裏切るしかない漢
ちゅんちゅんと雀が鳴く頃。俺は目を覚ました。体を起こして周りを見る。ひまりと熱田はまだ寝ていた。みことの布団だけは綺麗に整頓されている。流石だな。そう思った瞬間。
「起きましたか。」
後ろから声がした。
「うおっ!?」
思わず飛び上がる。振り返ると、みことが立っていた。
「びっくりさせるなよ……」
胸を押さえながら言う。
「すみません。」
みことは申し訳なさそうに言いながらも、にこりと微笑んだ。
「お二人はお寝坊さんですね。」
そう言う姿は、久しぶりに聖女らしかった。最近は武力行使だの逃亡だの物騒な話ばかりだったから、余計にそう感じる。
「そうだな。」
俺も苦笑した。そんな話をしていると。
「うるさいなぁ……」
熱田が目を擦りながら起き上がった。寝癖が酷い。魔法家系二位も朝は普通の人間らしい。
「おはようございます。」
みことが挨拶する。
「おはよ。」
熱田は眠そうに答えた。その時だった。ドンドンドン!!二階から凄まじい音が響く。
「あっ。」
全員が察した。次の瞬間。バンッ!勢いよく扉が開いた。
「ちょっとー!!」
ひまりだった。
「なんで起こしてくれないのー!!」
「うるさい。」
熱田が即座にツッコむ。
「だってもう朝じゃん!」
「朝だから起こしてないんだろ。」
「むぅぅぅ!!」
ひまりは怒りながらも洗面所へ走っていった。その姿を見ていると少しだけ気が楽になる。こんな状況なのに、いつも通りのやり取りができることが不思議だった。それから身支度を済ませる。顔を洗い。歯を磨き。朝食を食べる。最後になるかもしれない朝食だった。だからだろうか。誰も無駄話をしなかった。食事が終わると、みことが立ち上がる。
「では、最終確認をします。」
空気が引き締まった。
「ノートを公開し、由眼さんの無実を証明する。」
「それが今回の目的です。」
全員が頷く。
「良いですね?」
「うん。」
「了解。」
「おう。」
返事は短かった。覚悟は決まっている。みことは小さく微笑んだ。
「では、行きましょう。」
そうして四人は熱田家を後にした。家の前には黒い車が停まっていた。熱田がドアを開ける。
「この車は自動運転。」
「へぇ。」
「目的地も入力済み。」
「未来かよ。」
思わず呟く。
「魔法家系だから。」
「関係あるか?」
そんな会話をしていると、みことが彰人を見る。
「熱田さん。」
「なに?」
「狙撃地点にはどうやって行くんですか?」
彰人は当然のように答えた。
「別の車。」
「なるほど。」
「流石にレールガン抱えて同乗はできない。」
それもそうだ。俺たちは車に乗り込む。そしてドアが閉まった。その時だった。熱田が少しだけ真面目な顔になる。
「幸運を祈る。」
一瞬、沈黙。そして。
「かっこつけてるー!」
ひまりが即座に茶化した。
「映画の主人公みたい!」
「うるさい。」
彰人は顔を逸らす。だが次の言葉は真剣だった。
「本当に祈ってるんだ。」
その声に。誰も何も言えなかった。熱田もまた、由眼を助けたいのだ。その気持ちは皆同じだった。彰人は静かに一歩下がる。
「じゃあな。」
ドアが閉まる。その瞬間。ウィーン。車が動き出した。自動運転らしい。窓の外で熱田の姿が小さくなっていく。車は都心へ向かう。決戦の場所へ向かう。怖い。帰りたい。そんなことは全員思っている。俺だってそうだ。逃げられるなら逃げたい。普通の日常に戻りたい。だけど。由眼が待っている。あいつは今も一人で戦っている。だから。俺たちは前を向く。自分のために。仲間のために。そして。諏訪由眼を救うために。本社ビルへ向けて車は走る。進むにつれて人通りは少なくなっていった。最初は普通の街並みだった。だが中心部へ近付くにつれ、歩行者の姿が消えていく。まるで避難でも済んでいるかのようだった。誰もいない。静かすぎる。
そして――
キィッ。車が止まった。
「着きました。」
みことが静かに言う。誰も返事をしない。全員分かっているからだ。ここから先が本番だと。俺は腰の真剣を握る。ひまりは杖を抱き締める。みことも静かに祈るように目を閉じた。そして。
ガチャ。扉を開ける。外へ降り立つ。目の前には巨大な広場が広がっていた。中央には本社ビル。空へ突き刺さるような高層建築。だが。人影はない。警備員や警察すらもいない。一般人もいない。あまりにも不自然だった。
「なんか嫌な予感する……」
ひまりが小さく呟く。俺も同感だった。まるで。俺たちが来ることを知っていて。ここへ誘い込んだような。そんな違和感。その時だった。
カツ――
カツ――
静寂に靴音が響く。全員の視線が集まる。本社ビルのガラス扉。そこから一人の男が現れた。ゆっくりと。まるで散歩でもするかのように歩いてくる。
その靴は、磨きあげられた白い革靴
その服は白を基調とした高貴な制服。
その髪は風になびく綺麗な金髪。
その剣は聖なる力を宿す。
その姿を見た瞬間。誰も言葉を発しなかった。いや。発せなかった。分かっていたからだ。国が相手。ならば。必ず立ちはだかる存在
その男は世間において、こう呼ばれている
″剣聖″
とうとう最後もちかくなってきやしたねー




