混迷―⑧―
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――まあ、怒っているよね……。
河上 サキは、ロックを見て考える。
隣にいる親友の一平が、なぜ"命導巧"を持っているかについては気にしたらキリがないので黙殺することにした。
どちらかと言えば、
「一平……大人しく投降して? そうじゃないと、リンカさんにあのこと言うよ?」
前髪を明るい橙色に染めた硬骨漢の同級生の顔が、一気に真っ青になる。
「――って、少しは抵抗しろよ……オイ!?」
ロックの抗議も空しく、一平が両手を上げる。
サキの立っている場所から見て、彼が右側に逸れた。
サキの真ん前に、ロックだけが立っている。
「全く……って、一平、少し待て!! リンカって――」
ロックの一平への詰問を、一筋の光が遮る。
ロックの顔を焼きかねない一撃は、彼女の短髪の守護者――"ライラ"――によるもの。
ロックの顔に宿る悔しさの色が眼に宿り、苦虫を食い潰したような顔をサキに向けた。
「ロック、投降して?」
「しなきゃ……どうするってんだ……?」
ロックの相貌に映るのは、サキと彼女の"命導巧"――"フェイス"。
さらに、彼女の守護者である、"命熱波"――"ライラ"と"ヴァージニア"の二体。
『無論……』
『ボコでしょ!!』
"鶏冠の兜"を被った"ヴァージニア"に、短髪の"ライラ"が続く。
「口が達者になりやがったな……お前のペット。この喧嘩、安くねぇぜ?」
「そう言うのも『想定通り』……ブルースからね」
校門を背に立つサキ。
ロックの眼にそう映っていた。
しかし、ロックの目に映る彼女の背後。
上質な狐の毛皮を思わせる髪に、茶色のジャケットを着たブルースというロックの保護者が校門に立っている。
「じゃあ……ブルースの知らない言葉だ。サキ……『選べ、道を開けるか、くたばるか!!』」
口の両端を歪めた、猛禽か猛獣の笑みのロックがサキの前から消える。
土を蹴る音と共に、サキの目の前が爆ぜた。
ロックが左腕で頭を傾け、精一杯伸ばした右腕からの拳打。
それがサキの寸前で止まった。
"ライラ"と"ヴァージニア"の出した"磁向防"がロックの一撃からサキを守る。
"ライラ"と"ヴァージニア"の背後から見える、ロック。
ロックの双眸が、拳の衝撃熱力で苦悶に満ちた二人のサキの守護者を捉えた。
サキは、彼の獰猛な笑みを見て、
「来るよ!!」
サキの声と共に、三つの衝撃。
ロックの左拳からの連撃が、"ライラ"と"ヴァージニア"を大きく振るわせた。
『"リア・ファイル"で身体能力を強化しているだけなのに、こんなにも強い!!』
『全く、この脳筋ゴリラ!!』
"ヴァージニア"と"ライラ"が口々に言い、
「テメェら……好き放題言ってくれるな!! そんなに好きなら、もう一つ食らってみるか!?」
サキの視界からロックが一瞬消える。
刹那、サキの顎の下から風が吹き、
『サキ、離れて!!』
"ヴァージニア"の声と共に、サキが後ろに下がる。
サキの前に移動した"ヴァージニア"に不可視の爆撃が炸裂。
ロックの突き上げた右拳が、"鶏冠の兜"の守護者の前面を大きく抉ったのだ。
満月を映す湖面の様な右眼が、苦悶に消える"ヴァージニア"を見送る。
夜の湖面の眼がサキを捉えると、そこに一筋の光が疾走った。
『サキから離れろ、この脳筋金髪ゴリラ!!』
短髪の守護者の右手が煌く。
右手は細身の光の剣となって、斬撃がロックに放たれた。
"ライラ"の右手の剣が、ロックの残像を切り裂く。
ロックが十一時の方向へ移動。
サキは"フェイス"を向ける。
引き金を引くと、蒼白く片刃が煌めいた。
"フェイス"から蒼白の弾丸が放たれ、空を灼く。
ロックが、右掌を突き出した。
金髪碧眼の青年の前で、蒼白い爆炎が上がる。
遅れて衝撃が、周囲を震わせた。
震動によりロックが苦悶と共に、後退。
土瀝青を両踵で抉るほどの衝撃に、ロックの全身が揺れた。
ロックの顔に苦悶が宿る。
痛みに堪え、吊り上がったロックの眼が"フェイス"を構えるサキを見据えた。
ロックの目に映るサキの黒い髪と黒曜石の瞳は、蒼白い炎の残滓をまとっていた。
闘志に満ちた彼の眼の中のサキは、一切揺るがない。
サキの眼は、ロックの背後を覆う三対の"スウィート・サクリファイス"を捉えた。
顔を破壊された肥満男を中心に、二十代と四十代の女性がロックの背後を捉える。
サキに気を取られたロックの背後に、彼ら"政市会"会員が好機を見たのかもしれない。
しかし、サキの眼に映る"彼ら"を見返すロックに隙は無かった。
ロックが即座に屈む。
時計回りに上半身をねじり上げたロックは、右の肘鉄砲で肥満男の右側にいた二十代女性の右顎を砕いた。
顎を砕かれた女性は歯と流血をまき散らす。
ロックの攻撃が、肥満男と中年女性にも向いた。
サキは、ロックの見せた隙を逃さない。
"フェイス"の刃を下に据え、彼女は駆けた。
ロックの間合いに入ったサキは、下から上へ"命導巧"を斬り上げる。
サキの刃は、ロックの胴を切り裂かなかった。
切り裂いたのは、"政市会"の肥満男。
彼の胴の下から上を蒼白い刃が疾走る。
再度盾に使われた男の背後にロックはいない。
サキから見て一時の方向にいるロックが、彼女の胴に向けて左直蹴りを放った。
二人の交差する視線の中心に、"ライラ"が乱入。
ロックの左蹴りを直にうけ、熱力の波紋が"ライラ"を覆った。
そんな"ライラ"をかき消すほどの、火球が降り注ぐ。
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