第七話
### 小説:『すりかえられない物語 ―虚構の果て、自爆の叙事詩―』
#### 第一章:隔離された狂気
披露宴会場の喧騒から切り離された別室。そこは、**永沢綾**が積み上げてきた十数年分の「嘘」が、**櫛田弘樹**という冷徹な検察官の手によって一つずつ解体される刑場となっていた [5, 会話履歴]。
「……どうして、みんな私を責めるのよ! 私、こんなにカワイイから、いじいじうじうじした茉莉子に嫉妬されて、毎日凄惨ないじめを受けてきたのに!」 [1, 会話履歴]
綾はハンカチを握りしめ、プロの役者のように嘘泣きを始めた。彼女の脳内では、高校1年生の時にプレゼントの本が気に入らなくて一方的に無視を始めた事実は消去され、代わりに「暴力に耐え忍ぶ悲劇のヒロイン」の物語が黄金色に輝いていた [1, 会話履歴]。
#### 第二章:物理法則を超越した「格闘技ファンタジー」
「茉莉子はね、廊下の端から全速力で走ってきて、立ち止まりもせずに空手の上段蹴りを私に入れたのよ! トイレにまで追いかけてきて、私の膣にタンポンをねじ込むようなセクハラまでしたんだから!」 [会話履歴]
綾の口から飛び出す「被害」は、もはや荒唐無稽を通り越していた。
弘樹は、感情を排した声で問いかける。
「……走ってきた慣性を無視して正確に蹴りを入れる? 理系の後輩たちも、空手部の連中も失笑しているぞ。そんな動きは物理的に不可能だ。そもそも君と茉莉子は、高校1年の夏以降、会話も接触も一切なかったはずだが?」 [会話履歴]
「証拠はあの子が消したのよ! 私、セクハラを受けて深く傷ついてるんだから、これ以上追及するのはセカンドレイプよ!」 [会話履歴]
綾は、被害者を守るための言葉を「加害の盾」として振り回した。彼女の嘘はさらにエスカレートし、柔道部ですらない自分が、走って殴りかかってきた茉莉子を「巴投げでぽーんと投げてやった」という武勇伝にまで発展していた。壇上でその嘘を吹聴した彼女の姿は、内実を知る後輩たちにとって「考えられない汚点」として失笑の対象となっていたのである [会話履歴]。
#### 第三章:幽霊の「青いノート」と承認欲求の沼
「……それに、あの小説(鬼桜)だって、私のネタよ! 私はキャンパスの青のB罫、100枚綴りのノートにびっしりキャラやネタを書いていたの。それを茉莉子が盗み出したのよ!」 [会話履歴]
茉莉子が実際に使っていた習作ノートの仕様をなぞり、綾は「存在しないノート」の物語を捏造した。
「証拠? いじめられたから出せるわけないじゃない! 男のくせに女をいじめるなんて、弘樹さんはモラハラよ!」 [会話履歴]
綾は、著名な小説家や漫画家へ「お手紙攻撃」を繰り返すことで、その歪んだ自尊心を保ってきた。社交辞令の返信をもらうたびに「大手の仲間入りをした」と錯覚し、自分を「選ばれし者」、茉莉子を「卑怯なパクラー」と見下すことで毎日を塗りつぶしてきたのだ [会話履歴]。
#### 第四章:剥がれ落ちた化けの皮
だが、弘樹が提示した**「PC版履歴とタイムスタンプ」**という揺るぎない現実の前では、彼女の嘘は何の力も持たなかった [5, 会話履歴]。
「永沢さん。君がどれほどうっとりと嘘を量産しようとも、君が柔道着すら持っていないことも、ノート一冊書き上げる忍耐も才能もないことも、周囲は皆知っている。君はただ、自分の空っぽな人生を埋めるために、妹の才能を『略奪』しようとしただけだ」 [5, 会話履歴]
「嘘よ……茉莉子のネタは私のものよぉ!」 [会話履歴]
化けの皮が剥がれ、羞恥と屈辱に悶絶しながらも、綾はなおも醜態を晒し続けた。反省という知能を持たない彼女にとって、自分以外の全てが悪でなければならなかった。
静かに立ち上がった**櫛田茉莉子**は、泣き叫ぶかつての同級生を見つめることなく、兄と共に部屋を後にした。
「……私の物語は、私が書きます」 [5, 会話履歴]
その清廉な一言は、永沢綾が母校と自らの人生に刻んだ「生涯の恥」という名の消えない汚点とは対照的に、本物の創作の光を放っていた。嘘で塗り固められた「裸の王様」の叫びは、もはや誰の耳にも届くことはなかった。




