26.夏休み 街(Ⅱ) ★
(あれって、アンジェとカーティスじゃない……?それに、いつもカーティスのそばにいる……パティって呼ばれてる子ね。)
彼女は登場人物あぶり出しの際、一度候補に挙げた人間なので覚えている。パティことパトリシア=ブリントンは、カーティスの取り巻き女子の一人である。日によって入れ替わる取り巻き達の中で唯一毎回見る生徒だったので、一度はライバル令嬢かと疑ったのだが、アンジェの方が見た目も境遇も個性が出ていた為、結局彼女は候補から外したのである。大きな釣り目に少しそばかすのある生意気そうな顔、人工的なピンク髪を遊ばせた、サイドに小さくお団子を結った風変わりなハーフアップヘアは、日本で言う原宿系・青文字系のファッションを連想させる。
きらびやかな服装をした三人は、遠目からでもよく目立った。カミラも彼女達の存在に気づいたらしい。面識こそないものの、学校で有名な問題児達を見て、少し顔をしかめた。
やがて向こうもこちらに気づいたらしい。かたや問題児集団、かたや優等生二人ときたらお互いなんとなく敬遠する気持ちがあらわになる。唯一フェミニストのカーティスだけが、こちらに笑顔を向けてやってきた。
「やあ、お二人とも。君達がこの街にいるなんて珍しいね。ショッピングかい?」
「ええ、せっかくの夏休みだから少し遊びに来たの。…その口ぶりだと貴方はしょっちゅうここに来ているみたいね、カーティス=マードック様。」
カミラがカーティスのサボり癖を暗に非難する。頭の回るカーティスはおそらくそれに気づいているのだろうが、別段気を悪くした様子はない。眉を八の字にして少し困ったように笑った。
「ははっ、学年一位のカミラ様に言われてしまうと堪えるなあ…まあ、今日は夏休みだし、大目に見てよ。でも、まさか貴女に僕のことを覚えていてもらえるなんて、なんだか嬉しいなあ。」
「ちょ、変な意味じゃなくってよ。貴方達は学園でも結構目立っているのよ…あまりよろしくない方向で。」
「そうかい。たとえ悪評でも、貴女みたいな素敵なレディの耳に入ることは、男としてまたとない光栄だけどね。」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなキザな台詞を吐き、さりげなくウインクまで投げてくる。それがスベることなく様になるのだから、この色男は侮れない。
嫌味をこんな風に切り返されるとは思っていなかったのだろう、カミラは少したじろいてしまっている。
「…ま、まあ貴方はなんだかんだ成績もいいですし、あまり羽目を外しすぎないように気をつけてくださいまし。」
「お、心配してくれるのかい?カミラ様はお優しいなあ。」
「……」
すっかり言い返す気も起きないらしい、カミラはげんなりした顔でカーティスの方を見た。彼はといえば、相変わらず完璧な笑顔を浮かべている。
「カーティスぅ~、もう行こうよ。その人達のこと、そんなに知らないでしょう?それに二人で来てるのにあんまり邪魔しちゃ悪いよ!」
後ろからパティの少しいらだった声が聞こえる。嫉妬しているのだろう、言葉こそカーティスに向けられているものの、その目ははっきりとこちらを睨みつけている。端から見ても、彼女がカーティスにベタ惚れであることはよく分かった。後ろに控えるアンジェは特に何も言わないが、先日の音楽室の件を覚えているのか、先程からクラリスとは目を合わせようとしない。
「はいはい、お嬢様。分かりましたよっと。」
カーティスが少し茶化した口調でパティの方に向き直る。女子陣がやれやれと胸をなで下ろしたのもつかの間、
「ま、待ってくださいまし!……せっかくアストリアの生徒で集まったことだし、もう少しお話でもどうかしら?」
クラリスのその言葉に、一同が硬直する。カーティスですら少し驚いたような顔を浮かべた。カミラは、いったい何を言っているんだお前はと言いたげな顔でこちらを睨みつける。アンジェとパティは突然の提案に少し迷惑そうな顔をしながら返答に困っていた。
クラリスとて、別段考えなしでこんな無茶を言っているわけではない。正直、彼女だって一刻も早く彼らとおさらばしたいのだ。しかし、いかんせん、一番接点がない登場人物二人と奇跡的な遭遇を果たしたのだ。何とかして今後に繋がる関係を築きたい。アンジェに対しては先日の誤解を解きたいという思いもあった。
「は?わ、悪いけどあたし、まだ行きたいお店あるんだよね。しかも、橋の向こうだからちょっと遠いし。」
「あら、カミラも橋の向こうに用事がありましたわよね?お二人で行ってみてはどうかしら?」
「ちょ、ちょっと!!」
いきなりの無茶振りにカミラがひどく狼狽する。それはパティも同じで、いかにも合わない二人をセットにしようとするなんて、いったいどういうつもりなのだと言いたげな顔でこちらを見ていた。とはいえ、さすがにお互い、本人を前に堂々とそれを言えるはずもない。どう断ろうかと考えあぐねているようだ。
二人には悪いが、まずはアンジェかカーティスに接近したいという思いがある。パティがいるとカーティスには近づき難いし、アンジェに先日の件を切り出すのも難しくなる。その為、できれば少しだけこの場を外してほしかった。
やがて観念したようにカミラが小さく溜息をつく。
「はあ…分かったわ。パトリシア様、わたくしも橋の向こうに用事がありますの。すみませんがご一緒してよろしいかしら?」
「え、ええ!?い、いや…あんたがいいならいいけどさ。……マジでいいの?」
パティは嫌そうというよりは、ただただ驚いたようにカミラを凝視した。こう言っては悪いが、彼女は学校でも結構な落ちこぼれ生徒だ。だから優等生のカミラにはなんとなく気後れするのだろう。無意識に、提案を断るのは自分ではなくカミラだろうと決めつけていたらしい。
「ええ、わたくし達、あまり学校で接点がないですし、これを機に少しお話ししてみたいわ。」
カミラの言葉に嫌味や皮肉が込められている様子はない。意外にもことが上手く進みそうで、クラリス自身も少し驚く。パティは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、渋々カミラの提案を引き受けた。
「じゃ、じゃあ……行ってきます…」
「また後ほどね、クラリス。」
美人で背の高いカミラに比べて、パティはけして悪くないが少し癖のある顔立ちで、背も結構低めだ。学校での評価もあいまって、彼女は今、カミラと二人並んで歩くことにひどく気後れしている。ただでさえ小さい身体を縮こまらせてトボトボと橋の向こうへ歩く様子を見ていると、なんだか小動物を苛めているような気分になった。
(パティ様、本当にごめんなさい。カミラも無茶振りしてごめんね…!!)
クラリスは内心頭を下げながら二人の背中を見送る。カーティスが少し心配そうにパティの方を見つめていた。
またまた新キャラ出ました。
パティ、個人的にはかなり気に入ってます。作中にはああ書いてあるけど、実際見た目で一番個性が際立ってるのは彼女な気が…^^;




