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察しの悪い奴はチャンスを逃す

 小雪さんの爆弾発言もあったりと、大層盛り上がった食事が終わり、国王様からの頼まれごとをこなすために後片付けを急いで終わらせて部屋に戻ろうとしていた僕のことを、厨房の前の壁に寄りかかられたシャルリア様が待っていらした。


「アルフリード……」


 右手に巻いていらっしゃる、先日のお誕生日に僕がお贈りした腕輪をぎゅっと握りしめられながら、周りに聞こえないように、消え入りそうな声で、僕の名前を囁かれる。


「どうかなさいましたか、シャルリア様」


 僕にお話があるのだろうことは明白だったので、一応、後ろへと視線を向けると、シャラさんたちは、しっかりやるのよ、とばかりにウィンクをくださって、シャルリア様に頭を下げられてから、仕事へと向かわれた。

 僕はシャルリア様の正面で、腰をかがめて目線の位置を近づける。

 宝石のような真っ赤な瞳を真正面から見つめると、シャルリア様は大理石のような真っ白な頬を赤く染められて、何事かおっしゃられたそうに、瞳を揺らされた。左手では相変わらず、もじもじと腕輪をいじっていらっしゃる。


「あ、あの、アルフリード。アルフリードは……この後、こ、小雪と一緒に……ギルドへ……向かうのですよね」


 やっとのことで話していらっしゃる様子で、途中で切れ切れになってしまわれながら、言葉を紡がれる。

 シャルリア様がこのようにお尋ねになるのは、大変珍しい。

 僕が小雪さんをギルドへとお連れすることは、つい先ほどの朝食の席でジェリック様に言い渡されたことで、その場にはもちろんシャルリア様もいらっしゃったため、すでに御存知であるはずだからだ。

 もっとも、小雪さんが興奮していらしたように、デートという訳ではないけれど。その証拠に、片付けをしている最中、シャラさん達から、出かけるのならついでにと、お使いなども頼まれている。

 そんな分かり切っていることを確認するために、シャルリア様はわざわざ時間をかけたりはなさらない。

初めてお会いしたときにも、僕が他のところから流されてきたという珍しい事象には興味を示されていらした様子だったけれど、それ以上、突っ込んで聞かれることはなかったし。まあそれは、初対面で、しかも直前の状況が状況だったので、不審がられていたということもあったのだろうけれど。

 わざわざ僕が片付けを終えて出てくるのを待っていらしたということは、よほど大切なご用事があるということだろうか。


「はい。国王様からもそのように申し付けられておりますので、そのつもりですが……」


 街へ行ったらついでに手に入れてきて欲しいものがあるとか?

 それともまた、城内での会話から、何か良からぬ情報を手に入れられて、先日のお約束の通り、僕に話してくださろうとしてくださっているのだろうか。

 それで、こんな風に他人に頼ることは初めてでいらっしゃるだろうから、戸惑っていらっしゃるとか?

 頼っていただけたことが嬉しくてつい頬を緩ませてしまいそうになっていると、


「その……私も……先日、お祭りで外へ出た時に楽しかったので、また……」


 どうやら、それは僕の早とちりだったらしい。

 後の方になるにつれて、シャルリア様は口ごもるようにされてしまったので、はっきりとは聞き取ることが出来なかったのだけれど、どうやら、先日、お祭りで外に出られた時のことがお気に召されて、また外出なさりたいということなのだろうか。

 アイリーン様が以前、シャルリア様は普段、お部屋に閉じこもって分厚い本を並べられたり、よく分からない薬品なんかの調合をなさっていたりと、あまり外へ出られないのだとおっしゃっていた。

 普段から庭やら、お城の中でも、はしゃいで走り回られて、行き過ぎて注意までされていることのあるアイリーン様とは対称的だ。

 しかし、お城の中にこもりきりになられるよりは、たとえその多くが馬車での移動であったとしても、外へと出られることは良いことだと思う。

 僕もここへ流されてくる前には、食材の仕入れなどに色々と街や、あるいは野山や森の中までを回ったこともあるし、そうすることで、コネや、伝手も広がった。

 もっとも、それらがシャルリア様に必要かといわれると、そんなことをわざわざなさらずとも、パーティーなどでいくらでも、しかも向こうの方からいらっしゃるくらいだと思われるので、シャルリア様には、そういった意味での社交性は必要ないのかもしれないけれど。 

 それはそれとして、普段、あまりお城から出られないシャルリア様が、外出されたいというのは、歓迎すべき事柄なのだと思う。

 アイリーン様は、普段からお城の外へと遊びに出かけてみたいとおっしゃられていて、そればかり強すぎるというのも問題ではあると思うけれど。

 ただ、警護の心配を除けば、という問題はある。


「承知いたしました。それでは私の方から騎士団の方へとお話をしておきますね」


 加えて、御者さんと、それから、国王様と王妃様にも。もしかしたら、アイリーン様もご一緒に出掛けられたいとおっしゃられるかもしれないし。

 しかし、それは僕の早とちりだったらしい。


「いえ、その、そうではなくて……ふ」


「ふ……?」


 とはいえ、外へ出かけてみたいとは思われていらっしゃる様子なので、時とか、場所とか、何か決まっていることがあるのかもしれない。

 もしくは、あまり大人数で行くことの出来ない所だとか。

 それで、これは都合の良い妄想になるのだけれど、先日賊を撃退したところを見られている僕のところへいらしたとか。

 しかし、シャルリア様もいらっしゃるというのならば、やはり僕1人というのは無理が出るかもしれない。

 もちろん、全力を尽くしはするけれど、万が一、何かあったらと考えると、お相手が1人の場合ならばどうにでもなるけれど、それ以上となると、お目付け役というか、サポートというか、人手が欲しくなる。相手が女性だというのであればなおさらだ。

 もっとも、護衛というのは、その万が一が許されない役割であるということは、重々承知している。この場合は本当に取り返しのつかないことになるからだ。


「や、やや、やっぱり、よいです……」


 しかし、シャルリア様は、僕が答えを聞く前に、顔を赤く染められて、パタパタと走っていってしまわれた。

 今の会話だけでは、僕のところに入ってきた情報が少なすぎて判断がつきかねる。

 とにかく今は、小雪さんのこと、ご家族の下へとしっかりお送りすることを考えなくては。

 僕は準備を整えるべく、部屋へと急いだ。


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