傲慢な2人
木刀を手に、体育館へ向かう。試合場には、すでに白聖恒一が立っていた。正装の剣聖制服。堂々とした立ち姿。その姿だけで、会場の空気が変わっている。恒一は俺に気づくと、大きく手を振った。
「次は僕たちの番だね!」
「ああ」
「初戦で当たるなんて、運がないね」
そう言いながらも、どこか楽しそうだった。
⸻
一方その頃。観客席では三人の少女が試合を見下ろしていた。
「まったく。剣聖のくせに、もう少し手加減ってものを覚えなさいよ」
腕を組みながら文句を言うのは、諏訪由眼。魔法家系序列一位。
「ほんとだよー。あいつ容赦ないからねー」
隣で頬杖をついているのは、春日ひまり。魔法家系序列五位。
「ですが、彼にも人には言えない事情がありますから」
穏やかにそう語るのは聖みこと。聖女だ。
「さっすがみこと。優しいねー」
「ひまりさんが単純すぎるだけです」
「えー!」
⸻
「準備はいいかい、玲司!」
「いつでも来い!」
二人が向き合う。審判が前へ出た。
「気をつけ」
静寂。
「礼」
木刀を構える。観客たちは皆、恒一を見ている。俺ではない。当然だ。相手は剣聖なのだから。その時、試合前の約束を思い出した。
⸻
「三本勝負だけどさ」
恒一は笑いながら言った。
「僕から一本でも取れたら、君の勝ちでいいよ」
「それ、実質俺の負けじゃないか」
「剣聖が一本取られる方が問題なんだよ」
「なるほどな」
⸻
「始め!」
その瞬間だった。恒一の姿勢が変わる。
低い。信じられないほど低い。床を這う獣のような構え。
次の瞬間――
消えた。
グンッ。
気づけば目の前。
剣先が俺の喉元に止まっていた。
「一本!」
会場が沸く。
俺は何もできなかった。
⸻
「あーあ」
ひまりが頭を抱える。
「ありゃ無理だね」
「玲司は試合には負けるでしょうね」
由眼が淡々と言う。
みことが首を傾げた。
「付き人が負けそうなのに、意外と落ち着いているんだね」
由眼は小さく笑った。
「相手は剣聖よ」
そして続ける。
「でも、勝負には勝つわ」
⸻
震えていた。
手が。
足が。
心臓が。
俺は今まで、剣聖を舐めていた。
諏訪家が負けた相手。
剣術最強。
そんな怪物を前にしている。
なのに――
気づけば笑っていた。
「そうでなくちゃ」
恒一も笑う。
「君は勝つんだろ?」
「ああ!」
俺は前傾姿勢になる。
全体重を右足へ。
恒一も構えた。
低い。
地面に張り付くような姿勢。
魂が震える。
「始め!」
両者が同時に踏み込む。
激突。
木刀と木刀がぶつかる。
速い。
速すぎる。
一瞬でも隙を見せれば終わる。
お互いに攻め切れない。
膠着。
恒一が笑った。
「楽しいな!」
剣をぶつけながら叫ぶ。
「剣を交えるからこそ、相手が分かるんだ!!」
俺には返事をする余裕もない。
一瞬の油断が命取りだ。
激しい打ち合いの末。
恒一が俺の木刀を弾き飛ばした。
距離が空く。
「玲司」
恒一が呼ぶ。
「まさか、これで満足してないよな?」
息が苦しい。
呼吸が追いつかない。
だが――
「勝負は終わっちゃいねぇ!」
恒一が笑う。
心の底から嬉しそうに。
「その言葉を待っていた!」
木刀を構える。
「速度を上げるぞ、玲司!」
⸻
次の瞬間。
世界が変わった
速い。
いや、見えない。
これが剣聖。
これが頂点。
俺は全力で木刀を振る。
だが――
パキッ。
木刀が根元から切り飛ばされた。
「一本!」
残り一本。
これが最後だ。
⸻
俺は静かに構えた。
居合の構え。
全てをこの一撃に賭ける。
「始め!」
恒一が笑う。
「居合かい?」
「ああ」
「面白い」
恒一はゆっくり近づいてくる。
余裕がある。
圧倒的な余裕が。
だからこそ。
俺は待った。
そして――
踏み込む。
剣ではない。
恒一の胸へ飛び込む。
「なっ!?」
抱きつくような体勢。
そのまま木刀を首の後ろへ回す。
完全に死角だった。
恒一の目が見開かれる。
審判が叫んだ。
「一本!」
静寂。
そして。
大歓声。
剣聖から一本。
それだけで奇跡だった。
俺はその声を聞きながら、
安心したように床へ倒れ込んだ。
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