第188話:葛藤
王城でのやり取りは、褒美の授与で終了となった。
道長の救出についてはアッシュとレイスが中心となり行われ、ラカーシャ王国へ圧力もかけていくという。
「今回ばっかりは、あーしも力を貸そうかなー」
「私も、〈聖女〉がきっと役に立つと思うので」
さらに、アリスと鈴音が王城へ残ることになった。
楓とは違い、二人は日本でも道長と顔見知りであり、鈴音に関しては元恋人だ。
心配しない、ということの方が難しい。
「分かったわ。二人とも、気をつけてね」
楓はバルフェムへ帰ることになった。
本当は一緒に力を貸したい気持ちもあるが、今の彼女には自身のお店があり、従業員がいる。
従魔具店を利用してくれている客もいるのだから、個人の感情で先走ることはできなかった。
「カエデのことは私とヴィオンに任せてちょうだい!」
「無事にバルフェムへ送り届けよう」
楓と一緒にバルフェムへ戻るのは、ティアナとヴィオンだ。
当然だが、レクシアとライゴウも一緒に戻る。
「レイス様。もしも緊急で力を貸してほしいことがあれば、連絡してほしい。その時はライゴウと共に駆けつけます」
「ヴィオンさん、ありがとうございます。ないに越したことはありませんが、もしもそのようなことがあれば、ご連絡させていただきます」
レイスは今回の件を経て、ヴィオンをことを心から尊敬するようになっていた。
もちろん、楓たちのことも尊敬しているが、それ以上にヴィオンに頼もしさを感じていた。
そしてヴィオンも、レイスのことを弟のように想い、気を配るようになっていた。
王族に対してこのような感情を抱くのは不敬かもしれないが、心の中で思うだけなら構わないだろうと考えることにした。
「それじゃあ! みんな、気をつけてね!」
挨拶を終えて、楓たちは王都をあとにした。
帰り道を歩きながら、楓はポツリと呟く。
「……私、やっぱり冷たい女なのかなぁ」
楓の呟きはティアナとヴィオンにも聞こえていた。
「どうしたの、カエデ?」
ティアナが声を掛けると、楓は苦笑しながら答えていく。
「神道君が大変な時なのに、私は自分の都合を優先してバルフェムに戻るんですよ? アリスちゃんや鈴音ちゃんから見れば、冷たい女に見えたんじゃないかなって……」
「ふーん……カエデはさ、アリスやスズネが本当にあなたのことをそんな風に見ると思っているの?」
自分が相手からどのように見えているのか、そればかりを楓は気にしていた。
だが、ティアナの言葉を受けて、二人がそのように思うはずがないとすぐに気づく。
「見ません!」
「私もそう思うわ。それじゃあ、別にいいんじゃないの?」
「……いいんですか?」
続けてのティアナの言葉に、楓は首を傾げてしまう。
「だって、知らない人の視線なんて、無視でいいと思わない? 大事なのは、自分の周りにいる人じゃないかしら?」
「自分の周りにいる人……」
「間違いなく、俺はカエデさんのことを冷たい女性だとは思わない」
そこへ話を聞いていたヴィオンが口を開いた。
「もちろん、私もね! アリスやスズネも、カエデのことを冷たい女だなんて思うはずがないわ」
「……はい。そうですね」
日本にいた頃は、周りの視線を気にしてしまっていた。
悪い見え方をしないようにと、陰口をたたかれないようにと、なるべく笑顔でなんでも受け入れるようにしていたのだ。
だが、それが思いのほか心を疲弊させていたことに、今なら気づける。
だからこそ、今のような状況が苦しく、思わず言葉にしていたのだ。
「カエデはカエデよ。自分のことを冷たい女じゃないかって悩むのは勝手だけど、私たちがそんな風に見ていないってことは、しっかりと覚えておいてよね」
「……ありがとうございます。ティアナさん、ヴィオンさん」
「キュッキュキキュ!(おいらもだからね!)」
そこへピースが元気よく、そして楓を励ますように声を上げた。
その声が嬉しく、楓は元気が湧いてくる。
「うふふ。ありがとう、ピース」
ティアナとヴィオン、ピースの優しさに触れ、楓の気持ちは浮上してくる。
(自分が思っている以上に、私の周りにいる大事な人たちは、私のことを見てくれている。それも、良い方に)
悪いことばかりを考えていた日本時代とは、違うのだ。
そう思えたことが、今の楓にとっては何より大事なことだった。




