レールガン
俺の親友だった。恒一は俺たちの前で立ち止まる。表情は穏やかだった。いつも通りの笑顔。だが、その瞳だけは違い、剣聖の目だった。
「久しぶりだね。」
恒一が言う、誰も返事をしない。すると恒一は少しだけ寂しそうに笑った。
「そんな顔をしないでほしいな。」
風が吹き、白い上着が揺れる。
「僕も好きでここに立ってるわけじゃない。」
その言葉に、ひまりが一歩前へ出た。
「じゃあどいてよ!!」
珍しく怒鳴る。
「ゆめっちは何も悪くないじゃん!!」
恒一は答えない。みことが静かに問う。
「剣聖。」
その声は冷たい。
「あなたは真実を知っているのですか。」
恒一は少しだけ目を閉じた。知っている、そんな顔をしている。それでも、ここに立っている。
「なら!!」
俺は叫んだ。
「なんで邪魔するんだよ!!」
拳を握り、怒りで震える。恒一は静かに俺を見る。その目には迷いがあった。苦しみもあった。それでも、答えは変わらない。
「剣聖だから」
短い言葉だった。
「僕は国を守る剣だ。」
「友達だから助ける。」
「友達だから見逃す。」
「そんな理由で振れるほど。」
恒一は腰の剣に手を添えた。
「僕の剣は軽くない。」
その瞬間、空気が変わる。圧力。存在感。殺気。まるで巨大な獣を前にしたような感覚。ひまりが息を呑む。みことが杖を握る。俺は理解した。ここから先へ進むためには。親友を倒さなければならない。お互いに歩み寄る。一歩、また一歩、やがて二十メートルほどの距離で止まり、風が吹く。誰も動かない。
「剣聖。」
その声は冷たい。恒一は静かに答える。
「なんだい。」
「剣聖だからか、」
キィィィン――
澄み切った音が響く。恒一が腰の剣を抜いたのだ。白銀の刀身。黄金の柄。神聖さすら感じる美しい剣、それこそが国を守る聖剣だった。恒一は剣を握り、
「剣聖だからだ。」
短く告げた、それだけだった。だが、その言葉には全てが詰まっていた。友を裏切る苦しみも、国を守る責任も、全てその瞬間だった。恒一の視線が玲司の後方へ向き、遠い高層ビル群の向こう。膨大な魔力反応、空気が震える、黒い光。幾重にも重なる魔法陣。大気が悲鳴を上げる。熱田彰人、魔法家系序列二位、その最大火力、レールガン。恒一は目を細めた。
「あれは……熱田か。」
どこか懐かしそうな声だった。そして、少しだけ悲しそうに笑う。
「本当に来たんだね。」
ゆっくりと、剣を天へ掲げる。その姿はまるで英雄だった。
「熱田家最大の攻撃魔法。」
「受けて立とう。」
その瞬間、恒一の瞳が黄金に輝く。剣聖の魔眼。世界そのものが震える。周囲の魔力が吸い寄せられる。風が渦を巻き空気が歪み、聖剣へただひたすらに集まる。白かった刀身が、徐々に黄金へ染まっていく。眩い光、圧倒的な神秘。誰も言葉を発せず、玲司でさえ息を呑んだ。
そしてその頃。
数キロ離れた狙撃地点。熱田彰人は一人立っていた。巨大な魔導レールガンを構え、照準の先には剣聖、額には汗、指先は震えていた。
「剣聖が相手か……」
苦笑する。
「無理な頼みに手を貸したこと。」
「今更後悔してるよ。」
だが、逃げる気はなかった。由眼を救うために、友を救うために、魔力を流し込む。
ゴォォォォ……
レールガンが唸る。黒い雷が走り、空間が軋み、膨大な魔力が砲身から溢れ出した。準備完了、熱田は息を吐く。照準を固定し、引き金へ指を掛けた。
カチッ。
その瞬間、黒い閃光が放たれる。轟音すら置き去りにして。音より速く。雷より速く。一直線に、国最強の剣へ向かって飛んだ。とてつもない轟音を響かせながら、黒い閃光が大地を裂く。
レールガン。熱田家最大火力。
元・二位が誇る切り札。その一撃は進路上の空気を焼き、アスファルトを砕きながら剣聖へと迫る。玲司は目を見開いた。速い。あまりにも速く、避けられる速度ではない。だが、剣聖は動かなかった。逃げない。避けない。ただ静かに立っている。そして、黒い閃光が目前まで迫った瞬間に、剣聖は剣を振り下ろした。
キィィィィィィン――――――!!!
世界が割れたような音が響く。次の瞬間、黄金の聖剣と黒い閃光が正面から衝突した。衝撃波が爆発すると、ビルの窓ガラスが震え、地面が陥没する。玲司たちは腕で顔を庇った。視界が揺れ、耳が痛い、呼吸すら難しい。だが、戦いは終わらない。剣聖は歯を食いしばる。
ずざざざざざざっ!!
靴底が地面を削り、数メートル、十メートル。後方へ押し込まれ、それでも倒れない。両腕で聖剣を握り締め、正面から受け止めている。
「っ……!」
初めて剣聖の表情が歪んだ。玲司は理解した。効いている。あの剣聖に。熱田の一撃が、確かに届いている。だが、その直後だった。剣聖の瞳が黄金に輝き、聖剣が震え、そして眩い光を放った。
剣聖が静かに何かを呟く。
その瞬間。世界が白く染まった。何も見えない。何も聞こえない。ただ白。圧倒的な白。
数秒後。
玲司が目を開くと、風が吹いている。広場は静寂に包まれていた。そこには、煙を上げる聖剣。黄金の輝きを残す刀身。そして、何事もなかったかのように立つ男。
白聖恒一、剣聖、ただ一人。黒い閃光は消えた、跡形もなく。まるで最初から存在しなかったかのように、剣聖はゆっくりと聖剣を肩に担ぐ。そしていつものように、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「いやぁ。」
煙の立つ聖剣を見ながら笑う。
「危なかった。」
誰も信じない。いや、信じられるわけがなかった。熱田家最大火力。それを正面から斬り消した男が。
「危なかった。」
などと笑っているのだから。玲司の背中を、冷や汗が流れ理解した。体育祭の時も、修行の時も、恒一は本気ではなかった。今ここにいるのは親友ではない。国最強。ただそれだけの存在。剣聖だった。
投稿遅れて申し訳ないですー




