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シンクシ 14

「なるほど。実際に現場を見てみなくては確証には至りませんが、おそらくはアルフリードの推測通りではないかと――もちろん、ここのギルドの職員の方が行った偽造工作でなければの話ですが――思います」


 僕が説明を終えた後、過程を飛ばされ、結果の推察だけを口にされたシャルリア様に対して、アイリーン様と小雪さん、カルヴィン様が首を傾げられる。


「お姉様、一体どういうこと?」


 アイリーン様が代表してお尋ねになられると、シャルリア様は収納されていたカップを取り出され、中に水を注がれた。


「これが凶器です。仮に黒幕と言っておきましょう。今回の件の黒幕、ええ、もちろん、彼らは実行犯だっただけで、計画したのが別の人物だったことは今回の件で明らかですが、その黒幕はこうやって実行犯だった彼らの口を塞いだのです」


 シャルリア様が、水を注がれたカップを外へ持ち出して地面に置かれる。


「お姉様? あのカップは何? 一体これでどうやって首を切ることが出来るっていうの?」


「アイリーン。今から姉上がそれを証明してくださるのだ。少しは落ち着きを持て」


 カルヴィン様に諫められ、アイリーン様が大人しく馬車に戻られたところで、シャルリア様も馬車へと戻られ、シャラさんに扉を閉めるようにおっしゃられた。

 僕とシャラさんが馬車の外に残り、馬車の扉が閉められると、中から御4方が、シャルリア様の置かれたカップへとじっと注目される。


「アルフリード、何をやっているのよ?」


 僕が近場の地面を見つめながらきょろきょろとしていると、シャラさんに尋ねられてしまったので、


「話だけでは分かり辛かったかと思いますが、多分、シャルリア様のなさろうとしていることには必要な、というよりも、あった方が良いかと思いまして」


 シャルリア様に声をおかけして、しばらく時間をいただく。


「それで、何を探しているのよ」


「手ごろな大きさの木の枝でもと思ったのですが……」


 シャラさんは思い切り訝しむようなお顔をされたけれど、シャルリア様がおしゃられたのなら必要なのね、と探すのを手伝ってくださった。

 しかし、地面に落ちている物など、見栄えのしない小枝ばかりで、ギルド前の道が掃除されていることがこの時ばかりは恨めしく思えた。


「アルフリードの言う、大きくて見栄えのするようなものはギルドで保管しているんじゃないかしら? 火をおこしたりするのに必要だろうし」


 ちょっと待っててと言い残されたシャラさんは、ギルドまで走って行かれ、手ごろな大きさ、かまどで火を起こした後、燃料にするための物と思われる巻木を1本、持って戻ってこられた。


「1本だけならと譲っていただけたわ。これで十分かしら」


「はい、十分過ぎると思います」


 要は、馬車の中にいらっしゃる姫様方からの見栄えが良ければ構わないのだ。


「シャラさんはこちらに」


 シャラさんから巻木を受け取った僕は、シャラさんを背中に庇うような形で、宙に浮かせた巻木と、そのすぐ近くの地面に置かれたカップから遠ざかる。

 必然的に、シャラさんは横に出した僕の腕に抱き着かれる、とまではいかないけれど、横に伸ばした僕の腕に柔らかいものが押し付けられる。

 しかし、今はそれに気を取られている場合ではなく、一歩間違えれば(シャルリア様ならばそんな間違いはされないと確信しているけれど)怪我をしかねない。


「シャルリア様のことですから、上手く調節なさるはずですので大丈夫だとは思いますが、念のため、僕の後ろにいてください」


 僕が障壁を展開した直後、カップからゆらりと立ち上がった水が、薄く、庭の草を刈る鎌を刃の部分だけ大きくしたような形状に変化する。

 そして一気に巻木を切断し、切断された半分の巻木が僕たちの方へと飛んできて、シールドにぶつかって地面に落ちた。


「おそらくは、これが今回の事件の過程です」


 シャルリア様が冷ややかな視線と共に、馬車へと戻った僕たちにも、説明をくださる。


「今回は巻木だったために、血飛沫が上がったり、撒き散らされたりすることはありませんでしたが、実際は人体を切断、そうでなくとも切り裂いたわけですから、アルフリードの報告通り、牢の壁、あるいはベッドの上にも血痕が残っていたとしても、何の不思議もありません」

 

「なるほどなのですよ。ですが、シャルリア。それにはあのギルドにおける、それも捕らえられている方の食事の時間を知る必要があるのではありませんか?」


 おそらくは、相手も人間なのだから、食事もすれば、睡眠もとることだろう。

 

「そうですね。しかし、おそらくはそれも問題にはならなかったのではないかと思います」


 シャルリア様は僕へと視線を向けられると、


「アルフリード。あなたのことですから、一応確認を取りますが、話してしまっても構わないでしょうか?」


「それには及びません、シャルリア様。私が自分でお話申し上げます」


 僕は自分がここ、アンデルセラムへ来ることになったきっかけを、小雪さん以外は御存知だったはずなので、主に小雪さんにお聞かせするために簡単にお話しさせていただいた。


「そんなわけで、ここではない世界、アルフリードの元居たというラヴィリアにまで、おそらくは世界を越えて力を作用させるまでのことが出来る相手です。それだけのことが出来るのであれば、何故、王宮を直接狙わないのかという疑問はありますが、それはお城の方が優秀だということにしておきましょう。ともかく、そうであるならば、今回の程度の事、相手にとっては造作もないことでしょう。現に、今やってみせたように、近くであれば私でも狙いをつけることは簡単でしたから」


 まあ、おそらくお城を直接狙わないのは、狙えないからだろう。

 お城にお仕えなさっている方たちは、もちろんシャラさんを含めて、国王様の信に背かれるようなことは、ほとんどなさらないだろう。以前、ゲンデーロ伯爵――仕えていたとは言い難いかもしれないけれど――の件があるため、断定は出来ないのが口惜しくあるところだけれど。

 もちろん、上下水道のすべてを管理しているわけではないけれど、それではお城を狙い撃ちにすることは限りなく不可能に近いだろうし、実際に仕掛けてこないことからも、出来ないとみてまず間違いないだろう。魔法師団の方の守りのこともあるし。


「もっとも、今回の件に関して言えば、先程のようにして犯人を殺めた者は実行犯ではなく、証拠も残したりはしていないでしょうから、追い詰めることは無理でしょうが」


 とりあえず『今回の件に関する』犯人について考えましょう、とシャルリア様は「お姉様、すごーい!」と抱き着かれたアイリーン様を引き剥がされながらおっしゃられた。

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