国と司法の魔法
時間魔法。それはこの世界において禁忌である。時間を移動する。時間を止める。時間を操る。それらは法律に違反し、国が許さぬ行為。それを諏訪由眼は研究していたのだ。俺は知らなかった。由眼がそんなことをしていたなんて。唐突に日常が壊れた瞬間、俺は由眼という存在の大きさに直面した。捕まってから二ヶ月。裁判が始まり、俺たち五人は結果を待っていた。テロンテロン、とテレビから速報の音が鳴る。ニュースキャスターは淡々と告げた。
「たった今速報が入りました。諏訪家の裁判。判決は死刑。死刑判決が下されたとのことです。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は泣くことすらできなかった。ただ呆然とテレビを見つめる。恒一は何も言わず腕を組んでいた。みことは手を握り、静かに祈りを捧げていた。ひまりは泣き崩れ、大きな声を上げて泣いている。そして俺――柊怜司は、あまりにも冷静だった。
おかしい。
こんな簡単に由眼が死ぬのか。
何故バレた。
捕まるのも早すぎる。
判決も早すぎる。
何かがおかしい。
そう思ったが、今は何もできない。その日は解散し、それぞれ家へ帰った。俺は一人、自宅のベッドに寝転がりながら天井を見つめていた。
「由眼……」
思わず名前が漏れる。すると。
「なに辛気臭い顔してるのよ。」
聞き慣れた声が聞こえた気がした。
「っ!」
勢いよく起き上がる。だが誰もいない。いるはずがない。由眼は拘束されているのだから。俺は頭を振った。疲れているだけだ。そう思うことにした。それから一週間。俺は考え続けた。そして一つの違和感に辿り着く。
――上手く行きすぎている。
そうだ。全てが出来過ぎている。そこで俺は考えた。由眼の時間停止が完成したとして。一番困るのは誰だ。答えは簡単だった。国家。諏訪家は国から様々な依頼を受けていた。表に出せるものも。出せないものも。その全てを由眼は知っている。もしそんな由眼が時間魔法を完成させたら。国にとって脅威になり得る。もちろん証拠なんてない。ただの推測だ。だが何もしないまま由眼を失うのだけは嫌だった。俺はみんなを呼び出した。場所はひまりの家だ。事情を話すと、最初に口を開いたのはみことだった。
「私は協力します。」
真っ直ぐな声だった。
「友人を見捨てることはできません。」
続いてひまりも勢いよく立ち上がる。
「わ、私もやる!」
目は真っ赤だった。泣き腫らしたのだろう。
「ゆめっちが悪いことするわけないもん!」
その言葉に少しだけ救われた気がした。だが。一人だけ難しい顔をしている男がいた。
恒一だ。
「恒一……」
名前を呼ぶと、恒一は静かに顔を上げた。
「僕は由眼を友達だと思ってる。」
その言葉に嘘はなかった。
「君たちも大切な友達だ。」
だが。恒一は苦笑する。
「でもね。」
その声は重かった。
「剣聖って立場は、そんな簡単なものじゃないんだ。」
部屋が静まり返る。
「友達のためだから。」
「正しいことだから。」
「そんな理由で国を裏切れるほど、僕の剣は軽くない。」
ひまりが俯く。みことも何も言えない。俺は拳を握った。
「じゃあ由眼が冤罪でもか?」
恒一は少しだけ目を閉じた。そして答える。
「分からない。」
苦しそうな声だった。
「正直、僕もおかしいと思ってる。」
その言葉に全員が顔を上げる。恒一は続ける。
「捕まるのも早かった。」
「判決も早かった。」
「だから僕も納得してるわけじゃない。」
なら。そう思った。だが恒一は首を横に振る。
「それでも僕は剣聖なんだ。」
その瞬間。俺たちは思い出した。こいつは友達である前に。この国最強の剣士なのだと。
「ごめん。」
恒一は立ち上がる。
「今回、僕は協力できない。」
そう言う姿は、どこか悲しそうだった。
「でも。」
扉へ向かいながら言う。
「君たちを止めたりもしない。」
「恒一……」
「見なかったことにする。」
そう言って笑った。だがその笑顔はいつものものではない。無理をしている笑顔だった。
「だから。」
扉に手を掛ける。
「君たちも気をつけて。」
振り返ることなく言った。
「もし本当に国が相手だったら。」
その一言だけで十分だった。俺たちは理解した。この先に待っているものを。恒一は部屋を出ていく。扉が閉まる音が響く。残されたのは俺たち三人。
俺。
みこと。
ひまり。
そして。
諏訪家の真実を探すための計画だけだった。
とうとう最終章ですねーと言っても3つしか章無いんですけど、、、投稿遅れて申し訳ないですー、




