混迷―⑦―
肥満太りをした“政市会”の男が両腕を突き出し、“スウィート・サクリファイス”の銃撃をロックに見舞う。
ロックは、“磁向防”を展開しつつ、両腕を頭に交差させる。
銃撃をかい潜りながら、“政市会”員である肥満男の間合いに到達。
ロックは右肘を上から振り下ろし、肥満男の左腕を下す。
胴への守りを開けた後、頭に向け肘の迫撃砲を放った。
肥満男は仰向けで倒れようとするが、ロックは男の丸々とした胴から伸びる右手で左腕を掴む。
すかさず、ロックは肥満男の背後に回り込んだ。
左腕をねじりながら肥満男の後頭部を鷲掴みにして、
「少し男前を仕立ててやるぜ!!」
ロックはそう言って、肥満男を盾に突進。
前方には“政市会”員たちが、“スウィート・サクリファイス”を構えている。
肥満男が拒絶の声を上げるが、“政市会”員たちは肥満男を切り捨てる方向で一致した。
間もなく、“スウィート・サクリファイス”の一斉射撃の弾幕が展開。
弾雨が肥満男に降りかかる。
肥満男の盾を構えロックは、“スウィート・サクリファイス”の弾幕を張る第一陣に突入。
射手の一人と衝突すると、ロックを避けるために他の”政市会”員は蜘蛛の子を散らす様に避ける。
ロックはすかさず、右側へ肥満男の盾を大きく振った。
間合いを取ったと思い込んだ20代の量販店のライトダウンベストの男の顔面と、ロックの拘束する肥満男の顔面が命中。
互いの歯片と血を散らしながら、ライトダウンベストの男を弾き飛ばす。
ロックは時計回りに肥満男を振り回した。
周囲から放たれた“スウィート・サクリファイス”の銃撃を防ぎきる。
左手にいた、白身がかったデニムを履いた20代の女と薄手のニットを着た40代の女に、血まみれの顔となった肥満男を左足で蹴り飛ばす。
足蹴にされた肥満男が、女性二人を押しつぶした。
間合いを詰め切られ、20代の若い男二人がロックに肉弾戦で勝負に出ることを選ぶ。
手前の男が左足を前に、右拳を振りかぶった。
ロックは前傾姿勢で、男の拳よりも素早く潜り込む。
鉄板を仕込んだ右足で、支柱としていた男の左膝を蹴り潰した。
一人目の男が膝を抱え、体全体を使って叫ぶ。
二人目の男がその声に驚いた隙を突いて、ロックの右拳の突風が吹いた。
顎を抉らんばかりの一撃が、慣性の法則に従い男の身体を吹っ飛ばす。
背後の“政市会”会員も大の字に宙を舞う男に巻き込まれる形で、倒される。
倒された”政市会”員の眼に、獰猛な笑みのロックが映った。
会員たちは――男女問わず――重くなった腰を上げ、背を向ける。
そこに、炎が“政市会”会員に続く。
ロックは炎の出所にすかさず移動。
赤い人型とトルクを着た背広の男性に、ロックは両肘を前にした突進を仕掛ける。
男は衝撃で盛大に体幹を揺らした。
前後に揺れ、顔がロックに迫ると、右肘の迫撃砲で突き上げた。
ロックの攻撃で倒れる男。
その背後にいた、“政声隊”の隊員にロックは攻撃の手を止める。
ロックの目の前にいたのは、少女だが呆然としている。
そして、立つことすらもやっとの状態に思えた。
ロックが、彼女が“S.P.E.A.R.”の代表である二つ結びの少女、秋津 澄香と認識するのに時間がかかった。
S.P.E.A.R.の代表と言われる、秋津 澄香という二つ結びの少女には人型は愚か、首元のトルクすらない。
しかし、彼女は言葉にできない何かに息を詰まらせている様な顔をして、彼女全体学問の色を帯びている。
ロックが一歩踏み出すと、土瀝青が弾けた。
“スウィート・サクリファイス”の弾丸と分かると、ロックは飛んできた方向を見据える。
視線の先にいたのは、上万作学園のブレザーを着た青年――堀川 一――だった。
彼の腕に付けた羊の頭蓋の眼は、震えながらもロックを見つめ返す。
「……なんで?」
呆然と聞き返したのは、秋津の方だった。
彼女はまるで、自分の記憶全てを消され、荒地に放り出されたような顔を堀川に向ける。
“政市会”と“政声隊”。
二つの団体は、対立する。
そして、ロックに立ちはだかる“政市会”の堀川は、秋津の問いに答えない。
いや、答えられない。
まるで、答えたら、自分がここから消えかねない。
彼の蒼白な顔に汗が出始め、不規則な呼吸が出ていた。
それでいて、堀川のロックを見据える鋭い視線は、彼が秋津へ接触するのを拒んでいる。
「ロック……どうするつもりだ?」
後ろから問いかける一平の声にふと驚き、振り向いた。
“政市会”と“政声隊”――厳密に言うと、S.P.E.A.R.も含まれているのだろうが――が、“スウィート・サクリファイス”と“コーリング・フロム・ヘヴン”の応酬をしている。
しかし、そんな雑音にまみれ、闘争心の渦の中心にいたロックの中で、一平の声が一際、澄んでいた。
「……掛かって来ないなら、何もしない」
ロックはぶっきらぼうに答える。
ロックとしては、秋津は愚か堀川も攻撃対象には含めるつもりはなかった。
ロックの目の前の堀川は、“スウィート・サクリファイス”を構えつつも、どこか安堵した表情を浮かべる。
しかし、堀川と秋津の眼が強張った。
彼らの目に映る、ロック。
その背後にいた、“スウィート・サクリファイス”を構える“政市会”会員。
“スウィート・サクリファイス”の狙いは、秋津を捉えていた。
「ちょっと待って!!」
堀川の目に映るのは、秋津を狙う“政市会”会員の迎撃を試みる一平。
しかし、彼が“ライオンハート”を構えた時には、“スウィート・サクリファイス”に既に青白い光が宿っていた。
ロックは青白く光る羊の頭蓋へ駆ける。
青白い敵意の光が放たれる寸前。
「ロック!!」
凛とした声が響き、“政市会”会員を無数の光が包み込む。
それから、煌きと爆轟が炸裂。
“政市会”会員の男は、意識を刈り取られて、その場に倒れた。
ロックは、倒れた“政市会”会員の背後に立つ少女を見た。
「サキ」
女子用ブレザーを着た、黒い髪と眼の少女の名を呼ぶ。
「サキ、それ何?」
一平が素っ頓狂な声を上げる。
一平の興奮は、まるで新しい玩具を目にする子供のようだが、サキは手にしている得物について答えない。
「“プロジェクト:信念”……こんなところにまで持ち込むかよ……」
サキが手にするのは、蒼く大きな片刃に、軽機関銃の把手の付いた“命導巧”。
「ロック、止めて。そして、投降して」
サキの持つ“命導巧”、“フェイス”と同じくらい鋭い眼差しが舌打ちするロックを捉えた。
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