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シンクシ 25

 僕はといえば、この街へ来た目的のうち、国王様に告げられたわけではないもう1つの個人的な目的に関して思いを巡らせていた。

 水の都、という話をうかがってから、ずっと考えていることだ。

 僕がこのアンデルセラムへ来ることになったきっかけは、シュエットが巻き込まれた水難によるものだった。

 もちろん、シュエットが無事ならば、それに越したことはないのだけれど、今のところラヴィリアに戻って確認する術は見つかっていない。 

 それは、あの水難を引き起こした(おそらくは)人物に問い詰める必要のあることで、あの規模の水難を引き起こしたということは、水を操るための魔法に関して精通している必要があるだろう。

 僕がこの世界へ来たのが間違って飛ばされたとか、水流に飲まれる際、乱れて別の場所に飛ばされた、という可能性もなくはない。

 今のところ、手掛かりと言えば、収穫祭の時の占い師のような方の言葉だけだけれど、信用に値するかと言われれば、首をひねらざるを得ない。

 見ず知らずの方にしていただいた――というよりも声をかけられた――占いの結果よりも、今まで、生まれてからずっと身近だった魔法の感覚を信じるのは、決して間違いではないはずだ。

 無駄かもしれないけれど、一応、試しておくとするか。

 どうせ、一瞬で終わることだし。

 昨夜までの騒動で街中の様子はほとんど把握しているため、探索魔法を広げるのにほとんど時間はかからない。


「えっ!」


 思わず、声が出てしまった。散歩をしていたらしい親子連れが驚いたように、近くの噴水に座っていた男女のカップルがうるさいなとでも言いたそうにこちらを見てきた。

 いや、待て、落ち着け。

 僕の方が間違っているのかもしれない。

 今度は、一応などではなく(別に手を抜いていたわけではないけれど)しっかりシンクシという街の全体を探索の範囲に指定して、探索魔法を使ってみる。


「どうかしましたか、アルフリード」


 人通りが少なかったため、姫様方にも僕の漏らした声は聞こえていた様子だ。

 シャルリア様がお声をかけてくださり、つられたように、カルヴィン様とアイリーン様、小雪さん、そしてシャラさんが僕の方へと振り向かれる。

 せっかく掴んだチャンスを活かしたいという、そうでなくとも、少なくとも真偽の確認だけでもしにゆきたいと思う、僕の思考に気づいてか、それとも気づかれずのことなのか

 何と切り出すべきか、僕は一瞬だけ迷った。

 しかしすぐに、今の僕に与えられている仕事を思い出す。

 僕の任務は、シンクシでの騒動の解決と、若様、姫様方を、無事にお城まで護衛しながらお連れして帰るところまでだ。

 今は私情を優先させて良い場合ではない。


「――どうも致しませんが。何か御気になる点でもございましたでしょうか?」


 シャルリア様は僕の言い分を全く聞いていてはくださらないらしい。というよりも、もとより聞く気はなかったというようにもお見受けできる。


「……あちらのホールはどうなっているのですか?」


「はい。御覧の通り、このシンクシの野外ホールは水路に囲まれた小島のような形態になっております」


 窓の外をご覧になっていらしたシャルリア様が御者さんに尋ねられると、御者の方は丁寧にその成り立ちなどを教えてくださった。


「ではそのすぐ隣にあるあの建物は?」


「あちらは、博物館、美術館となっております。100年ほど前の名工、リュカスが作成したと言われている、氷の女神像も、もちろん、複製などではなく、本物が展示されております」


「それは一見の価値がありそうなのですよ」


 シャルリア様に続き、小雪さんも興味を示され、僕たちはとりあえず、その美術館を見学する運びとなったのだけれど。

 美術館には、当然、盗難などの危険もあるため、厳重な警戒態勢が敷かれている。

 美術館へと至る階段の前に2人、美術館への入り口の扉の柱前にも2人、それとは別に受付のお姉さんもいらっしゃる様子だ。

 だからといって、姫様方の警護を直接任されている僕が、個人的な理由で持ち場を離れるなど、あっても良いものだろうか?

 睡蓮の浮かんだ池をご覧になられながら、姫様方が美術館本館のある小島へと移動される。

 

「アルフリード」


「はい! 申し訳ありません、シャルリア様」


 余計なことを任務中に考えていてはいけない。

 自身を律するため、不自然になってしまうほど、背筋を伸ばして答えた。


「その様子では、とても警護など務まらないでしょうから、気になることがあるというのなら、そちらへ向かって構いませんよ」


「はっ、いえ、シャルリア様。私はジェリック様より若様、姫様方の警護の任を賜っておりますから」


 だから、個人的な理由で主の側を離れるなどあってはならない。


「元々、アルフリードが来るはずだった予定に強引にどうこうすると言い出したのは私達です。あなたにも目的はあったのでしょう?」


 たしかに、水の都と聞いて、思い浮かぶ節がなかったと言えば嘘になるけれど、ここへ来たのは純粋に、最初から最後まで、例の誘拐事件に関する調査のためだ。

 それが解決し、調査の必要がなくなったところへ遊ばせておくほど、お城は暇では……いや、僕たちがいなければいないで、それこそ、仕事、というより、姫様、若様方にお仕えすることを生きがいとしていらっしゃるメイドさんたちのおかげで、仕事(雑用)を探すのは意外と大変なのだけれど。

 それはともかく。


「行きなさい、アルフリード。これは命令ですよ」


 命令ですとおっしゃられながら、シャルリア様のお顔は、どこか寂しげに見えた。

 しかし、シャルリア様には――カルヴィン様にも、アイリーン様にも、小雪さんにも、もちろんシャラさんにも――悪いとは思うけれど、シャルリア様にそこまで言わせてしまったのだから、この厚意は素直に受けたいところだった。


「大丈夫よ。アルフリードはこの旅の間中、ずっとお勤めを果たしたのだから、少しくらい離れても」


「シャラさん。ありがとうございます。しかし、護衛を女性に――」


「今のあなたよりはまともな働きが出来るわよ」


 心ここに非ずの人間は、姫様方の事を第1に考えられない人間は不要だということか。

 僕としても、確かめなくてはどうにも納まりそうになかった。


「ありがとうございます。すみません。すぐに戻りますので」


 そう言い残し、反応のあった場所へ踵を返す。




「……アルフリードの態度が気になった人ー」


 アルフリードが去った後、麦の穂のような金の髪のお姫様の問いかけには、彼女自身を含め、5人分の手が挙げられた。


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