから、傘かそうとした

だけだよ」

 「ふーん、そーか。なんや、またあのころみたいに喋っと

んのかと思たのに」

 「るせーよ」

 彼がまるで残念そうに語ったので、僕はこっちの方がおま

えより遙かに残念だよと念を込めて、彼の尻を蹴飛ばした。

 「って!? こら!自分の方こそ、手加減せえや!」

 「おっ!? 爽香だ」僕は柊の注意をそらそうと、今度は

運動場に妹を見つけた。

 「ほんまや、あいつなに急いでんねん」

 ところで、爽香は結構な速度で駆けていくので、僕は気が

気ではなくなった。

 爽香は国嶋のところまで追いつくと彼女の両肩を持って、

くるりとこちら側へ反転させた。

 爽香は僕の方を見て、舌を出した。

 「あんにゃろ……」

 「なんや、自分、あいつになんかしたのか?」

 「してねぇよ、たぶん」

 僕は国嶋に見られていたと思われたくなかったので、柊の

顔を見て言い返した。

 それでも、妹の不可解な行動が気になったので視線を恐る

恐る運動場に戻すと、爽香はどうやらそのまま国嶋の手を引っ

張って、体育館に連れていくらしかった。

 「あれ、なぁ、国嶋とあいつってあないに仲良かったか? 

確か、あいつら犬猿の仲やったと違うた?」

 僕は答えなかった。確かに初等部のころ、二人は仲が悪かっ

た。というよりも、一方的に爽香が国嶋のことを嫌っていた。

 それなのに、爽香はいま、彼女の手を取って消えていった。

 きっと、いつまでも立ち直れない不甲斐ない兄を、軽くい

じめているのだと思った。

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