第174話:三度目の王都
「……まさか、またここに来ることになるなんてな」
王都の巨大な外壁を遠目に眺めながら、楓はボソリと呟いた。
自分で選択して王都に戻ってきた。そのことに迷いはない。
ただ、自分から王都を飛び出したにも関わらず、こう何度も足を運ぶというのは、楓の中で少しだけ申し訳なさを感じていた。
(私が王城を飛び出したことで、少しでもアッシュ様や神道君に迷惑を掛けていたなら、なんだか申し訳ないな)
「どうしたの、カエデ?」
楓がそんなことを考えていると、隣を歩いていたティアナが声を掛けてきた。
「……ううん、なんでもありません」
「本当? それならいいんだけど」
心配そうな表情を浮かべていたティアナに対して、楓は笑顔でそう答えた。
楓の答えに嘘はない。王城を飛び出した選択に、迷いはなかったからだ。
「レイス様はヴィオンとライゴウと共に先に戻っている。私たちも急ぎましょう」
そう口にしたのはミリアだ。
言葉通り、レイスはヴィオンの従魔であるライゴウの背に乗り、先に王城へ戻っている。鈴音も一緒だ。
鈴音が一緒にいたのは、アッシュが見つかっていた時に備えてのものだ。
完全回復が使える回復魔導師は、フォルブラウン王国において鈴音しかいなかった。
「みっちーはもういないんなら、皇太子殿下だけでも見つかってたらいいねー」
「そうだね。……アリスちゃんは、神道君のことはいいの?」
アリスの言葉を聞いた楓は、疑問を口にした。
「うーん、無事でいてくれたら嬉しいよ? 一応、友達だし? でも、あーしにとっては鈴っちの方が大事だからねー」
王都へ向かいながら、アリスは当たり前のようにそう答えた。
「……まあ、そうだよね」
そして楓もまた、アリスの答えを聞いて納得していた。
(みんな大事だけど、その中でも優劣はあるもんね。私は、誰を大事にしているのかな……)
そんなことを考えていた楓だったが、その答えは出ないまま、王都に到着した。
「ミリア様! 先触れを受けておりますので、そのまま中へお入りください!」
門番からそう声が掛かった。
楓たちは無駄な検問を受けることもなく王都へ入ると、真っすぐに王城へ向かう。
城下は楓が見てきた姿をなんら変わらない。王太子殿下であるアッシュが姿を消したことなど、分かるはずもないのだ。
王城はどのような状況で、どのような雰囲気になっているのか。
少しの不安を抱きながら、楓たちは王城の門もそのまま通過していく。
「お待ちしておりました、カエデ様! ミリア、皆さん!」
レイス、ヴィオン、鈴音が出迎えてくれると、今の状況を説明してくれる。
「兄上はまだ見つかっていないようです。そして、ミチナガ様は王都の出て東の方へ向かったと情報が入っているようです」
「東ですか?」
「はい。いくつかの街で目撃情報があったようです。そして、フォルブラウン王国の東にあるのは……ラカーシャ王国です」
最後の方は少しだけ言葉を切ってあと、息を吐きながらレイスは答えた。
「道長君……」
「後悔してる? 鈴っち?」
鈴音はレイスと一緒に王城へ戻ってきていた。故に道長の情報は先に聞いている。
だからといって、改めて耳にしたから大丈夫、というものでもない。
「……ううん。大丈夫だよ、アリスちゃん。でも、道長君をそそのかしたエレーナ様は、許せないな」
「だよね。あーしも久しぶりに、怒ってるわ」
鈴音とアリスは怒りを露わにしている。
とはえい、今はその怒りを抑えてもらわなければならない。
「これから陛下と王妃、父上と母上に謁見してもらいます」
「分かりました」
レイスの言葉に楓が答えながら、以前に謁見をした部屋の前に到着した。
「――レイス殿下! 並びに、要人の入場を許可いたします!」
謁見の間の前に立つ騎士がそう声を響かせた。
二メートルを超える巨大な扉が開いていく。
(どんな情報があるのか、私が役に立てることがあるのか……考えなきゃだね)
そんなことを考えながら、楓は謁見の間に入っていった。




