襲撃
毎日変わらない春休みを送っていると。
「なんか面白いアニメない?」
暇そうに玲司が聞く。由眼は即答した。
「見たことないわ」
冷たい。するとその時。コツ、コツ、と外から足音が聞 こえてきた。
「あれ?」
窓の外を見る。そこにいたのは、ひまりだった。どうしてひまりが?そう思っていると、由眼が立ち上がる。
「ちょっと行ってくるわ」
玄関へ向かう由眼。玲司も後を追った。外へ出ると、ひまりが大きく手を振る。
「ひめっち! れいじっち! おひさー!」
「久しぶりね、ひまり」
由眼が微笑む。
「いつもありがとう」
「全然大丈夫だよー!」
ひまりは満面の笑みだ。だが玲司には何のことだか分からない。
「何するんだ?」
そう聞くと。ひまりは背中に背負っていた杖を取り出した。普段は見たことのないものだった。杖を地面につく。すると由眼が説明する。
「これに関しては、私より春日家の方が上なの」
「春日家の専売特許!」
ひまりが胸を張る。
「結界だよ!」
「我が家の結界は、ひまりに任せてるの」
結界。そういえば聞いたことがある。春日家は結界術の名門だったか。玲司は納得した。
「てっきりハンマーとか得意なのかと」
「そんなの持てないよ!」
即座にツッコまれた。そのままひまりは地面に魔法陣を書き始める。細かく。正確に。一切迷いなく。
「魔法によって発動条件も違うんだな」
「そうだよー」
返事をしながらも手は止まらない。そして三十分後。
「おわったよー!」
ひまりは笑顔で立ち上がった。三十分も作業していたとは思えないほど元気だった。
「ありがとう、ひまり」
由眼が言う。
「今度、限定ブスうさキーホルダーあげるわ」
「いいの!?」
ひまりの目が輝く。
「やったー!」
そして帰り際。
「また結界が薄くなったら呼んでね!」
そう言い残して去っていった。玲司は感心する。
「ひまりって凄いんだな」
すると由眼がなぜか誇らしげに胸を張った。
「すごいのよ」
「なんでお前が自慢げなんだ」
そんなこんなで春休みも終わる。
新学期。昼休み。五人はいつものように昼食を囲んでいた。
「新刊のジャンパ、すごかったな」
恒一が話し始める。
「ああ、あれだろ」
玲司も頷く。
「実は仲間がラスボスでしたってやつ」
「えー!」
ひまりが叫ぶ。
「そんなのバッドエンドじゃん!」
「まだ決まってないだろ」
「絶対そうだって!」
いつものように騒がしい。
一方。
由眼とみことは静かに弁当を食べている。そんな平和な昼休みだった。だが。
その時。ひまりの表情が消えた。笑顔がなくなる。完全に。恒一が苦笑する。
「え、怖っ。どうした?」
冗談のつもりだった。だが。ひまりは答えない。数秒後。ぽつりと呟く。
「結界が壊れる」
空気が凍った。その瞬間。由眼が立ち上がる。椅子が大きな音を立てた。そして窓へ向かう。
「由眼!」
玲司が呼ぶ。だが由眼は止まらない。窓を開け。そのまま飛び出した。
「ど、どういうことだ!?」
玲司が叫ぶ。ひまりは窓の外を見つめたまま答える。
「諏訪家が襲撃されてる」
玲司の背筋が凍る。ひまりも立ち上がった。
「行くよ」
そして駆け出す。諏訪家へ向かって。平和な日常は。あまりにも突然に終わりを告げた。由眼が屋敷に到着すると――
ドンッ!!
ドンッ!!
凄まじい轟音が響く。
黒い球体のような魔法が結界へ次々と叩きつけられていた。空気が震える。地面が揺れる。それほどの威力だった。
「真っ昼間から元気ね」
由眼は呆れたように呟く。その瞬間。襲撃者の一人が由眼へ向けて魔法を放った。黒い光が一直線に迫る。だが。由眼の姿はすでにそこには無かった。次の瞬間。襲撃者の背後。
「遅いわ」
杖が振られる。襲撃者が吹き飛ぶ。
そして。
二人目。
三人目。
四人目。
数秒。
本当にそれだけだった。襲撃者たちは全員地面に倒れていた。結界への攻撃も止む。静寂が戻った。由眼は倒れた男の胸ぐらを掴む。
「どこの差し金か吐きなさい」
男は苦しそうに笑った。ニヤリと。不気味に。
「……」
次の瞬間。男の首が力なく落ちた。
「っ!」
由眼は顔をしかめる。死んでいた。まるで最初からそうなることが決まっていたかのように。そこへ、遅れて玲司とひまりが駆けつける。
「由眼!」
玲司が周囲を見回す。倒れた襲撃者たち。そして動かない男。
「え……殺したのか?」
そう聞くと。由眼は即座に首を横に振った。
「違うわ」
冷静に答える。
「元々、危険な情報を漏らしそうになったら死ぬ呪法でも掛けられていたのでしょう」
ひまりも眉をひそめた。
「うわぁ……趣味悪いね」
由眼は答えず、男の持ち物を調べ始める。すると。胸ポケットから一冊の手帳が出てきた。由眼はそれを開く。ページをめくる。そして。ある紋章を見た瞬間、動きが止まった。
「これは……」
その反応に気づき、ひまりも覗き込む。そして顔色を変えた。
「これって……熱田家じゃん」
玲司は首を傾げる。熱田家。どこかで聞いたことがある気もする。だが思い出せない。
「由眼、熱田家って何なんだ?」
そう聞くと。由眼は手帳から目を離さず答えた。
「主に闇魔法、ポーション開発、魔法兵器開発を担当している家系よ」
「へぇ」
玲司は素直に感心する。
「意外と大きいところなんだな」
だが。由眼の表情は暗かった。
「問題はそこじゃないわ」
そう言って手帳を閉じる。
「この紋章が出てきた」
「ということは……」
ひまりも言葉を続けられない。由眼は小さく頷いた。
「ええ」
そして静かに告げる。
「相手は熱田家」
玲司は目を見開く。
「そんなにヤバいのか?」
由眼は俯いたまま答えた。
「熱田家は魔法家系序列二位」
風が吹く。重たい沈黙。
「一時期は我が家と並び、次期一位候補とまで言われていた家よ」
玲司は言葉を失った。そんな家系が。わざわざ襲撃を?
「あり得るのか……そんなこと」
「分からないわ」
由眼は珍しく迷うような声で答える。
「でも、何かが始まったのは確かね」
そして空を見上げる。
「とりあえず――」
「明日、直接聞きに行きましょう」
諏訪由眼の目は。すでに次の戦いを見据えていた。
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