番外編 白聖恒一
剣聖。
それは1950年、終戦直後に突如として現れた存在だった。それまで人類は、魔法や剣によって魔性動物へ対抗してきた。だが剣聖は違う。属性に特化し、魔法とは異なる理を持つ異端の存在。人類最強の剣士。その称号を受け継ぐ者。そして四代目剣聖――白聖恒一。彼は初代剣聖に次ぐ強さを持つと言われていた。魔法は通じない。剣においては世界最強。国の管理下に置かれ、国防の要として扱われる存在。だが恒一自身は、その称号を好いていなかった。
「剣聖、剣聖……」
独り呟く。
「その名前は嫌いだ。」
剣聖という名は重い。誰もが期待する。誰もが頼る。 誰もが勝手に理想を押し付けてくる。
だから恒一は、なるべく聖人らしくない振る舞いをしてきた。明るく笑い。友達を作り。普通の高校生として過ごそうとした。だが――剣を握れば話は別だ。体の奥から力が湧き上がる。空気が張り詰める。
誰も彼に追いつけない。
誰も彼を超えられない。
それが剣聖だった。そんなある日。一人の少女が彼の前に現れた。
諏訪由眼。魔法家系序列一位。当時から天才と呼ばれていた少女だった。
「魔法か。」
恒一は思った。
「そんなもの、相手にならない。」
今までだってそうだった。魔法使いは皆同じ。近付かれれば終わり。剣聖には勝てない。そう思っていた。だが。
「……速い。」
気付けば、そう呟いていた。由眼は速かった。魔法使いとは思えないほどに。いや。剣士である自分に近いほどに。視界から消える。現れる。魔法が飛んでくる。剣を振る。当たらない。また消える。また魔法が飛んでくる。まるで顔の周りを飛び回る羽虫のようだった。鬱陶しい。だが同時に。楽しかった。久しぶりだった。本気で戦っている感覚。追い詰められる感覚。胸が高鳴る感覚。だから恒一は決めた。剣聖として戦うことを。
キィ――。
鞘から聖剣を抜く。
今まで抜く必要などなかった。
誰もそこまで届かなかったからだ。黄金の瞳が輝く。聖剣が眩い光を放つ。空気が変わる。世界が静止したような感覚。由眼の表情が僅かに強張る。そして。
一振り。
たったそれだけだった。勝負は終わった。由眼は敗北した。だが恒一は笑っていた。久しぶりに楽しかったからだ。そして理解した。この少女は、自分に最も近い場所まで辿り着いた人間だと。
それでもなお。
剣聖は剣聖だった。異質の頂点。人類最強。誰にも届かない高みだった。




