この国の仕組み
「柊怜司」
そこにはそう書いてあった。俺は息を呑む。
「彼は異常な量の魔力を保有している。」
「私は、あれほどの魔力量を持つ人間を見たことがない。」
部屋の空気が止まる。俺。俺のことだ。
「だから……」
思わず呟く。
「だから付き人にしたのか……」
これまでの出来事が繋がった。出会った日。突然の勧誘。強引な連行。意味不明な厚遇。全部。全部。
最初から理由があったのだ。
だが。みことは次のページを見て固まった。
「みこと?」
声を掛ける。しかし返事がない。ただノートを見つめている。その顔は今まで見たことがないほど険しかった。
「どうした?」
俺が聞くと。みことはゆっくり顔を上げた。そして。
「……続きを読まない方が幸せだったかもしれません。」
そう呟いた。みことが続きを読み上げる。
「柊怜司を利用しようとした。だが、国から禁忌魔法の研究を命じられているなど、彼に話せるはずもない。もう少し待とう。」
「由眼……」
胸が締め付けられる。利用しようとしていた。それは事実なのだろう。だが、今の言葉からは、俺を騙そうという意図よりも、巻き込みたくないという気持ちの方が強く感じられた。みことは次のページをめくる。
「熱田家が襲撃してきた。恐らくあれは国の指図だろう。」
思わず息を呑む。
「諏訪家も不味くなってきた。」
部屋の空気が重くなる。誰も言葉を発しない。理解したくなかった。だが、ここまで証拠が揃っている以上、目を背けることもできない。みことは静かに最後のページを開いた。
「こんな日が続けばいいのに。」
その一文に、全員が固まる。ひまりの肩が震えた。
「ゆめっち……」
今にも泣き出しそうな声だった。さらに次のページ。
「時間停止の研究データを国へ提出した。」
ページをめくる。
「だが返信が返ってこない。」
そこで終わっていた。その先はない。
白紙。
何も書かれていない。
まるで、その日を境に全てが途切れてしまったようだった。俺は拳を握る。悔しかった。悔しくて仕方がなかった。こんなものが残っているなら。こんな証拠があるなら。今すぐ世間に公開すればいい。裁判だって覆せるかもしれない。由眼を助けられるかもしれない。そう思った、その時だった。
――ガチャ。
部屋の扉がゆっくりと開く。全員の背筋が凍った。警察だった。当然だ。本棚を倒した。大きな音を立てた。ひまりは泣いている。見つからない方がおかしい。だが俺は少しだけ安心していた。むしろ好都合じゃないか。
このノートを見せればいい。事情を説明すればいい。きっと分かってくれる。そう思った瞬間。
「怜司さん。」
みことの声が飛ぶ。振り返る。そこには、今まで見たことのないほど鋭い表情のみことがいた。
「その考えは甘いです。」
冷たい声だった。俺は言葉を失う。みことは警察から目を離さないまま叫ぶ。
「ひまりっ!!」
その声は、いつもの穏やかな聖女のものではなかった。
「結界を張りなさい!!」
俺は驚いた。みことがこんな大声を出すのを初めて見た。ひまりも同じだったのだろう。目を見開きながらも、すぐに杖を握る。
「う、うんっ!!」
涙を拭いながら床を叩く。魔法陣が展開される。淡い光が俺たちを包み込んだ。その瞬間。みことは小さく呟いた。
「警察まで敵だと思ってください。」
その一言で。俺はようやく、自分たちが何と戦おうとしているのかを理解した。
今回も読んで頂きかんしゃ!




