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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第二章 Ambush

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混迷―④―

 青白い弾丸がロックの頬を撫でる。


 眼鏡を掛けたジャージの若い男の両腕から突き出た羊の頭蓋。


 両腕に装着した“スウィート・サクリファイス”の二対の眼が、ロックを捉える。


 ロックは両腕の鉢金を作りながら、”政市会”の男との距離を縮めた。


 男は恐怖で震えているからか、両腕が大きくぶれる。


 揺れる左腕から放たれた弾丸がロックの右腕に命中。


 眼鏡の男は会心の笑みを浮かべる。


 だが、すぐに眼を見開いた。


 命中した弾丸は青白く爆発するが、ロックの右腕は傷一つついていない。


 ついでに言うと、()()()()()()()()()()


 ジャージ男の眼鏡のレンズに肉薄していくロック。


 彼の捕食者の笑みが、眼鏡の表面とその奥の眼球に映る。


 男は一歩退こうとした。


 しかし、ロックの左足が速い。


 ロックの放つ左の直蹴りが、ジャージ男の腹にめり込む。


 空気を盛大に吐き出した男の顔が歪んだ。


 ロックの蹴りに崩れる男の眼鏡に映る二人の影。


 若い男女の二対の“スウィート・サクリファイス”がロックの背後を狙う。


 ロックは男の眼鏡に映る顔に、口を吊り上げた。


 目の前の男は、ロックの笑顔を眼にして血の気が引いていく。


 男はロックの思考が読めたようだが、成すすべもなかった。


 ロックは男の首を右手、左手で右の上腕二頭筋をそれぞれ掴む。


彼は男の体を両腕で固定して、逆時計回りに振り向いた。


 背後の”政市会”のカップルの放った“スウィート・サクリファイス”の二対の銃撃が、眼鏡の男の背中に命中。


 背後からの衝撃に男の口から蛙を潰したような声が漏れる。


 何より、命中――しかも、それが味方にと露も考えなかった男女の顔に罪悪感が宿った。


 罪悪感で青く染まるカップルの前で、ロックは逆時計回りを一回転終えて、口の端を吊り上げて更にもう一周。


 今度は勢いを増して、両手を放す。


 眼鏡のジャージ男の身体がロックの拘束から離れ、宙を舞った。


 放物線を描いた男の身体は、互いの得物を放ち合う”政市会”と”政声隊”のど真ん中に着地。


 人だかりを構成する何人かを押しつぶした。


 ”政市会”と”政声隊”の悲鳴が響く。


 大の男を集団まで100mの距離はあるのを、170㎝の若者が放り投げたという事実にカップルの男の方は呆然とした。


 その呆けた顔に向けて、ロックは両肘の突進を見舞う。


 男はロックの体重の衝撃を諸に受け、背後に崩れた。


 ロックはすかさず、腰を入れた三連撃で男の顔に加える。


 三撃目が決まり、女の方が余りの暴虐に泣き出した。


「連れて帰れ!」


 ロックの拳の乱打に意識を失った男の背を蹴り、女に押し付けた。


 衝撃に悲鳴を上げながら、ロックから逃げるように男を連れてその場を離れる女。


――来るんじゃねぇよ、こんなところ!


 ロックは考えていると、熱波が肌を撫でた。


 あばた面でエラの張った男と、炎に彩られた人型がロックの前に立っていた。


 首のトルクは赤々と輝き、男の目に映るロックの像に赤みがかる。


 ロックは前傾姿勢で、男に迫った。


 しかし、ロックの右腕ほどの間合いに入ると、右足の前の土瀝青(アスファルト)が炸裂。


 オゾン臭がロックの鼻をくすぐり、ロックは炎の男から、すかさず距離を取る。


 左足が大地に付いた瞬間、ロックは右へ移動。


 背中がざわつく感覚を覚えると、氷塊がロックの立っていた場所を大きく抉った。


 後ろから来る感覚の正体を探ると、それは植え込みに使われた松だった。


 ロックの通う高校の校門までの通学路。


 校舎に向けて左側は、住宅街に面した道路だ。


 右側は、植え込みで松系統の植物が植えられていた。


 ロックは植え込みを背後に、炎の人型を従えている男を正面。


 炎の男の両隣りに立つ、青緑の人型、白の人型をそれぞれ率いた男たちに囲まれていた。


 男たちは黒いシャツを着ている。


いずれも、白い文字で大きく“力”と書かれていた。


――“力人衆”か……?


 “政声隊”は反差別を掲げ、”政市会”のデモを妨害する。


 しかし、その行動ではどうしても腕っぷしの強いものがいたら、押し切られる。


 そのための荒事専門の武闘派集団が”政声隊”の側にいることは知っていた。


「あんたら、随分老けているけど……留年生か?」


 ロックは吐き捨てる。


 黒いシャツを着た男たちは、訝し気な顔をして、


「いや、()()()()()()()()()()()()な……図体のでかいガキかと思ってな?」


「日本語話せるなら、口の利き方は気を付けた方が良いぜ……年上だからな」


 白い人型を連れた男が胸を張って言う。


 首筋から首の付け根まで髪を伸ばし、切りそろえていた。


 所謂、日本語で言うロン毛という髪型だろうか。


「一応、郷に入らば郷に従えで聞くけど、()()()()()()()()()()に会ったらどうすれば良い?」


「そうだな……ビシっと言った方が良いんじゃね?」


 ロックの疑問に、青緑の人型を連れた男が答えた。


 立派な言葉だが、どこかロックを下に見るような言動。


 目が細く、耳にピアスをしていた。


 ロックは鼻に突きながらも、目線をあばた面に向ける。


「まあ……頭下げたら、許してやらなくもねぇけどな」


 三人の下卑た笑みに、


「じゃあ、()()()()()()()()!!」


 三人は目を見開く。


 ロックは身をかがめると、右手で掴んだものを放り投げた。


 ピアスの力人衆が人型に稲妻を放つように言うが、


「バカ、止めろ!!」


 あばた面の男が蒼白にして叫んだ。


 しかし、力人衆は皆、警告もむなしく()()()()()()()()()


 青緑の人型の放った稲妻が、ロックの放った()()()()()()()


 それは、大きな閃光を空中で放ち、大きな火の玉を作った。


 弾けた音と熱波を放ち、三人の力人衆に降り注いだ。


 ロックが放ったものは、植え込みに使われていた松の木である。


 日本語で“松明(たいまつ)”という言葉があるように、松の木は燃えやすい。


 葉は愚か、種子である松ぼっくりでも燃える。


 松(やに)の原料となる油成分があり、水に濡れても燃えやすいので、着火剤としても使われる。


 現に、その燃えやすい特性から、戦時中の日本は、松の木の油の燃料を作ろうとしたほどだ。


 ロックの放った自然の閃光弾により、行動の自由を奪われる三人の力人衆。


 青緑色の人型を伴う、ピアス男に肉薄。


 雷の発生源であるため、男は目を覆いながら猫背になる。


 右の拳を放ち、ピアス男の意識を奪った。


 ピアス男の土手っ腹に蹴りを入れて、飛ばす。


 ロン毛の男は視界を奪われながらも、氷を放った。


 ロックは走りながら、氷塊を避ける。


「こっちだ!!」


 ロックが大声を出した場所は、


「止めろ!!」


 ロックはあばた面の男の声を聴いて、離れた。


氷塊はロックの立っていた位置に降り注いだ。


 ロックではなく、仲間のあばた面の力人衆を氷塊が飲み込む。


 視界を取り戻したロン毛の力人衆が、あばた面の悲鳴を聞いた時には、ロックはすでにロン毛の懐に潜り込んでいた。


 白い人型に指示を出すのと同時に、ロックの頭突きがロン毛の顔面に命中。


 声にならない響きと歯が数本、口から洩れる。


 ロン毛は、潰れた鼻と口から流れ出す血を抑えながら蹲る。


奇しくもロックにアドバイスをした様に、人が見れば()()()()()()()()()()()()()恰好となった。


「クソガキが!!」


 背後に積まれた氷塊が吹き飛ぶ。


 ロックが振り向くと氷を跳ねのけた、あばた面の男は炎の人型に指示を出していた。


 赤い人型の両腕に、一際輝く炎が二輪咲く。


 そして、二輪の花火がロックに向けられようとしていた。


 だが、二輪の炎は消える。


 あばた面の背後で、爆発が起きたからだ。


 あばた面の男は戸惑いの表情を浮かべながら、前のめりに地べたを舐める。


「危なかったな……」


 倒れた力人衆の背後にいたのは、ロックの知る男だった。


「斎藤……一平……?」


 ロックはサキのクラスに転校した時に、目を合わせた。


 視聴覚室での指令の後で、自己紹介を軽く済ませた程度である。


 それに、サキの知り合いの原田 龍之助と繋がりがあることは、ここに来る前から知っていた。


 しかし、彼の存在がここにいること以前に、両腕に付いているものに目を奪われる。


命導巧(ウェイル・ベオ)……“ライオンハート”だと!?」


 斎藤 一平の両腕に付いていた鉄製の手甲。


 拳から肘関節までを覆うほどで、軽機関銃(サブマシンガン)の弾倉の曲線が手首から天を衝いている。


全体的な色は、明るい赤橙色。


そんな斎藤 一平の前髪の爛々と燃える炎の色と合わせていた。


「一平って呼んでくれよ……その方が呼びやすいだろ?」


――そうじゃないだろ……そもそも――!?


 ロックが一平への異議を唱える前に、背後で爆轟が広がる。


 ロックが振り向くと、“スウィート・サクリファイス”を構えた”政市会”員の男が倒れていた。


 どうやら、力人衆との戦いに疲れたロックの隙を突こうとしていたらしい。


 一平は、ロックの右隣に立つと、


「アンタ、素手で色々凄いことしてるけど、火力が少ないだろ? 俺が加勢するよ」


 ”政市会”だけでなく、”政声隊”もロックの隣に付いた一平に気づき始める。


「正しさを頭数で押し付けてくるような奴ら……嫌いだからね」


「頼んだ覚えはないが……まあ、気は合うな」


 ロックは一平に言うと、口の端を吊り上げる。


 八重歯を剥いた、捕食者ではない()()()()()が一平の爛々とした双眸に映った。

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© 2025 アイセル

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