第168話:影に溶ける従魔具
レイスが用意し、楓が受け取った材料は三つ。
レクシアやライゴウに従魔具を作った時と比べて数は少ないが、シャドウイーターは影に溶ける魔獣であり、その特性を活かせる材料自体が少ない。
自ずと、材料の数も制限されてしまう。
(少ない材料の中で、クロウが満足できる従魔具を作らないといけないんだ。……頑張り甲斐があるな!)
気合いを入れた楓は、最初に黒鎧樹の皮を手に取る。
成長の途中で日の光を浴びると変色すると言われている黒鎧樹。
日の光が届かない場所でしか育たない黒鎧樹の生育場所は、洞窟の奥深く。
非常に特殊な環境下でしか育たないため、その素材も貴重なものとされている。
レイスが持ってきた量は、10メートルほどの長さを誇っており、楓は分からなかったがこれだけで人生二周分は贅沢に遊んで暮らせるだけの価値がある。
それだけ価値のあるものをポンと置いて行くレイスもレイスだが、貴重な材料を従魔具の材料として当然のように使う楓も楓だ。
((その価値を知ったらどんな反応をするんだろうな))
楓の作業を黙って見ていたティアナとヴィオンは、全く同じことを考えていた。
とはいえ、そんなことを口にする二人ではない。
作業に集中している楓の邪魔はしたくないからだ。
「黒鎧樹の皮だけでも十分な耐久力と、影に溶け込める能力を付与できるけど、そこにもう一つの材料を融合させると、溶け込むスピードが速くなる。それがこれ――影月石の原石!」
漆黒の中に小さな金色の輝きが無数に存在する、神秘的な宝石の一つ。
こちらは黒鎧樹の皮以上の価値を持っているが、楓はそんな影月石の原石を細かく砕き始める。
すり鉢に粉となった影月石の原石が出来上がり、それを作業台に広げた黒鎧樹の皮へ振り掛けていく。
実のところ、作業速度を優先するのであれば、影月石の原石を砕いて粉にする必要はない。スキルを使って一気に融合させることもできるからだ。
しかし、事前に砕いて粉にするひと手間を加えることで、完成した従魔具の性能をより引き上げることが可能となっている。
(スキル頼りになるのはダメって言われているみたいだな)
スキルや才能に胡坐をかけば、その時点で自分の成長は止まってしまう。
楓はそんな人間を、召喚前の職場で何人も見てきた。
上司、先輩、同期、後輩。
もしかすると自分もそんな人間の一人だったかもしれない。
(おじいちゃんやおばあちゃんがいてくれたから、今の私があるんだ。相手のことを考えて仕事をすれば、手を抜くなんて考えられないって)
祖父母からの教えは、楓の中に染み込んでいる。
だからこそ楓は、従魔具職人になると決めた時から、従魔のためを考えて従魔具を作ることを決めていた。
「……よし。しっかり融合したね」
黒鎧樹の皮と影月石の原石の粉が融合し、漆黒の中に金色の光が輝く、美しい一枚の布が完成した。
シャドウイーターはその姿形を自由自在に変えることができる。
故に、決まった形の従魔具を必要とはしていない。
その代わり、シャドウイーターが姿形を変えた時に、その形に合うような従魔具がよいとされている。
しかし、そのような従魔具を作るのは至難の業だ。
なんせ、従魔具自体が勝手に形を変えるのだから。
(だけど、《従魔具職人EX》ができるって教えてくれた。この材料があれば!)
そんなことを考えながら、楓は最後の材料に手を伸ばす。
「ドッペルゲンガーの魔石!」
Sランク魔獣であるドッペルゲンガー。
その魔石の価値は、小さな国の国家予算は優に超える、と言われている。
そんな魔石をレイス個人が持っているのも驚きだが、こちらの価値についても当然だが楓は知らない。
((絶対に黙っていないと!))
横で見ていたティアナとヴィオンは、手のひらに汗を掻きながらそんなことを考えていた。
「この魔石を、形状変化で布と完全に融合させる!」
布の中心に魔石を置き、両端から魔力を流し込んでいく楓。
その魔力は闇属性。
この時点でティアナもヴィオンも、楓が全属性の魔力を扱えるのではないかという思いを抱いていたが、ここでも無言で彼女の作業を見つめていた。
(くっ! 今まで作ってきた従魔具の中でも、魔力消費が一番大きい! だけど、頑張るんだ! 絶対に、完成させるんだから!)
額に大粒の汗を浮かべながら、楓は歯を食いしばって魔力を注ぎ込んでいく。
すると、作業部屋の明かりが徐々に薄暗くなり、ティアナとヴィオンは視線を部屋全体に向け始める。
「……どうなっているの?」
「……まさかこれは、闇属性の魔力による影響か?」
二人が驚いている中でも、楓の集中力は途切れていない。
気づけば作業部屋は暗闇に包まれていた。
(もう少し……あと、少し…………よし!)
楓が心の中で声を上げた途端――作業部屋の暗闇が一気に晴れた。
この瞬間、クロウの従魔具は完成した。




