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シンクシ 13

 ◇ ◇ ◇



「大変申し訳ありません」


 初めに訪れたギルドで、僕が何かを尋ねるよりも早く、こちらの名前を継げたところで、開口一番、受付の方にそう謝罪されてしまった。

 すでにギルドにいらしている方から、一体何事だというような視線が向けられる。

 あまり、目立つのは良くないのだけれど。


「あの、頭を上げてください。出来ればその、人の目のないところでお話を伺いたいのですが」


 これは別に、受付の方が美人でいらっしゃるとか、そういうこととは関係なく、単に人目を避けるためと、何となく話しの内容がギルド側として他の利用者の方に知られるのが良くないのではないだろうかという感じを悟ったからだ。

 応接室――とはいっても、ギルドの奥にある休憩室のようなところだったけれど――で、勧められるままに椅子に座り、話を伺う。


「実は、昨夜、いえ、あれはもう今朝だと言っても差し支えのない時間だったでしょうか。アルフリード様から引き渡された彼らのことなのですが、私たち――正確には見張りが交代するわずかな隙に、殺されてしまいました」


「えっ? 殺された?」


 僕は思わず聞き返してしまった。

 受付の女性が、再び頭を下げられる。


「面目次第もございません。ご存じの事と思いますが、ギルドでは、引き渡された犯罪者の管理を、地下の牢にて行っております。当然、通常は犯罪を犯した者自身にも、訪問者に対してもボディチェックを行うのですが、今回も同様に行ったところ、彼らが所持していた武器類はこちらで預からせていただいておりました」

 

 それは僕が提出したから知っている。


「つまり、彼らが獄中に武器となりそうな物を持ち込むことは不可能であり、何も所持していないことは、私を含め、複数で確認しております。しかし、今朝、私が昨夜のこのギルドの受付と交代する時間、それは見張りの彼らも交代する時間だったという訳なのですが、そのわずかな隙に、何者かに殺されてしまったようなのです」


 実際に殺されるところをご覧になられたわけではないということではあったけれど、彼らの首筋には鋭利な刃物で切り付けられたような跡が残っていたということであり、何者かの手による犯行だということは、まず疑いようのないことだということだった。

 おっしゃられたように、ここへ投獄された犯罪者は、肉体的にも、魔法的にも拘束され、例えば食事の水やなんかを利用して刃を作り出すことも、不可能になるのだという。

 そもそも、人の、関係者以外の侵入を許すことも、もちろん、武器の持ち込みも許可されるはずがなく、自力ではそのような事をするのは不可能だろうという話だ。


「現場を見せていただくことは出来るのでしょうか?」


「それはもちろん可能ですが……現状では、ご報告させていただいた後にと思い、何も手を入れてはございませんが、特筆すべき点は何も」


 それでも、確認するだけならば、大した時間もかからないし、すでに当人が亡くなっている以上、警戒するべき相手も(もちろん、他の犯罪者の方はいらっしゃるかもしれないけれど)いないだろう。


「承知いたしました。捕らえられた者との面会、接触は、もちろん、制限されてはおりますが、禁止されてはおりませんので、御存分に」


 普通は――関係者以外は――立ち入ることのない地下牢への階段を降りる。

 姫様方をお待たせしているままであるので、素早く検分を終わらせなくてはならない。まさか、このような場所に来ていただくわけにもゆかないし。

 問題の牢屋には、当時も鍵はかかっていたらしく、当然だけれど、開けていただいてから内部の様子を調べる。

 特に変わったところはなく、食べかけ、あるいは、手に付けただけだと思われる朝食のパンと水、そしてお盆だけが残されていた。

 犯罪者には、死刑(あるいは流刑)でなければ、社会奉仕が義務付けられる。

 アンデルセラムでは、死刑(もしくは流刑)は余程重い場合にしか課せられないため、ほとんどの場合は社会奉仕という名の強制労働となる。

 そのため、体力がなくては働かせることが出来ず、食事などは最低限出されることになっているということだ。


「もちろん、ナイフやフォークは」


「武器、凶器、その他道具となりそうなものは一切、お出しすることはありません」


 流石に食事中までずっと見張っていることは不可能だということだけれど、身体検査などもされる以上、道具となりそうな物や、ましてや服毒用の毒物など、持ち込むことは不可能だということだ。


「確認させていただきたいのですが、何も手を入れられてはいらっしゃらないのですよね?」


「ユティナ様に誓って」


 つまり、事件当時のままということだ。

 水やパンを調べてみたけれど、やはり、毒物の反応は見つけられなかった。

 ということは、食べかけのパンと、こぼれているパンくずにはそれほど意味はなさそうで、分かることといえば、食事中に犯行が行われたということくらいだ。コップはその際、はずみか何かで倒れたのだろう。

 簡素なベッドを確認すれば、完全には乾ききっておらず、わずかに湿った跡が横一直線に、手前側からは飛び散ったような血飛沫が、重なるようにして残っていた。

 乾ききっておらず?

 まさかベッドの上で食事をするわけでもあるまいし、粗相をしたという話も聞いていない。何より濡れた跡があるのは、その後ろの壁までもだった。


「何かございましたか?」


「いえ、何も」


 確証はないし、証拠とするには弱すぎる。

 しかし、僕は何となく予想することは出来ていた。

 というより、思い浮かんだことがあった。

 あまりにも突拍子もない話ではあるのだけれど、決してあり得ないと断じることは出来ない。何故なら、おそらくは世界を越えてまで作用させることが出来るのだから。

 

「ありがとうございました。あまり時間をかけ過ぎると不要な心配をおかけしてしまうことになりますので、この場は失礼させていただきます」


 しかし、それを話したところでどうすることも出来ず、証拠もないので信じていただけることもないだろう。


「――お待たせしてしまい、申し訳ありません」


 馬車へと戻り、どう報告するべきか考えた。

 まさか、姫様方に対象の人物はすでに殺されていましたなどと――


「アルフリード。遠慮する必要はありません。私達は覚悟を決めてここへ来ていますから」


 何も報告しないうち、馬車へ戻り、顔を見せただけで、シャルリア様がそんなことをおっしゃられたのには、少なからず驚き、思わず動揺を見せるところだった。

 いや、実際に目を見開き、瞬かせるくらいはしてしまった。


「シャルリア様」


「その程度のことは、戻って来るまでの、馬車の窓から見えるあなたの表情をみるだけでも十分です」


 僕は小さく息を吐きだした。

 この程度のことで驚いていては、とてもシャルリア様のお味方をするなどとは言えない。


「承知いたしました。包み隠さず、ご報告いたします」


 馬車へと入り、カルヴィン様の隣、アイリーン様、シャルリア様、小雪さんの正面の席へと座ると、ギルドで見聞きしたことをご報告させていただいた。

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