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シャルリア王女 3

 王妃様に宣言はしたものの、具体的にはどうしたら良いものか、さっぱり思いつかない。

 いや、手掛かりがないわけではない。

 シャルリア王女は言っていたのだ。自分は皆とは違うから、いつも1人でやってきたのだと。

 お城の警備に限った話ではないのだろう。

 王妃様の話では、シャルリア王女は、勉強も、魔法も、何でもすぐに出来るようになってしまって、本当に欲っするものが分からないとおっしゃられていた。

 いつも、何をしている時でも、氷のような表情をしているのだと。

 つまり、僕が最初に出会った時の、あの好奇心に満ちたシャルリア王女の様子は、かなり希少だったということだ……まあ、一通り、シャルリア王女の好奇心を満たすことが出来る程に聞き終えられると、それ以上は何も聞かれたりしなかったのだけれど。

 シャルリア王女の好奇心を、心を満たすにはどうしたらいいだろう。

 古来より、人の心を動かすのは、いつだって恋心だと相場は決まっている。

 物語だったり、詩だったり、あるいは歌だったりに、そういった内容のものが多いのは、実際にそうだった人が多かったから、つまり、そういった話に共感する人が多いからなのだろう。

 では、僕がシャルリア王女に恋をすれば問題を解決できるのだろうか。

 いや、それは無理だ。

 たしかにシャルリア王女が、世界の王室美女ランキングなどという本があるのだとしたら、今ですら、上位に名を連ねるだろう美少女であるということは事実だ。見惚れないわけはない。

 しかし、それと恋心とは別の話で。

 あの王女様の好奇心を満たすことの出来るもの。

 僕のような一過性のものではなく、恒久的なものとは一体どのような事柄だろう。

 考えていても埒が明かない。

 年下の女の子の考えている事なんて、一介の料理人である僕なんかに理解できるはずもない。そういったところは、ヒモとか、ジゴロなんかと呼ばれる人たちの領分だ。

 そう思ってシャルリア王女を探して城中を歩き回るのだけれど、これが全く見つからない。

 広い敷地に、広い建物なのだから、ただ闇雲に歩いて探すのは無理があった。しかし、女の子とはいえ、女性を相手に急な用事でもないのに探知の魔法を使うというのは気が引ける。


「姫様方なら、この時間はお勉強をしていらっしゃるはずよ」


 それなら、邪魔をするのは悪い。

 教えてくださったティエーレさんにお礼を告げると、昼食の仕込みに向かう。

 昼食には食室へとお集まりになるはずなので、そこで捕まえることが出来るかと思っていると、片づけをしている間に、シャルリア王女の姿は消えてしまっていて、捕まえるどころではなく、まず、お声をかけることが難しい。


「お姉様? お姉様なら最近は図書室に籠っていらっしゃるわよ。古文書をいくつもお開きになって、私にはさっぱり理解できないし……そんなことより、これからメイドのティッタと付き合っているらしい庭師のルワールに事の真相を確かめに行くのだけれど、アルフリードも一緒に行く?」


 カルヴィン様は王様になるためのお勉強で忙しそうになさっていて、同じご弟妹のアイリーン様にお尋ねしたところ、海のように青い瞳を煌めかせながら出歯亀に誘われてしまった。

 そんな風に興味津々という雰囲気で誘われると、姫様のお誘いを無碍にお断りするわけにもゆかないし、非常に困るのだけれど。

 そうだよなあ。

 アイリーン様とシャルリア様はお歳は2つしか離れていないということだったから、同じようなことに興味を抱かれていてもおかしくないだろうに。いや、だからといって、他人の出歯亀に興味を示されても困るというか、コメントしづらくはあるのだけれど。


「あっ、せっかく、2人が午後の逢引きをするって情報を掴んでいるのに、遅れちゃうわ。何でも昼食の時間を遅くずらして、2人でとっているそうよ。こうしちゃいられないわ」


 同行は丁重にお断りさせていただくと、アイリーン様は、じゃあ、後で真相を教えてあげるわ、と陽だまりのような笑顔で言い残されて、さっさと庭の方へと駆けて行ってしまわれ、それはとても素敵な笑顔だったため、他人の恋路は邪魔せず放っておいてあげてくださいと言うのをすっかり忘れてしまった。

 女の子らしく、他人の恋路のあれやこれやに興味津々なご様子のアイリーン様はともかく、シャルリア様に興味を持っていただけるほどのこととも思えなかったけれど。


「そうだ。こんな風に落ち込んでいる暇はないんだった。いくらお城の人たちが、ギルドに依頼まで出してくれて、シュエットのことを探してくださっているからとはいえ、それに甘えているようではだめだ」


 頬を叩いて気合を入れ直すと、建物の角を曲がった向こう側に丁度人影が見えた。

 背格好からして大人ではなく子供であり、黒っぽい色のコートをすっぽりと頭から被ったその人影は、何事もないかのように、ふわりと城壁を越えていってしまった。


(えええええっ! そんなことして大丈夫なの? というか、護衛とか、誰かに話しているの? いや、それならあんな風にこそこそと行く必要はないわけだし、やっぱり内緒でってことだよなあ)


 あの背格好の人物は、お城には3人しかいらっしゃらない。

 カルヴィン様は王様になられるためのお勉強をなさっているため、ここへいらっしゃるということはあり得ない。

 メイドさんたちから話を聴いたり、自分で見て判断したことだけれど、カルヴィン様は非常に真面目で、真っ直ぐな、責任感のある方で、あんな風にはまずなさらないだろう。外へ出られる場合には、ちゃんと許可をおとりになり、しっかりと正門から出て行かれることだろう。もちろん、同行者もお付けになって。

 アイリーン様はティッタさんとノワールさんの恋の真相を確かめに行かれている最中だ。

 あのきらきらとした瞳に嘘は見受けられなかった。

 とすると。

 一応、まだ探索魔法の範囲内だけれど、仮に情報系統の魔法への対抗障壁を展開されると、非常に厄介な事態になり得る。周りに人はおらず、昨日と同じような状況だった。

 許可を取っている暇はない。

 いくら、シャルリア王女が歴史上類を見ないくらいに優秀なのだとしても、心配になることには違いがない。

 何もない、仮にあっても自分で対処できると計算されたうえでの行動で、もしかしたら、僕が行くとその計画にイレギュラーが発生してしまいかねないことだとも思ったけれど。

 それでもやっぱり、1人で行かせることは出来なかった。

 9歳の女の子を、お城に暮らしていらっしゃるご家族の目を盗んでまで向かわなければならないようなところへ1人で行かせるというのは、男として許容できなかった。

 使用人の仕事が主の快適な生活をお創りする、そして守ることだというのであれば、これも立派に仕事をこなしていると言えるだろう。

 そんな風に、決して好奇心だけによるものではないと自分を納得させると、僕は使っていた箒を、今、シャルリア王女が越えて行かれた城壁に立てかけて、後を追いかけるように、壁を飛び越えた。

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