盲目の魔女
最初に、諏訪家に何か手掛かりがないか見に行くことにした。だが実際に行ってみて、そう簡単にはいかないことが分かった。諏訪家の周辺には警察が常駐していたのだ。
「これ、潜入ってレベルじゃないだろ……」
怜司が不安そうに呟く。そんな時、ひまりが胸を張った。
「私に任せてよ!」
そう言うと、杖を取り出して地面を軽く叩く。
「え?」
特に何も起きたようには見えない。
「なんかした?」
「したよ!!!」
ひまりは即座にツッコんだ。
「今の何もしてないように見えるのがすごいところなんだから!」
どうやら俺たちの周囲に結界を張ったらしい。周囲から認識されにくくなる結界だとか。
「私から離れないでね!離れたら普通に見つかるから!」
「それ先に言えよ!」
そうして俺たちは、堂々と正面から諏訪家へ向かった警察官の横を通る。だが誰もこちらに気付かない。
「ひまり、すげぇな……」
「でしょ?」
得意げだった。こういう時だけ本当に頼もしい。そして玄関へ到着する。ガチャ。扉を開けると、中は静まり返っていた。人の気配がない。少しだけ埃っぽい空気が鼻をつく。
「警察って中までは入ってないのかな?」
「そうかもねー」
ひまりが辺りを見回す。みことは相変わらず無言だった。だが表情は真剣そのものだ。俺たち以上に、この件を重く受け止めているのかもしれない。
廊下を進む。そして見慣れた部屋の前で足を止めた。
「ここが由眼の部屋か……」
扉を開ける。そこには、変わらない部屋があった。
本棚。机。ベッド。窓際の椅子。
いつも由眼がいた場所。だが主だけがいない。時間だけが止まったような空間だった。
「よし!探そう!」
ひまりの一声で捜索が始まる。本棚を漁る。机の引き出しを開ける。ベッドの下を見る。俺も何かないか探し始めた。その時。ふと思い出す。由眼は毎朝、机で何かを書いていた。だが。そのノートが見当たらない。
「あれ……」
違和感が残る。すると。ドガンッ!!
「きゃっ!?」
ひまりが本棚の一部にぶつかった。大量の本が床へ雪崩れる。
「おい!!」
「ご、ごめん!!」
盛大な音だった。俺は慌てて扉を見る。警察が来る。そう思った。だが。誰も来ない。静寂だけが残る。
「助かった……」
俺は胸を撫で下ろした。そして。落ちた本を片付けようとしていたみことが動きを止める。
「これは……」
みことの手には一冊のノートがあった。分厚い本の間に隠されていた。まるで見つけてほしかったかのように。
「由眼の字だ。」
みことが静かに言う。全員が集まる。みことはページを開いた。そして読み上げる。
「このノートは、万が一私に危険があった時のための記録である。」
俺たちは顔を見合わせた。
「危険があった時……?」
由眼は、自分がこうなることを予測していたのか。みことは続きを読む。
「私は国の命令により、時間魔法の研究を開始した。」
全員が固まる。
「国の命令……?」
怜司が思わず声を漏らした。みことは読み続ける。
「だが私は、予定より遥かに早く時間逆行を完成させた。」
ページの日付を見る。二年前。俺たちが出会う前だった。
「二年前から……」
ひまりが青ざめる。さらにページをめくる。
「とうとう時間停止の詠唱と発動条件が判明した。」
日付は一年前。ちょうど俺たちが出会う少し前だ。
「発動条件?」
怜司が呟く。 そして次のページ。みことの声が少しだけ震えた。
「時間停止は、私の魔力量では発動できない。」
部屋が静かになる。
「そのため、膨大な魔力量を持つ人間を探す。」
嫌な予感がした。胸の奥がざわつく。みことは黙ったままページをめくる。
「私は何度も時間逆行を行い、人間を探した。」
心臓が大きく脈打った。まるで嫌な予感が確信へ変わっていくようだった。
「時間逆行は、私の魔力量でも限界に近い。」
みことの声だけが静かに響く。
「その対価として、様々なものを失った。」
ページをめくる音がやけに大きく聞こえた。
「気付けば、この両目は見えなくなっていた。」
俺は思わず息を呑む。由眼は生まれつき盲目だったわけじゃない。時間魔法の代償だったのだ。
今まで見せなかった弱さ。
今まで語らなかった過去。
その全てが、このノートに書かれていた。みことはさらに読み進める。
「だが、時間停止という大魔法が叶うのだ。」
次の一文を読んだ瞬間。背筋が震えた。
「それくらいの代償、容易い。」
部屋が静まり返る。誰も言葉を発しない。まるで、その文章を書いた時の由眼の覚悟が、そのまま伝わってくるようだった。そして。みことは目を見開いた。
「柊怜司」
読んで頂きありがたかんしゃー!




