親友と親友
「そうか。」
玲司がそう呟くと、次の瞬間には地面を強く蹴り、腰に差していた剣を一気に抜き放ちながら恒一へと斬りかかった。
「っ!」
恒一も即座に反応し、聖剣を持ち上げてその一撃を受け止める。
キィン!!
鋭い金属音が響き渡り、火花が散る。
そのまま二撃、三撃と剣を振るうが、恒一は全てを受け止め、あるいは受け流していく。
キンッ!!
ガキィン!!
剣戟は途切れることなく続いた。
玲司はただ前へ出る。
目の前の男に届くまで。
何度弾かれようと。
何度受け流されようと。
それでも剣を振り続ける。
だが、その最中にも玲司は理解していた。
恒一は本気を出していない。
いや、正確には出せないのだ。
相手が自分だから。
親友だから。
もし本気を出せば、自分を殺してしまうかもしれない。
だから加減している。
だから受け流している。
だから今もなお、剣聖としての力を抑えている。
「諦めて欲しい。」
剣を打ち合わせながら恒一が静かに言う。
「今ならまだ間に合う。君たちはここで帰るべきだ。」
だが玲司は何も答えない。
ただ剣を振る。
前へ出る。
恒一を見据えたまま、一歩も退かない。
そんな時間が数秒続いた。
だが体感ではもっと長かった。
何度も剣をぶつけ合い、互いの呼吸だけが聞こえる距離で戦い続けた後、玲司はようやく口を開く。
「なぁ。」
恒一が視線を向ける。
「本気出せよ。」
その言葉に、恒一の眉がわずかに動いた。
玲司は苦笑する。
「俺は見たいんだよ。剣聖の本気を。」
再び剣を振るう。
恒一がそれを受け止める。
轟音のような衝撃が腕に伝わる。
それでも玲司は叫んだ。
「これは遊びでもなんでもない!」
キィィン!!
「修行でもない!」
ガキィン!!
「真の殺し合いなんだよ!!」
その言葉を聞いた瞬間、恒一の表情が少しだけ曇った。
だが何も言わない。
ただ静かに剣を振るう。
そして、その一瞬だった。
玲司の重心がわずかに崩れる。
足の運びが遅れる。
本当にわずかな隙。
だが剣聖にとっては十分だった。
ヒュン、と風を裂く音がしたと思った時には、聖剣の切っ先が玲司の腹部へ向かって走っていた。
速い。
見えない。
反応できない。
気付いた時にはもう目の前だった。
終わった。
玲司自身もそう思った。
みことも。
ひまりも。
誰もがそう思った。
だが次の瞬間。
カァンッ!!
甲高い音が響き渡り、聖剣が何かに弾かれる。
「なっ!?」
恒一が初めて驚きの声を漏らした。
玲司の腹部、その直前には半透明の結界が展開されていた。
ひまりの局所結界。
攻撃が命中する瞬間だけ発動する超高密度防御結界だった。
遠くから見ていたひまりが叫ぶ。
「れいじっち!!」
剣聖の一撃を受け止めたのだ。
恒一は弾かれた聖剣を見つめ、そしてゆっくりとひまりへ視線を向ける。
「なるほど。」
黄金の瞳が細められる。
「春日家の結界か。」
その視線を受けたひまりの肩が小さく震えた。
剣聖の視線。
それだけで普通の人間なら足がすくむ。
だがひまりは杖を握る手を緩めなかった。
怖い。
それでも逃げない。
由眼を助けるため。
玲司を守るため。
その気持ちだけで立ち続けていた。
その瞬間だった。
今までのような剣と剣が激しくぶつかり合う戦いではなくなっていた。
玲司もそれを理解していた。
どれだけ剣を振ろうが、どれだけ前へ出ようが、どれだけ気迫を込めようが、剣聖には届かない。
圧倒的な技量差。
圧倒的な速度差。
恒一は玲司の剣を見切り、躱し、受け流しながら反撃だけを繰り出してくる。
まるで大人と子供の差だった。
いや、それ以上かもしれない。
玲司が全力で振るった一撃を、恒一は片手で軽く受け流し、そのまま聖剣を振り返してくる。
そして、そのたびに。
カンッ!!
玲司の目の前に結界が展開される。
カンッ!!
また一枚。
カンッ!!
さらに一枚。
ひまりの結界だ。
春日家が代々受け継いできた結界術。
攻撃が当たる瞬間だけ発動する超高密度の局所結界。
普通の魔法使いなら一枚維持するだけで精一杯だというのに、ひまりは三黒枝の補助を使いながら常時三枚、さらに自分の制御で二枚、合計五枚もの結界を同時展開していた。
しかもただ張るだけではない。
攻撃が飛んでくる位置を予測し、強度を調整し、瞬時に展開と解除を繰り返している。
まさに神業だった。
だからこそ玲司は理解している。
今、自分が立っていられるのは、自分の実力ではない。
ひまりが必死に守ってくれているからだ。
しかし、そのひまりも限界に近づいていた。
額から汗が流れ落ちる。
肩は小刻みに震え、杖を握る手にも力が入らなくなり始めている。
それでも彼女は結界を張り続けていた。
玲司を守るために。
由眼を助けるために。
仲間を信じているから。
「っ……!」
ひまりが苦しそうに息を吐く。
その瞬間にも。
カンッ!!
聖剣が結界を叩く。
カンッ!!
また一枚が削られる。
カンッ!!
さらに一枚。
剣聖の攻撃は重い。
速い。
そして正確すぎる。
まるで結界の薄い部分を見抜いているかのように、一撃ごとにひまりの魔力を削り取っていく。
「ひまり!」
玲司が思わず叫んだ。
するとひまりは苦しそうな顔をしながらも無理やり笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ!」
その声は震えていた。
誰が見ても大丈夫ではない。
それでも彼女は前を向く。
「れいじっちが頑張ってるんだから!私だって頑張るもん!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
恒一が剣を止めた。
正確には、一瞬だけ攻撃の手を緩めた。
黄金の瞳が玲司を真っ直ぐ見つめる。
「玲司。」
いつものような明るい声ではなかった。
剣聖としての声だった。
「いつまで持つと思う?」
玲司は答えられない。
ひまりが限界なのは分かっている。
あと数分かもしれない。
いや、あと数十秒かもしれない。
恒一は静かに続ける。
「ひまりちゃんは戦っている。」
その言葉にひまりが顔を上げる。
「みことちゃんも戦っている。」
後方ではみことが杖を握り、いつでも魔法を使えるよう構えていた。
「熱田も命懸けで戦っている。」
遠く離れた場所で頑張った熱田の姿が脳裏に浮かぶ。
恒一は聖剣を構え直した。
黄金の刀身が太陽の光を反射して輝く。
その姿はあまりにも神々しかった。
「でも。」
その一言で空気が張り詰める。
「君はどうなんだい。」
玲司の胸が大きく鳴った。
「君が戦わなきゃだろう。」
ドクン。
心臓が鳴る。
「皆が君を信じている。」
ドクン。
「皆が君のために命を懸けている。」
ドクン。
「由眼を助けたいんだろう?」
その言葉が胸の奥深くへ突き刺さる。
助けたい。
当たり前だ。
だからここにいる。
だから戦っている。
だが本当に戦えているのか。
守られているだけではないのか。
その時。
恒一が深く腰を落とした。
玲司は思わず息を呑む。
見たことがある。
体育祭の時。
そして修行の時。
だが今の構えはそれらとは比べ物にならなかった。
全身から溢れる圧力。
空気そのものを切り裂くような存在感。
これが剣聖の本気。
国最強の剣。
白聖恒一の真の姿。
「来い。」
黄金の瞳が玲司を射抜く。
「君自身の剣で。」
その瞬間、玲司はようやく理解した。
恒一は自分たちを止めたいわけではない。
試しているのだ。
親友として。
そして最後の壁として。
由眼を救う覚悟が本物なのか。
その答えを、玲司自身の剣で示せと。
遅れて申し訳ない。急いで書いたので、ちょっと雑というか誤字あるかもですー




