シンクシ 26
◇ ◇ ◇
今までもシュエットの捜索、探索に関して、色々と試してはきた。もちろん、僕に出来る範囲で。
しかし、シュエットの無事に関して、手がかりさえも掴むことは出来ていなかった。
だから、多分、シュエットはあの時、渦に巻き込まれることなく、助けられたのだと思っていた。
それが今になって急に何故と思わなかったと言えば嘘になる。けれど、そんな疑問についての答えを出すより先に、身体が動き始めていた。
ただシュエットに逢いたいという、それだけの思いに突き動かされて、僕の足はシュエットの反応のする方へと向かう。
「多分、この近くだと思うのだけれど……」
地図なんかはまったく見ていない。
ただ、探索の魔法の反応を頼りにがむしゃらに走ってきた。
おかげで、自分がどこの路地にいるのか全く分からない。
しかし、たしかに、シュエットの反応はしている、そのはずだけれど……
「……これは、一体」
こんなことになったのは初めてだから、上手く言葉にすることが出来ないのだけれど、何というか、探索の魔法にひっかかる反応に揺らぎが感じられる。
「……いや、でも、まさか」
考えられることはある。
誰かがシュエットの反応を偽装している。
しかし、この世界にシュエットの存在を知っている人なんて、僕くらいしかいないはずだ。お城の方には、それほど詳しく話したわけではないし、何より、お城の方がいらっしゃるのであれば、探索の魔法に反応するはずだった。
そして、そんなことをして、何の意味があるというのだろう? 一体、何のために?
もしかして、僕をおびき出すための罠だろうか? それならば、みすみす引っ掛かりゆくことはない。
しかし、それはつまり、僕を(正確にはシュエットを、だろうけれど)この世界へと連れ去ろうとした、そして実際にこうして巻き込んだ主犯が分かるかもしれないということだ。僕だけならばともかく、シュエットの反応まであるのだから。
時に、望みを得ようと思った場合、危険に対して自ら飛び込んでゆく必要がある。
あれほどの干渉能力を有する相手に、僕が敵うとは思わないけれど、敵を知らないことにはどうしようもできない。
「ここか」
それは一見、普通の家屋だった。
周りを歩いて中の様子を探っては見たけれど、窓からだけの眺めでは、何も発見することは出来なかった。
勝手に人の家に入るのは気が引けるけれど。
後で謝ろうと、思い切って足を踏み入れる。
「失礼します」
実際に中に入ってみて、しかし、人の影は見当たらない。
家、というよりは、小屋とか、物置などと言った方が近いようにも感じる場所で、棚にはいくつもの色の違う水や粉の入った小瓶や壺が置いてあり、食べられるものではなさそうだった。
それにしても、たしかにここから気配はするのだけれど。
何故だろうと、眉を顰めつつ、奥の方の部屋へと進んでゆくと、どうやら、足元の床から聞こえる音が違う。
何か、そう、おそらくは地下に空洞――空間がある。つまりは、地下室だ。
ならば降りるための場所がありそうなものだけれど。
そう思いながら床に手をつくようにして探していると、つなぎ目があるのが分かった。
しかし、こんな石の床なんて、重いだろうに、どうやって動かすんだ……って、ここの使用者は魔法を使えるのだから簡単か。
床にある、石の扉を動かすと、地下へと降りるための階段が姿を見せた。
足音を響かせながら、その階段を降りて行く。
こんなところに居たのでは、それはいくら探してもシュエットの姿を見た人なんているはずがないのも当然だ。
階段を降りきった地下の空間の奥には、1つ、蝋燭の明かりが灯っており、床は水面があるかのように揺らめいていて、おそらくは、泉的な何かがあるのだろうと思われた。
そして、こちらの方が僕にとっては重要だけれど、その前には、黒いフードのついたローブを羽織った人がしゃがみ込んでいるようだった。
「……これはこれは。そちらから出向いてくれるとは、探す手間が省けたというもの」
この声は!
「あなたはたしか、収穫祭の時……」
「覚えてくれていたとは、光栄だね」
その人は、収穫祭の時、人目につかない露店を出していて、普段は路地の裏の方に商店を出していらっしゃるのだという女性だった。
まず、最初に確かめなくてはならないことがある。
「何故、あなたがシュエットの事を?」
あの時は、詳しいことは分からず、この世界のどこかにいるらしいということしか分からないとおっしゃっていらしたというのに。
「本当のことを言ってしまったら、お前さんをここへとどめておくことが出来ないだろう? ああ言っておけば、少なくとも真実を確かめるまでは、この国へと留まるはずだからねえ」
「……では、何故、シュエットの反応が今になって現れたのでしょうか? いえ、残念ながら、今はありませんが」
「それは、私があの娘の様子を窺っていたからさ」
女性が水面を指さすと、水が怪しく光り、もやもやと、シュエットの姿を映し出した。
「本当は生娘の方が都合が良かったのだが、あれはそう何度も使えるものじゃなくてねえ。仕方ないからお前さんで我慢しようという訳さ」
シュエットの事を尋ねようと思ったけれど、余計な事を聞いてこの人が口を閉ざしてしまわれると困る。
何しろ、この人しか分からないのだから。
「何のことですか?」
「もちろん、生贄さ」
女性は怪しく口角を上げた。




