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誘拐犯と誘拐犯

 ◇ ◇ ◇



 シャルリア様のことは気になったけれど、今の僕には小雪さんをギルドへ――最終的には御実家へと――お送りするという任務がある。

 昨夜の件もあるし、フリンデル王家の名を傷つけないよう、そしてそれ以上に、小雪さんを危ない目や怖い目に合わせないよう、しっかりしなければならない。

 余計なお世話かもしれないけれど、シャルリア様がどうかはともかく、少なくともアイリーン様は小雪さんと仲良くなられたご様子だったし、カルヴィン様もまた関りを持ちたいとおっしゃっておいでだった。

 お城の馬車にコトコトと揺られながら、ギルドへ向かう。


「アルフリード。あれは何なのですか?」


 途中、馬車の窓から見える景色で、小雪さんから尋ねられることに対して、

 

「あれは王立の劇場ですね。毎年、年末の冬になると、芸術祭が開かれるということです。例えば楽器の演奏もあって、シャルリア様もヴァイオリンの演奏をなさるのだと伺っています」


 とか、


「あちらは学院になります。身分、出生に問われず、どなたでも――もっとも、学費は必要だということですが――入ることが出来、それぞれの生徒が、御自分のやりたいことをある程度自由に学ぶことが出来るようにと、やはり、王家と、それから、いくつかの貴族の方からの寄付にもよって運営されているということです」


 とか、


「薔薇園の隣に見えますフェリヴィア教会では、孤児院のような役目も担っていらっしゃいます。シスターでいらっしゃるメーディカ様はとても信仰心の厚く、義侠の心を尊ばれる、素敵な方です」


 などと、引っ越していらしたばかりだという小雪さんにも、この国に馴染んでいただけるように、説明をさせていただいた。

 もっとも、僕もそれほど詳しいわけではなく、シュエットを探している間にそれとなく見知っただけの知識ではあるのだけれど。

 しかし、引っ越してきたばかりで、すでに身柄を狙われているなんて。

 やはり、相当良いところのお嬢様だということなのだろう。偶然、引っ越してきたところを見られてしまったとか、それで、土地勘のないうちに攫ってしまおうなどと考えられたのだろうか。

 誘拐犯の思考など、いや、動機は、今考えるべきではないか。すくなくとも今は、僕が気を張って注意していれば済むことだ。

 やがて馬車がギルドへ到着したらしく、ゆっくりと停車したので、


「小雪さん。しばらくこちらで、馬車の中でお待ちいただけますか? まず、私が先に向かって、人探しの依頼だったりが提出されていないかどうか確認して参りますので」


 小雪さんの着ていらっしゃる、着物というこの服は、あまり行動するのに優れているとは思えない。

 もちろん、馬車からギルドまでの距離など、小雪さんが昨夜、あのお祭りまでお1人でらしていたことを考えても、大したものではないのかもしれないけれど。

 それとは別に、やはり、外に出るよりも王家の紋章の入っているこの馬車の中にいた方が、昨夜の方達に狙われているかもしれない以上(この真昼間からの往来で堂々と襲われるとも考えにくいけれど)安全だと考えられる。


「おはようございます、アルフリードさん。申し訳ありませんが、本日も新しい情報は入っておりません」


 受付に座られた、紫の髪を長く伸ばされた女性に、申し訳なさそうに頭を下げられてしまう。

 シュエットの捜索の依頼を出していて、その件でいくつか依頼も、簡単なものをこなしていたりもするし、そんなこんなでこのギルドには何度も顔を見せているため、受付の女性の方達にはすっかり顔を覚えられてしまっていた。

 もちろん、見かけてはいらっしゃらないですかと尋ねているのはギルドの方だけではなく、買い物に出かける先でも同じことだけれど。

 もっとも、顔を覚えられているというのは、僕だけに限った話ではなく、リースさんやシャラさん達も同じで、お城からの買い出しに出かけてきていると、王家のお使いの紋章を持っていればそれは当然覚えられることだろう。

 自分は王族の関係者ですと周りに喧伝することが、良いことなのか、悪いことなのかは別にして。


「そうですか。いつも、ありがとうございます。ですが、本日の用件はそれとは違うものもありまして」


 ギルドには基本的に夜中であってもどなたかがいらっしゃるらしい。

 それはたとえば、夜中にしか出来ない依頼があったり、何かあった際に、即座に対応するためだとか。

 だから、昨夜帰っていらっしゃらない小雪さんの事を心配なさったお家の方が、すでに捜索の依頼を出されているのかと――少しは――期待していたのだけれど。


「いえ、残念ながら、そのような依頼は受けてはおりません」


 小雪さんの外見の情報とお名前をお伝えしたところ、受付の女性、ハーティカさんは、申し訳なさそうに首を横に振られた。


「そうですか。ありがとうございました。では、もし、そのような依頼がありましたら、こちらの事をお伝えするようにお願いできますでしょうか?」


 その程度でしたらと、無償で引き受けてくださった。これから小雪さんの案内でお宅へお送りするわけだけれど、行き違いになってしまわないとも限らない。

 ありがとうございます、よろしくお願いいたしますと頭を下げてギルドを後にする。

 

「見つけたぞ!」


 ギルドを出て、顔を上げた瞬間に、横から声が掛けられた。

 見れば、昨夜と同じ、黒いスーツを着こまれた方がいらっしゃって、声を上げられるのとほとんど同時に、やはり、多くの同じ格好をされた方たちが集まって来られた。

 なるほど。僕たちがここへ来るだろうと予想していたのか。あるいは、考え付く場所を手当たり次第に探すつもりだったのか。

 それにしても、誘拐犯にしてはものすごい執念というか、執着というか。

 なんとも運が悪い。

 

「さあ、教えて貰おうか。あの方はどこにいらっしゃるのか」


 誘拐犯に、誘拐対象の居場所を教える輩がどこにいるというのだろうか。


「あなた方にお教えするとでも?」


 相手にはこちらを取り囲むだけの数がいる。

 圧倒的に不利な状況ではあるけれど、馬車が囲まれている以上、この戦闘は避けられない。


「ならば、直接、その身体に聞くまでの事。上手に鳴いてもらうぞ」


 できるものなら、と、普段ならば言いたいところだけれど、まさか、この場で御者さんを巻き込むわけにはゆかないし、当の小雪さんが、まさにその馬車の中にいらっしゃるのだ。

 手のひらにじわりと汗が滲む。

 相手の腰からゆらりと剣が抜き放たれ、周りにすでに興味深そうにお城の馬車を見に集まっていらした方の中にざわめきが広がる中、そんな空気を止めるように、馬車の扉が開かれた。


「アルフリード。あの、少し、急用が出来たのですが」


 恥ずかしそうに頬を染められた小雪さんが、馬車を降りて僕のところまで歩いてこられる。

 まずい。

 この状況で馬車の中から出てこられては――

 

「小雪さん!」


「小雪お嬢様!」


 僕と、黒スーツの誘拐犯の声が重なる。


「は?」


「何?」


 驚く声まで同時だった。

 お嬢様だって?

 それは一体どういう――


「まあ、皆さん。こんなところで何をなさっているのです?」


 僕が――おそらくは黒服の皆さんも――混乱している中、当事者の小雪さんだけが、何かご存知の、というよりも、不思議がっていらっしゃる様子で首を傾げていらした。

 

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