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シンクシ 6

 ◇ ◇ ◇



「ユーグリッド、弱いわねー」


 何度目か分からない最下位の決着に、アイリーン様はむしろ感心されているようにおっしゃられた。

 部屋へと戻ってきてからベッドの上で行われたカードの勝負において、僕は負け続けた。 

 純粋にそれだけが要因とは言い難いけれど、運にかかっている比重の大きな勝負ごとにおいて、負け続けるというのがどれほどの確率なのか、にわかには想像し辛い。それはカードをシャッフルされたシャラさんが流石だとしか言いようがなかった。

 アイリーン様が伸びをされて、小さくあくびを漏らされる。


「アイリーン様。そろそろお休みになられた方がよろしいかと。夜も大分更けてきておりますし、夜更かしをされ過ぎますと、美容と健康の敵になりますから」


 シャラさんも説得に加わってくださり、数分後には姫様方にベッドに入っていただけた。

 カードの効果があったとはいえ、これほどすんなりとお休みいただけたのは、カルヴィン様とシャルリア様も説得を手伝ってくださったからに他ならない。

 多分、シャルリア様も、カルヴィン様も、僕がこれから外へ出かけるということを察していらしたのだろう。

 ちなみに、小雪さんはアイリーン様よりも前にお休みになっていらした。

 普段布団に入られる時間だということで、旅先でもそのサイクルと崩されるおつもりは無いらしかった。


「では、行って参ります」


 手短に、それだけを告げる。

 僕なんかに言われるまでもなく、シャラさんが姫様方から目を離されるとは思えないし、異常があればすぐに目を覚まされるはずだ。

 一応、僕も何かあったらすぐに戻って来られるよう、部屋に仕掛けも施してゆく。


「ユーグリッドにはいらない心配かもしれないけれど、気を付けてね。何かあれば、姫様方も悲しまれるから」


 姫様方がお休みになられているので、普段のように、少しくだけた口調でシャラさんが心配して声をかけてくださった。


「十分に心得ています。任務を途中で放り出すような事には致しません」


 多少の怪我ならば治癒の魔法で何事もなかったかのように修復できるし、などとは考えない。

 そのわずかな油断が隙を生み、致命傷にならないとも限らないからだ。


「うん。こっちは任せて」


 シャラさんが、浴衣の上から太ももの辺りを叩かれる。

 おそらく、その辺りに例のナイフを隠し持っていらっしゃるのだろう。

 どうやって取り出されるおつもりなのかは、あえて聞かないようにした。相手が男性であれば、一瞬くらいは隙を生じさせることの出来る場所だろう。

 それは置いておいて。


「その服でよろしいのですか? 動き易そうだとは思えませんが」


 実際に僕も外へ調査に出かけるために、元の使用人の服に着替えを済ませている。

 

「それはそうだけれど、姫様方の前でメイド服を着るのも怪しまれるというか、勘繰られそうだったし、着替える場所も」


 部屋に戻ってきてからは、僕も、カルヴィン様も揃っていたので、着替えることは難しかったのだろう。


「では、僕はすぐにここを離れますから、その間に――」


 言いかけたところで、素早く太ももの辺りから引き抜かれたナイフを僕の正面で振り下ろされたので、僕は咄嗟に挟んで止めた。


「ユーグリッドって、実は馬鹿なの? もし、あなたが離れて、私が服に手をかけたところで襲撃されたらどうするつもり? 私に半裸で応戦しろとでも言うつもりかしら」


 体勢的に不利なので押し込まれる。

 顔は笑っていらっしゃるけれど、雰囲気は怖い。


「い、いえ、そのようなつもりは決して……」


「じゃあ、何、あなたがすぐそこにいるところで私に着替えろっていうの? もしかして、覗きの――」


「で、では、行って参ります」


 話が不穏になりかけたので、僕は障壁で軽くシャラさんとの間に間合いを作ると、はじいた勢いを利用して後方へと転がり、さっと窓を開いて、空へと身を躍らせる。

 後方からシャラさんの「まだ話は終わってないわよ」という声が聞こえてきてはいたけれど、聞いていないふりをしながらそのまま飛び出す。

 部屋のベランダにもついているお風呂の柵の縁までシャラさんが追いかけてはいらしたけれど、手を振っていらしたので、多分、お見送りに来て下さったのだろう。

 子供じゃあるまいし、大丈夫だとは思ったけれど、心遣いは嬉しかった。

 何はともあれ、まず向かうべきはギルドだ。情報の正誤はともかく、最も情報が集中する場所に確認しに行くのは当然だ。

 先程立ち寄ったので、場所は把握している。

 夜にしか採集できない素材だとか、夜中が主な活動時間である魔物や生物もいるので、ギルドは24時間いつでも開いている。


「ご用件をお伺いいたします」


 依頼が掲示されているボードへ向かったけれど、人身の売買に関する情報も、それにまつわる依頼も、発見することは出来なかった。

 なので、受付の方に直接訪ねる。


「実は、私は王都から来たのですが」


 王都から来たということ自体は話してしまって問題ないだろう。

 昼間宿の事を尋ねた方とは違う方だったけれど、守秘義務は変わらないはずだ。


「……この街で人身売買が行われているという噂の真偽は如何ほどでしょうか?」


 持って回った聞き方をしても意味があるとは思えなかったし、どうせ調べることは決定事項なのだから隠したところで意味はない。

 夜中でもある程度の人はいるし、隠さなければ、向こうから情報の方がやってくるかもしれない。


「そのような噂はたしかにございます」


 あっけなく受付の女性が認められたので、僕は多少なりとも驚いた。


「ですが、真偽は存じ上げておりません。ご存じの事とは思いますが、私共はいわば受け皿のようなものですから。料理人がフライパンを作ったりはしないように、農家や漁師が食堂を開くわけではないように、鍛冶屋の全員が鉱夫となって山に入るわけではないように。依頼という形で提示は致しますが、自分で調べに行くようなことはございませんので」


「分かりました。では、その情報を教えてはいただけますか?」


 受付の方に情報をいただいて、お礼を述べた後、僕はギルドの中に、自分で言うのもなんだけれど、こんな時間にもかかわらずいらっしゃる数名の方にもお話を伺わせていただいた。


「そのことなら知っているよ。だけど、俺たちも個人のため、もしくは家族のために、金を稼がなくちゃいけないからな。確実にあると分かって、報酬も出るならやるんだが、こっちも時間が無限にあるわけじゃないからな」


 多少の差異はあれど、大方、そのような反応だった。

 僕たちは国王様の命により、たしかに報酬もいただくことになっていて、ここへ調査に来たわけだけれど、生活が懸かっているのでは、あやふやな情報だけでは動けないというのは確かに理解できることだった。

 

「ありがとうございました。情報の提供、感謝いたします」


「いいって、気にしなくて。でも、気を付けろよ。ここは情報の集まる場。お前が聞き込みをしているという情報も、すぐに広まることだろうからな」


 それが狙いですとは言わないでおこう。

 それにたしかに、噂が広まることによって、姫様方が危険に晒される可能性も高くなるというリスクも存在しているのだから。

 ベストなのは、日のない時間、姫様方を巻き込まないように僕だけを襲撃して来てくれることだけれど……こんな考え方だと、怒られてしまうかもしれないな。出がけに注意されたばかりだし。


「ご忠告、感謝いたします」


 僕はギルドを後にした。


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