表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/32

剣は杖には敵わない

玲司は思わず叫んだ。

「なんで! なんでここに居るんだ!」

その声には怒りも、不安も、安堵も、そして置いていかれた悲しさまでもが混ざっていた。死刑判決を受けたはずの由眼が目の前に立っているという事実を、玲司の頭はまだ受け入れ切れていなかったのだ。

由眼はそんな玲司を見ると、小さくため息をついて苦笑した。

「ええ、めんどくさいな。」

まるで今日の天気でも聞かれたかのような反応だった。

その態度に玲司の感情はさらに溢れ出す。

「全部、何もかも、一人で抱えて! なんで何も言わなかったんだよ!」

声が広場に響く。

「話してくれよ! 俺たちは仲間だろ!」

玲司の叫びを聞いても、由眼はすぐには答えなかった。

少しだけ目を伏せる。

そして静かに口を開いた。

「言っても分かんないよ。」

その声はいつもの強気なものではなく、どこか疲れ切ったような響きを含んでいた。

「じゃあ私が全部話したとして、今まで抱えてきたことも、考えていたことも、苦しかったことも、全部全部話したとして、玲司はそれを解決してくれるの?」

玲司は言葉を失う。

由眼は止まらない。

「私の代わりに決断してくれるの? 私の代わりに戦ってくれるの? 私の代わりに苦しんでくれるの?」

風が吹き、由眼の白い髪が揺れる。

その姿はいつもと変わらないはずなのに、どこか遠い存在のように見えた。

「してくれないわよね。」

由眼は自嘲するように笑った。

「そうなのよ。知ってるの。玲司が優しいことも、私を助けたいと思ってくれてることも、全部知ってる。でもね、それじゃどうにもならないこともあるの。」

その言葉に玲司は胸が締め付けられる。

由眼は続けた。

「玲司が動いても無駄だった未来も見た。玲司が私を助けようとして死んだ未来も見た。私を信じて最後まで戦って、それでも何も変わらなかった未来も見た。」

玲司の心臓が大きく跳ねる。

由眼はまるで過去の出来事を語るように話している。

未来の話を。

「だからもう嫌なのよ。」

由眼は白杖を強く握りしめる。

「もう玲司が傷つくのを見たくない。」

その一言だけは、今までのどの言葉よりも真っ直ぐだった。

「だから私は、この世界線で終わりにする。」

玲司の背筋を冷たいものが走る。

世界線。

またその言葉だ。

今までにも何度か聞いたことがある。

だが今は違った。

その言葉の重みがまるで違う。

まるで本当に何十、何百という未来を見てきた人間の言葉だった。

「何もかも。」

そう呟いた瞬間だった。

恒一が静かに聖剣を構える。

最初から黄金の瞳は輝いていた。

最初から聖剣は光を放っていた。

だが今は違う。

明らかに違う。

黄金の光がさらに強くなり、周囲の空気そのものが震え始める。

地面が軋み、空間が張り詰める。

剣聖が本気を出す。

その場にいる全員がそう理解した。

すると由眼は何の躊躇もなく杖を向けた。

無数の魔法陣が空中に展開される。

一つではない。

二つでもない。

幾重にも重なった魔法陣が玲司ですら理解できない速度で組み上がり、その中心に膨大な魔力が圧縮されていく。

そして次の瞬間。

轟音と共に黒い魔力弾が放たれた。

地面を抉りながら一直線に恒一へ向かうその一撃は、熱田のレールガンにも匹敵するほどの威力を秘めているように見えた。

だが恒一は動じない。

避けることすらしない。

ただ静かに聖剣を振るう。

カンッ!!

鋭い音が響く。

魔力弾が弾かれる。

続けて二発目。

三発目。

四発目。

常識外れの破壊魔法を相手にしながら、恒一はまるで当たり前のように全てを切り払っていく。

衝撃波で周囲のガラスが砕け散る。

地面には巨大な亀裂が走る。

それでも二人は平然としていた。

まるでこれが挨拶だと言わんばかりに。

「貴方と戦う世界線は初めてよ。」

由眼が静かに言う。

その言葉に恒一は少しだけ目を細めた。

「そうか。」

それだけだった。

だがその短い返答の中には、玲司には理解できない何かが含まれているように思えた。

二人だけが知っている何か。

二人だけが辿ってきた何か。

そんなものを感じた。

玲司は震える腕で身体を起こそうとする。

だが身体は思うように動かない。

頭の中もぐちゃぐちゃだった。

世界線。

未来。

何度も見た。

傷つくのを見たくない。

由眼の言葉が繋がり始めている。

だからこそ怖かった。

もし本当に由眼が何度も時間を巻き戻しているのだとしたら。

もし本当に何度も未来をやり直しているのだとしたら。

自分たちは今まで何回目なのだろうか。

玲司たちが笑い合った日常も。

海へ行った日も。

クリスマスパーティーも。

全部。

由眼にとっては初めてではなかったのだろうか。

そう考えた瞬間、玲司の胸の奥に言いようのない恐怖が広がった。

そして初めて理解する。

今目の前に立っているのは、ただの諏訪由眼ではない。

何度も失敗し。

何度も絶望し。

何度も大切な人を失い。

それでも諦めずに未来へ手を伸ばし続けた、一人の時間魔法使いなのだと。

その瞬間だった。

恒一の姿が消えたように見えた。

玲司が視認できたのはほんの一瞬だけで、次の瞬間にはすでに由眼の目の前まで踏み込んでおり、黄金に輝く聖剣が空気を切り裂きながら容赦なく振り下ろされていた。

だが、その一撃が届く寸前、由眼は白杖を地面へ強く突き立てる。

カンッ!!

鋭い金属音が響いたかと思えば、足元に巨大な魔法陣が展開され、その光に包まれた由眼の姿が一瞬で消え去った。

瞬間移動。

それは由眼の得意とする空間魔法の一つであり、普通の相手ならその移動先を予測することすら不可能なはずだった。

しかし恒一は驚かなかった。

まるで最初から分かっていたかのように視線を動かし、そのまま身体を捻ると振り向きざまに聖剣を振るう。

カンッ!!

再び白杖と聖剣が衝突する。

だが由眼は受け止めた瞬間には次の魔法陣を起動しており、恒一の追撃が届く前に別の場所へと移動していた。

さらに別の場所へ。

さらにその先へ。

広場全体を舞台にして、白い閃光が縦横無尽に駆け巡る。

カンッ!!

カンッ!!

カンッ!!

由眼が移動するたびに恒一が追い付き、恒一が斬りかかるたびに由眼が消える。

それはもはや剣技と魔法の戦いではなく、未来を読む者同士の戦いにすら見えた。

普通の人間なら反応どころか認識すらできない速度。

だが恒一だけは違う。

由眼がどこへ現れるのか、次にどんな行動を取るのか、それら全てを理解しているかのような動きで追い続けていた。

玲司は息を呑む。

速すぎる。

目で追えない。

理解できない。

そこにいるのは同じ高校生でもなければ、人間同士の戦いでもなかった。

由眼は空間そのものを飛び回り、恒一はその瞬間移動すら追い詰めている。

あり得ない。

瞬間移動とは距離を無視する魔法だ。

それを速度で追い付くなど常識が許さない。

そしてその時だった。

由眼が大きく後方へ跳んだかと思えば、そのまま重力を無視するように空へ舞い上がる。

白い髪が風になびく。

青空を背に浮かぶその姿は、人間というより神話の中の魔女のようであり、誰もが思わず見惚れてしまうほど幻想的だった。

恒一は地上から静かに見上げる。

由眼はそんな恒一を見下ろし、小さく笑った。

「手こずらせて、悪い子ね。」

その声と同時だった。

空一面に無数の魔法陣が展開される。

一つや二つではない。

十でもない。

百でもない。

視界を埋め尽くすほどの魔法陣が空中へ重なり合い、まるで空そのものが魔法陣へ変わったかのような光景が広がる。

玲司は思わず息を止めた。

その全ての魔法陣が由眼へ魔力を集めている。

圧縮される魔力。

膨れ上がる魔力。

ただ見ているだけで肌が痛くなるほどの圧力だった。

そして。

放たれる。

ドドドドドドドドドドドドドッ!!

轟音が響く。

無数の魔弾が空から降り注ぐ。

いや。

降り注ぐという表現では足りない。

それは嵐だった。

黒い光が空を埋め尽くし、雨のような密度で恒一へ向かって殺到する。

その速度は異常だった。

まるで数十丁のサブマシンガンを同時に乱射しているかのような連射速度で、無数の魔弾が休みなく地上へ叩き込まれる。

避けられるはずがない。

防げるはずもない。

そう思えるほどの物量と威力だった。

広場が爆発に飲み込まれる。

地面が砕ける。

アスファルトが吹き飛ぶ。

周囲のビルの窓ガラスが衝撃波だけで砕け散り、爆風によって街路樹までもが根元からへし折れていく。

玲司たちは思わず腕で顔を庇う。

耳が痛い。

目も開けられない。

それでも爆発は終わらない。

十秒。

二十秒。

三十秒。

由眼は撃ち続ける。

まるで今まで抱え込んできた怒りも苦しみも悲しみも、その全てを叩き付けるかのように。

やがて。

魔法が止まった。

静寂が訪れる。

広場には巨大な砂煙が立ち込めていた。

そこにあったはずの景色は消え去り、残されていたのは巨大なクレーターと破壊された大地だけだった。

もはや戦場。

いや。

災害の跡地と言った方が正しい。

玲司は思う。

勝った。

さすがの剣聖でも今の攻撃を受けて無事なはずがない。

そう思った。

だが。

砂煙の奥で何かが光る。

黄金色の光。

それは消えるどころか徐々に強くなりながら近付いてくる。

やがて風が吹く。

砂煙が晴れる。

そこに立っていたのは。

黄金の光に包まれた一人の男だった。

恒一。

剣聖。

その姿には傷一つない。

服すら破れていない。

全身を包む黄金の魔力がゆっくりと揺らめき、その中心で聖剣だけが太陽のような輝きを放っている。

恒一は静かに空を見上げた。

そして。

ほんの少しだけ悲しそうに笑う。

「やっぱり。」

黄金の瞳が由眼を捉える。

「君は強いね。」

それは皮肉ではなかった。

本心からの賞賛だった。

だからこそ玲司の背筋に寒気が走る。

あれほどの攻撃を受けてなお。

街一つ消し飛ばせそうな魔法を真正面から受けてなお。

剣聖にはまだ余裕が残っていたのだから。

ちょっと雑でごめんなさい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
圧巻だ( ˙⩌˙ )ベー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ