特任指南役 弐
「ほら幼い頃何回か会ってるじゃない」
「すみません。記憶にございません」
「でも武蔵野さん忙しいかも、たしかね『すまねぇ少々厄介ことに巻き込まれちまった』と言ってた」
「武蔵野さんの電話番号を知らないんですか?」
「それが分からないの、猫みたいな感じでふらっと現れるから」
尚更難しくなった。……もしかしたら父さんに関する警察官なら彼なら――
約七年前のこと件の時、渡してくれた若い警察官の名刺と連絡先がまだどこかにあるはずだ。自室に戻り棚を探してみると当時のメモ用紙と名刺が入っていた。
連絡先が変わってなければ良いのだが、とりあえず携帯から連絡をかけてみる。
呼び出しが流れると――
ッガチャ
ワンコールで応答した。
『もしもしこちら南雲』
「夜分に申し訳ございません。柊裕朔です。覚えていらっしゃいますか?」
『ん?……あぁ、裕朔くんかぁ!!しばらくかかってこないからどうなってるか気になってたんだよ』
「御心遣いありがとうございます」
『まぁ久しぶりに喋ったんだ少しだけ話聞かせてよ』
今までの自分の半生を南雲さんに語ると『大変だったね』と声をかけた。本題を語るタイミングがない。
『そう言えばなんで今、俺に電話をかけたんだい?』
「その件なんですが、仕事に後見人の署名が必要で武蔵野さんと言う人に心当たりありますか」
『あぁ知ってるよ。武蔵野警部は柊警部と同期で友人だったんだよ』
当たった。予想どおり父の同僚だった。
「彼が何処にいるか分かりますか?」
『それなんだが元々職務質問技能指導員だったんだが、五年前に捜査一課に転属したんだよ。それで今別の事件を追ってる』
「神奈川には居るんですか」
『まぁ一応、武蔵野警部には伝えておくから僕の連絡を待ってて』
「承知しました。では失礼します」
これでどうにかなりそうだ。書類に必要な物と今いる人間の署名を終えた。後は武蔵野さんを待つだけ。
その翌日、朝の鍛錬をしに砂浜へと訪れる。山の頃とは違うが自然を感じることで集中力をあげる。
研ぎ澄まされた感覚は何かしらに気配が分かる。視線をたどるとやはり不審な男がいた。服装は少し着崩したスーツでサングラスをかけている。
「……」
その方向を睨むとその男はどこかへ去った。取材か、もしくは別件か。気にはなるが、追う理由がない。
家へ帰り風呂を浴び、冷蔵庫へと足を運び今日の朝食どうしようか。そう考えていたのも束の間、固定電話がかかった。
「今、朝の六時なんだがな」
固定電話が表示していた文字はムサシノシュンタロウと表示されていた。
「もし――」
『お前、俺に用があるんだよな』
低音が食い気味に俺の言葉を被せてくる。
「えぇそうなんですが今どちらにいらっしゃるんですか?」
『さぁな教えてもいいが面白くねぇだろ』
「はぁ……」
『剱斎か常須賀のどこかに居る探してみな』
それで電話が途切れた。喋ってると犇々と傍若無人を感じる。武蔵野さんを知る人を姉と彼しか知らないはず。
「早朝、申し訳ございません。柊です」
『もしもし南雲だけどどうしたの?』
「実は今さっき武蔵野さんから電話がかかったのですが」
『どうせ武蔵野警部のことだから遊びたいだけだよ。彼そう言う一面あるから』
面倒だ。姉さんが言う猫のような人と言うのは間違えていないのかもしれない。
「思い当たることとかありますか?」
『そうだね。全く見当もつかないね』
「そうですかでは失礼します」
手がかりは無しか……。胃が痛みそうだ。そんなことをするよりももう一度電話をしたら出るだろうかと思い電話をすると着信を切られた。
とりあえずは朝食を作り俺は武蔵野さんを探しまず剱斎の各地を回るとしよう。だが剱斎も広い。
父さんとの昔の記憶を宛てに行った場所を行くことにしよう。剱斎の思い当たる場所を探してみると武蔵野さんらしき人物はいなかった。バスに乗り岬の方へと向かう。
常須賀市に入り海蝕崎灯台に向かう。父さんがよく連れて行ってくれた観光地だ。いつも決まって灯台に来るたび『この場所には思い入れがあるんだ』と言っていた。
バスを降りて灯台まで燦燦と昇る太陽を背に灯台まで歩いたが、そこにはそれらしき人物はいなかった。このまま探すのは体力的にも金銭的にも底を尽きるだろう。
あらかじめ固定電話に着信したがあった時に武蔵野さんの電話番号をメモしておいてた。携帯から番号を打ち込み待機音に繋がった。
『はい。こちら武蔵野』
「柊です」
『おぉっと、俺の連絡先をいつ掴んだ』
「固定電話に電話をかかったので着信履歴から番号だけメモしただけです」
『おっと、中々侮れんな。だが俺に電話をかけてきたと言うことはヒントが欲しいんだろう。ヒントは“戦艦”だ。頑張れ』
ブッ……
通話は切れたが、いい手がかり否、答えを落としてくれた。
父は昔こう言っていた『この日本を身を呈して守ってくれた先人が乗っていたんだ』その戦艦を見ながら俺にそう説いた。
それ以外にも三笠に訪れる度『日本の“戦艦”と言えば俺はここしか思い浮かばん』と笑っていた。つまり戦艦三笠のある三笠公園に居る。
時刻は午後十四時、太陽が頂点に昇った時、雲がゆっくり流れる中で三笠公園に着いた。
戦艦三笠以外にもこの場所を象徴する物体がある。その物体とは東郷平八郎の銅像だ。俺は像が見える自販機に身を隠し、目ぼしい人間を探すと――
「……?」
今朝の砂浜にいた不審な男がそこに居た。どういうことだ?だが察するに……
携帯を取り出し武蔵野さんに連絡をかける。
「もしもし柊です」
『あぁ、またお前か俺のこと見つけれたのかよ』
喋る同時に不審な男を見ると携帯を持っていた。つまりは彼こそが武蔵野さんで間違いまい。
「えぇ、貴方がヒントをくれたんですよ。ですが武蔵野さんは問題を作るのが少し下手なようですね」
『ほぉ、言うじゃねぇか。じゃぁ何処にいるか当てろよ』
「正解は三笠公園にある東郷平八郎の銅像の前ですね」
遠いが武蔵野さんの身体がビクッとしていた。俺は着々と歩き出す。
「隠れん坊が趣味なんですね。武蔵野さん」
『あぁ、童心を思い出すんだお前の面倒を見ていた時も隠れん坊をしていたからな』
「昔のことはあまり覚えていないので」
『随分と悲しい男になっちまったな。裕朔』
少し哀愁を込めていた。それは哀れみなのかは分からない。電話を切り相手が視認できる近くまで歩く。
「見つけた」
サングラスを外し俺の身体から顔を舐め取るように見た。
「やっぱり、いや随分と女…いやレディと言った方が良いのか?」
「いえ、私の性自認は男です」
「そうなのか、お前のニュースを見たとき髪を伸ばし過ぎて警察でも女なのかって騒がれてたが」
「関係ないです。長髪の理由は忍耐力を養う為です」
気を抜けたようなどこか安堵したような表情をしていた。だがどこか気まずい空気が流れ顎元に指を置きを何かを考えてる。
「裕朔、どうだ一緒に飯でも」
「えぇ構いませんが」
「ここなら良いバーガー屋を知ってんだよ」
あまりジャンクフードは得意ではないが、まぁせっかくの誘いだ。多少のことは喋れるだろう。
三笠公園を出て数分の場所のバーガーショップ、店の外観は異国の雰囲気でネオンに光る文字をには『Navy House』と綴られていた。
「ここの店長はお前にはうるさいかもしれないけど陽気でいい奴なんだぜ」
入るやいなや外人の店長がにこやかに武蔵野さんの元へ歩いてきた。
「ヤァーMr.ムサシ!!」
「おぉトム今日も来たぜ」
「Mr.ムサシがココに来てくれるコト、チョーハーピーナンデスけど……体調、大丈夫ねぇ」
「何言ってんだブラザー、これでもポリスメンだぜ俺は」
「オォーそれもそうだネェ。サァ座って、座って」
凄く陽気な雰囲気の店には至る所に笑顔のネオンが光っていて星条旗が飾られている。席に案内され座る。注文は武蔵野さんのおすすめの物を頼んでもらった。
「これ改めて、捜査一課の武蔵野俊植郎だ。よろしく」
名刺を渡され軽く目を通す。どうやら警部らしい。
「名前なげぇだろ。よく言われるんだ俺のことは何度でも言うといい」
「はい、武蔵野さん」
「昔のように俊植郎さんって言ったら良いのになぁ」
「本題の件は公共の場では口外できない極秘裏な案件なんです」
「なるほど、裕朔の家で話すべきだな」
仕事の話をしているとハンバーガーが届いた。
「オマタセしました!!ベリーハッピーチーズバーガーポテトセットね」
「トムまたお前、大きく作ったな〜お前の店潰れちまうぞ」
「ノーノー、ミーの店はニッポンブラザーもワールドブラザーもチョー来るからノープロブレムでーすよ。Mr.ムサシ」
「そりゃよかった」
「ゆっくりね〜Mr.ムサシ&ブラザー」
置かれたバーガーは規格外にデカく日本でこのサイズも珍しいだろう。串が刺さったバーガーには野菜が霞むほどの肉厚のパティーからチーズが幾重にも流れている。
「本場のハンバーガーと言うものを食したことがなくて」
「あぁ、この店のハンバーガーは串がついてるだろ。そしてパティー、野菜がはみ出さないように押し潰し、小さくする」
何故か誇らしげ笑みを作って実演してくれた。潰してみると見慣れたサイズ感になった。
「バーガーの串を外して豪快に食うそれに限る。さぁ早く食べねぇと冷めちまうぞ」
促されるままに口に運ぶとチェーン店とは決定的に違うのは一つだけある。案外肉があっさりとしていて肉々しくチーズで塩味を持たせている。中にはアボカドが入っていて美味だ。
「……美味しいですね」
「そうだろう。アボカド抜きのハンバーガーとか考えらんねぇ」
如何せん量が凄まじい。食べきる時には逆流しそうで胃に不快感がある。なので普段はあまり油分を多く含む食べ物はさけている。しかし味は美味だったので後悔はない。
「さぁお前んち行くんだろう。愛車が駐車場に置いてある。少し待ってろ」
数分後、クラッシックカーが目の前に止まり車窓を下げると武蔵野さんだった。
「裕朔乗んなよ」
姉さんと一緒に見た映画の小粋に見せたいナンパ師のようだ。後部座席のドアを開け座る。
「やっと夢が叶った」
「なにが叶ったんです?」
「お前を乗せることだよ」
ルームミラーに映った武蔵野さんの声色はさっきのように哀愁が含んでいた。
「この車はな、颯迅に相談して選んだんだ。買ったら絶対乗せてやるって約束したんだが、その約束は叶わなかった」
車内は梅雨の日のように湿っぽく重い。
「だからこそ颯迅の息子である裕朔に乗ってもらいたかったんだ」
「……そうですか」
「すまんな湿っぽくなっちまって」
何を話しても必ず空気が冷めきってしまう。
「お前のことをずっと気になっていた。知らん爺さんに連れて行ったと思えば剣聖になって帰って来た」
「……だが帰ってきた裕朔はあの日の葬儀と同じだった。けど成長できたお前が見れて嬉しい。だが、お前の目が死んでいる」
武蔵野さんはどこか悔しげな表情を浮かべ心なしかスピードが速くなった気がする。
「まぁ、お前は目の前で親が亡くなったんだ。無理もない」
葬儀の時に突き刺さった可哀想にという視線で武蔵野さんはルームミラー越しに俺を見た。
武蔵野さんの昔の記憶を少し思い出した。あれは葬式の日のことだった。
凍てつく風が吹き荒れる冬、両親が亡くなって二週間後に葬式を挙げた。姉は号泣、親戚も参列者も顔を曇らせ両親の顔も見れないほど涙する人もいた。
その時に俺の近くにいたのが武蔵野さんだった。
『……ックソ……』
彼はゆっくりと父が入った棺桶に手を入れ首筋に触れる。絶対に脈打つことなんてないのに脈を確認する。
『なんじゃぁこりゃ!』
彼の声が葬儀場に轟いた。参列していた警官は武蔵野さんを棺から離れさせ、こちらの元へ戻ってくる。
『お前は…お前ら姉弟は守る……必ず……必ずだ。だから心配するな』
その言葉を言い残して去っていた。
その去った後に師匠がその葬式会場に現れて親戚達の元へ行く。親戚の代表者として叔母が出て師匠と共に葬式会場を去った後に俺の山修行が決まった。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・施設等とは一切関係ありません。




