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パクラー 永沢綾の言い分  作者: 鳥海美月


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第五話

#### 第一章:偽りのバージンロード




華やかなウェディングマーチが鳴り響く中、**櫛田茉莉子**は純白のドレスに身を包み、新郎・半藤正英の隣で硬直していた。披露宴会場の壁には、親友を自称する**永沢綾**が「感動の演出」として用意したスライドが映し出されている。だが、そこに並ぶ言葉は茉莉子を祝うものではなく、彼女を「パクリ魔」として貶め、自分たちの「慈悲」を強調するための巧妙な罠だった [5, 会話履歴]。




茉莉子の兄、**櫛田弘樹**は、最後列から冷徹な眼差しでその光景を見つめていた。彼は知っていた。この結婚式が、妹の才能を「家族ユニット」という名の檻に閉じ込め、一生搾取し続けるための儀式であることを。




#### 第二章:二行の呪縛と「主君」の妄執




全ての始まりは、高校時代の些細な「間違い」だった。


当時、茉莉子は立ち読みした同人アンソロジー『サムライスピリッツ』の中で、一人の同人作家・**昏子くろこ**が書いたフレーズに目を留めた。


**「悪逆は力なり 邪はまことなり」** [会話履歴]


中二病全開の、どこか耽美で悲劇的なその二行。茉莉子はそれを「受け」のキャラクターの悲痛な独白だと解釈し、習作ノートに書き留めた。だが、そのノートを顧問が勝手にコンクールへ応募し、受賞してしまったのだ [1, 会話履歴]。




それを知った永沢綾は、烈火のごとく怒った。「プレゼントの本が気に入らなかった」という以前からの私怨も重なり、綾は茉莉子を「盗作の常習犯」として、全校規模の無視を主導した。「いじいじ、うじうじしているから無視されて当然!」 [会話履歴]




さらに綾は、影で昏子と結託した。


昏子は、実際にはプロでも何でもない、アンソロジーに一二回載っただけの「自称・先生」だった。だが綾に担ぎ上げられたことで、彼女の肥大化した自尊心は暴走した [会話履歴]。


「私のフレーズを盗んだお前は、私の子分だ。主君である私の言う通りに書け」


昏子は安全な隠れ場から、茉莉子の行く先々に「ワクチン」と称して誹謗中傷メールを送り、無断でミラーサイトを立ち上げ、「こちらが真実だ」と捏造された「公式設定」を垂れ流し続けた [会話履歴]。




#### 第三章:裸の王様の終焉




披露宴のクライマックス。弘樹がついに立ち上がった。


「……さて、永沢さん。あなたが『先生』と仰ぐ昏子さんの正体を、皆さんにお見せしましょう」 [5, 会話履歴]


弘樹がプロジェクターに投影したのは、昏子が影で垂れ流してきた凄まじい陰口のログと、彼女の作品の実態だった。




スピーカーから、リモート参加していた昏子の金切り声が響く。


「私に逆らうな! 私のシリウスは最強の『攻め』なのよ! パクリの証拠をバラまいてやるわ!」 [会話履歴]




会場に失笑が漏れる。昏子が「至高の表現」と自慢する作品は、**素っ裸の男キャラが踊り狂い、中二病な台詞を叫んでいるだけ**の、桜の一片すら出てこない代物だった。対して、茉莉子の『鬼桜』は、夢幻能の調べを宿した圧倒的な美しさを放っていた [会話履歴]。




ずっと沈黙を守っていた茉莉子が、ついに口を開いた。


「……昏子さん。あなたの描くシリウスは、今にも折れそうで、**どう見ても『受け』にしか見えませんでした。** だから、悲劇的な魅力があるなと思って、あのフレーズをお借りしたんです。まさかそれが、こんなマウンティングの道具にされるなんて」 [会話履歴]




「受け」にしか見えない「攻め」しか書けない漫画家。その致命的な筆力不足を突きつけられた昏子は、泡を吹いて沈黙した。彼女が誇った「主君」の玉座は、あまりにも滑稽な「裸の王様」の姿を晒したのである [会話履歴]。




#### 第四章:反省なき「被害者」の末路




「どうして!? パクリをしたあの子が悪いんじゃない!」


計画が瓦解し、法的な追及が始まってもなお、永沢綾は絶叫した [5, 会話履歴]。彼女の中では、執拗なストーカー行為も、バイト先への嫌がらせ電話も、すべては「正義の禊ぎ」だった。


「母校の前で嘘をついたのがかっこ悪いことになっちゃうなんて、ひどいわ! 法律がオカシイ!」 [会話履歴]




母校の前どころか、茉莉子も奈緒子も押しのけて、自分が正式な受賞者として壇上に上がり、毎年のように後輩の高校生達の前で、茉莉子を苛めっ子のパクリ魔としてほぼ名指しで攻撃し、うっとりと「いじめられても挫けなかった私」(大嘘)の物語を紡いでいたのである。


それが完全に露見した。そのかっこ悪さに耐えきれない。




「加害の自覚が欠如した被害者ロール依存」――弘樹が冷徹に下したその診断通り、綾は最後まで自分の非を認めなかった。だが、彼女が「泣きつく」相手は、もうどこにもいない [1, 会話履歴]。




結婚式は破談。両家には莫大な慰謝料と費用の全額負担が命じられた。


「私の物語は、私が書きます」


茉莉子のその一言は、呪縛となっていた二行のフレーズを塗り替え、自らの足で歩き出すための力強い宣言となった。




会場を出る櫛田兄妹の背後には、ただ静かに、本物の夜桜が舞うような、清冽な沈黙だけが残されていた。

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