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決意と決着

砂煙の中からゆっくりと姿を現した恒一を見た瞬間、玲司は思わず息を呑み、その黄金に輝く瞳へ視線を奪われた。

その瞳に宿る輝きは少しも衰えておらず、あれほどの魔法を真正面から受けたというのに魔力の揺らぎすら感じさせない姿は、まさに剣聖と呼ばれるに相応しい圧倒的な存在感を放っていた。

由眼はそんな恒一を見ると、小さく肩をすくめながら呆れたように笑う。

「あなた、前の序列決定戦のときも思ったけど、本当に化け物ね。」

その言葉を聞いた恒一も苦笑しながら肩を竦める。

「それは由眼にだけは言われたくないな。」

二人は笑っていた。

互いに命を奪い合う戦いの最中だというのに、そのやり取りだけは昔と何も変わらず、まるで学校帰りに他愛もない話をしている親友同士のような空気が流れていた。

だからこそ、その異様な光景に玲司は背筋が寒くなり、二人が今までどれだけ死線を潜り抜けてきたのかを改めて思い知らされる。

次の瞬間だった。

由眼の姿がふっと消えたかと思えば、空間を飛び越えるように恒一の目の前へ現れ、そのまま一切の躊躇なく白杖の先端を恒一の腹部へ突き付ける。

玲司はその動きよりも、白杖の先端へ視線を奪われた。

杖の先は赤黒い光を放ち、幾重にも重なった魔法陣が高速で回転しながら膨大な魔力を圧縮しており、周囲の空気が悲鳴を上げるように震え始めている。

嫌な予感しかしない。

そう思った瞬間には、もう遅かった。

ドゴォォォォォンッ!!!

耳をつんざくほどの爆音と共に、由眼を中心とした超高密度の爆発魔法が広場全体を飲み込み、地面は抉れ、アスファルトは砕け散り、衝撃波だけで周囲のビルの窓ガラスが一斉に吹き飛んでいく。

その爆風は玲司たちのいる場所にまで届き、立っていることすら難しいほどの衝撃で数歩後方へ押し戻された。

みことはその光景を見つめながら思わず息を呑む。

「爆発魔法で特攻なんて……そんな戦い方をする人、初めて見ました。」

普通なら自分まで巻き込むような魔法は絶対に使わない。

しかし由眼は違う。

自分が傷つくことなど最初から覚悟した上で、それでも相手を倒す可能性が一番高い手段を迷わず選んでいた。

爆炎は空高く舞い上がり、辺り一面を黒煙が覆い尽くす。

その直後だった。

煙の中から白い何かが、とてつもない速度で吹き飛ばされる。

ドンッ!!

轟音と共にその物体はビルの外壁へ激突し、分厚いコンクリートを砕きながら巨大な亀裂を走らせるほどの衝撃を生み出した。

玲司は思わず目を凝らす。

「あれは……!」

やがて爆煙が少しずつ晴れていく。

そこには、自身の結界に守られながら静かに立つ由眼の姿があった。

由眼は爆発の瞬間、自らへ結界を張ることで自爆による被害を最小限に抑えていたのだ。

しかし、肝心の恒一の姿が見当たらない。

由眼も周囲を見回しながら、小さく呟く。

「効いたかな。」

その一言には、普段の余裕とは違う僅かな不安が滲んでいた。

広場には静寂が訪れ、ビルの外壁から崩れ落ちるコンクリート片だけが、カラン、カランと乾いた音を響かせている。

その時だった。

玲司の背筋を、言いようのない悪寒が走る。

いる。

そう確信した瞬間には、もう遅かった。

恒一は生きていた。

しかも、爆煙に紛れて一瞬で距離を詰め、いつの間にか由眼の目の前まで踏み込んでいたのである。

その速度はあまりにも異常で、玲司には剣聖がいつ移動したのかすら見えなかった。

黄金に輝く聖剣は一切の迷いなく由眼の胸元へ突き出され、その鋭い切っ先は今にも心臓へ届こうとしている。

完全な不意打ち。

由眼ですら反応できない。

その瞳が僅かに見開かれる。

「まずい!」

玲司が思わず叫ぶ。

だが、その声が届くよりも早く聖剣は由眼へ迫っていた。

その瞬間だった。

カンッ!!

甲高い音と共に由眼の目の前へ一枚目の結界が展開され、聖剣は真正面から衝突する。

しかし勢いは止まらない。

カンッ!!

二枚目が砕ける。

カンッ!!

三枚目が割れる。

カンッ!!

四枚目も粉々に砕け散る。

ひまりが誇る最高峰の防御結界が、一枚、また一枚と音を立てて砕かれていく光景に、玲司の顔から血の気が引いていく。

残された結界はあと一枚。

最後の一枚だけが、由眼と聖剣の間に立ちはだかっていた。

ひまりは杖を両手で強く握り締め、歯を食いしばりながら全身の魔力を結界へ注ぎ込み、その小さな身体を震わせながら必死に耐え続ける。

「お願い……!」

その震える願いに応えるように、最後の結界だけが激しく軋みながらも、あと一歩というところで剣聖の聖剣を受け止め続けていた。

「やりそこねたわね。」

由眼は小さくため息をつきながらそう呟くと、すぐに白杖を地面へ突き立て、瞬間移動の魔法陣を展開しようと魔力を練り始める。

だが、その詠唱が完成するよりも剣聖の方が速かった。

恒一は地面を強く蹴ると、一瞬で由眼の懐へ潜り込み、身体を大きく捻りながら全力の回し蹴りを横腹へ叩き込む。

ドンッ!!

鈍く重い衝撃音が広場中へ響き渡る。

由眼の身体は紙切れのように吹き飛ばされ、勢いを殺すこともできないまま一直線に後方へ飛んでいく。

ドゴォォンッ!!

轟音と共にビルの外壁へ激突し、コンクリートを砕きながら大量の瓦礫を巻き上げ、その姿は爆煙の中へと飲み込まれていった。

恒一は足をゆっくりと下ろし、その光景を見届けると、口元に小さな笑みを浮かべる。

「お返しだよ。」

そう呟いた恒一の姿は、先ほどまでとは違っていた。

額から流れた血が頬を伝い、その黄金の瞳を赤く染め上げている。

先ほどの爆発魔法で受けた傷は決して軽くない。

それでもなお立ち上がり、笑みすら浮かべるその姿に、玲司は思わず息を呑んだ。

玲司は慌ててひまりの方を振り返る。

「結界は!?」

ひまりは杖を握り締めたまま、悔しそうに首を横へ振った。

「早すぎるよ……!もう全然追いつかない!」

その声には焦りが滲んでいた。

これまで由眼を何度も守ってきた局所結界。

だが今の剣聖の速度は、それすら展開する暇を与えてくれない。

「まずい……。」

玲司は瓦礫の山へ視線を向ける。

由眼は結界を張れていない。

今の一撃は生身で受けた。

あの衝撃に耐えられるはずがない。

嫌な想像ばかりが頭をよぎる。

広場には静寂が流れ、崩れたビルからカラカラと瓦礫が転がり落ちる音だけが響いていた。

その時だった。

カンッ。

静かな杖の音が広場へ響く。

玲司は反射的に振り向く。

そこには、何事もなかったかのように白杖を握った由眼が玲司のすぐ隣へ立っていた。

口元からは細く血が流れ、所々怪我をし赤くなっている。それでも、その表情だけはいつもと変わらず落ち着いていた。

「いたいわよ」

そう言って苦笑する由眼

お互いに致命傷ではないものの、確実に傷を負っていた。

由眼は口元の血を指で拭い、恒一は額から流れる血をそのままに聖剣を握り続けている。

二人とも限界は近い。

それでも、まだ倒れない。

由眼は静かに玲司の方を向いた。

「玲司、時間魔法っていうのはね、想像もつかないくらい膨大な魔力が必要なの。馬鹿みたいな量よ。」

突然の話に玲司は首を傾げる。

「急にどうしたんだ。」

由眼は小さく笑う。

「私は知識もあるし、魔法の才能もある。でも、生まれ持った魔力量だけは決して多くない。」

玲司は黙って耳を傾ける。

その間にも、少し離れた場所では恒一がゆっくりと聖剣を天へ掲げ始めていた。

周囲の魔力が渦を巻き始め、白い光が聖剣へ集まり続ける。

玲司は見覚えがあった。

さっき熱田のレールガンを消し飛ばした、あの一撃。

もう一度放つつもりなのだ。

由眼は視線を逸らさず話を続ける。

「だから私は、時間逆行を使うたびに代償を払い続けてきた。」

その声はどこまでも静かだった。

「魔力が足りないなら、自分の身体を魔力へ変えればいい。そう考えてしまったの。」

玲司は息を呑む。

「その結果が、この目。」

由眼は閉じていた瞳をゆっくりと開く。

黒い魔法陣が浮かぶその瞳は、もう普通の人間の目ではなかった。

「視力を失い、黒かった髪も全部魔力へ変えた。それでも足りなくて、何度も身体を削り続けた。」

玲司は胸が締め付けられる。

由眼はずっと一人だった。

誰にも相談できず。

誰にも頼れず。

たった一人で禁忌を背負ってきた。

「そうだったんだな……。」

玲司は静かに呟く。

「今まで何も気付けなくて、ごめん。」

由眼は首を横に振った。

「謝ってほしくて話したんじゃない。」

一歩だけ玲司へ近付き、ゆっくりと右手を差し出す。

「助けてほしいの。」

玲司はその言葉に目を見開く。

由眼が。

誰にも頼らなかった由眼が。

初めて助けを求めた。

「玲司に。」

その瞬間、恒一の聖剣は太陽のような白い輝きを放ち始め、周囲の空気が震え、大地が軋み始める。

あと数秒で振り下ろされる。

そんな圧倒的な魔力だった。

玲司は迷わなかった。

差し出された由眼の手を強く握る。

「俺にできることなら、何だってやるよ。」

由眼は少しだけ笑った。

どこか安心したような。

泣きそうな笑顔だった。

「その言葉を待ってたわ。」

二人は並んで剣聖へ向き直る。

もう迷いはない。

恒一はそんな二人を静かに見つめる。

「話は終わったかい。」

その表情はどこか寂しそうだった。

友達として止めたい気持ちと、剣聖として戦わなければならない使命。

その二つに挟まれた男の顔だった。

数秒の沈黙が流れる。

由眼は白杖を握り直し、小さく頷く。

「終わったわ。」

玲司も一歩前へ出る。

「恒一。」

剣聖は静かに目を向ける。

「お前が俺たちの前に立ち塞がったこと、俺は憎んでない。」

その言葉に、恒一は目を細めた。

「ありがとう」

そう呟くと、聖剣を握る力をさらに強くする。

その時だった。

由眼が静かに詠唱を始める。

由眼だけが完成させた、禁忌中の禁忌。

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ついに時空魔法が!(⌒∇⌒)
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