第170話:クロウの従魔具
「……はは。これは、すごいね。とても美しいです」
「……フシュラ~」
なんとか声を絞り出したレイス。
そして、感嘆の声を漏らしたクロウ。
漆黒の中に煌めく星々が映し出されているかのような従魔具に、それ以上の言葉は出てこなかった。
「……クロウ。レイス様に着せてもらったら?」
そこで楓がそう口にすると、クロウは体を大きく揺らし、レイスに着せてほしいとアピールを始めた。
「ふふ。分かったよ、クロウ」
「フッシュシュー!」
レイスはクロウの行動に笑みを浮かべながら、従魔具を手に取った。
「え?」
「どうしましたか、レイス様?」
直後には驚きの声を漏らしたレイスに、楓は声を掛けた。
「……嘘みたいに、軽いですね」
まるで何も持っていないかのような、そんな軽さの従魔具に驚きを隠せない。
「クロウの動きを邪魔してはいけないと考えながら作成していたら、こうなっていました」
「……すごいな。さすがはEXスキルということでしょうか」
一度深呼吸を挟んだレイスは、改めてクロウに向き直る。
「それじゃあ、着させるね。後ろを向いてくれるかい?」
「フッシュシュー!」
レイスの言葉を受けて、クロウは後ろを向く。
そんなクロウの肩に従魔具を被せて、彼が腕を通していく。
元々が黒いクロウの肌が、さらなる漆黒を帯びていく。
しかし、その中にある星々の煌めきが美しさを与えてくれ、さらにクロウが動き度にキラキラと輝いていた。
「……すご」
「……これが従魔具とは、恐れ入ったな」
壁際でやり取りを見守っていたティアナとヴィオンからも、思わず感嘆の声が漏れた。
「フ……フシュルララ~」
従魔具を身に着けたクロウは、自分の姿に目を向けながら、右へ左へと体を捻っている。
星々の煌めきに目を奪われているようだ。
「……ど、どうかな、クロウ? 一応、クロウの意志で煌めきを消すこともできるよ?」
「フジュラ!?」
「そ、それは本当ですか、カエデ様!」
「え! あ、はい! そうです! レイス様の護衛という一面もあると思ったので、目立ち過ぎないようにと消すことも可能です!」
クロウとレイスがほぼ同時に驚きの声を上げた。
「それは素晴らしいです!」
「フシュルララ! ルッララ!」
実のところ、クロウも従魔具の美しさに感動していたが、内心では目立ち過ぎないかと心配もしていた。レイスも同じだ。
だが、楓から煌めきを消せると聞き、感激したのだ。
「フシュジュ! フシュシュラルジュー!」
するとクロウは何度も煌めきを消したり、点けたりを繰り返す。
「ク、クロウ! 僕の影に入ってみてくれないか!」
「フシュシュ!」
レイスの言葉にクロウはすぐに従う。
目の前でクロウがレイスの影に溶け込んでいく。
すると、身に着けていた従魔具も同じように溶けていき、完全にクロウの姿が消えた。
「おぉっ! すごい、本当に消えた!」
「「驚くところはそこなの!?」」
クロウが影に消えるところを実際に見たことがなかった楓は驚きの声を上げたが、その姿を見たティアナとヴィオンが同時にツッコミを入れた。
「え? 違うんですか?」
「普通はカエデが作った従魔具も消えた! そこじゃないの!?」
「従魔具をシャドウイーターと同時に消せるというのは、一流の従魔具職人でも作るのが難しいと聞いているぞ?」
「うーん。でも、私の場合は〈従魔具職人EX〉が教えてくれるので、スキルがすごいってことですよね!」
「「……はあぁぁぁぁ~」」
楓の言葉に今度は盛大なため息を吐く二人。
その様子を見ていたレイスはくすりと笑い、そして楓へ声をかける。
「このような素晴らしい従魔具を作っていただき、本当にありがとうございました」
「レイス様がクロウのために用意してくれた材料のおかげです」
「……ふふ。本当に謙虚なお方なのですね、カエデ様は」
「そうですか?」
嬉しそうに笑うレイスを見て、楓は首を傾げる。
「王都に戻って父上と母上にこの従魔具を見せるのが、とても楽しみです」
「えぇっ!? へ、陛下と王妃様に見せるんですか!!」
「……ふふ、あはははは!」
驚きの声を上げた楓は、あわあわと慌て始めた。
その姿にレイスは思わず声を上げて笑ってしまい、楓はポカンとした顔をする。
「……わ、笑い事じゃありませんよ、レイス様~!」
「す、すみません! そうですよね、気をつけます! ……ふふ、ふふふ」
「もう!」
レイスの態度に楓は頬を膨らませる。
壁際ではティアナとヴィオンも笑っており、作業部屋は穏やかな空気に包まれた。
――ドンドンドンドン!
直後、従魔具店の扉が乱暴に叩かれた。
「ヴィオン」
「あぁ」
即座にティアナとヴィオンが動き、店舗の方へ向かう。
クロウも影から出てくると、レイスを守るように前に立つ。
「キュキュギュギギ!(おいらが守るよ!)」
「ピース……うん、ありがとう」
楓の衣服のポケットから顔だけを出していたピースが飛び出し、肩に乗って頼もしい声を上げた。
「あれ? なんでいるの?」
窓から扉の外を見たティアナが思わず呟く。
彼女の合図を待ってヴィオンが扉を開くと、外から入ってきた人物にレイスが驚きの声を上げる。
「……ミリア?」
「大変でございます、レイス様! 皇太子殿下とミチナガ様が、姿を消しました!」
肩で息をしているミリアは、開口一番でそう口にした。
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