元2位のプライド
「熱田……?」
そこにいたのは。熱田彰人。元・魔法家系序列二位の人間だった。彰人は短く言う。
「乗れ。」
警戒する。だが乗らなければ終わりだ。警察はすぐそこにいる。俺たちは顔を見合わせる。そして。賭けに出た。車内へ飛び込む。ドアが閉まり、車が走り出した。
数分後。ようやく落ち着いたところで、みことが口を開く。
「熱田さん。」
聖女らしい穏やかな口調だった。だが目は笑っていない。
「どうして助けてくださったのですか?」
彰人は少しだけ黙った後、逆に質問した。
「ニュース見た?」
「ニュース?」
俺たちは首を傾げる。彰人はスマホを取り出し、画面を見せる。そこに映っていたのは。速報だった。
『春日家に家宅捜索』
『柊怜司の自宅を捜索』
『聖女・聖みこと誘拐事件発生』
「は?」
思わず声が漏れる。記事を読む。何度読んでも意味が分からない。
「なんだよこれ……」
俺は呆然と呟いた。彰人が低い声で言う。
「二人とも指名手配された。」
俺とひまりを指差した。
「もう普通には生きられない。」
空気が重くなる。ひまりの顔が青ざめた。
「そんな……」
「逃げなきゃ。」
彰人の言葉は現実だった。だが俺は首を振る。
「逃げるだけじゃ意味がない。」
拳を握る。
「俺たちは由眼の冤罪を晴らすんだ。」
すると彰人が鋭い目でこちらを見た。
「その方法は?」
「マスコミに――」
言い終わる前に遮られる。
「まさか本気で言ってないよね。」
車内が静まり返る。彰人は冷たく続けた。
「君たちは今、国家公認の犯罪者だ。」
「……」
「そんな人間の話を、誰が信じる?」
何も言い返せなかった。彰人はさらに続ける。
「仮にマスコミへ辿り着けたとしても無理だ。」
「どうしてだ。」
「中央の報道機関には護衛が付いてる。」
淡々と説明する。
「警察。」
「場合によっては、、、」
俺たちの表情を見ながら言った。
「突破なんて不可能だ。」
その言葉に。車内は重い沈黙に包まれた。
「やらないで後悔するくらいなら、やって後悔した方がましだ。」
俺がそう言うと、彰人は真っ直ぐこちらを見た。
「捕まったとしても?」
静かな声だった。だが、その一言には重みがあった。
「それでもだ。」
「勇気と無謀を履き違えないことだよ。」
彰人は低く言う。
「じゃあ何だ。」
俺も負けじと睨み返す。
「うじうじ隠れてろって言うのか。」
「そう言ってるんだ。」
車内の空気が張り詰める。ひまりもみことも口を挟めない。
「だったら動いた方が可能性は――」
「ない。」
彰人が遮った。
「ないんだ。」
いつもの気弱な口調ではなかった。
「マスコミには辿り着けない。」
拳を握り締めながら続ける。
「少なくとも、この三人だけじゃ無理だ。」
沈黙が落ちる。その時だった。彰人が窓の外を見ながら呟く。
「由眼には色々助けてもらった。」
俺たちは驚いて顔を上げた。彰人は続ける。
「だから今度は、俺が助ける番だ。」
その言葉に、みことが目を細める。
「本当によろしいのですか?」
聖女らしい穏やかな声。だが確認するような口調だった。彰人は苦笑する。
「戦闘には参加しない。」
それだけは譲れないらしい。
「ただでさえ熱田家は消されかけた家系だ。」
自嘲気味に笑う。
「俺まで捕まったら、本当に終わる。」
そう言って少し間を置く。
「でも、一発なら撃てる。」
「一発?」
「遠距離からの支援。」
窓の外へ視線を向けた。
「さっきみたいにな。」
その言葉で俺は理解した。警察車両を吹き飛ばしたのは彰人だったのだ。
「ありがとう。」
自然と口から出た。その一言には、今までの感謝も、これからの覚悟も込められていた。彰人は気まずそうに顔を逸らす。
「礼は成功してからにしてくれ。」
その後。俺たちは熱田家の施設へ向かった。かつて魔法家系序列二位と呼ばれた家。没落した今でも、その技術力は健在だった。地下倉庫へ案内される。棚には様々な魔道具が並んでいた。彰人は一本の剣を取り出す。
「柊。」
俺へ差し出した。鞘に収められた真剣だった。
「これを使え。」
手に持った瞬間、ずしりとした重みが伝わる。
「本物か。」
「当たり前だ。」
彰人は肩をすくめる。
「剣聖と戦った男が木刀じゃ話にならないだろ。」
俺は黙って頷いた。続いて彰人は小さな箱を開く。そこには黒い杖入っていた。
「ひまり。」
「なにこれ?」
彰人が説明する。
「三黒枝。」
ひまりの目が輝く。
「すごそう!」
「名前だけじゃない。」
彰人は珍しく少し誇らしげだった。
「三つの術式を刻むことで、三重詠唱を可能にする魔道具だ。」
みことが驚く。
「同時発動ですか?」
「そう。」
彰人は頷く。
「普通なら一つずつしか使えない魔法を、三つまで同時に維持できる。」
ひまりが飛び跳ねた。
「すごい!!」
そして満面の笑みで言う。
「ありがとう!あっくん!」
彰人の動きが止まった。
「あっくん……?」
耳まで真っ赤になる。ひまりは首を傾げる。
「だめ?」
「い、いや……」
彰人は視線を逸らした。
「好きに呼べばいいよ……」
その様子に、重苦しかった空気が少しだけ和らぐ。




