番外編 五人で海編
夏休み初日。待ち合わせ場所である駅前。玲司は少し早めに到着していた。由眼はよるところがあるといって、別々に家を出た。
「まだ誰も来ていか。」
そう呟いた瞬間。
「おまたせー!!」
元気な声とともに飛び込んできたのはひまりだった。オーバーオールに白帽子完全に夏休みモードである。
「早くない!?玲司!」
「ひまりが遅いんだよ。」
「えー!」
そんなやりとりをしていると。コツ、コツ。聞き慣れた白杖の音がした。
「待たせたわね。」
由眼だった。白いワンピースに大きな帽子。普段の制服姿とは違い、どこか大人っぽい。思わず玲司は固まる。
「なによ。」
「いや。」
「似合ってる。」
由眼は少しだけ頬を赤くした。
「当然でしょ。」
「そこはありがとうじゃないのか。」
「ありがとう。」
小声だった。
「聞こえない。」
「もう言わないわ。」
すると横から。
「青春だねぇ。」
恒一がニヤニヤしながら現れた。アロハシャツ。似合いすぎる。
「うわ、剣聖が休日のお父さんみたい。」
「ひまり。」
「はい。」
その後ろからみこともやってくる。
「皆さんお待たせしました。」
白いサマードレス姿。あまりにも絵になりすぎていた。恒一が呟く。
「聖女って海行くんだ。」
「海は神様が作ったものですので。」
「なるほど。」
誰も反論できなかった。そして五人は電車へ乗り込む。
車内。
「海久しぶりだなー。」
玲司が窓を見ながら言う。
「私は三年ぶりですね。」
みこと。
「私は毎年行ってるよ!」
ひまり。
「私は行きたくなかった。」
由眼。
「なんで。」
玲司が聞く。
「暑い。」
「終わってる理由だな。」
「紫外線。」
「女子だな。」
「砂。」
「もう家から出るな。」
ひまりが笑い転げる。
「由眼ってほんと引きこもりだよね!」
「あなたほどじゃないわ。」
「なんで!?。」
そんな話をしていると、俺は前から気になっていたことを聞いた。
「なぁ由眼。」
「なに?」
「前から思ってたんだけどさ。」
「由眼ってどれくらい強いんだ?」
突然の質問だった。由眼は少しだけ驚いたような顔をした後、窓の外へ視線を向けた。
「急に何よ。」
「いや、ちょっと気になってな。」
そう言うと、由眼は少し考える。そして静かに口を開いた。
「今の日本で一番強いのは国よ。」
「国?」
「正確には国が保有している魔法兵器や軍事戦力ね。」
「個人じゃどうにもならないわ。」
「へぇ。」
意外だった。
俺はてっきり剣聖が一番だと思っていた。
「その次が剣聖。」
そう言った瞬間。
恒一が満面の笑みになる。
「やっぱりそうか。」
「嬉しそうね。」
「当然さ。」
「褒められてるんだから。」
本当に嬉しそうだった。由眼は呆れたようにため息をつく。
「その次が私。」
「もしくは魔法家系序列三位の末娘。」
「春日ひまり。」
ひまりが驚く。
「えっ!?私!?」
「結界限定だけどね。」
「結界に関しては私より上。」
「やったー!」
ひまりがガッツポーズをする。すると玲司はふと思った。
「みことは?」
「体育祭で剣聖と引き分けたんだろ?」
するとみことが少し困ったように笑った。
「私は強くありませんよ。」
「え?」
「でも負けません。」
「どゆこと?」
意味が分からなかった。そこで由眼が説明する。
「みことは攻撃を受けないの。」
「受けない?」
「ええ。」
「どれだけ攻撃されても防げる。」
「でも攻撃する手段を持たない。」
「あぁ。」
玲司は納得した。
「だから負けないけど勝てないのか。」
「その通りです。」
みことが微笑む。
「なんか聖女っぽいな。」
「そうでしょうか?」
「うん。」
すると恒一が得意げに胸を張った。
「つまり。」
「僕の方が強いってことだね。」
その瞬間。ひまりが机を叩いた。
「みこっちに嫌味言わないの!」
「いてっ。」
「ご、ごめん。」
恒一が即座に謝る。さすがに学習していた。みことは苦笑している。そんな中。由眼だけが少し俯いていた。
「恒一が強いのは事実よ。」
静かな声だった。ひまりが即座に反応する。
「また恒一が元気になること言ってるー!」
案の定。恒一は満面の笑みである。
「もっと褒めていいよ。」
「黙りなさい。」
由眼が即答した。だがその表情は少し悔しそうだった。
「私の切り札を使っても勝てなかったんだから。」
「正直おかしいわよ。」
「人間じゃないんじゃない?」
「ひどくない?」
恒一が笑う。
「そんなに僕に負けたのが悔しかったのかい?」
「悔しいわよ。」
即答だった。そのあまりの即答に。全員が少し驚く。由眼が誰かを素直に認めることは珍しい。
「私が全力を出して。」
「それでも届かなかった。」
「だから悔しい。」
その言葉だけは本音だった。恒一は少しだけ真面目な顔になる。
「でも。」
「君は僕が一番勝ちたくない相手だった。」
「なにそれ。」
「本当さ。」
「君と戦う時だけは。」
「毎回本気だった。」
その言葉に由眼は黙る。少しだけ嬉しそうにも見えた。その時だった。玲司は一つの言葉が引っかかった。切り札?
そんなやり取りをしているうちに海へ到着した海に到着すると、ひまりが真っ先に飛び出した。
「うわぁぁぁぁ!!海だぁぁぁ!!」
「走るな危ないぞ!」
恒一が声をかける。だが本人は止まらない。
「砂浜だー!!」
「聞いてないわね。」
由眼がため息をつく。夏の日差し。潮の香り。遠くから聞こえる波の音。まさに夏休みそのものだった。
「とりあえず着替えるか。」
玲司が言うと、ひまりが元気よく手を挙げる。
「さんせーい!」
女子組と男子組に別れ、更衣室へ向かう。男子更衣室。恒一はあっという間に着替え終わっていた。
「早いな。」
「慣れてるからね。」
「何にだよ。」
「ダンジョン。」
確かに。妙に納得してしまった。一方で玲司は少し緊張していた。
「そういや恒一。」
「なんだい?」
「海とか来るんだな。」
「来るよ?」
「剣聖ってもっと修行してるイメージ。」
恒一は笑った。
「そんなことないさ。」
「むしろ遊ぶ時は全力で遊ぶ。」
「戦う時は全力で戦う。」
「それだけだよ。」
やっぱりこの人すごいな。玲司はそう思った。その頃。女子更衣室。
「ひまり、落ち着きなさい。」
「無理無理無理!!」
「どうしたのですか?」
みことが首を傾げる。
「だって由眼!」
「なによ。」
「スタイル良すぎる!!」
由眼は無言だった。
「足長い!」
「肌綺麗!」
「うるさいわね。」
由眼は少しだけ頬を赤くする。みことも苦笑した。
「たしかに綺麗ですね。」
「みことまで。」
「事実です。」
「みこっちも大概だけどね!」
ひまりが指差す
「身長高い!」
「胸大きい!!」
「聖女!」
「ずるい!」
「最後は関係ありません。」
そんな騒ぎの中。由眼は帽子を被った。
「由眼って海嫌いなんだっけ?」
ひまりが聞く。
「嫌いではないわ。」
「好きでもないけど。」
「なんで?」
「暑い。」
「またそれ!?」
更衣室に笑い声が響いた。しばらくして。五人が海辺で合流する。玲司は思わず固まった。由眼は白を基調とした水着。みことは落ち着いたデザイン。ひまりは元気いっぱいの可愛らしい水着。三者三様だった。
「なに固まってるの?」
由眼が聞く。
「いや。」
「なんでも。」
「そう。」
少しだけ由眼が笑う。恒一が肩を叩いた。
「青春だね。」
「うるさい。」
「顔真っ赤だよ。」
「黙れ。」
その瞬間。ひまりが海へ向かって走った。
「海だぁぁぁ!!」
バシャーン!!盛大に転んだ。
「痛ぁぁぁぁい!!」
「何してるのよ。」
由眼が呆れる。
「砂浜が攻撃した!」
「してない。」
みことが即答した。その後。シートを敷きパラソルをはり由眼がジュースを買いに行った
「俺も行こうか?」
「大丈夫よ」
はしゃいでいる三人を見ていると、後ろから声が聞こえた
由眼が男二人に囲まれていた。
「ねえお姉さん。」
「一緒に遊ばない?」
「友達待ってるので。」
由眼は冷たく返す。だが男たちは離れない。
「いいじゃん。」
「可愛いしさ。」
玲司は慌てて走った。
「おい。」
男たちが振り向く。
「あ?」
「嫌がってるだろ。」
由眼が少し驚いた顔をした。男たちは玲司を見る。そして笑った。
「彼氏?」
「違う。」
即答だった。玲司はちょっと傷ついた。
「ぷっ。」
男たちが笑う。
「お前じゃ無理だろ。」
「彼女守りたいならもっと強そうになれよ。」
「ガキじゃん。」
煽られる。玲司は拳を握る。だが。その瞬間。由眼が前へ出た。
「やめなさい。」
空気が変わる。
「私の友人を馬鹿にするな。」
声が冷たい。男たちは一瞬だけ固まった。
「いやいや。」
「そんな怒んなって。」
「怒ってるわ。」
由眼は笑っていない。
「私が嫌だと言った。」
「それでもしつこい。」
「そして私の友人を侮辱した。」
男たちの額に汗が浮かぶ。
「もう一度言うわ。」
白杖がコツンと地面を叩く。
「消えなさい。」
男たちは顔を見合わせ。そそくさと去っていった。しばらく沈黙。玲司が口を開く。
「助かった。」
「助けたのは私じゃなくてあなたでしょ。」
由眼はそう言う。
「でも俺弱かったし。」
すると由眼は少しだけ笑った。
「弱くても。」
「助けようとしてくれたじゃない。」
玲司は言葉に詰まる。珍しく素直だった。その様子を。遠くから見ていた三人。
「青春だね。」
恒一。
「青春ですね。」
みこと。
「付き合えばいいのに。」
ひまり。
「聞こえてるわよ。」
由眼が怒鳴った。
五人は波打ち際を歩いたり。写真を撮ったり。貝殻を探したり。まるで普通の高校生のように時間を過ごしたそれがとても幸せだった。夕日の会話。昼間の賑やかさが嘘のように静かだった。空は赤く染まり。海は黄金色に輝いている。五人は並んで砂浜に腰を下ろしていた。波が寄せては返す。その音だけが響いている。
「綺麗だね。」
ひまりが呟く。いつも騒がしい彼女が珍しく静かだった。
「ええ。」
みことも頷く。玲司は水平線を見る。太陽がゆっくり沈んでいく。こんな景色を見たのは久しぶりだった。
「今日楽しかったな。」
玲司が言う。
「海で遊んだだけなのに?」
由眼が聞く。
「海で遊ぶのが楽しいんだよ。」
「そういうものかしら。」
「そういうものだ。」
由眼は少し考える。そして。
「たしかに。」
小さく呟いた。
「おぉ。」
「由眼が認めた。」
「うるさい。」
恒一が笑う。
「でも本当に楽しかった。」
「また来たいね。」
「来年も五人で。」
ひまりが言う。
「来れるといいですね。」
みことも微笑んだ少しの沈黙。波の音けが聞こえる。そして。みことが静かに聞いた。
「皆さんの夢はなんですか?
「急だな。」
玲司が笑う。
「でも気になるよね!
ひまりが乗っかる。
「私はお嫁さん!」
「即答ね。」
由眼が呆れる
「だって幸せそうじゃん!」
「それは否定しないわ。」
次に恒一。
「僕はもっと強くなる。」
「まだ強くなるのか。」
玲司が苦笑する。
「上には上がいるからね。」
「どこにだよ。」
「わからない。」
「探すんだ。」
その答えが恒一らしかった。みことは少し考えてから言う。
「私は。」
「もっと多くの人を助けたいです。」
「誰も悲しまないように。」
「誰も苦しまないように。」
「それが私の夢です。」
誰も笑わない。みことなら本気で叶えそうだからだ。そして。由眼へ視線が向く。
「由眼は?」
玲司が聞く。由眼は少し黙った。波の音風の音。そして静かに答える。
「私は研究。」
「もっと魔法を知りたい。」
「まだ知らないことが沢山ある。」
「それを知りたい。」
「それだけよ。」
玲司は笑った。
「由眼らしい。」
「何よ。」
「研究バカ。」
「失礼ね。」
でも少し嬉しそうだった。最後に。全員の視線が玲司へ向く。
「怜司は?」
恒一が聞いた玲司は空を見る赤い空隣にいる仲間達。そして。少しだけ笑った
「俺は。」
「十年後も。」
「二十年後も。」
「みんなと馬鹿やってたいな。
沈黙。そして。ひまりが吹き出した。
「なにそれ!」恒一も笑う。みことも微笑む。由眼も小さく笑った
「本当にあなたらしいわね。」
「だろ?」
「ええ。」
その時だった。玲司は気付かなかった。由眼が夕日を見ながら。本当に小さな声で。誰にも聞こえないように。呟いたことを。
「私も。」
「ずっと一緒がいいわ。」
その言葉は波の音に消えた。誰にも届かなかった。だが。その願いだけは本物だった。五人は夕日が沈むまでそこにいた。何気ない会話。何気ない笑い声。それは後になって振り返れば。何よりも大切な時間だった。そして帰り道。駅前で。ひまりが叫んだ。
「あっ!!」
「アイス食べたい!!」
「さっき食べたでしょ。」
由眼。
「別腹!」
「便利な言葉ね。」
結局。全員でアイス屋へ入ることになった。
恒一はチョコミント。
ひまりはいちご。
みことは抹茶。
玲司はバニラ。
由眼はラムネ。
「美味しい。」
珍しく由眼が素直に言う。
「そんな好きだったのか。」
「嫌いじゃないわ。」
そう言いながら。由眼は少しだけ笑っていた。夕焼けの中。五人で並んでアイスを食べる。それは。後に振り返れば。何よりも幸せだった。かけがえのない。五人だけの夏の思い出だった。
長めに書いたので更新遅れてすいませんー
皆さん続きのストーリー、気になると思いますけどもうちょい待ってください!!




