表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

友達が親友に

「……取ったわ。一本」

珍しく、由眼が驚いたような声を漏らした。すると、で見ていたひまりが飛び上がる。

「取ったよ! 剣聖から一本取ったよ!! すごいよこれ!!」

興奮した様子で叫ぶ。だが由眼はそれどころではなかった。試合場に倒れ込んだ玲司の元へ駆け出す。

「玲司!」

その様子を、恒一はただ黙って見ていた。歯を食いしばったまま。試合は玲司の続行不能により終了。結果は剣聖の勝利。だが、勝者であるはずの恒一の表情は苦々しかった。まるで負けたのは自分であるかのように。

「玲司! 大丈夫!?」

由眼が膝をつく。意識のない玲司へ必死に声をかけた。

「先生! とりあえず保健室へ!」

みことが冷静に指示を出す。そのまま玲司は保健室へ運ばれた。

そして――

剣聖、白聖恒一はその後の剣術競技を棄権した。その後の剣術競技は、有名剣豪の息子が優勝。総合実戦競技では、決勝で聖みことと白聖恒一が激突した。だが決着はつかず。両者優勝という異例の結果で幕を閉じた。

「ん……」

玲司が目を開ける。見慣れない天井。保健室だった。そしてベッドの傍では、由眼が椅子に座ったまま眠っている。起こさないように体を起こそうとした、その時。

「まだ起きない方がいいわ」

由眼が言った。

「起きてたのか」

「ええ」

由眼は小さく息を吐く。

「体に痛いところは?」

「全身筋肉痛だよ」

「そう」

少し安心したようだった。

「もうすぐ、みことが来ると思うわ」

「みこと?」

「ええ。治してもらうといいわ」

その時だった。廊下から二人分の足音が聞こえてくる。カタカタ。

「いやー! さすがみこと! 強すぎるよー!」

「私は強くありません。剣聖さんと相性が良かっただけです」

カーテンが開く。現れたのは二人の少女だった。

「怜司さん、初めまして」

そう言って頭を下げたのは、長い黒髪の少女。

「わたくし、聖みことと申します。一応、聖女です」

背が高く、落ち着いた雰囲気を纏っている。思わず見惚れるほどの美人だった。

「私は春日ひまり!」

元気よく手を挙げる。

「ひまりちゃんって呼んでねー!」

こちらは小柄で活発そうな少女だ。じっとしていられない犬みたいな雰囲気がある。

「初めまして。柊玲司です」

そう挨拶すると、みことがベッドの傍まで歩いてきた。

「剣聖さんから一本取ったそうですね」

穏やかに微笑む。

「とても凄いことです」

褒められると少し照れくさい。すると。

「まぁ、みこっちは恒一と五分五分だったけどねー」

ひまりが得意げに胸を張る。

「なんで貴方が自慢するんですか」

みことが即座にツッコんだ。そこへ由眼が口を挟む。

「また決着つかなかったのか」

「そうなんです」

みことは苦笑した。

「何度やっても引き分けで」

玲司は思う。

(この聖女様、とんでもなく強いんじゃないか……?)

「それはともかく」

みことが玲司へ向き直る。

「怪我はありませんか?」

「筋肉痛がひどいくらいかな」

「それなら治して差し上げます」

そう言って、みことは玲司の胸元へ手を当てた。そして。

「なおれ!」

「軽っ!?」

思わずツッコむ。そんな呪文でいいのか。だが次の瞬間。全身の痛みが嘘のように消えた。体が軽い。信じられないほど軽い。

「え、本当に治った……」

「治りましたよ」

みことは当然のように微笑む。

「今のは……魔法ですか?」

玲司が尋ねる。するとみことは少し考えた。

「うーん。魔法ではありませんね」

「え?」

「由眼さんの魔法とは少し違います」

玲司の困惑した表情を見て、みことは説明を続けた。

「本来なら呪文も掛け声も必要ないんです」

「じゃあなんで?」

「その方が治った気がするでしょう?」

「まじか」

「心の声、漏れてるわよ玲司」

由眼が呆れたようにツッコんだ。

「それでは私たち、用事がありますので失礼しますね」

みことが頭を下げる。

「れいじっち、もう怪我しちゃダメだよー!」

ひまりが手を振った。そうして二人は保健室を後にした。

「れいじっち……」

玲司はその呼び名に苦笑する。そして、ふと思い出した。

「そうだ」

由眼を見る。

「恒一はどうなったんだ?」

由眼は少し俯いた。

「ああ、白聖か」

そして淡々と答える。

「あの後、棄権したわ」

「棄権!?」

思わず声が大きくなる。

「なんでだよ!」

玲司はベッドから飛び起きた。そして保健室の扉へ向かう。

「怜司、まだ治って――」

由眼が言いかけた、その時。ガラッ。扉を開けた先。そこには白聖恒一が立っていた。

「恒一!」

玲司は思わず叫ぶ。

「なんで棄権なんかしたんだ!」

恒一は少しだけ目を伏せた。そして、いつもの笑顔を浮かべる。だがその笑顔は、どこか寂しそうだった。

「僕はね」

静かな声だった。

「負けたことがなかったんだ」

玲司は黙って聞く。

「君は正面から向き合ってくれた」

恒一は続ける。

「なのに僕は、本気で向き合わなかった」

保健室が静まり返る。

「勝負だったのに」

「剣聖だったのに」

「僕は君を舐めていた」

拳を握る。

「本気を出さず、油断して一本取られた」

その言葉には悔しさが滲んでいた。玲司はそんな恒一を見つめる。剣聖の正装。いつもなら誰よりも格好良く見えるその姿が、今はどこか寂しげだった。

「恒一」

玲司が口を開く。

「もう一回勝負しよう」

恒一が顔を上げる。

「え?」

「今度は一回きりのガチだ」

「はぁ!?」

由眼が思わず叫んだ。

「何を言ってるのよ!」

当然の反応だった。だが玲司は笑う。

「いいだろ?」

そして恒一を見る。

「いいのかい?」

恒一が聞く。

「当たり前だろ」

玲司は即答した。

「俺たち、親友なんだから」

数秒。恒一はぽかんとしていた。そして――吹き出した。

「ははっ」

心の底から楽しそうに。

「変なやつだな、君は」

「男同士の付き合いにはついていけないわ」

由眼は呆れたようにため息をつく。そして杖をつきながら歩き出した。

「先に帰る」

「おう」

「また後でね、由眼」

恒一が手を振る。由眼は振り返りもしなかった。その後、俺たちはもう一度木刀を握った。結果は――当然、恒一の勝ち。一秒も持たなかった。本当に一瞬だった。それでも、不思議と悔しくはなかった。

「楽しかったな」

そう言うと、恒一も笑った。

「ああ」

その時初めて。俺たちは本当の意味で親友になった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
男の友情っていうのはいいなぁ(´・ω・`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ