第187話:お礼選び
宝物庫に到着した楓たちは、それぞれで褒美となるものを選び始める。
ティアナとヴィオンは装備を、アリスと鈴音はとりあえず色々なものに目を向けている。
一方で楓はというと――
「……ねえ、ピース? そろそろ新しい従魔具が欲しくない?」
「キュキュ! キッキュキュー!(いいの! 欲しいよー!)」
「うふふ。それじゃあ、ピースに合いそうなものがないか、探してみようか!」
「キュン!(うん!)」
自分のためではなく、ピースのために褒美を選ぼうと話し合っていた。
その姿を見ていたエルデクスとアリシャは笑みを浮かべており、こそこそと何かを話し合っていたが、そのことに楓が気づくはずもなく、材料が保管されているところへ足を向ける。
「僕がご一緒しますよ、カエデ様」
「ありがとうございます、レイス様」
ティアナたちが武具の宝物庫にいるため、エルデクスとアリシャは離れられない。
そのためレイスが同行を申し出てくれた。
二人で材料が保管されている宝物庫へ向かうと、そこでピースが肩から飛び下りる。
「欲しい材料があったら教えてね、ピース?」
楓の言葉にピースは大きく頷くと、小さな体を揺らしながら駆けて行った。
「……あ。今さらですけど、ピースを宝物庫で自由にさせてよかったんですか?」
「構いませんよ。カエデ様の従魔ですし、何よりピースも大活躍でしたから」
貴重なものばかりの宝物庫だと思い出し聞いてみた楓だったが、レイスはすぐに問題ないと答えてくれた。
その答えを聞いた楓はホッと胸を撫で下ろし、そして柔和な笑みを浮かべる。
「それにしても、本当にアッシュ様が無事でよかったです」
「それも全て、カエデ様や皆さんのおかげです」
「レイス様とクロウがいなかったら、アッシュ様を無傷で助け出すことはできませんでした」
「フシュシュ?」
急に名前を呼ばれたからか、レイスの影の中からクロウが鳴いた。
「うふふ。ありがとう、クロウ」
「フシュッシュシュー!」
クロウの嬉しそうな声を聞き、楓は微笑んだ。
「……羨ましい」
「え? 何か言いましたか、レイス様?」
「いいえ、何も」
ボソリと呟かれたレイスの言葉を、楓は聞き逃してしまった。
聞き返してみたのだが、「何も」と言われてしまったので、そこまで気にすることではないかと追及はしなかった。
「キャキュゲー!」
するとここで、ピースが楓を呼ぶようにして鳴いた。
楓はレイスと一緒にピースのところへ向かう。
「何か気に入ったものがあった、ピース?」
「キュケキュケ!」
とある材料を指さしながら、ピースは必死に鳴いていた。
「これは……?」
「あぁ、アイスドラゴンの魔石ですね」
「ド、ドラゴンですか!?」
「キキ?」
ドラゴンと聞いた楓は、驚きの声を上げた。
「どうしましたか?」
「だって、ドラゴンって言えば、ものすごく強い魔獣ですよね? その魔石ってことは、ものすごく貴重ってことでは?」
「そうですけど、問題はありません」
「ダメですよ!」
いくらピースが選んだ材料とはいえ、手に入れるのも大変だっただろうアイスドラゴンの魔石となれば、話は変わってくる。
そう思ったものの、何故かレイスはあっけらかんとしていた。
「兄上の命が助かったのです。それと比べれば、アイスドラゴンの魔石くらい、問題ありません。きっと父上と母上もそう言ってくれるはずですよ」
「うぅ~! そ、それじゃあ、陛下たちにも確認を――」
「レイスの言う通り、問題ない」
エルデクスとアリシャにも確認を取ってもらおうとした楓だったが、そこへ当の本人が姿を見せて、あっさりと答えてしまった。
「……よ、よろしいのですか?」
「レイスが言ったように、アッシュを助けてくれたのだから。ねえ、あなた?」
「その通りだ。それとな……その魔石は、ピースの褒美として受け取ってほしい」
「……ピースの褒美、ですか?」
エルデクスが何を言っているのか理解できず、楓は思わず聞き返してしまう。
理解していないことが顔に出ていたのだろう、エルデクスは微笑みながら言葉を続ける。
「カエデは自分のためではなく、ピースのために褒美を選ぼうとした。だが、それではカエデへの褒美にならないと思ってな」
「先ほど、ティアナとヴィオンにも、従魔への褒美も選んでいいと伝えて来たわ。だから、あなたはあなたの褒美を選んでほしいの」
「そ、そう言われましても……」
楓の頭の中には材料のことしかなかった。
そのため、自分のために褒美を選んでと言われても、すぐには思い浮かばない。
「……カエデ様。僕から一つ、提案をしてもいいでしょうか?」
するとここでレイスが口を開いた。
「はい。なんでしょうか?」
「カエデ様は従魔具店を営まれていますよね? それなら、材料や在庫を保管しておくための魔法鞄はいかがでしょうか?」
レイスの提案は、今の楓にとって非常に魅力的なものだった。
「確かに、今は材料をセリシャ様に預かってもらっていますし、在庫も多く作り過ぎたら邪魔になると思って、多くは作れていません。……いいですね!」
「そうなんですね。レイス、良い提案でした」
「なれば、少々ここで待っておれ」
楓が嬉しそうに返事をすると、アリシャが微笑みながらレイスに声をかけ、エルデクスは一人で別の宝物庫へ向かってしまう。
しばらくして、エルデクスが一つの肩掛け鞄を手に戻ってきた。
見た目は高級な革で作られているようだが、いたってシンプルな仕上がりになっている。
「これは、容量無限、時間経過も止めることが可能な、最高級の魔法鞄だ。さすがに生きているものは入れられないが、それ以外ならどんなものでも入れられるだろう」
「…………もももも、もっと普通の魔法鞄で構いません! すご過ぎますからああああっ!!」
「カエデ様。王城の宝物庫に、普通の魔法鞄があると思うかい?」
「これを受け取ってくれなければ、宝石などがあしらわれている豪奢なものしか……」
「ここここ、こちらをいただきます! ありがとうございます!!」
どうにも押し切られた感はあったが、楓は楓の、ピースはピースの褒美をいただき、宝物庫をあとにした。




