第六話
#### 第一章:反省なき「正義」の咆哮
披露宴会場から隔離された別室。豪華な金屏風の前で、**永沢綾**は顔を真っ赤にして叫んでいた。
「どうして私が悪者扱いされるのよ! 酷いわ、法律のほうがオカシイ! 私はただ、パクリを正そうとしただけなのに!」 [1, 5, 会話履歴]
彼女の横では、リモート参加のタブレット越しに**昏子**が口から泡を吹かんばかりの勢いで喚き散らしている。
「そうよ! あの櫛田茉莉子が今こうして小説家気取りでいられるのは、全部私の至高の二行――**『悪逆は力なり 邪はまことなり』**のおかげなのよ! 感謝して私を主君として崇め、一生奴隷として代筆するのが筋でしょうが!」 [5, 会話履歴]
その光景を、**櫛田弘樹**は冷徹な失笑を浮かべて眺めていた。手元には、彼女たちがこれまで「ワクチン」と称して各所に送りつけた中傷メールや、捏造された「公式設定」サイトの魚拓、そして全ての犯行を裏付ける音声データが揃っている [5, 会話履歴]。
「……反省という言葉は、君たちの辞書には載っていないようだな」
弘樹の言葉に、綾は「悲劇のヒロイン」になりきった潤んだ瞳で言い返した。
「だって、茉莉子がいじいじ、うじうじしているから無視されて当然なのよ! 母校の壇上で私が『いじめられた』って訴えたのに、それが嘘だなんて言われるなんて……。かっこ悪いことになっちゃったじゃない! ひどいわ、みんなに泣きついてやる!」 [1, 会話履歴]
#### 第二章:二行のフレーズと「裸の王様」
物語の始まりは、茉莉子が高校一年生の時に書いた一冊の習作ノートだった。
茉莉子は、創作のルールを誰よりも重んじている。彼女はただ、一人の読者として、小さな出版社が出したアンソロジー『サムライスピリッツ』に掲載されていた昏子の作品を読み、その耽美なフレーズを「勉強」のために書き留めただけだった [5, 会話履歴]。
「私は、あのキャラクターを『受け』だと思って、その悲劇性に惹かれたんです。だから自分のために、ノートにだけ書き写しました」
**櫛田茉莉子**は、ハキハキとした口調で断言した。
昏子の自尊心は、この一言で粉々に砕け散った。
昏子は「シリウス攻め」という極小の界隈で、日夜「シリウス受け」派を叩き、マウンティングを取ることに命を懸けていた。自分の描くシリウスが、実際には筆力不足で「受け」にしか見えないという致命的な欠陥には気づかず、茉莉子の引用を「受け派が攻め派の私にひれ伏した証拠」だと思い込んで、影で裸踊りを踊っていたのだ [会話履歴]。
「あなたの漫画には、桜の一片も、夜の情景も出てこなかった。ただ、素っ裸の男の人が踊り狂っていただけ」 [会話履歴]
茉莉子のその冷徹な事実の指摘こそが、昏子にとって最も重い「禊ぎ」となった。
#### 第三章:すり替えられない本物の言葉
昏子や永沢綾、そして大橋亜妃子たちは、茉莉子を「著作権を知らないパクラー」として攻撃することで、その才能を「家族ユニット」という名の搾取システムに組み込もうとしていた [5, 会話履歴]。
「お前の著作権を私達のものにしろ」
それが彼女たちの本音だった。
しかし、弘樹が提示したタイムスタンプと版履歴は、茉莉子の言葉が誰からも盗んでいない、彼女自身の血肉であることを証明した。茉莉子がサイトや商業誌で発表する作品は、常にオリジナルであり、だからこそ彼女は多くの読者に迎え入れられてきたのだ。
「……私の物語は、私が書きます」
茉莉子の宣言は、加害者たちが作り上げた「公式設定」という名の虚構を完全に消し去った。
#### 第四章:法の檻、そして清冽な沈黙
「あの子が悪い、あの子が悪い……!」
協議が終わってもなお、綾たちは壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返し、「パクリ反対運動」を続けようと口々に言い合っていた [1, 会話履歴]。彼女たちには、客観的な事実を受け入れる知能も、自分の非を認める倫理観も欠如していた。
弘樹は、和解の条件として「今後一切の言及を禁じる」という厳しい条項と、違反した場合の莫大な違約金を設定した。
「君たちが何を信じようと勝手だが、次に一文字でも茉莉子の名を汚せば、その瞬間に物理的な破滅が訪れる。楽しみにしておけ」
加害者たちが「被害者」という名の空虚な王冠を握りしめて喚き続ける中、櫛田兄妹は静かに部屋を後にした。
外には、茉莉子の書く『鬼桜』のように、冷たく、だが気高く美しい月明かりが広がっていた。
偽りの言葉は、決して本物の物語には勝てない。
反省を知らない「裸の王様」たちの声は、夜の静寂の中に、惨めに吸い込まれて消えていった。




